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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2016-春-」講演レポート・動画 >  特別セッション [SS-1] 真の「女性活躍推進」を実現するため、企業が克服すべき課題とは

真の「女性活躍推進」を実現するため、企業が克服すべき課題とは

  • 中野 円佳氏(女性活用ジャーナリスト/研究者)
  • 許斐 理恵氏(丸紅株式会社 人事部 ダイバーシティ・マネジメント課長)
  • 小島 貴子氏(東洋大学 理工学部生体医工学科 准教授/多様性キャリア研究所 所長/キャリアカウンセラー)
2016.07.11 掲載
講演写真

「女性活躍推進法」が成立し、今後、女性活用をめぐる各企業の取り組みが加速すると考えられる。しかし、現時点では一部の先進的な企業を除いて、なかなかうまく進んでいないのが実状だ。そうした中で今、企業は何をすればいいのか。女性活用や女性のキャリアについて詳しい方々をゲストに招き、それぞれの視点から意見を伺うと同時に、参加者とこれからの女性活用の進め方について、ディスカッションを行った。

プロフィール
中野 円佳氏( 女性活用ジャーナリスト/研究者)
中野 円佳 プロフィール写真

(なかの まどか)1984年生まれ。2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社入社。金融機関を中心とする大企業の財務や経営、厚生労働政策などを担当。14年、育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に提出した修士論文を『「育休世代」のジレンマ』(光文社)として出版。育休復帰後に働き方、女性活躍推進、ダイバーシティなどの取材を経て、15年4月より企業変革パートナーの株式会社チェンジウェーブに参画。東京大学大学院教育学研究科博士課程在籍。


許斐 理恵氏( 丸紅株式会社 人事部 ダイバーシティ・マネジメント課長)
許斐 理恵 プロフィール写真

(このみ りえ)1998年丸紅株式会社入社。産業プラント部、ソリューション事業部、リスクマネジメント部、情報企画部を経て、2007年に第一子出産。2008 年10月に育児休業から復職し、人事部に所属。2009年4月のダイバーシティ・マネジメントチーム立ち上げ以降、主にワーク・ライフバランス関連施策 の企画・運用を担当。14年春より現職。


小島 貴子氏( 東洋大学 理工学部生体医工学科 准教授/多様性キャリア研究所 所長/キャリアカウンセラー)
小島 貴子 プロフィール写真

(こじま たかこ)1958年生まれ。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)勤務。出産退職後、7年間の専業主婦を経て、91年に埼玉県庁に職業訓練指導員として入庁。キャリアカウンセリングを学び、職業訓練生の就職支援を行い、7年連続で就職率100%を達成する。2005年3月に埼玉県庁を退職。同年5月に立教大学で、社会と大学を結びつける「コオプ教育コーディネーター」に就任。07年4 月、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任准教授。10年4月より13年3月まで埼玉県雇用人材育成統括参与、11年4月より東洋大学経営学部経営学科 准教授。12年4月より東洋大学理工学部生体医工学科 准教授、15年4月よりPHP総研「新しい働き方研究会」、15年7月より多様性キャリア研究所所長、15年12月より埼玉県人事委員会委員。多数の企業で採用・人材育成コンサルタントおよびプログラム作成と講師を務める。二男の母。


【問題提起】真の「女性活躍推進」を実現するには、従来の枠組みは通用しない(小島貴子氏)

第一部では、まず小島氏から「女性活躍推進」に対する問題提起があった。近年、女性活躍推進の重要性が叫ばれているが、小島氏はこのテーマに関して「従来の枠組みが通用しない」と強調する。今までの男性中心のモノの見方、考え方を一度解体し、新しいモノの見方、考え方を構築していかなければいけないというのだ。対処療法的なことでは早晩、行き詰ることになるという。

「モノの見方、考え方を変えるとはどういうことでしょうか。女性活躍を推進するには、まず、現状はどうなっているのかを知ることです。もちろん、各社によって状況は異なります。あるべき姿に向かうまで、さまざまな問題も起きます。それらの問題をどうすれば解決できるのかをディスカッションすることで、初めてあるべき姿に向えるようになります」

政府は女性活躍推進における「数値目標」を掲げているが、あくまでも「数値」でしかなく、「個々人のありたい姿とはかけ離れている」と小島氏は危惧する。

「だからこそ、日本、日本企業、そして個人の現状を認識し、皆で共有することが必要なのです。そこから、問題の解決が始まります。その際、個人だけでは解決できない問題を組織で解決するのか、組織で抱えている共通項を社会で解決するのか、それぞれの問題をあぶり出していかないと、あるべき姿には向かっていきません。私は、あるべき姿へと何となく持っていくような“付け焼き刃的”な対処療法を行うことに、意味を感じていません。ですから今日は、さまざまな問題について、じっくりとディスカッションしていきたいと思っています」

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【プレゼンテーション】丸紅の女性活躍推進の取り組みについて(許斐理恵氏)

続いて許斐氏が、丸紅の取り組み事例について紹介した。最初に許斐氏は、丸紅は女性活用においてむしろ後進企業であり、そのような会社がいま何にどう取り組んでいるのかという観点で話を進めていくと語った。

丸紅は、従業員数は単体で4437名、連結で3万9914名。総合商社のため、海外の事業所が圧倒的に多い。組織は、営業とコーポレートスタッフグループの二つに分かれる。営業は五つのグループ、18本部から成り、全ての産業をカバーしている。社員構成は2016年3月末で男女比が約3対1。コース別採用をしていることもあり、女性の8割近くが一般職だ。ちなみに、男性の一般職はいない。

「当社の一番大きな特徴は、海外駐在員が多いことです。総合職の四人に一人が海外で勤務しています。総合職として入社する限り、男女にかかわらず海外勤務がキャリアパスの中に組み込まれることになります。2010年以降に入社した社員は、20代の間に海外勤務をすることを原則必須としています。また、総合職に占める女性比率が近年は8~9%へと高まっており、海外で勤務する女性総合職もかなり増えています。2008年には海外で勤務する女性総合職は1ケタだったのですが、現在では50名近くになっています」

総合職の採用は、均等法の後から行われるようになった。当初は非常に少ない人数だったのが、2006年以降、右肩上がりに増加。業績が回復して採用数そのものが増えたこともあり、総合職として働きたいという女性も増えていった。そして現在は、2006年に入社した総合職女性が管理職層として活躍する年代となっている。

これまで丸紅では、男女の差は「出産・育児」のみとの考えから、ワークライフバランス関連施策の整備に力を入れる一方、女性総合職の採用、育成については、“自然体”で取り組んできた。そのため、あえて女性総合職だけを意識した施策は展開してこなかった。しかし今後は、管理職層の2割前後を女性が占める時代が到来することは間違いない。つまり、女性総合職が活躍できるかどうかが、確実に経営にインパクトを与える時代がやってくるのだ。経営環境はますますスピード化、グローバル化、多様化が進んでおり、多様な人材の力を必要としている。また、アベノミクスにおいても、女性の活用は重点施策となっている。

「そうした内外の環境変化のタイミングをとらえて、これまでの女性活用の方向性を問い直そうと、あらためて女性総合職の活用についての現状分析を踏まえた、経営レベルでの議論を行うことになりました。それが2013年12月の『HR戦略会議』です」

現状分析として、若手~中堅総合職へのアンケートやインタビュー調査をはじめ、本社管理職(課長~部長)へのアンケート・インタビュー調査や人事データの再分析を行った。その結果、世の中で女性活躍における課題だと言われていることが、まさに丸紅の中でも起きていることが分かった。

「例えば、女性総合職本人について言えば、中長期的なキャリアイメージが持てないこと。また、各組織の上司からすると、『全世界転勤』がある中でローテーションが難しいということです。そもそも、女性活用に慣れていない、どう育成していけばいいのか分からない、というような状況もありました。そこで、女性総合職の人数が増えていることもあり、もう少し確実に歯車を回すべく、女性活躍推進に向けた取り組みを積極的に行うことになりました」

人事部では採用から育成へとフォーカスし、意識的な女性総合職の育成に向けた取り組みを行っている。女性活躍が丸紅にとってイノベーションの源泉となってほしいという思いの下、2014年度から「紅novation(丸紅+innovation)」というプログラムを行っている。今年度は、若手の女性総合職を対象とした「キャリアセッション」、入社8年目前後の管理職手前の女性総合職を対象とした「提言プロジェクト」、女性総合職の直属上長を対象とした「ボスセッション」の三つを予定している。

「キャリアセッション」は、将来を担う管理職としての役割を視野に入れ、出産など今後のライフイベントも見据えた、よりアグレッシブなキャリアビジョンを描いてもらうことを目的とする。「提言プロジェクト」は、プロジェクト型の実践的な課題解決を通じ、次世代女性リーダー層としてのスキルとマインドセットを習得してもらうためのもの。直属の上司がメンターとして伴走し、最終報告として経営会議メンバーの前で発表を行う。「ボスセッション」は、女性総合職を育成する立場にある直属の上長が、講義やディスカッションを通じて、多様な部下のキャリア形成支援におけるポイントを理解し、実践するためのノウハウを習得してもらうという。

「当社の女性活躍推進は、意思決定に対してダイバーシティを取り入れるための土台作りのフェーズだと認識しています。女性活躍推進法の行動計画は、『女性総合職の絶対数が未だに少ない』『ライフイベントと海外駐在を含むローテーションの両立が難しい』『女性登用のパイプラインが形成されていない』といった課題がある中、目標としては2020年度末までに、『総合職に占める女性比率を10%以上』『管理職に占める女性比率を7%以上』とすることを目指しています。具体的な取り組みとしては、『女性総合職の採用を強化する』『女性の海外派遣を積極的に推進する』『女性の育成強化を図り、管理職への着実な登用につなげる』。また、中期経営計画における丸紅グル―プ人材戦略の中には、『グループ内ダイバーシティを一層推進し、人材の登用・配置を行う』ことが盛り込まれています」

今後に向けた課題は多いが、その中でチャレンジしていきたいと考えているのは、「ダイバーシティ推進についての意識啓発」「なぜ女性だけ? という疑問への丁寧な説明」「上長の巻き込み」「キャリア形成と出産・育児のワーク・ライフ・コンフリクトへの対応(特に海外駐在)」「ワークスタイル改革の推進」だという。

「私は海外での生活が好きで、総合商社である丸紅への就職を決めました。私の就職した1998年、女性の総合職比率は0.9%という状況。入社後はいろいろな部署を経験しました。2000年に結婚した後も、キャリア中心の生活を送っていましたが、2007年に出産・育休に入りました。2008年に復職し、人事部に異動。その後、ダイバーシティ・マネジメントチームに所属する中で、2011年にはキャリア開発課を兼任、2014年からダイバーシティ・マネジメント課の課長に就任し、現在に至っています」

このようなキャリアを送ってきた中で、許斐氏は「まずは仕事ありきで、両立は後からついてくる」という考えを持っている。最初から両立を考えて仕事を選ばなかった。「仕事の充実感がない中での仕事とプライベートの両立は、あまり想像がつきません。就活中の学生に対しても、このメッセージを伝えています。基本的に、男女の能力差はありません。それなのに、昇進したくないことを能力差であると見てしまう、短絡的な対応はよくないと思います」。だからこそ、個人として男女均等をあきらめないこと。社会はどうあれ、環境は自分で作ることが大事であると許斐氏は強調した。

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【プレゼンテーション】女性が管理職にならないのはなぜか~ガラスの天井、育休世代のジレンマを超える~(中野円佳氏)

続いて中野氏が、女性が管理職にならないのはなぜか、「ガラスの天井」「育休世代のジレンマ」という観点からプレゼンテーションを行った。『「育休世代」のジレンマ』の著者で知られるジャーナリストの中野円佳氏は、「ガラスの天井」「育休世代のジレンマ」という視点から、女性活用推進に関する自論を述べた。

まず「ガラスの天井」については大きく二つの問題があり、その両方に働き方の問題が関わっていると中野氏は言う。

「一つは女性の意識の問題で、女性が管理職になりたがらないという状況があります。例えば、女性が男性を打ち負かして成功することに対して、不安・恐怖を感じている(成功恐怖)。また、これまでの育てられ方に起因した自信のなさや、小数派ゆえの難しさ。このような問題が背景となって、女性の意識が低く、管理職になりたがらないという状況になっています。もう一つは、スキルの問題です。管理職になるための要件を満たしていない女性が多い、ということです。事実、男性と同じ年次で比較しても、管理職への登用率に差があります。その原因の一つとして、『無意識の偏見』が男性・女性の双方にあります。実際、すぐに辞めてしまうだろうと考え、女性社員に対する教育が不十分になり、きちんと育てていない。また、セクハラなどを恐れて、女性を叱りづらく感じ、男性社員と同様な『師弟関係』が作られていないという状況もあります」

この意識とスキルの問題を拡大させているのが、働き方の問題だ。管理職になると長時間働かなくてはならなくなり、女性は手を挙げたくても挙げることができない。また、管理職に求める要件として、「経験を積んでいること」を挙げる企業は多いが、経験とはどういうことなのかを掘り下げていくと、ここでも長時間労働に関わるケースが少なくない。「制約なし男性を前提とした働き方」が根強く存在していることが、女性が管理職になることを避ける大きな原因になっている。

ここで、「育休世代のジレンマ」が問題として取り上げられた。育休世代とは、2000年前後の改正均等法、改正育児・介護休業法を経て女性総合職が増え、育休を取るのが当たり前になってから、総合職正社員として就職した世代のこと。

「『育休世代のジレンマ』の問題として、一つはバリバリ仕事をする気満々だった人ほど辞めやすいという問題があります。この世代は、男性並みに競争を駆け上がり、就活でハードな職場を選んでいます。また、自分よりさらに忙しい夫と結婚し、夫が“降りる”ことには抵抗感を持っている。だから、『マミートラック』でやりがいのある仕事を失うくらいなら、いっそ辞めてしまおうと考えるのです」

一方、辞めなかった人たちは、就活では「やりがい」よりも、「働きやすさ」を重視。育休復帰後は、「時短勤務」を可能な限り続け、管理職にはなりたくないと考える。このような二極化の状況を見て、結婚・出産前に転職する女性社員も多い。

「厚生労働省のデータですが、1995年入社の総合職(団塊ジュニア)は20年で86%が離職しています。そして、2005年入社の総合職(育休世代)は、10年で59%が離職しています。総合職として入社しても、男性社会の仕組みが根強い中では、長く働き続けることができない状況が続いています」

一方で、日本の大企業は離職防止としての両立支援策が、欧米と比べてもかなり進んでいる。離婚減少・出産ラッシュで「マミートラック」が飽和状態となり、その結果、周囲の負担が増しているからだ。しかし、出産後も働き続けることができるようになっても、責任のある仕事に就くことはできず、意思決定に関わる機会も少ないのが実状だ。今後、企業はどうすればいいのか。

「女性活用が進まない企業が考えるべき方向性は、ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(受容)です。私は企業がダイバーシティ&インクルージョンを進めるべき理由は、三つあると考えています。一つ目は人材確保。これにしっかりと対応しないと採用できませんし、人材が流出してしまう状況が、いま起こりつつあります。次がマーケティングで、特にB to Cの業界はこの視点が重要視されています。最後がイノベーション。この視点を持たないと、本当の意味でのダイバーシティにはならないと思っています」

かつての日本は、男性は新卒で採用された会社で定年まで働き、その妻は専業主婦として、家事・育児・介護を担う、というケースが圧倒的に多かった。しかし、このモデルで成長できたのは、高度成長期まで。そうした時代は過ぎ去り、これからは多様な人材・タスク(経験・価値観・知識など)を受容し、活用していく中で、いかにイノベーションを起こしていくかが強く求められることになる。

「問題なのは、『家事・育児・介護を全て妻に任せる前提に立った男性の長時間労働』という社会構造が未だにあることです。これが育児中の女性の処遇を引き下げ、夫婦の所得格差拡大を起こし、男性が家事・育児をしにくいという状況を生み出しています。このような点を踏まえ、今、真の女性活躍に何が必要かというと、一つは残業削減などをはじめとした『働き方改革』です。そして、無意識の偏見の削除、成長機会を与える女性向け研修の実施など、『女性の引き上げ』(今までのハンディの穴埋め)です。そして、「休むため」から、「働くため」の両立支援が重要です。社会的には待機児童の解消なども必要ですが、企業においては、配偶者手当からシッター・家事代行など実費への補助、男性の育児・介護への支援・理解が求められています」

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【ディスカッション】女性活躍推進のための課題と対応

第二部は、女性活躍推進をどのように進めていけばいいのか、小島氏の司会の下、参加者全員でディスカッションが行われた。

参加者A:当社でも女性の海外出張・赴任、国内転勤は大きなハードルとなっています。今後、女性を登用していくに当たり、どのようなキャリアパスや方向性を考えるべきでしょうか。

許斐:商社では、海外勤務は非常に重要なキャリアパスとなっています。実際、当社では20代での海外勤務を推進しています。なるべく早い段階で海外勤務を経験させることが、その後の駐在にも生きてくると考えているからです。ただ、出産した後の海外勤務に関しては、現時点ではそのことに対する議論が不十分で、これからは今までとは違う柔軟な発想の下、いろいろな形で海外勤務ができるようプラスアルファの施策や補助を行うなど、個別の対応が必要となってくると思います。そのためにも、早く事例を作っていくことが大事だと考えます。

中野:商社をはじめ、いろいろな企業事例を取材しましたが、女性に全く海外勤務をさせないというのではなく、行くためのさまざまな支援、施策を講じているケースが多かったように思います。問題は、海外勤務の内示が直前に出ること。運用面を工夫するだけでも、海外勤務への対応は随分と変えることができるのではないでしょうか。

小島:中野さんは、『「育休世代」のジレンマ』で、バリバリ仕事をする気だった人ほど辞めやすいという問題を指摘していましたが、私も同じように感じていました。実は昨年から個人研究で、日本から出て海外で働いている30代女性のインタビューを行っています。海外はベトナム、マレーシア、タイ、インドネシアなどアジア諸国に特定しました。「海外に留学経験があり、大学卒業後、日本企業に入社したところ、同期で入社した男性よりもキャリアパスが不本意だったため、海外に行こうと思ったが、欧米でなくアジアに目を向けた」という女性が少なからずいるのではないかという仮説を立てたのですが、想像以上に多くの人がいました。インタビューを進めていくうちに、彼女たちが非常に優秀なことがよく分かりましたが、問題は、彼女たちが持っている能力や専門性を日本企業が十分に活かし切れなかったことです。

多くの人事担当者は入社試験の時、女性の方が優秀なので、男性には下駄を履かせて採用していると言います。しかし、女性は20代半ばを過ぎると成長が止まってしまい、辞める人も出てくるので、男性を活躍できる部署・仕事に振り分けることになるとも言います。これは本当でしょうか? 女性を優秀だと評価するのなら、むしろ早い段階で抜擢するようなことを企業は考えないのでしょうか。

参加者B:グローバルな企業では、若い年代から海外に派遣する制度を設けている企業が少なくありません。しかし、あまり若い段階で海外に出すと、戻ってきた時に本人の思うような「居場所」がないことがあります。海外と比べると、日本本社には依然として古い体質が残っていて、人事制度ひとつ取っても非常に遅れています。そのため、すぐに辞めてしまうケースが多い。そのため、日本企業もグローバル企業並に変えていかないと、人は定着しません。優秀な人材ほどそうです。この点で、日本企業はタレントマネジメントが非常に遅れていると思います。つまり、問題の本質は女性活用だけに限った話ではありません。男性も含めて、全てのやる気のある人材に対しては、グローバルレベルでのタレントマネジメントの下、キャリアの支援をすることがこれからは必要不可欠だと思います。

小島:確かにその通りですね。しかし、そのような点からも企業は変革しなければならない時代に来ているのに、日本ではどうして、それができないのでしょうか。

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参加者C:トップのマインドセットがないと、日本企業はなかなか変わることができないからだと思います。そのため、トップ自らが海外の現場に行き、変革に向けての強い問題意識を持つことが重要です。女性活躍推進にしても、同じようなことが言えると思います。結局、トップが本当にそう思えるかどうか。これなしには、真の変革は進みません。その上でトップのリーダーシップの下、現場と人事が協力して「成功事例」を作っていく。これが一定の割合できると(草の根運動が進むと)、組織の中に変革に向けてのドライブがかかります。とにかく、この段階まで組織全体として辛抱強く活動を続けられるかどうかが、大きなポイントだと思います。

小島:働き方の質の問題と同時に、事前のアンケートを見ると、男性管理職の問題を挙げる人が非常に多くなっています。これには男性管理職自身の問題もありますが、組織全体として、多様な人材を育てる仕組みを持っていないこと非常に大きな問題のように思います。

許斐:当社では、多様な部下のキャリア形成支援のために「ボスセッション」を行っています。そこで感じるのは、まず男女間における「コミュニケーション」の問題があること。女性総合職数がまだ少ない現状において、男性管理職が女性活用・育成に慣れていないこともあり、ちょっとしたボタンの掛け違いが起こってしまうことがあります。実際、上司が良かれと思ってやったことが本人にとってNGという場合もあります。ただ、そこであきらめるのではなく、本人を育てようという気持ちを持って、繰り返し接することが大切です。場合によっては、人事が加わってより良い「落としどころ」を見つけることもあります。

中野:究極的には、管理職が部下のダイバーシティ&インクルージョンに向けたマネジメントができているかどうか、そして効率的な働き方を推進できているかで評価されることが、一番いいように思います。ただ、これは現実的にはなかなか難しいでしょう。次善の策としては、男性管理職に対して女性活躍推進のための知識・ノウハウ・情報を提供することです。男女を問わず、若い人たちには以前行っていたマネジメントが通用しません。ダイバーシティ&インクルージョンを進めることでどのように良くなるのか、想像力が働くような研修を行い、トライアルでの成功体験を積んでもらうことが大切です。

小島:女性活躍を阻害しているのは、何も制度や施策だけはありません。私たちの中にある古い価値観、つまり「決めつけ」が非常に大きいと思います。これを一度取り払って、フレキシブルな見方をしない限り、なかなか新しいモノの見方や働き方、質の良いアイデアは出ないように思います。また、他社の事例を参考にするのではなく、自社の中で皆が話し合う中で作っていくことが大事だと思います。

参加者D:いろいろな課題が指摘されましたが、制約条件のある人が働く中で「セーフティネット」がない、ということを痛感しました。ダイバーシティ実現に向けて、制度全体を大きく変えていくことは大切ですが、「セーフティネット」をきちんと作っていかないと、制約を抱える社員が次のステップに進んでいくのが厳しいように思います。

参加者E:人間は一人ひとりが違うわけで、皆が自分の言いたいことを言える風土が大切だと思います。当社はメーカーですが、残念ながらダイバーシティに関しては非常に遅れています。これから次世代のリーダーシップ研修を実施しようとしていますが、その中にダイバーシティの考え方を取り入れていこうと強く思いました。

参加者F:当社でも働き方の改革を進めていますが、時にそのことが目的化してしまい、何のために働き方を改革するのか、それによって何を実現しようとするのか、といったことが置き去りになるシーンがかなりあります。だからこそ、「目指すべき姿(ゴール)」を常に念頭に置いて進めることが大事だと、あらためて思いました。また、ダイバーシティを進めていく上で、アサインメントと評価がポイントになるのではないかと、個人的には思っています。

参加者G:私はB to Bの会社で女性活躍推進を担当しています。当社でも「育児支援」から「両立支援」へと名前を変え、本人向けには、会社は育児を支援するのではなく、仕事と家庭の両立を支援するのだとメッセージを発しています。問題は長時間残業が蔓延していること。そのためには、働き方を変えないといけません。そこをどう改革していくか、経営層への働きかけも含め、これが今後の大きな課題となっています。

小島:今日は女性活躍推進に関する課題について、さまざまな角度から議論することができました。それぞれの企業でも、この問題について真剣に取り組んでいただきたいと思います。本日はありがとうございました。

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