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経営視点の人事

  • 高橋 俊介氏(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授)
2016.06.21 掲載
日本オラクル株式会社講演写真

今まさに人事は、経営の根幹になりつつある。経営視点から人事を捉え、経営層へと積極的に働きかけて事業の成功をもたらすという組織人材マネジメントが、注目されているのだ。長年「経営視点の人事」に取り組んできた慶應義塾大学大学院の高橋俊介氏が、その考え方や基盤となる人材像、注意点などについて語った。

プロフィール
高橋 俊介氏( 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授)
高橋 俊介 プロフィール写真

(たかはし しゅんすけ)1954年生まれ。東京大学工学部卒業、米国プリンストン大学工学部修士課程修了。日本国有鉄道(現JR)、マッキンゼー・ジャパンを経て、89年にワイアット(現タワーズワトソン)に入社、93年に同社代表取締役社長に就任する。97 年に独立し、ピープルファクターコンサルティングを設立。2000年には慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任、11年より特任教授となる。主な著書に『21世紀のキャリア論』(東洋経済新報社)、『人が育つ会社をつくる』(日本経済新聞出版社)、『自分らしいキャリアのつくり方』(PHP新書)、『プロフェッショナルの働き方』(PHPビジネス新書)、『ホワイト企業』(PHP新書)など多数。


ダイバーシティに対する複数の視点

人事の歴史的な変遷をたどると、人事は昔からさまざまな機能を果たしていて、期待される役割によって、何を軸に人事をやるべきかという視点がいくつもあったことがわかる。高橋氏はまず、今回のテーマである経営視点ではないところの人事から、話を始めた。

「経営視点の人事が最近重要になってきていますが、今までの視点が全部不要になったという訳ではありません。歴史的に役割を終えたものはありますが、いまだに重要なものもあります。いろんな視点の引き出しを持ちながら考えるべきで、経営視点の人事で全てに対応できるわけでないことを最初にお断りしておきます。

経営ではない視点として、まずは『会社秩序の番人の人事』があります。正社員に対する雇用責任が重い代わりに、会社側の支配を認めるといった管理人事の視点です。次が『全知全能の人事』。少し社員よりになっている部分があって、全ての社員の個別状況を把握し、個人のキャリアパスや生活と、経営の都合を固有名詞で組み合わせて実現する人事という視点です。今は全社員を把握するのは現実的に不可能だと思います。個人の状況が多様化し、ダイバーシティ、少子化、高齢化、介護、社会的責任といった問題も生じて複雑ですから。それから『制度オタクの人事』。これは完全に人事サイドの自己完結と自己満足によるもので、制度としての論理的整合性と客観性、あるいは合法性の担保による視点です。

最近重要になってきているのが『外部環境対応の人事』。雇用市場の変化や人事プラクティスの動向といった外部の流れと他社の動きに追随した、受け身の視点とも言えます。外部環境の典型は法です。例えば、男女雇用機会均等法ができた時に、男女で区別しない総合職と一般職が設けられました。今後で言えば、5年後の有期契約の禁止などに対して、非正規雇用にどのように対応していくのか、どういった対応がベストなのか、という議論がなされることになると思います。

講演写真

『類型人事の視点』は、日本型とか米国型とか、ナントカ業界とか、標準的な人事プラクティスを類型する視点です。この視点でいくと他社と同じになり、競争上の優位性を人では出せません。従って、企業が目指すべき人事の視点としては、類型型ではなく我が社型でいくしかないということになり、これがある意味で、経営の視点になると考えます」

昨今、注目されているダイバーシティ推進だけを取り上げてみても、視点はいくつもある。1986年の男女雇用機会均等法の際には、法律遵守を迫られて「技術人事の視点」で人事が対応したことでダイバーシティが進んだ。その後は、次第に企業の社会的責任論とそれに伴う企業イメージ戦略としての推進という、「時流人事の視点」に変わっていく。CSR経営を続けていくと長期的なグロスにつながっていくとか、何か不祥事等があった際のブランド毀損が少なくなるといった分析もなされて、重視される風潮が生まれた。

「さらに時代が進んできますと、タレント人材確保、海外市場拡大、多様な人たちの多様な議論から生まれるクリエイティビティといった、生産性を上げる目的として推進されるようになりました。これが『経営人事の視点』で、この10年ぐらいに出てきたものです。従って、ダイバーシティの推進といっても、どの視点で捉えるかによって、取り組みが変わってきますし、事実、だんだん変わってきていると言えます。すなわち、特定の問題に対して『我が社はどの視点で取り組むのか』を考える必要があるのです」

5点創造、パイの作り方という発想

経営人事の発想とは「優位性、差別性、コアコンピタンスを形成し、ビジョンを実現するための人材マネジメントだ」と高橋氏は言う。例えば、5点創造に関わるコア人材をどうやって生み出すかという発想である。顧客に提供できる価値という視点で、1点は「全く価値になっていない」、2点は「これではちょっと足りない」、3点は「普通」、4点は「いい」、5点は「素晴らしい」として採点するとする。この時に、顧客にとって重要だと思われるいくつかの価値指標がオール3点では、顧客のリピート率は高くはならない。八つの指標がある場合は、そのうち一つか二つの4点、5点がなければリピート率にはつながらないという。

「5点があっても1点があれば帳消しになってしまいます。そこで、人事の仕事としては、1点を撲滅して全員最低3点死守を目指すようになります。5点は天才肌なので、人事でなく目利きの人がピックアップしてきて、人事はひたすら3点死守の人のマネジメントをすればいいという、経営視点の人事の重要性が薄い時代があったと思います。ところが、今の時代は5点創造に加わる人が多くならなければ、長期にわたって優位性を維持できない分野が増えてきました。一方、ある会社の中の非コアだった人がBPOの会社に入ると、同じ仕事をしていてもそれがコア業務になることがあります。そうなると、非コア人材が5点創造のコア人材に変わるといった現象もあります」

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報酬の場合は、パイの分け方ではなくて、作り方の問題として人を重視する発想が重要だと高橋氏は述べる。社員は家族だからみんなにパイを分け与えよう、という家父長温情主義的に人を大切にする考えがあるが、経営人事における発想は異なる。大切なのは、パイを作る人たちであり、人を通じていかにより多くのパイを作るかという発想である。これは人を大事にするというヒューマンキャピタルの考え方でもある。人は資本であり、資産ではないことを勘違いしてはならない。

「また、株主と社員の利益両立を創造的に行うという発想も大事です。社員を含む重要ステークホルダー間の利害対立を極小化して、良循環を生み出すという組織人材マネジメントです。ここでは、株主と社員の利益が相反しないようにするため、どのようなビジネスモデルにしたらいいのかを考えることが経営の根幹となり、経営人事のスタートポイントとなります。そのためには長期の視点が欠かせません。なぜなら、長い目で見ると利益の相反を解消できる分野が非常に多いからです。例えば、長期に株を保有する株主をより優遇するというトヨタ自動車の新しい株式制度にも、そういう意味があると思います」

5点創造を分散化する自律組織

このような発想の上で、次に考えるべき経営人事の視点は人材像となるが、全ての株主と全ての社員の利益相反を解決することは困難である。従って、どちらも絞り込むしかないわけだが、まずは社員をどう絞り込むかについては、三つの人材像に分けて考えられると高橋氏は語る。

「一つ目は、ビジネスモデル/事業ビジョンにおいて、確実に3点の価値を創造提供できる人。スタンダードなスキルやマニュアルに対応可能な人材です。二つ目は、ビジネスモデル/事業ビジョンにおいて、その差別性優位性の源泉である5点の価値を創造提供できる人材。そのためには、独自の人材育成方法、人材マネジメントが必要になってきますから、事業ビジョンと連携した経営人事が不可欠となるのは言うまでもありません。三つ目は、ビジネスモデル/事業ビジョンそのものを新たに作り上げる、変革創造のリーダー的人材。例として、次から次へと新しい新規事業を立ち上げている、リクルートが挙げられます。この会社で経営人事として重視されているのは、イントレプレナー人材をどれだけ採用して育成できるかなのです。GEも該当します。確実にどんな業界でも1位か2位へと自社の事業部門を持っていけるような人材を、徹底的に育てていくという考え方の企業です」

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以上のような人材像を考えた時、5点創造の人材がごくひと握りで多くは3点死守の人材というピラミッド組織が、昔は多く見られた。すなわち第一線の仕事を、ある意味ではノウハウがなくともできるまでに単純化し、若さとモチベーションで対応させていき、組織内の序列上昇で問題を解決するという、日本企業の典型的なスタイルである。しかし、バブル崩壊以降は、多くの業界で従来のビジネスモデルが崩れ、このピラミッド型では通用しなくなってきた。第一線の仕事のプロフェッショナル化が求められるようになったと言える。

「つまり、5点創造の分散化を促さなくてはならないビジネスモデルへと、変化したのです。ピラミッド組織から、より幅の広い層の社員に5点創造の分担を期待するという自律組織が求められるようになりました。さらに、場合によっては非正規社員まで含めた人事施策に対して、幅広い経営の視点、いわゆる差別性が必要とされるようになったのです。

例えば、スターバックスの場合、リピーターが重要なコアになるからこそ、その顧客との関係性・接点において5点創造を行うことによって成長しやりがいを感じられるという人材像を作り、それと整合性がとれるように非正規社員に対しても医療保険やストックオプションを提供しました。サウスウエスト航空もそうです。三大メジャーはビジネス客をコアターゲット層に捉えていますが、サウスウエスト航空は、地元の人が自腹で乗る地元のためのエアラインという考え方から始まりました。ですから、お客さんを楽しませるような人を人材像とし、職種上の適性は重視していません。

5点創造の裾野がどんどん広がっているのがユニクロです。もともとは、商品と出店戦略を行う本部が5点創造を担っていました。ところが、徹底した標準化は小売りの性質上実現はできず、店長を含めたコアスタッフでどう付加価値を付けて売るかが課題として考えられるようになりました。そこで、店長の中でも優れた人にどんどん現場発の提案をさせるという、スーパースター店長制度や地域社員制度を作り、5点を生み出す人の裾野を広げているのです。これらの企業では、5点創造の人材像に応じた採用や育成、制度、自律組織があります」

最後に、経営人事の発想で注意すべきこととして、人材像やその育成確保施策だけではなく、その人材を活かす組織イデオロギーが重要だと高橋氏は強調した。

「テーラーメイドの発想が基本ですが、他社をまねても構いません。ただし、そっくりまねてはいけません。その会社の全体像、意図、環境、制度を取り入れた時に、みんながどう感じ、どう反応するか、アタマの中でイメージして取捨選択、修正することが必要なのです。紋切り型の一般論が全ての会社に合うわけでない点にも、注意が必要です。科学の視点を持つことは大事ですが、ターゲット顧客やビジネスモデルに関する議論と解釈なしにうのみにしては落とし穴にはまってしまいます。ビジネスモデルと連携させながら科学的な考え方で対処、施策を考えていただきたいと思います」

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米国オラクル・コーポレーションの日本法人として1985年に設立。ハードウェアからソフトウェアこれらの利用支援まで多くのソリューションをご提供しております。なかでも人事ソリューションでは世界で14,000社超の導入経験を有し、その知見をベースに世界で本当に必要とされる機能をシンプルに実装したOracle HCM Cloudをご提供しております。

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