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基礎講座2018/07/31

HRテクノロジー(HR Tech、HRテック)活用法

実践

HRテクノロジー(HR Tech、HRテック)活用法 記事監修:早稲田大学政治経済学術院教授 大湾秀雄氏

最先端のテクノロジーを使って、採用・育成・評価・配置などの人事関連業務を行う「HRテクノロジー(HR Tech)」。近年、注目の高まりを受けて、その活用法やサービスも多様化している。ここでは、人事の業務分野ごとにHRテクノロジーの活用法を紹介。併せて、導入企業の事例や今後の展望を取り上げる。(2019/7/19更新)

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人事の業務分野ごとに見るHRテクノロジーの活用法

ここでは、先に定義した10の人事業務分野ごとにHRテクノロジー活用の方向性を探っていきたい。すでに市場展開されているサービスの機能もあわせて紹介する。

(1) 戦略立案――データに基づいた戦略と、検証可能な振り返り

人事は、個人の感情や組織力学といった、目に見えない事柄とも向き合わなければならない。担当する施策の中には、実施後の検証において費用対効果を明らかにしきれず、PDCAサイクルを回しにくいものもある。

これが人事の仕事において経験や勘といった属人的な要素を排しきれない大きな要因でもあった。客観的なデータに基づいて戦略立案を進め、効果検証を実施していくことが求められている。

こうしたニーズに応え、海外では戦略人事の基盤を支えるためのデータベースを提供するサービスが発展してきた。採用シーンはもちろん、社内人材の評価や適性を総合的に把握できるようにAIが機能する。システム環境に依存しないクラウドサービスとして提供され、社内のさまざまなデータをリアルタイムで収集していけることが強みだ。人事考課にまつわる会議やサーベイと言った定期イベントに頼るのではなく、人事部門やマネジメント層、そして経営陣が「常時、最新データにアクセスできる」環境を作ることで、戦略立案やスピーディーな見直し、タレントマネジメントを可能としている。

このようなサービスを活用し、データを集計し、分析すれば、人事やマネジャー、経営者は貴重な情報を得ることができる。「どんな人材が社内にいて、日々どのようにコミュニケーションを取っているのか」。それを把握することで、経営戦略を実現するための積極的な人事施策を打つことができるようになるのだ。

(2) 採用――テクノロジーを活用した採用活動が主流に

『日本の人事部』が毎年発行している『日本の人事部 人事白書』の調査結果を見ると、企業の採用担当者が苦労していることがうかがえる。2019年版の調査結果によると、新卒採用で「十分な成果を上げられていない」と回答した企業は35.2%、中途採用で「十分な成果を上げられていない」と回答した企業は36.7%。

採用活動に多くの労力を掛けている割には、思うような成果を上げることができていない。そのため、採用プロセスを再構築しようと選考フローの見直しや選考のスピードアップを検討する企業が多いが、画期的な解決策は見いだせないままでいる。

こうしたなか、期待が高まっているのが、採用活動におけるテクノロジー導入だ。すでに身近になっている採用関連サービスの中にもHRテクノロジーは存在している。採用において長く活用されている求人サイトもその一つだ。SNSの機能を活用した採用手法(ソーシャルリクルーティング)も一般的となった。

最近では、HRテクノロジーの活用によって、さらに多岐にわたる採用活動が可能となっている。明確なスキルの定義が難しい新卒採用においては、自社が重視するコンピテンシーと、客観的な評価により、それを持った学生をAIが特定し、マッチングするサービスが登場した。AIが推薦する学生の選考結果を随時フィードバックしていくことで、AIは「より適合率の高い人材」の傾向を学習していく。こうして年々、採用精度が高まっていく仕組みだ。

採用関連のサービスをいくつか紹介しよう。まずは、Indeed Japan株式会社が提供する求人検索エンジン「Indeed」だ。その特長は、「オウンドメディアリクルーティング」の概念を提唱し、詳細な「ジョブディスクリプション(職務記述書)」と求職者の共感を喚起するコンテンツを活用し、企業の採用力を高めていることにある。

また、企業規模の大小によらずに、平等に検索結果が表示され採用に結び付けられる点も評価が高い。既に「Indeed」は、世界では毎月2億人以上のユニークユーザーが利用。日本においても毎月2120万の訪問数があり、確かな地位を築いている。

「Indeed」の画面イメージ

「Indeed」の画面イメージ

「LINE」を活用した採用管理サービス「next≫」を提供しているのが、株式会社アローリンクだ。メリットは、「LINE」の特性を生かして細かなセグメント設定や抽出、データ分析などの業務がスムーズに行えること。そのため、業務負担を大幅に減らすことができる。

また、学生一人ひとりに個別のメッセージを送り、それぞれが持つ悩みや不安を効果的にフォローできる仕組みも評価が高い。これにより、入社後の意識のギャップが生じにくくなっているという。

「next≫」のメイン機能

「next≫」のメイン機能

「組織心理学」に基づいて開発した人材のアセスメントツール「HQ Profile」にAIを搭載して開発されたのが、株式会社エスユーエスが提供する「SUZAKU」だ。SUZAKUを利用すると、人材採用や育成、配置転換などにおいて戦略的な解決策を導き出せる。

しかも、使い続けるほど、AIが理解を深めアウトプットの精度をより高めてくれるという。同社では、この「SUZAKU」を人材領域の全ての課題を解決する「アセスメントのプラットフォーム」にしていきたいと考えている。

「HQ Profi le」の個人分析シート例

「HQ Profi le」の個人分析シート例

WEB面接に特化したクラウド型の採用管理システム「インタビューメーカー」により、クライアント企業の採用効率の向上に貢献しているのが、株式会社スタジアム(取材当時:株式会社ブルーエージェンシー)だ。その最大の特長は対面と同じクオリティーで面接ができるWEB面接機能とエントリーシートの動画版として活用できる動画選考機能といえる。

これにより、面接者の母体を増やせるだけでなく、人材の質も高まり、さらには面接会場の手配や日程調整などの工程が削減可能となる。同社では、国内だけでなく海外にもこの仕組みを広げていきたいと考えている。

「インタビューメーカー」のイメージ

「インタビューメーカー」のイメージ

候補者をどう口説くかに力点を置いて、採用の決定率を上げるクラウド型の人材分析ツール「HRアナリスト」にも注目したい。開発・提供しているのは、株式会社シングラーだ。

候補者にどのようなニーズがあり、どんな意思決定で企業を選ぼうとしているのか、志向性はどうかを事前に徹底的にヒアリングした上で、内容を分析し、候補者の満足度を高めるトピックを切り出している。候補者に合った話題を提供できるので、円滑なコミュニケーションを図れるのが、このサービスのメリットといえる。

「HRアナリスト」の画面イメージ

「HRアナリスト」の画面イメージ

どの企業でも人材確保に苦労しているAI・ビッグデータ活用人材の裾野拡大に貢献しているのが、株式会社SIGNATEが提供するプラットフォーム「SIGNATE」だ。会員数は2019年3月現在で約1.7万人。まさに、日本最大級のデータサイエンティスト・コミュニティーといえる。

同社では、AI人材やデータサイエンティスト人材に特化した求人サイト「SIGNATE Career」を運営。また、データサイエンスの実務を学べる「SIGNATE QUEST」(仮称)という教育システムの開発を進めるなど、教育・採用にも注力している。

「SIGNATEコンペティション」の仕組み

「SIGNATEコンペティション」の仕組み

また、採用コストの削減や定着率向上、エンゲージメントにも好影響をもたらすと考えられる「リファラル採用」を支援するサービスもある。社内に共有する求人票を簡単に作成し、従業員がその情報をSNSで手軽に拡散できるといった仕組みだ。

応募や入社に至らなかった候補者のデータベースを管理する機能も持ち、人事から継続的にアプローチできる。さらには、ダイレクトリクルーティング、タレントプールをサポートするツール、総合的に採用活動を管理できる採用管理システム(ATS)も多数開発されている。

例えば、株式会社リクルートキャリアの「リクナビHRTech」では、「転職スカウト」「採用管理」「勤怠管理」の三つのツールを提供している。共通しているのは、工数削減による業務の効率化と可視化による現状の的確な把握だ。

初期費用が無料で操作もシンプルとあって、テクノロジーになれていない中小企業の担当者からの評判も良いという。同社では、今後これら三つのサービス以外でも人事業務の「不」を解消するためのツールを提供していきたいと考えている。

リクナビHRTech「採用管理」の画面

リクナビHRTech「採用管理」の画面

採用は現在のところ、HRテクノロジーの恩恵を最もダイレクトに、かつ大規模に受けられる分野と言えるのではないだろうか。企業規模によっては毎年数百、数千、数万にもおよぶようなエントリーシートを管理し、選別し続ける人事。

ここが自動化されれば、大幅に工数を削減することができる。そうすれば、採用担当者はどういう能力に着目し、どのように育てていくかという、より重要な課題に取り組むことができる。

また、テクノロジーを活用すれば、より公平かつ客観的な判断ができる、というメリットもある。さらに、データがたまってくれば、採用時のデータと入社後の活躍との相関性などが見えてくることもある。

採用活動の手法は多様化しているが、どんな手段においても「採用プロセスにおけるデータ管理」や「結果分析」の重要性は変わらない。今後はテクノロジーを活用した採用活動が主流となっていくだろう。

(3) 異動・配置・昇進――データに基づき、科学的な組織設計を

人事が向き合うべき大きな課題の一つに、「従来型の人事異動や配置転換からの脱却」が挙げられる。多様性が重視される時代にあって、働き方やキャリア形成への考え方も人それぞれだ。

プロセスが不透明な人事異動や配置転換は、従業員のモチベーションやエンゲージメントを低下させるだけでなく、メンタルヘルスに影響を及ぼす可能性もある。

HRテクノロジーのサービスの中には、この課題を解決するための機能を持たせたものも登場している。国内企業が提供するサービスでは、従業員の顔写真をシステム上に配置して人材配置バランスを把握したり、会議の場で新たな組織をシミュレーションしたりといった、ユニークな機能もある。

職務経歴やスキル、評価、給与水準など、人材配置に必要な情報を一元的に管理し、これらの情報の中から自由に軸を選んで写真を並べられるのだ。各従業員の人事評価情報やキャリア志向などのデータも一元管理できるため、科学的に人事異動や配置転換を検討できる。

データに基づき、公平性を担保した形で人事異動や配置転換を決定することで、従業員の納得度も高められるはずだ。組織設計のあり方を大きく見直していくきっかけにもつながるだろう。

具体例として、株式会社プラスアルファ・コンサルティングが提供するタレントマネジメントシステム「タレントパレット」を紹介したい。人事領域にマーケティング思考を持ち込んでいるのが特長で、全ての情報をデータとして蓄積・活用することで、採用や人材育成、社員のモチベーション向上などの業務精度を向上させている。特に評価が高いのは、人事異動に伴う人件費や人員構成などの影響度を瞬時に分析できるシミュレーション機能だという。

「タレントパレット」の画面イメージ

「タレントパレット」の画面イメージ

(4) 育成・研修――人事や育成担当者の負荷を軽減し、個別対応型のプログラムを実施

「グロービス学び放題」の画面イメージ

「グロービス学び放題」の画面イメージ

人材育成で課題になるのは「教える側の質」。人によって教え方やレベルが異なれば、育つ人材の質にもばらつきが生じ、当の本人は不公平感を抱いたまま社内で過ごしてしまうこともある。

また、属人的な指導方法に頼っていては育成ノウハウの継承が進まず、社内の人材育成レベルが定まらない。貴重な人材リソースの配分に悩む人事としては、教える側の負荷を軽減することも重要なテーマだ。

そうした中で近年広まっているのが「eラーニング」を活用した人材育成。ITスキルや語学、資格取得はもちろん、ビジネススクールが開発した「MBA取得アプリ」なども登場している。

スマートフォンで手軽に学習を続けられるようにしているサービスが多く、スキマ時間をうまく活用できるよう工夫されている。いわゆる「マイクロラーニング」である。短時間の動画やWebコンテンツによって学ぶことができる。「ビジネス戦略を学ぶためのシミュレーションゲーム」といったユニークなサービスもある。

具体例をいくつか挙げたい。まずは、株式会社グロービスではデジタル・テクノロジーを活用した教育サービス「グロービス学び放題」を提供している。良質なビジネスナレッジを動画コンテンツ化しており、受講者はそれらをいつでもどこでも学習できるのが特長だ。

集合研修の予習だけでなく、復習用途でも活用が可能。企業の中には、人材アセスメント・テストを併せて導入し、採用や育成、配置・登用の判断基準として利用しているケースもあるという。

株式会社パーソル総合研究所が提供しているのが、企業内研修に要する人的コストや手間を大幅に軽減できる、クラウド型の次世代学習管理システム「HITO-Learning」だ。その特長は、eラーニングと集合研修など人材育成に関する事柄を一元管理できること。

eラーニングの動画教材をいつでもどこでも学べるだけでなく、集合研修の資料を共有、出席を管理することもできるなど、双方のメリットを融合させた学びを実現させている。

「HITO-Learning」のイメージ

「HITO-Learning」のイメージ

また、ピーシーフェーズ株式会社が提供している「shouin(しょういん)」は、本社と現場の双方向コミュニケーションにより、採用や育成など人事領域で生じるさまざまな課題を解決するクラウドサービスだ。

例えば、育成面では動画を中心としたマニュアルや業務内容に関するチェックリストを本社がアップロードすることで、店長が新人スタッフに教える負担を軽減できるようになっている。また、「良い接客」の事例動画は現場からも投稿・更新でき、本社からの押し付けにならないのも特長といえる。

「shouin」の画面イメージ

「shouin」の画面イメージ

HRテクノロジーを活用することで、従業員の志向の多様性を踏まえた「個別対応型」の育成プログラムを組むことも可能だ。従来型の画一的な集合研修ではなく、個々の適性やキャリア志向に応じた研修を個別に提供できることは、今後の組織作りにおいて大きなアドバンテージになるだろう。人事はもちろん、育成側に回ることの多いマネジメント層の負荷も大幅に軽減することができる。

例えば、株式会社ウーシアが開発・提供しているのが、企業研修における学びを深化させる、能力開発型タレントマネジメントソリューション「Core」だ。「Core」がもたらすメリットは三点ある。

一つ目が、研修での学びを現場での実践につなげていけること。二つ目が、相互学習の促進により気付きの拡充と学びの進化を図れること。そして、三つ目が受講者の活動や発言内容などをすべてデータ化し、蓄積できること。それらによって、育成現場発の人財発掘、人財のバリューアップにつなげている。

「Core」の画面イメージ

「Core」の画面イメージ

また、株式会社ギブリーではエンジニアの組織だけでなく、彼らを採用・育成する人事部がスピード感をもって業務に取り組めるように「アジャイルHR」の実現をサポートしている。

その主軸となるサービスとして位置づけているのが、プログラミングスキルチェックツール「track」だ。応募者のスキルチャックや社内エンジニアの定期的な育成・評価にも活用できるとあって、導入企業数を伸ばしている。同社では今後さらにエンジニアの定着・戦力化に至るまでのプロセスも支援したいと考えている。

「track」の画面イメージ

「track」の画面イメージ

人々の中にある「違い」に着目し、異なる立場の人たちの世界を体験することで認識や考え方に変化を促す仕組みを開発したのが、株式会社シルバーウッドだ。「VR×ダイバーシティ研修」は、認知症や外国籍社員、ワーキングファーザーなどがどのような視点で世界を見ているかを体験することができる。

研修を導入した武田薬品工業では、「ダイバーシティを自分ごと化する方法を探してきたが、VRであれば瞬時に一人称の感覚を得られるし、座学よりも楽しく体験できる」と評価している。

VR研修のイメージ

VR研修のイメージ

(5) 評価・組織サーベイ・従業員満足度・エンゲージメント向上――スピーディーに「点検」し、タイムリーな施策を打つ

従業員が自身の働く会社に愛着を持ち、やりがいを持って働ける状態を作る。そうした「エンゲージメント」向上への取り組みを進める人事部門も多いだろう。終身雇用や年功序列型人事制度の多くが機能しなくなっている中で、自社の人材を適切に評価し、満足度を高めていくための対策も急務だ。

また、ビジネス環境の変化が激しい時代に、これまでの「1年に1回」もしくは「半年に1回」の評価・フィードバックでは、頻度として少ない、という認識を持つ企業も増えている。そのため、評価制度や運用の仕方を変えている企業も多く、それをテクノロジーでサポートするサービスも増えている。

例えば、PCやスマートフォンなどから、いつでもどこでも評価・フィードバックを行うことができるアプリ。ビデオ通話機能などを使って遠隔地から評価・フィードバックを行う例もある。また、最近注目されている「OKR(Objective and Key Result<目標と主な成果>:目標と目標達成度を測る指標をリンクさせ、企業やチーム、個人が向かうべき方向とやるべきことを明確にする目標管理手法のこと)」をサポートするシステムもある。組織と従業員の目標を画面上で可視化し、その進捗や成果を常時把握できる。また、上司と部下の対話がしやすくなるような機能を備えているものもある。

エンゲージメント向上を図るために注目されている「パルスサーベイ」(簡易的な調査を短期間に繰り返し実施する調査手法のこと)をサポートするサービスも多い。システム画面上の設問への回答から「従業員と会社の関係性」を点検していく仕組みだ。人為的な調査やデータ収集・分析のスピードをはるかに超えて、タイムリーな施策へとつなげていくことができる。

(6) リテンション・退職――個々人の退職可能性を予測

従業員のモチベーションを保ち、貴重な人材をつなぎとめるにはどうすればいいのか。人事部門はもちろん、マネジメント層の多くが頭を悩ませ続ける課題だ。個々人の状況を適切に把握することが求められている。

こうした中で登場しているのが、退職可能性が高い従業員を抽出するサービス。従業員のメールの文面・内容やSNSでの投稿内容、職場での行動、勤怠状況などのデータを収集し、それを解析することで、退職可能性が高い従業員を検出し、警告してくれる、などのサービスだ。

また、人事部門の中にデータ解析スキルを持った人材をそろえ、そうした人材が、従業員のデータを収集・解析し、退職予測を行うケースも出てきている。従業員の属性情報や仕事内容、配属先ごとの勤続年数、給与、役職、昇給変動率などのデータから、退職しやすい社員のモデルケースを作成し、そのモデルケースに適合している従業員が退職するかもしれない、と予測するのだ。

離職率に大きな影響を及ぼす、従業員満足度を図るサービスも開発されている。業界・職種別の傾向データをもとに、自社の従業員の満足度レベルを見える化する仕組みだ。これを応用して従業員ごとに離職の可能性を算出するという機能も登場している。自社の現状を客観的な指標で確認できれば、従業員のモチベーション向上やリテンションに対して危機意識の低い経営者やマネジメント層へも、強いメッセージを出していけるのではないだろうか。

(7) 健康管理・メンタルヘルス――健康への意識を高める個別サポート

「健康経営」という言葉が広まるに連れて、大企業のみならず、中小企業でも従業員の健康増進に向けた取り組みを進めるケースが増えている。労働人口の減少や人生100年時代の到来を前に、企業が従業員の健康に最大限配慮していくことが社会的な使命ともなっているのだ。

しかし、さまざまな年代の従業員が働く企業の中では、健康に対する意識は人それぞれだ。そのため、個々人にアプローチしていくための施策をHRテクノロジーによってサポートしようとするサービスが生まれている。

ウェアラブル端末を活用して従業員一人ひとりの健康データを把握するサービスや、そうして得たパーソナルな情報をもとに専門家がチャットで相談に応じるサービス、従業員に健康と食生活に関してコーチングを行うアプリなどが代表例だ。

(8) 業務効率化――煩雑な行政関連の手続きを自動化

人事担当者の本来の役割とは、企業の経営戦略に則って、従業員の持つ力を最大限発揮できるようにすること。しかしながら実際は、「人事」という部署に付随する膨大な単純作業に忙殺され、本来のミッションに向き合えていない現場もあるだろう。HRテクノロジーは、そうした単純作業を人の手によらず、これまでの常識を超えたスピードで進めることを可能にした。しかもヒューマンエラーのない、高いクオリティーを担保した上で。

例えば行政の手続きに関わる書類作成などは、人事・労務に携わる担当者にとって長年の頭痛のタネだったと言えるだろう。旧来の「手書き」による対応しかできない書類も多く、限られたリソースで運営することの多い人事部門においては、無駄を感じざるを得ない業務だったのではないだろうか。

この課題に着目し、行政とも連携して手続きを自動化するサービスが登場している。例えば従業員の出産や、その後の育児休業取得といった煩雑な手続きが必要になる場面でも、人事担当者・従業員ともにほとんど手間を感じることなく申請が完了するシステムだ。当初は中小・中堅企業を主なターゲットとして開発されたそうだが、現在では大企業でも数多く取り入れられている。

代表的なサービスには、例えば株式会社SmartHRが提供する「SmartHR」がある。人事労務担当者の業務は、どうしても煩雑かつアナログになりがちだが、それらをシンプルにしてくれるのがSmartHRの特長だ。

実際、雇用契約の締結や社会保険・労働保険の手続き、年末調整などがパソコンやスマートフォンで完結できる。現在、「SmartHR」の導入企業数は2万4000社。労務管理クラウドでは代表的なサービスとなっているが、ワークフローや従業員の履歴、カスタム従業員名簿などといった機能追加も行っていくとしている。

「SmartHR」でできること

「SmartHR」でできること

面倒な給与計算業務をクラウド上でできるのが、株式会社マネーフォワードが開発・運用する「MFクラウド給与」だ。法改正や保険料率の改定などにも即応し、最新の機能を利用できるよう常にアップデートを続けている。

さまざまな外部サービスとの連携機能も強みといえる。会計、経費精算、確定申告は当然として、他社の勤怠管理サービスを利用していても連携して、データを取り込むことができる。同社では、このサービスをハブとして、労務領域における業務をクラウド上で最適化できるようにすることを目指しているという。

「MFクラウド給与」サービスイメージ

「MFクラウド給与」サービスイメージ

弁護士ドットコム株式会社が提供しているのは、WEB完結型の電子契約サービス「クラウドサイン」だ。クラウド上で契約締結から契約書管理までが可能で、紙とハンコは一切使わなくても良い。

しかも、企業側は契約手続きに関わる時間、郵送費や印紙税などのコストを削減が可能。受け取る側も、届いたメールを開いてボタンをクリックするだけで書類を確認できるため、入社初日の時間を研修やビジョンの共有に使うことができる。「クラウドサイン」の導入社数は現在4万社で、電子契約サービス業界では80%以上ものシェアを持つと言われている。

「クラウドサイン」の画面イメージ

「クラウドサイン」の画面イメージ

また、RPAも業務効率化を可能にする、代表的な技術として注目したい。RPAそのものは人事業務に限らず、あらゆる部門で活用することができる。定型的な業務をデジタルレイバーに代行させることができ、人間は創造的な業務に集中できるようになる。

(9) リモートワーク・働き方――リモートワーカーと管理者、双方の課題に対応

かつては当たり前だった対面や電話によるコミュニケーションは、時代の変化とともに廃れつつあると言えるかもしれない。従業員のライフステージの変化にかかわらずキャリアを継続させるためには、リモートワークに代表される「時間と場所に縛られない働き方」の導入が不可欠だ。

チャットツールやビデオ通話などの機能を備えたサービスは非常に多く、日進月歩で進化を続けている。もちろん、従業員が普段からプライベートで使っているような身近なサービスをリモートワークに応用することも可能だ。ツールが身近になったことで、柔軟な働き方に舵を切れるようになった企業も多いだろう。

一方で、マネジメントや人事の目線で「管理の難しさ」が指摘されているのも事実。近年ではリモートワーカーの勤務状況を簡単にチェックしたり、オフィス内で働いていないことによる長時間労働発生のリスクを抑えたりするマネジメントツールも登場している。こうしたツールを用いてデータに基づいた勤怠管理を行うことは、制度の見直しやリモートワークの定着にも役立つだろう。

「働き方改革」がバズワードとなった背景には、長時間労働を問題視する社会的な声の高まりがあった。現実には、対象となる従業員数の数やシステム上の制約によって、長時間労働の実態をリアルに把握するのが難しいという問題もある。こうした状況を踏まえて、近年ではパソコンへのアクセスログをもとにして労務内容を可視化し、長時間労働を抑止する管理システムも登場している。

ここ数年で「働き方改革」をサポートするサービスも多数開発されるようになっているが、早い時期に開発され、長年人事部門に提供され続けている、一つのサービスがある。株式会社日立ソリューションズが1994年から提供している人事総合ソリューション「リシテア」だ。2019年4月から順次施行されている「働き方改革関連法」に対応するため、社員や組織ごとに労働時間の状況を可視化する機能が追加されたことで、社員一人ひとりの残業時間の管理が容易になっている。

また、人事部が持つ課題をAI・アナリティクスを活用して分析・解決するという取り組みにも着手している。新たなHRソリューションをまず、自社内で検証することが同社のサービスに対する信念といえる。

法改正に対応した「リシテア」の新機能

法改正に対応した「リシテア」の新機能

多様な働き方に合わせて、就業状況のリアルタイムな可視化による勤務管理を実現しているのが、株式会社ソリューション・アンド・テクノロジーが提供するクラウドサービス「WiMS/SaaS」だ。各社が「働き方改革」に関する取り組みに注力するなか、さまざまな人事考課の基準に対応する柔軟性の高さが評価されており、導入を検討する企業が増えている。同社では今後、昇給や異動などの部分でもアシストできるよう、機能を高めていきたいと考えている。

「WiMS/SaaS」勤務管理イメージ

「WiMS/SaaS」勤務管理イメージ

(10) 社内コミュニケーション――従業員同士でエンゲージメントを高め合う仕組み

働き方や価値観が多様化していく中で、リモートワークの普及が進んでいるのは前述の通り。一方では、これによって発生する「社内コミュニケーションの減退」を問題視する声も多い。同じオフィスで働いているときよりも積極的にコミュニケーションを図れなければ、リモートで働く従業員のエンゲージメントを低下させてしまう懸念もある。

「オフィスに出社して働く」という常識が覆されたことで、人事が向き合わなければならない課題の質も変容していると言えるだろう。昨今ではオフィスを持たず、リモートワーカーのみで構成される組織も現れた。

こうした状況を踏まえて、コミュニケーションツール自体も日々進化を続けている。最近では、チャットアプリなどを導入する企業が増えている。社内の連絡をスピーディーに頻繁に行いやすく、スケジュール調整もしやすい。

また、離れて働く個人の頑張りを互いに賞賛しあい、ボーナスを送りあえるような新たな機能を持つサービスも登場。単なる社内SNSとしての機能にとどまらず、従業員同士でエンゲージメントを高め合うための仕組みを実装している。

株式会社シンクスマイルが運営するチームワークアプリ「RECOG(レコグ)」もその一例だ。これは、社員同士がポイントと一緒に称賛のレターを贈り合うアプリだ。同社では、併せて「ホメ研修」も実施し、企業における賞賛文化の浸透を図っている。

さらに、2019年1月には新たなオプション機能として、バリューを軸とした仲間の行動を称賛する「バリュー浸透プログラム」を開発。「会社の理念、バリューを浸透させたい」「チームのパフォーマンスを高めたい」という企業のニーズにも応えている。

新機能では社員同士がバッジを贈り合い、賞賛する文化の定着を図る

新機能では社員同士がバッジを贈り合い、賞賛する文化の定着を図る

従業員に称賛や感謝のメッセージを伝えるだけでなく、少額の「ピアボーナス」という金銭的報酬を送り合うサービスも登場している。Unipos株式会社が提供するクラウド型サービス「Unipos」だ。送り手にはピアボーナスが感謝を伝えるトリガーとなり、受け手も仲間から認められる喜びを感じられるとあって導入が進んでいる。結果的に、職場の能動性や互助意識が高まるとともに、会社のバリュー浸透にも効果が現れているという。

「Unipos」を通じたメッセージ例

「Unipos」を通じたメッセージ例

HRテクノロジーを導入している企業事例

多岐にわたるHRテクノロジーのサービスが展開されている現在、自社の課題をどのようにとらえ、どんなサービスを選ぶべきなのか、頭を悩ませている人事担当者も少なくないはずだ。ここでは、実際にHRテクノロジーを導入して人事に変革をもたらしている企業の事例をお届けしたい。

社内のハイパフォーマーを分析。「創造性の高い人材」の採用比率を高める(株式会社日立製作所)

株式会社日立製作所では、データ分析の導入によって採用活動に大きな変革をもたらした。同社は「人財バリューチェーン」の考え方に基づき、「採用」→「配置・配属」→「育成」→「生産性向上」のサイクルを回し、そのデータを次の採用に生かす流れを作っている。事業がデジタル化へとシフトしていく中、これまでの基盤事業を支える人材に加えて、「創造性の高い人材」を可視化する必要があった。

そこで同社では現存の従業員や応募する学生、内定を出した学生などのデータを分析し、人材を4タイプに分類。2軸をとって分析した結果、同社の応募者はある一つのタイプが65パーセントと偏りがあり、内定学生もほぼ同じ比率になっていることがわかったという。それまでにも何となくイメージされていた「良く考え、問題を深掘りしていくタイプ」が最も多く、「行動的、創造的」なタイプは少ないという結果で、人事としてはこの偏りを是正すべく、目標を立てて取り組みを始める。

社内にはタイプごとにそれぞれハイパフォーマーがいる。システムを活用して、ハイパフォーマーのフラグが立っている人とそれ以外の人で、性格や適性がどう異なるのかを分析。従業員へのインタビューも実施し、選考プロセスや採否の判定基準などを新たに作り直した。その結果、2017年の内定者に関しては各タイプの偏りが大きく解消。創造性が高く、顧客と一緒に価値を生み出していくことが期待できるタイプの学生を多く採用することにつながった。

さらにテキストマイニングの技術を活用し、応募者の自己PRに含まれる単語を分析。高評価者とそうでない人では明確な差が出たという。このほか同社では、採用後の配置・配属と生産性の関係を調べるサーベイツールを独自に開発し、活用している。

「AIによるエントリーシート判定」でリソースを創出し、公正な評価軸を作る(ソフトバンク株式会社)

ソフトバンク株式会社がHRテクノロジーを導入するきっかけとなったのは、同社が取り組む「母集団形成から『攻めの採用』へのシフト」だった。

ソフトバンクが本当に採用したいトップ人材は、母集団形成のような待ちの採用では採りきれない。そこで自社に合う人材に自らアプローチするための「攻めの採用」を志向。従来の手法と比べてマンパワーをはじめとするリソースが新たに必要となるため、AIの活用を決断した。

まず取り組んだのはエントリーシートの分析。人がすべてを読みこむには時間もマンパワーもかかる。そこで、過去の評価済みエントリーシートを教師データとしてAIに読み込ませた。その上で新たに提出されたエントリーシートをジャッジさせる。その結果、従来のエントリーシートの評価に使っていた時間を75パーセント削減できたという。

効率化で生まれたリソースを攻めの採用に使った結果、「公正な評価軸が生まれる」というメリットにもつながった。複数の人間がジャッジする場合は評価に個人差が出ることは避けられない。日によって異なる体調や感情によってもばらつきが生じるだろう。

しかしAIなら、完全に統一された基準でのジャッジが可能だ。システムに頼り切るだけでなく、「AIが不合格と判定したエントリーシートを再度人の目で確認する」というプロセスも盛り込み、精度を担保した。

エントリーシート判定にAIを活用した試みはメディアからも注目された。同社では今後もHRテクノロジーを積極的に活用し、「内定者と部署」「内定者と従業員」の最適なマッチングをAIで実現させたいと考えている。

さまざまな人事データを整理、見える化し意思決定に活用(株式会社サイバーエージェント)

株式会社サイバーエージェントも、2013年からHRテクノロジーに取り組むなど動きが速かった。その中核を担っているのが、本社人事部においてデータ分析を専門とする部署である「人材科学センター」だ。

ここでは、関連会社を含め約1万人もの従業員のデータを取り扱っている。メインとなるデータは、「適材適所」実現のための全社員アンケート「GEPPO」。これを、時系列での比較、チーム状況の把握、主観データと客観データのかけあわせという三つのパターンで分析している。

同センターで進めているのは、大量のデータを分析して解を導くというアプローチではない。社員の属性情報や異動履歴、勤怠などあらゆるデータをきちんと整理、見える化し、利用しやすくすることだ。

言い換えれば、精度の高いデータをいかに高速で分析し、経営に生かせるデータとして提供していくことが使命となっている。今後、同センターではデータから有効な採用手法とは何なのかを明らかにし、それに基づいた採用のPDCAを回していくという。

まさに、適材適所の取り組みを入り口となる採用のところで実践していくことを目指しているわけだ。

従業員が元気に働くための施策が企業としての生産性向上につながる(株式会社フジクラ)

近年は、健康経営に取り組む企業が増えているが、株式会社フジクラでは2011年に専門組織となる「ヘルスケア・ソリューショングループ」を立ち上げるなど動きがかなり速かった。

一般的に、健康経営と聞くと企業が従業員の疾病予防や治療をサポートする施策ととらえられがちだが、同社の目的は違う。「社員の元気をサポートしよう」「従業員にいきいきと働いてもらおう」という視点からスタートしている。

実際の活動は、2013年から開始された「フジクラグループ健康増進プログラム」に基づいて、「モニタリング」と「モデリング」「介入」という三つのステップを繰り返している。このなかで集まったデータは1ヵ月で100万件以上。

それらをIBMのSPSSやWatson Analyticsなどを用いて事業所別に分析し、課題を抽出。その上で、個別に健康増進のためのコンテンツを企画していった。また、施策によって従業員の行動や健康状態、いきいき度、さらには生産性がどう変わったかもKPIを設けて段階的に評価を行い、確かな成果を導いているという。

HRテクノロジー導入の流れ

ここまで見てきたように、HRテクノロジーは人と組織の課題を解決し、企業の戦略を前進させることにつながる大きな可能性を秘めている。実際に技術を活用することで、課題を解決している企業も多い。では、実際にHRテクノロジーを導入していく上では、どのようなプロセスを経ていくべきなのだろうか。

どのように課題をとらえ、解決策を考えるか

グローバル化や人口減少社会の到来による産業構造の変化により、企業人事を取り巻く環境は厳しさを増している。現場では新たな成長戦略や、働き方改革への対応も必要。さまざまな変化が同時並行で進む中、人材もビジネスも多様化し、人事の仕事は以前にも増して高度化を求められている。

本稿で繰り返し述べている10の人事業務分野ごとに課題があり、その解決策が求められているという現状もある。まずは自社がどの分野で課題を抱えているのかを明確にし、優先順位をつける必要があるだろう。その上で、HRテクノロジー導入でどのような解決策が期待できるのかを明らかにしたい。

テクノロジーを活用すれば、膨大なデータを効率的に処理できる。これまではわかりづらかった社内の現象やそれらの関係を把握し、将来予測を立てることにもつながるだろう。先に「HRテクノロジー活用のメリット」でも述べたように、その効果は業務効率化やマッチング制度の向上、能力開発の個別化、組織診断など、さまざまな分野の課題解決につながる。

解決に向けて、どのようにデータを集めるか

HRテクノロジーに新たな可能性をもたらすAIによって、離職の危機にある人材の存在や、社内コミュニケーションの実態を把握することも可能になった。人材配置とエンゲージメントとの関係を分析することもできる。テクノロジーは、経営への貢献が見えにくかった人事の存在感を高め、これまで経験や勘に頼ってきた人事に関する議論を、科学的な根拠を伴うものにする効果もあるだろう。

こうした効果をもたらすための大前提として必要なのが「データを与える」ことだ。どのような教師データを与えるかといった「質」と、とにかくたくさんデータを与えるという「量」がともに担保されなければならない。

例えば採用においては、自社の「好む人材」のデータばかりを与えていると、AIが学習する方向性が偏っていく危険性もある。そのため、ときにはターゲティングと対極にあるデータを投入することも必要だ。

一方、社内にない情報や人事システム内に取り込まれていない情報を取りに行く前の段階で、既に一元管理されている情報を利用するケースもあるだろう。「HRテクノロジー活用の注意点」の項で触れたように、統計リテラシーの高い人材を交え、自社のデータ活用の現状を把握する必要がある。

社内で展開していくために必要なことは

HRテクノロジーの導入が、人事の自己満足で終わってはならない。基本的なことではあるが、テクノロジー導入は目的ではない。自社の戦略をサポートし、現場のマネジャーがビジネスを回す手助けとなるようにサポートしていくことが人事のあるべき姿だ。そのためには、人事以外の部門を巻き込み、社内にHRテクノロジーの活用を展開していく必要がある。

HRテクノロジーを使えば、人事は「経験と勘」ではなく、「データとエビデンス」に基づいた議論ができるようになる。このメリットを最大限に享受して人事の力を向上させ、マネジメント層や経営陣に「人事のおかげで良い意思決定ができた」と実感してもらえるようにしたい。

新たな取り組みを始める際には、抵抗する人もいるかもしれない。そうした人へどのようにHRテクノロジーの意義を伝え、賛同してもらうかといったシミュレーションも必要になるだろう。

サービスを選定する際に気をつけるべきこと

実際にHRテクノロジーの活用を決断し、使うサービスを選定する段階になると、「何を選ぶべきか」の議論が社内で紛糾するかもしれない。

2018年時点で、日本国内だけでもHRテクノロジーに関わるサービスを提供する企業は100を超えている。それぞれに違った特徴を持ちつつも、対応する人事分野が同じであれば、その差を理解することもなかなか難しいのが実情だ。

一方では注目度の高まりに応じて、HRテクノロジー関連のシンポジウムやカンファレンスも急増している。サービス提供企業も数多く出展するため、こうした場を活用することで生のテクノロジーに触れ、その効果を体感することもできるだろう。ただし、あくまでも「テクノロジーありき」でサービスを選ぶのではなく、「課題ありき」でサービスを選ぶようにしたい。実際に導入している企業の実例を精査していくことで、自社の課題に通ずる部分も見えてくるはずだ。

HRテクノロジーの海外トレンドと今後の展望

欧米諸国を中心に、海外では1990年代からHRテクノロジーの必要性が叫ばれ、研究・開発が進んでいた。関連するスタートアップの数も日本とは比べ物にならず、実際の導入事例もはるかに豊富に存在しているのが実態だ。

海外の先端トレンドを知ることは、今後の日本国内におけるHRテクノロジーの方向性を探る上でも重要だと考えられる。ここでは日本の人事部「HRカンファレンス」で株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員の麻野 耕司氏が語った内容をもとに、海外におけるHRテクノロジーの現状を紹介する。その上で、そこから見えるHRテクノロジーの今後の展望について考察したい。

HRテクノロジーは「perform」の時代へ

2017年10月、世界最大級のHRテクノロジーベント「HR Technology Conference & Exposition」がアメリカ・ラスベガスで開催された。同イベントには世界各国から約1万人の来場者、約400のHRテクノロジー関連企業ブースが集まり、70を越えるHRスペシャリストによるセッションが開催されている。2017年で開催20回目を迎えた。

ここでは、HRテクノロジーに詳しいデロイトコンサルタントのジョシュ・バーシン氏によるセッションが行われている。まずはHRテクノロジーのトレンドについての解説だ。

1990~2004年は「Automate」と呼ばれる業務の自動化が進んだ。2004~2012年は「Integrate」、さまざまなツールやデータの統合が盛んとなる。2012~2017年にかけては「Engage」をテーマに、企業への愛着や仕事への情熱を高めるためにHRテクノロジーの活用が推進された。

そして、2018年以降のキーワードとなるのは「Perform」。HRテクノロジーはデータを集めるだけでなく、より直接的にパフォーマンスを高める動きへと進んでいく。最終的には、企業の生産性を高めることにより密接に関わっていくと予想されているという。

「従業員が直接的に使えるツール」が増えていく

一方でバーシン氏は、「アメリカではこれほどHRテクノロジーが使われながら、生産性は向上していない。もっと生産性を高める形でテクノロジーを活用するべき」と強調している。HRテクノロジーは過去にタレントマネジメント、そしてピープル・マネジメントに対応してきたが、今後はその対象が「チーム&ワークマネジメント」に広がっていくと見られている。

生産性を高めるためには、職場のチーム全員で使えるシステムが求められる。これまでのHRテクノロジーでは、主に経営者や人事が扱うデータが集められていた。今後は従業員が直接HRテクノロジーを活用することが重視されるようになる。システムのユーザビリティーの改善や導入のスピードアップが、より一層求められるようになるだろう。

従来のHRテクノロジー市場は、給与・労務から、採用や教育に機能を広げて伸びてきた。2010年ごろからは、これらの機能を統合しクラウド化する市場が伸びた。今後は、従業員が組織や会社に対してフィードバックをしたり、コミュニケーションの機会を持つことで従業員のパフォーマンスを上げたり、従業員同士の「賞賛」に関するコミュニケーションを活発化させたりする社内システムが増えていくと予想されている。こうして、実際にチームをマネジメントするためのツールとしての活用が進んでいくという。

これらに共通するのは、HRテクノロジーが経営や人事が使うツールという点を前提としながらも、職場で、チームで、従業員が直接的に使えるツールとなることで効果が上がる点だ。

HRテクノロジーは、多様性の時代を象徴している

ほかにも、今後の成長領域として注目されている市場がある。その一つが「ウェルビーイング」だ。精神面も含めた広義の健康が、人材活用を考える上で欠かせない要素となっている。継続的なパフォーマンスを出す前提として、健康経営を軸とした人材管理が重視されていくと見られている。

また、「エンゲージメント」の向上に資するテクノロジーも存在感を増している。従来型の「年1回」のようなエンゲージメント・サーベイは、主に経営や人事のために存在した。しかし今後は、よりダイレクトに、従業員のためにそのデータが使われるようになるという。変化の激しい現代においては、サーベイの頻度を高めてエンゲージメントの向上を図っていくことが欠かせないのだ。

さらに「ラーニング」の領域も進化を遂げようとしている。全体へ一律に提供する集合研修のような「マクロラーニング」ではなく、個々の従業員に合わせられる「マイクロラーニング」へのニーズが高まっているためだ。具体的には短時間での動画学習などのサービスの広がりが予想されるという。個々のこまかなキャリアパスに沿って、コンテンツの幅も充実していくだろう。

いずれの領域においても共通しているのは、従来は経営や人事などの限られた人にだけ提供されていたHRテクノロジーのサービスが、「働くすべての人」に向けて開発されるようになってきたことだろう。この傾向は、今後も働き方やキャリアへの志向が多様化していくことを見越しているとも言える。HRテクノロジーのトレンドを追いかけることは、多様性の時代に歩調を合わせていくことにもつながるのかもしれない。

(記事監修:早稲田大学政治経済学術院教授 大湾秀雄氏)

※「HRTech」は株式会社groovesの登録商標です。

実践

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