HR Technologyカンファレンス2017

HR Tech(HRテック) ~人と組織の新しい可能性を創る~

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人事もPDCAを回す時代へ
「日本の人事を科学する」データ活用の視点とは(前編)

大湾 秀雄さん(東京大学社会科学研究所 教授)

東京大学社会科学研究所 教授 大湾 秀雄さん

近年、「人事データの活用」に対する社会的・経済的要請が強まっています。人材情報のデータベース化を目指すタレントマネジメントへの関心や、女性活躍推進、働き方改革、コーポレートガバナンスといった政策テーマの推進に向けて、国が企業にさまざまな情報開示を促す動きなどはその表れでしょう。AI(人工知能)の発達や基幹業務システム、グループウェアの機能拡張により、今後、利用可能な人事データの種類や範囲も飛躍的に広がっていくのは自明です。実際に社内データを取り扱う人事部門では、そうした変化にどう対応していくべきなのでしょうか。「日本企業の人事は“PDCAのない世界”。人事データという、せっかくの宝の山が有効活用されていない」と語るのは、東京大学社会科学研究所の大湾秀雄教授です。自著のタイトルである「日本の人事を科学する」を提唱し、人事データの学術利用を進める産官学連携プロジェクトのリーダーも務めています。大湾先生へのインタビュー前編では、人事データを活用する意義や日本での現状、データ分析の意外な“面白さ”などについて語っていただきました。

東京大学社会科学研究所 教授 大湾 秀雄さん

東京大学社会科学研究所 教授

大湾 秀雄さん(オオワン ヒデオ) 

1964年生まれ。東京大学理学部卒業。(株)野村総合研究所勤務を経て、留学。コロンビア大学経済学修士、スタンフォード大学経営大学院博士 (Ph.D.)。ワシントン大学オーリン経営大学院助教授、青山学院大学国際マネジメント研究科教授を経て、2010年から現職。(独)経済産業研究所ファカルティーフェローを兼任。専門は、人事経済学、組織経済学、および労働経済学。実務家向けに、経営課題解決のために自社人事データをどのように活用したらいいのかを指導する、人事情報活用研究会を主宰する。

経営課題解決のため、
人事データの分析手法を実務家に伝授

大湾先生は、日本企業におけるデータ活用の普及推進を図るために、人事担当者向けの研究会を主宰して直接指導するなど、精力的に活動していらっしゃいます。そもそもどのような経緯から、「人事データの活用」というテーマに着目されたのでしょうか。

私の専門は人事経済学ですが、もともとはデータを扱うのではなく、理論モデルを研究していました。組織や人事制度をどう設計すれば業務の効率が上がるのかという理論や分析手法が、1980年代から90年代頃にかけて次々と発表されたんですね。しかし2000年代に入ると、当の経済学者たちの中から「理論はあるけれど、客観的なデータで実証されていないじゃないか」という自己批判が出てきました。そこで、実際に企業内で管理されている人事データを使って検証しようとする動きが広がり、私もデータの収集・分析に取り組み始めたわけです。

ところが、企業内データの学術利用が進んでいる欧米諸国と違い、日本では「機密性が高い」として、企業側から人事データをなかなか提供してもらえません。そんな事情を、2007年に大学のビジネススクールで話したところ、授業に出ていた社会人学生の一人が「私の会社が力になれるかもしれない」と、協力を申し出てくれたのです。それが、ワークスアプリケーションズでした。

ワークスアプリケーションズは国内最大手のERPパッケージベンダーであり、数多くの企業が同社の人事システムを導入して自社データを管理しています。

その顧客企業に人事データを提供してもらえるよう交渉し、必要なデータを、個人情報を抜いた形で抽出するところまで、引き受けてくれることになったのです。また、提供されたデータをどう安全に管理するかという難題についても、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)のファカルティフェローである川口大司先生(現東京大学教授)のご尽力により、RIETIから安全なデータ管理システムの提供と研究支援を受けられることになりました。ワークスアプリケーションズの仲介で企業から提供された、従業員の基本属性や職務履歴、評価、労働時間などを含む人事データを公的機関が安全に管理し、われわれがそれを分析するという、画期的な学術研究の枠組みが実現したわけです。こうした産官学連携のプロジェクトは、世界でもほとんど例がありません。

しかし、実際に始めてみると順風満帆とはいかず、初年度こそ2社から協力を得られましたが、それ以降の交渉は困難を極めました。人事部のマネジャークラスが興味を示してくれても、社内稟議を経る中でたいてい頓挫してしまうのです。

それは、なぜでしょうか。

「人事データを分析したところで何が分かるのか、どんなメリットがあるのか」――企業のトップや上層部には、なかなか想像がつかないことが一番のネックでしたね。人事担当者にしても、そこを説得して突破するだけの知識やイメージは持っていません。そうした失敗の教訓から、まずは現場の実務家にデータを活用することの利点を実感してもらい、大切なデータを提供してもらえるだけの期待感や信頼関係を広く醸成していこうと考えて始めたのが、「人事情報活用研究会」なのです。ワークスアプリケーションズとの共催で参加企業を募り、2014年に立ち上げました。

研究会では毎回、人事や組織に関する課題を選んだ上で、関連する人事データを実際に分析して解釈する、という課題を出しています。あわせて統計学の講義を行い、回帰分析など、必要な統計分析の知識も伝えてきましたが、最初は大変でした。参加している人事マネジャーの多くは文系出身で、基礎知識も十分ではありません。実際、第1期の初回に20社以上集まった企業の多くが、途中で会を抜けていきましたから。それでも、2期、3期と活動を重ねるたびに貴重な知見が得られ、手応えを感じるようになりました。

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