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変革を起こすリーダーに求められるもの――三越伊勢丹の事例から考える

  • 大西 洋氏(株式会社三越伊勢丹ホールディングス 代表取締役社長執行役員 兼 株式会社三越伊勢丹 代表取締役社長執行役員)
  • 入山 章栄氏(早稲田大学ビジネススクール/早稲田大学大学院商学研究科 准教授)
2016.07.14 掲載
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経営環境が激しく変化する中、多くの企業に変革が求められている。変革を起こすためにリーダーには何が求められるのか。本セッションでは、社長就任以来、人事制度改革を含め、数々の変革を実現してきた三越伊勢丹ホールディングスの大西氏と、世界最先端の経営学の知見を持つ、早稲田大学ビジネススクール准教授の入山氏が登壇。大西氏の経営者としてのリーダーシップを入山氏がひも解いていった。

プロフィール
大西 洋氏( 株式会社三越伊勢丹ホールディングス 代表取締役社長執行役員 兼 株式会社三越伊勢丹 代表取締役社長執行役員)
大西 洋 プロフィール写真

(おおにし ひろし)1979年伊勢丹に入社。以来紳士部門を歩み、2003年新宿本店のメンズ館立ち上げ時には、担当部長として陣頭指揮を執る。お客さまの新たな購買スタイルに応じた店づくりのため、ブランド共通の環境にする等、お取組先と難しい交渉もあったが、バイヤー・セールスマネージャーとともに汗をかき、やり遂げた。その後、伊勢丹立川店長、三越MD統括部長を歴任し、2009年に伊勢丹社長執行役員、2012年には三越伊勢丹ホールディングス社長執行役員に就任。“人を大切にする経営”をポリシーとし、従業員への適正な評価をはじめ、人事制度改革に着手、現場感覚を最も尊重し、一つひとつ取組みを進めている。また小売業界の根本課題であるサプライチェーン改革についても先頭に立っておこない、質の高い商品を継続的に提供していくため、全力を注いでいる。将来的に現場に関わる全ての人々が、“働きがいのある環境、新しい価値をお客さまと共有できる環境”を実感できるよう、今もなお、改革の手を緩めることなく、走り続けている。


入山 章栄氏( 早稲田大学ビジネススクール/早稲田大学大学院商学研究科 准教授)
入山 章栄 プロフィール写真

(いりやま あきえ)1996年慶應義塾大学経済学部卒業。三菱総合研究所で主に国内外の自動車メーカーや政府機関相手の調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年から現職。Strategic Management Journalなど主要な国際的学術誌に多くの研究を発表している。2012年に刊行した『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)はビジネス書としては異例のベストセラーとなり、2015年末に刊行した3年ぶりの新刊『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)も、発売2ヶ月で4.5万部のベストセラーとなっている。


大西氏によるプレゼンテーション:「周囲の反対の中でやり切るからこそ変革」

大西氏によるプレゼンテーションから、セッションはスタート。大西氏はまず、イノベーションとは何かについて語りはじめた。

「イノベーションとは、『多くの人がやらないこと』『多くの人が反対すること』だと思います。経営会議で8割、9割の人が賛成するような案は、おそらくイノベーションではない。特に当社は極めてコンサバな会社ですから、10人に1人が言った反対意見のほうが、結果的にイノベーションにつながるかもしれない。私は目先のことではなく、少なくとも5年先ぐらいを見た時に、今ないものは何だろうかと常に考えています。その中で、結果的に自分たちにしかできないことは何かを考える。イノベーションとは、そういうものではないでしょうか」

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次にイノベーションの一例として、2003年に伊勢丹メンズ館をリモデルしたときの話を語った。当時、大西氏は紳士服部門でナンバー2の部長。紳士服はずっと売り上げが落ち込んでいて、百貨店として紳士服に投資をすることはあり得ない状態だった。そこで大西氏は「社長にストーリーをつくって提案しなければ、リモデルは承諾されない」と考え、仮説づくりに着手する。

「英国にエドワードグリーンという紳士靴のブランドがあります。当時日本にはほとんど入っておらず、世界でも1万足しかつくらないメーカーで、値段は1足20万円以上と高価でした。3、4年現地に行って交渉しても、なかなか扱わせてくれなかったのですが、それでも粘り強く交渉し、許可を得ました。そして、この商品を1週間だけ販売することができたのです。高価な靴ですから、10足、20足売れればいいと思っていました。しかし、100足も売れたのです。男性がファッションに愛着を持つマーケットがあるとわかりました」

この話を伝えた瞬間に当時の武藤社長は興味を持ってくれた、と大西氏は語る。それはなぜか。この事例は新しい顧客像が創造できていたからだ。靴以外のアイテムでも2、3年トライアルを行い、メンズ館のリモデルを提案する。

「A4の紙1枚の書類を作って、メンバー3人で社長のところに行きました。すると社長は『君らは覚悟ができているのか』と言いました。心づもりはできていたので『できています』と答えると、あとは全部任せてくれました。その後、婦人靴でも同様のトライアルを行いました。自分たちで全部リスクを背負って、自ら靴を作るというSPA事業を行いました。ここでも、予想以上に売れたのです」

大西氏は、周囲の反対があって、そのうえでやり切るからこそイノベーションなのだと語る。

「やはり、覚悟、コミットメントがないと、周囲も認めてくれないのではないでしょうか」

大西氏によるプレゼンテーション:「感性と勇気がイノベーションを起こす」

三越伊勢丹は2016年4月に、スタイリスト(販売員)に対し販売インセンティブ制度を導入した。これは売り上げに応じて成果報酬を出し、やりがいを持って働ける環境をつくるための制度だ。スタイリストごとの売り上げを見ると、1対1で得意先を接客するスタイリストで年間最大7億円程度。店頭のスタイリストで最大2億円。全員を平均すると2000万円。しかし、以前のスタイリストの給与は、キャリアを別にすれば売り上げにあまり関係なく、最大でも月1万5000円程度しか差がなかった。

「給与はその程度しか違わないんです。私は『たくさん売った人には役員並みの給与を出してもいいんじゃないか』と言い続けていました。これからの時代は実力のある人にはきちんと報酬を出すべきです。社内からは『チームワークが乱れる』など反対意見もありましたが、2年前から計画し、今年ようやく実現しました」

また、大西氏はスタイリストの仕事環境の整備も必要と考えた。顧客に最高のおもてなしをするには、店頭にいるスタイリストがいい環境で働かなければ、その気持ちは伝わらないという。

「サービス産業が働く場として人気がないのは、やはり働く環境が厳しいからです。そこで店舗休業日を復活させ、営業時間を短縮しました。この改革に対しては当初、相当反論もありました。でも本当に働く人のことを考え、サービス産業としての生産性を上げるには、どうしても実現しなければならなかったのです」

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大西氏の今の課題は、次世代人材をどう育てるかにある。そのため、ここ2、3年は人材に投資している。たとえば、40歳~45歳の社員から30人を選抜し、ビジネススクールで学ばせている。

「そこで新事業などの事例研究に取り組んでもらい、発表してもらっています。この世代と、特に女性については、私ははっきりひいきをしています。もう10年も経てばこの人たちが会社を背負っているはずですから」

大西氏は最後に、イノベーションに必要なものとして「感性と勇気」を挙げた。例えば、生活しながらも日々何かを感じられる、そんな感性が大事だと語る。

「夜飲んでいても食事をしていても、隣の人がどういう話をしているかとアンテナを張っている。人と会ったときには、その人がどういう価値観で生活しているかを想像する。そういう感性が必要です。実は百貨店や小売業の人たちは、意外に視野が狭いのです。視野の狭さを補うには感性が必要で、そんなところから新しいビジネスも新しい働き方も生まれる気がしています。そして新たな行動を起こすときには勇気が必要なのです」

大西氏と入山氏による対談:「LINEなどのSNSを使って、現場から情報収集」

大西氏のプレゼンテーションが終了した後、プレゼンテーションの内容について具体的に入山氏が掘り下げていく対談がスタートした。

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入山:百貨店業界が厳しい中、大西社長がさまざまな改革を行い、三越伊勢丹は今も業界の雄でいらっしゃいます。どのような改革が最も成果があったのでしょうか。

大西:どれというよりも、20代後半から40代のマインドチェンジが進んできて、一つの方向に向かって、「将来自分たちがこの会社を背負うのだ」と思うことでパワーが生まれています。役員会では出ないような発想が若手から出てきている。そのような変化が一番大きいと思いますね。

入山:一般に、トップや若手が改革したくても、中間層が保守的だということがよくあります。三越伊勢丹も保守的な風土があったと思いますが、どこから変えられたのでしょうか。

大西:中間管理職にも若手にも、私が直接話すようにしてきました。社内で発言する機会があるたびに、「中間管理職が変わらなければ」と直接的な言い方もしてきました。組織の中では、若い人が新しいことを考えても上の人が途中で止めてしまうということもよく起きる。これは大変な損失です。そこで今年6月には、若い人たちとの「経営会議」を行うことにしました。名前を「経営会議」にしたことで、これからの会社を考える意思を持って参加してくれるはず。話の内容も愚痴にはならないと思っています。

入山:保守的な会社では、挑戦して失敗すると責められるケースがあると思います。挑戦したいという声は挙がってきていますか。

大西:挑戦するように言っても、なかなか役員クラスからは話が出てきません。でも若い人からは出てきます。このような意見が若手から出ないと、会社としてまずいですね。私は役員や幹部からも「ぜひ挑戦したい」というたのもしい言葉を待っているんですが、なかなかそうはならないですね。

入山:最近はトライを何回行ったかで人を評価する企業もありますね。もっとそのような風土に変えていく工夫が必要でしょうか。

大西:当社の役員の評価制度も、新しいことに挑戦したかどうかで3、4割は判断するような中身に変えたいと思っています。ただ、50代以上のマインドを変えることは本当に難しいですね。

入山:今日参加されている皆さまの中には「うちは若手も活性化していません」という会社もあるかと思います。若手の活性化のために、どんなことを行われてきたのですか。

大西:とにかく若手と直接コミュニケーションするようにしています。LINEなどのSNSも積極的に使って、会話に参加しています。LINEのグループ機能を使うと、一度に数十人と会話ができます。そこから得られる情報はとても貴重です。現場で何が起きているか、お客さまの様子などの情報は、普通の組織だったら上には上がってきません。

入山:確かに悪い情報は、企業トップにまで上がらなくなりますね。大西社長の場合は、直接情報を吸い上げているということですね。

大西:LINEなどのツールを使うほか、場合によっては直接私の部屋まで来てもらうこともあります。正直、私は役員や幹部と話をするよりも、このような若手と直接話した方が自分の勉強になっています。

入山:大西社長の著書に「他業界への出向による交流を重視している」とありました。それも近い業態ではなく、JR東日本やホテル、空港関連の企業とか、元々小売業ではない業態に出向させていますね。

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大西:元気な会社だと、そこにいる人の顔色を見るだけでも違います。そんな環境に1年身を置くだけでも、社員は目の色が変わって帰ってきます。勉強になるので、特に同業以外の企業に派遣しています。私がトップの企業理念に感動したところなどには、すぐにお願いをしています。

また、外部の知見を自社に生かすために、役員として外部から5名ほど当社に参画してもらっています。業種はITや不動産、スーパー、物流といった専門職的な方々ばかりです。このような方々が参画されると、社内の雰囲気はまったく変わります。ただし、部下の中の3割程度は反発するんですね。中には好き嫌いで判断する人もいる。そこはもっと冷静になって、実力に学ぶ姿勢を持たなければいけないと思っています。

大西氏と入山氏による対談:「これからは、将来に向けて何を行ったかを評価」

入山:ここまでの話をうかがって、大西社長が目指されているのはまさにイノベーションだと感じています。実はイノベーションには古くからわかっている法則があって、新しいアイデアは、今ある既存の知と別の既存の知との新たな組み合わせです。でも歴史がある業界の中にいると視野が狭くなり、目の前のことばかりを対象にしがちになります。ですから、できるだけ自分から離れた遠くの知を探索して、それを自分の会社にある知と組み合わせないといけない。私はそれを「知の探索」と呼んでいます。大西社長が行われていることも、それと同じだと感じました。

でも、新たな知の探索を実際に行うのは大変です。知の組み合わせも多くは失敗します。大西社長は、自分の責任で担保されているということでしょう。今は新たな知を入れるためにも、ダイバーシティが大事になっています。先ほど大西社長は一部の社員をひいきされると言われましたが、それはどのように行っているのですか。

大西:ひいきしているのは女性が多いですね。女性は優秀で感性豊か。若い人もそうです。そのため、プロジェクトのメンバーは圧倒的に女性が多くなっています。女性は知の探索をしていますし、そこにコンフリクト(対立)も起きている。中には元気過ぎるぐらいの女性もいるのですが、社内ではどんどん非常識で結構だと思っています。

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入山:中にはイノベーションに反対する人もいるわけで、それを話し合いで決める過程は大変ですよね。

大西:何事も社長一人で決めることはできません。ただ「社長が決めたから、そうする」ではなく、「自分はこう思う」と言ってくれる風土をつくることが大事だと思っています。

入山:先ほど、長期ビジョンで5年先を見て語ることが大事と言われました。しかし、トップが先を見るようにと言っても、なかなか現場で根付かせることは難しい。その点はどのような工夫が必要と思われますか。

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大西:組織は多層化してしまうので、思い切ってフラットにしないとなかなかトップの思いは従業員に伝わらないと思います。また、評価制度の役割も大きい。現場を仕切るマネジャーの評価は、これまで業績主義だったのですが、それだと目の前のことに引っ張られてしまっていました。そこに「将来に向けて何を行ったか」という評価項目を入れないと動き方は変わらない。マネジャー職以上は、将来を考えた行動を評価したいですね。

入山:現業の仕事に取り組みながら、将来に向けて変革を行おうとすると忙しくなってしまって疲弊してしまう人も出ます。その点は何かフォローされているでしょうか。

大西:確かに、現業の中で行うのは非常にハードルが高いので、しやすい環境をつくってあげることが大事ですね。私は、ここ2、3年は改革ができそうな人を選んで、特命担当になって新しい組織の中で動いてもらっています。そういうところだと、ゼロからできるので仕事はやりやすいですし、勉強する時間もつくれる。環境を変えてあげるようにしています。

入山:最後に、会場の皆さんへメッセージをいただけますか。

大西:これは、ある学者の方が話されていたのですが、ビジョンにはあまり根拠があってはいけないんですね。理由を付けると、ビジョンはどんどん小さくなっていく。トップとしては、ビジョンを大切にしていきたいと思っていますし、社員にはそれを具現化してほしいと願っています。

入山:今日は大変参考になるお話が聞けました。どうもありがとうございました。

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