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新たな顧客価値を生み出し続ける組織文化の創り方
~三越伊勢丹グループの取り組み~

  • 滝沢 勝則氏(株式会社三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ 取締役 人材キャリア事業部 事業部長)
2016.06.21 掲載
株式会社三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ講演写真

企業がこれから進むべき道を示す理念やビジョンが、現場に浸透しないという声が多く聞かれる。どうすれば、企業としての考えを社員に腹落ちさせることができるのか。百貨店としての長い伝統を背景に持つ、三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズの滝沢氏は「場」が重要だと語る。新たな顧客価値を生む組織文化の創り方について、滝沢氏が解説した。

プロフィール
滝沢 勝則氏( 株式会社三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ 取締役 人材キャリア事業部 事業部長)
滝沢 勝則 プロフィール写真

(たきざわ かつのり)(株)伊勢丹(現在の(株)三越伊勢丹)入社。婦人服・服飾雑貨販売を経て三越伊勢丹HDS営業本部営業政策部店舗運営部長を経験の後、現職に至る。『MANABIで、未来を共に創る』をモットーに三越伊勢丹本体のみならず外部企業に対しする人財開発・人事ソリューションに従事。


企業理念は明文化されていても、現場まで浸透していない

三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズは、三越と伊勢丹の各人事部がベースとなって設立された人財ソリューション企業だ。長い伝統を誇る百貨店グループが培った現場のナレッジを用いて、経営・事業・組織・人材などに関する課題を解決するための支援を行っている。

初めに滝沢氏は、課題ヒアリングサービスでに寄せられた約3000コメントから集計した、経営人事部門における課題を紹介した。「一番多かったのは、マネジメントの課題です。特に、中間管理層に課題を持たれている。二番目は、理念・ビジョンが現場に浸透しないことです。三番目は、制度や仕組みの問題。今日はこの中で、企業の根幹にかかわる理念・ビジョンについて掘り下げてお話したいと思います。」

理念・ビジョンについて寄せられた課題のうち、もっとも多かったものは、「理念・会社の方針・ビジョンが浸透しない・落とし込みが出来ていない」。次は「マネジャーが自分の言葉でビジョンやブランドポリシーを語れない」。三番目は「理念やブランドにストーリー性が無く、採用などで苦労する」だった。
「多くの企業では企業理念などは明文化されていますが、実際はそれが現場まで浸透していません。その理由として私たちが考えるのは、場(Ba)の欠如です。企業理念について、現場の人が考える、議論する、自分の言葉で語る、といった場が欠如しているのではないでしょうか」

最近は技術・サービスのコモディティ化(同質化)が進み、企業がモノではない価値を売る時代になりつつあるが、顧客と価値を共創するうえで重要なことは、顧客接点(人財)だ。ここが活性化しないと、見えない価値にアプローチすることもできない。
「顧客接点の現場で見えない価値を提供したいが、社員は理念を自分の仕事や行動に置き換える段階でもやもやしてしまっています。理念をいかに自分のものにするのかが課題です」

ニュースとなった、営業時間の短縮と休業日の導入

これまでも見えない価値を創造してきた、三越伊勢丹。そこにはどんなポリシーがあったのか。「三越の日比翁助が、明治45年に書いた『商売繁昌の秘訣』には「自他共利 己を利せんとせばまず人を利し、己を達せんとすれば人を達せしめよ」と書かれています。目の前のお客さまとしっかり向き合う。三越ではお客さまを『前主』と呼びます。目の前のお客さまをすべて主人と思え、という教えです。人に向き合う大切さが語られています。このことは現在の三越伊勢丹ホールディングスの企業理念『向き合って、その先へ。』に受け継がれています」

三越伊勢丹の組織でいま重視されているのは、「お客さま」との接点に立つスタイリスト(販売員)だ。すべての価値はここに集約されており、現場が活性化していないとすべては始まらない。滝沢氏は、ここで現場の人財が誇りを持って働くための三つの取り組みを紹介した。一つ目は「これからの百貨店宣言」だ。

「私たちは3年前に、これからの百貨店はどうあるべきか、という宣言をしました。その中では、接客をもっとも大切にするとしています。ネットショッピングではお客さまとハグすることはできない。生のコミュニケーションに勝るサービスはありません」

二つ目は営業時間の短縮と休業日の導入だ。これはニュースになり、業界からさまざまな意見が寄せられた。「シフト制で人が入れ替わると、コミュニケーションが薄くなったり、接客の質が下がる現象が起きます。そこで勤務時間を合わせ、密度の濃いコミュニケーションを復活させることで、接客の質を上げようとしたのです。現場の一体感が成果につながっています」

三つ目は「販売員」の呼称変更と表彰制度の導入。最前線で働く人を企業としてもっとリスペクトしようと、名称を「スタイリスト」に変更した。「もっとも大事な存在である、という思いを名前に込めました。年に1度、全国6万5000人の中から優秀者60名を表彰する制度も設けました」

組織体制も右肩上がり時代のピラミッド組織から、逆ピラミッド組織の考え方に変更。一番上に「お客さま」がいて、その下には現場メンバー・スタッフがいる。それを、マネジャーや本部が支援する形だ。小さな組織単位(ブロック)ごとに責任と権限を持った現場リーダーを配置。キャリア形成の見える化も行われ、約200の育成コンテンツを年次や専門領域別に組み合わせて使うことができるようにしている。

次に滝沢氏は、場を活性化するための三つの施策について語った。一つ目は朝礼の活性化だ。現場リーダーがファシリテーター役を務め、朝から楽しく「お客さま」の話で盛り上がっているという。「例えば、毎週福岡から飛行機でパンツを買いに来るお客さまがいらっしゃいます。その方はどんな人でしょうか。朝礼ではそのような状況を想像して、皆で意見を出し合います。お客さまのライフスタイルや価値観を想像することで、お客さまに対する感度がどんどん高り、さまざまな施策につながっていきます」

二つ目は、販売の質向上プログラム(SSP)の活用だ。接客は瞬間で消費され、残りにくい。しかし、優秀なスタイリストを見るとそこに共通項があることが、ここ数年でわかってきた。「優秀スタイリストの分析から、質向上のための9つの行動・23のスキルがわかりました。それによりスキルごとにレベルを規定し、スタイリスト各自はそれを見て、現状の自分のレベルを把握します。またリーダーがこれをガイドブックとして使いOJTに活用しています」

三つ目は企業理念の実践活動「職場の約束運動」だ。毎年1600チームが共通のテーマに基づき、自分たちで考えた課題の改善活動を行っている。滝沢氏はその例として「小さいサイズ専門ショップの取り組み」を紹介した。「これは伊勢丹新宿本店婦人営業部の事例です。平均より小さいサイズのお客さまは、何を買うにも商品を探すのに苦労されたり、そもそも合うサイズがなくて買えない、という悩みを持たれたりしています。そこで、通常にはないマイナスサイズのピンキーリング(小指用指輪)を商品開発し、販売したのです。すると「対応に感動しました」といったお客さまの声が届き、売り上げも予算比130%を達成しました」

もう一つの例では、三越千葉店が千葉県各地に伝わる「房総郷土料理38種」を復活させている。各地域の団体の協力を得て、顧客を巻き込むイベントとして実施したところ大盛況となった。「千葉・房総が誇る食文化は民間だけでなく官民で伝え残していくべき」とマスコミでも取り上げられ、地域や顧客同士がつながり始めるという動きとなっている。

講演写真

内定者から企業理念を体感する、感動の「おもてなし会」

三越伊勢丹では、社員への企業理念の浸透を図る活動として、新卒者は内定時から教育を行っている。「現在、新規大卒社員の3年内離職率は32.3%。小売業界に限定すると38.5%とのデータもあります。しかし、三越伊勢丹グループはここ最近、新卒社員の3年内離職率が6.2%まで下がっています。これは内定者向け研修の効果も大きいと考えています」

新入社員研修では、自社の企業理念・ビジョンを実現するために一人ひとりが考え、行動する習慣を身に付けさせる。また、共通の目標の共有として、研修の中で、実際に日々の目的を明確化し、業務を遂行することで目標を達成することを学ばせている。

「一つの目標に向かって『ともに力を合わせて』行動させることで、協働する意識を高めさせています。また、常に班体制で行動することで組織を体感し、同期とのチームワークを醸成。積極的にコミュニケーションがとれるよう環境を整え、研修内容も参加型で進めています」

さらに、理念の浸透に向けて、内定者に企業理念を体感させる「お得意さまご招待会」を実施している。これはお客さまに満足を超えた「感動」を届ける研修であり、内定後に半年間をかけてお客さまや仲間と向き合い、感動を届ける体験をしている。

その内容は、まず内定者がお得意さまと対面し、直接話を伺う。例えば記憶に残っている旅行や思い入れのある場所、エピソード、趣味などを聞き、おもてなしのヒントにする。そこからお客さまのことを考え抜いて、オリジナルの食事メニューを立案。ここで使われる野菜も、つくり手の思い、生産の背景を知るために、内定者自身が有機農法で栽培する。そして、おもてなし会では給仕もプロに習い、その演出までのすべてを自分たちでプロデュースします。

「本番が終わったときには、お客さま、内定者共に号泣という景色も珍しくありません。ここで内定者にはもてなしの原点、接客という仕事の素晴らしさを体験し、早くこの仕事に就きたい、という思いで入社を迎えます。この研修の効果もあって、内定辞退率は5年前と比べ、約3分の1に減っています」

長きに渡る三越伊勢丹のノウハウが、100社超の課題を解決

三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズでは、三越伊勢丹で長く培ってきた現場ノウハウをベースに、これまで100社を超える外部クライアントと課題を共に解決している。滝沢氏は、最後に企業事例を紹介した。「これは全国に店舗展開されているアパレルメーカー(ハイブランド)様の案件です。従業員の定着率が落ちてきて、これまでもいろいろ手は打たれたそうですが、継続されるものではありませんでした。そこで、『有効な研修制度を考えてほしい』とご依頼をいただいたのです」

担当のコンサルタントはまず人事担当者を集めて、現場の声をヒアリングすることを提案。それにより200もの社員コメントが得られた。調べると、現場は会社の理念や方針が腹落ちしておらず、「やらされ感」がまん延していたことが発覚。そこでヒアリングから得られたコメントを元に、「働き甲斐と愛着を感じるプロジェクト」をクライアントと共に策定した。

「1年にわたり、8回のセッションを実施しました。人材教育の仕組みを整備することを通じてクレドの浸透を進め、ショップスタッフ同士がお互いに感謝と思いやりを持つ組織文化を醸成することを推進。現場を巻き込んだ取り組みにより効果が出はじめており、ご評価をいただいています」

最後に滝沢氏は、次のように語り、講演を締め括った。「私たちは三越伊勢丹という販売の現場も持っており、日々さまざまな実験も行っています。これまで現場から得られ蓄積された、人に関わるノウハウを、ぜひ多くの企業にご活用いただければと思います」

講演写真
本講演企業

三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズは、三越と伊勢丹の各人事部がベースとなって設立された会社です。日本で最大級の規模と伝統を誇る百貨店グループで培ったナレッジを生かし、お客さまの<顧客接点>に係る課題について、<人>の側面から解決のお手伝いをいたします。専門性の高い人財を多数保有し、人事制度全体の構築や採用戦略、教育体系の作成等人事領域のトータルなコンサルティングをご提供しています。

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