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人材育成は、スキルから「根本知」へ。
全人格で発想するイノベーション人材をつくる。

  • 嶋本 達嗣氏(株式会社博報堂執行役員/博報堂生活者アカデミー主宰)
2016.06.21 掲載
株式会社博報堂講演写真

近年、日本のイノベーションが揺らいでいる。対GDP比で世界2位の研究開発費をかけながら、日本の研究費対利益は下降線をたどっている。背景にあるのは、社会状況と製品のアンマッチ、および顧客ニーズとの不適合だ。博報堂生活者アカデミーは、生活者発想の不足を挙げる。いかに人に「発想体質をつくり」「根本知(グランド・コンセプト)を獲得する」のか。その育成手法を嶋本氏が語った。

プロフィール
嶋本 達嗣氏( 株式会社博報堂執行役員/博報堂生活者アカデミー主宰)
嶋本 達嗣 プロフィール写真

(しまもと たつし)1983年 東京工業大学 電気電子工学科卒業。同年、株式会社博報堂に入社。マーケティング・プランナーとして、得意先企業の商品開発業務、店舗開発業務等を担当。その後、研究開発職を経て、2006 年より博報堂生活総合研究所所長を務める。2015 年より現職にて、イノベーションのための発想教育活動を統括。


イノベーションを起こすために「全人格で発想」しているか

博報堂が企業哲学とする「生活者発想」をベースに、生活者からイノベーションを起こす発想を身に付ける場として、2016年5月に博報堂生活者アカデミーが開講した。これは生活と地続きで発想する力を鍛える、トレーニングプログラムだ。

嶋本氏は「今日は、イノベーションを生むための根っことは何かをお伝えしたい」と抱負を述べ、講演を開始した。「本来のイノベーションの目的は、どこにあったのでしょうか。それは、人々の新しい発展に寄与することです。そして、社会価値を生産すること。しかし、今では視点が業績、競争、効率へと移っています」

そもそも事業の「目的」とは、世の中に新しい豊かさと幸せをつくることにある。しかし、今では「手段」の競争が加速し、目的が置き去りとなっているので、目的の復興こそが必要だと嶋本氏は語る。そのために人間起点のビジネスを学ぶ場を作ろうというのが、アカデミーの立脚点だ。

講演写真

「職業的事情を超え、一人の生きる人間としての動機に立ち、暮らしの中でつかんだ思いを自らのビジネスに結び付けて変革につなげていくような人材を育てたいと考えています」

ここで嶋本氏は、一つの例を紹介した。世界で1400万ダウンロードされたグーグルのアプリ、イングレスだ。これはリアルに街の中を歩き、仮想の陣地をアプリ上で取り合うゲームだ。多くの企業や自治体も、広報などの目的で活用している。

「イングレスの成果は、人類を1億5000万㎞歩かせたことです。これは、人が太陽まで行ける距離です。開発した副社長のジョンハンケ氏は、息子がゲーム好きで家の中にばかりいたので外に連れ出したいと考え、このゲームを作りました。彼は『人が外に出て歩くことで世界が変わると思った』と語っています」

嶋本氏は、私たちが暮らす24時間とビジネスは同じ地平にあると語る。すべてはつながっている。だからイノベーションを起こすうえでは、全人格で発想することが大事だというのだ。

「発想のエンジンは生きている自分であり、毎日の暮らしが発明の母です。大事なことは体質を変えていくこと。人間への好奇心、未来への挑戦心などといったものが体質としてあることがとても大事なのではないでしょうか。そこで我々は『発想体質をつくる』をスローガンに掲げました」

「人の生き方はこうあるべき、こうあってほしい」という思いがベースになる

アカデミーでの学びの基盤は、生活者発想フレームだ。そこで大事になるポイントの一つは「人間をまるごと観る」こと。「例えば缶コーヒーのメーカーの方は、『缶コーヒーとそのユーザーのことがわかればいいよ』とおっしゃいます。しかし、本当にそうでしょうか。そのユーザーが仕事の場でどんなストレスを抱えているのか。休日に仲間とどんな遊び方をしているのか。そんな情報が缶コーヒーのマーケティングに関わっているはずです」

そして、二つ目のポイントは「知を結合する」。人が生み出している情報は、日常の光景からビッグデータまでさまざま。その多様な情報を編集結合していくと、その人が本当は何を求めているかが見えてくる。

三つめは「未来の生活ビジョンを描く」。きっと人々はこんな生活がしたいのだと想像し、そこに製品やサービスを置いていく。それが生活者発想という考え方だ。「すべてが発想の素材。それを並べてみて、欲求を見つけたり、潮目を見つけたりする。私たちは『思考のトラック』と呼んでいますが、そこを走るための材料をどんどん提供します。私たちの教育プログラムは『ぐるぐるポン』とよく言っています。トラックをぐるぐる回って、未来のアイデアをポンと出す。大事なのは、何回ぐるぐるできたか。それが未来のアイデアの飛距離を伸ばします」

アカデミーが目指しているのは、「創造的粘着性」を養う授業だ。タフに創造する力を育みたい。そのために大切にしている学びのスタイルが体得主義だ。「身体性を重視します。肉眼で見る。肉声を聞く。肉筆で書く。プログラムでは、タウンウォッチングで街中を歩いてもらい、タウンリスニングで耳をダンボにして周囲の声を集めてもらいます」

授業中のネット検索は禁止。これは身体の中にある記憶や経験知を大事にしようという考えからだ。また、フリーハンドカルチャーが尊重される。手書きで未来を表わす。そして、学びの中で人と人がぶつかり合う。多様性と文化攪拌。授業は1社1名が原則で、いろいろな企業、職種の人が集う。あえて衝突を起こす。

そしてもう一つ、アカデミーが重視しているキーワードがある。「他力本願」だ。他力本願は他人頼みと間違った意味に解釈されることも多いが、本来の意味は違う。

「これは親鸞の言葉です。人は皆、本願成就したい。しかし、自分というのはもろいものであり、自力本願ではダメだと言っています。他力本願は、人と自分の本願を共有し、人に本願を応援してもらいながら成就させるという意味です。いま言ったように全員で助け合い、ぶつかり合いながら、ゴールしていくわけです。他力本願を体得していただくことを我々の文化としています」

では、アカデミーの最終的な学びのゴールは何か。それはグランド・コンセプト(根本知)の獲得にある。「参加された皆さまには最後にシートを書いていただきますが、そこに書くのは「これからは、こんな生活が新しい幸せなのだ」と規定する言葉です。例えば『何かを育て合う生活』や、『自分のプライバシーや情報を開示したり、閉めたりする生活』など、新たな生活ワードをつくります」

そのうえで、もしそういう生活が始まったとしたら、「衣食住」「学び・働き・遊び」「つくること」「交わること」「健康」、そして「自分の終活」といったものがどうなるのかまで考えてもらう。それに対して講師である博報堂の発想ディレクターがコメントし、フィードバックが行われる。

嶋本氏は、人のことも企業のことも、一本の大樹のメタファーでいつも考えていると語る。企業が世の中に出すものは、時代を彩る葉や花。やせた根に葉はつかない。これからの人間の生き方はこうあるべきだ、こうあってほしいという思いがグランド・コンセプトであり、これがすべての根っことなる。

「根があるから、豊かな個別解が生まれる。根がなければイノベーションも起こせません。これは未来へのビジョンをしっかり持とうということです。これまでの参加者のシートを見ていると、そこには人間としての希望が感じられます。これが一人ひとりの心の中にある根本知なのです。それらをベースにして、自分の会社には何ができるかと考えるところに、本当のイノベーションがあるのではないかと思います」

講演写真

「五感で街を捉える」「人の声から予言する」「幸せの道をつくる」

次に嶋本氏はアカデミーが行う三つの学習コースについて解説した。一つ目は基礎講座「1DAYワークアウト」だ。パーソナルワークとグループワークを繰り返し、事前の課題と事後のフィードバックを含め、一日で体験する。二つ目は、特訓講座「5DAYキャンプ」。ハイエンドプログラムであり、毎週金曜日に講座を行う5週間のプログラム。事前に出される課題を行い、ディレクターがコメントする。これは企業派遣のイメージだ。

「演習では、例えば街を歩いてもらい、自分の五感で街を捉えなおしてもらいます。街の匂いや街の感触について考えたり、いろいろな人の声を採取して、これからの人間関係はどのように変わるのかを予言したりします。また、一般の方々が撮った『幸せを感じる写真』を数十枚渡して、それをマップ化する演習もあります。皆が歩く幸福の道はこういう地図になるのではないかと考えてもらうのです。毎週このような課題が出て、最後は一人ずつプレゼンテーションを行います」

三つ目は、選択講座「創発セッション」だ。カフェや書店といったオープンなコミュニティススペースでセッションを行う。テーマの例としては、起業したい人を集めて、どんな想像力が必要かを話し合ったり、歴史の偉人の考え方が今に使えないかと議論したり、今世の中を動かすにはどういうフレーズが必要かと考えたり。自由なテーマでセッションが行われる。

「発想体質をつくる」とは人間の居場所をつくること

ここで嶋本氏は、これまでの受講生の感想で印象深いものを紹介した。「『ちゃんと生活していれば、イノベーションは起こせることに気づいた』。発想は身近にあるということです。また『毎日の気付きから、逆算で論理をつくっていくことが有効だと気付きました』『よい意味で会社の中で異質な存在になることを決意しました』という人もいました。この方々はイノベーターとしての意思を持ったということですね」

最後に嶋本氏はアカデミーからのメッセージを伝えて、講演を締めくくった。「あなたは10年先、20年先、仕事の未来を想像できますか。いま気になるのは、マンとマシンの関係ですね。今後、人は機械に仕事を奪われていきます。技術が技術を生み出す時代になるのです。そのとき、人が行うべき仕事とは何でしょうか。事業目的と事業手段。人は目的の創造者になるべきだと思います。だから『発想体質をつくる』とは、人間の居場所をつくろうということです。本日は、ありがとうございました」

講演写真
本講演企業

博報堂生活者アカデミーは、(株)博報堂を母体とした「人間起点のイノベーション」を学ぶ教育機関です。変化と競争の激しい現代、人間にとって本来あるべき暮らしとは何かを考え抜き、新たな社会ビジョンを築いていく「根本知」が重要です。本アカデミーでは、自社の企業哲学である生活者発想フレームに基づき、日々の暮らしと時代状況を結びつけ、暮らしやビジネスの未来を考える、新しい創造性開発の場を広くご提供いたします。

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