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基礎講座2019/12/13

HRテクノロジー(HR Tech、HRテック)活用法

実践

HRテクノロジー(HR Tech、HRテック)活用法 記事監修:早稲田大学政治経済学術院教授 大湾秀雄氏

最先端のテクノロジーを使って、採用・育成・評価・配置などの人事関連業務を行う「HRテクノロジー(HR Tech)」。近年、注目の高まりを受けて、その活用法やサービスも多様化している。ここでは、人事の業務分野ごとにHRテクノロジーの活用法を紹介。併せて、導入企業の事例や今後の展望を取り上げる。(2019/12/13更新)

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人事の業務分野ごとに見るHRテクノロジーの活用法

ここでは、先に定義した10の人事業務分野ごとにHRテクノロジー活用の方向性を探っていきたい。すでに市場展開されているサービスの機能もあわせて紹介する。

(1) 戦略立案――データに基づいた戦略と、検証可能な振り返り

人事は、個人の感情や組織力学といった、目に見えない事柄とも向き合わなければならない。担当する施策の中には、実施後の検証において費用対効果を明らかにしきれず、PDCAサイクルを回しにくいものもある。

これが人事の仕事において経験や勘といった属人的な要素を排しきれない大きな要因でもあった。客観的なデータに基づいて戦略立案を進め、効果検証を実施していくことが求められている。

こうしたニーズに応え、海外では戦略人事の基盤を支えるためのデータベースを提供するサービスが発展してきた。採用シーンはもちろん、社内人材の評価や適性を総合的に把握できるようにAIが機能する。システム環境に依存しないクラウドサービスとして提供され、社内のさまざまなデータをリアルタイムで収集していけることが強みだ。人事考課にまつわる会議やサーベイと言った定期イベントに頼るのではなく、人事部門やマネジメント層、そして経営陣が「常時、最新データにアクセスできる」環境を作ることで、戦略立案やスピーディーな見直し、タレントマネジメントを可能としている。

このようなサービスを活用し、データを集計し、分析すれば、人事やマネジャー、経営者は貴重な情報を得ることができる。「どんな人材が社内にいて、日々どのようにコミュニケーションを取っているのか」。それを把握することで、経営戦略を実現するための積極的な人事施策を打つことができるようになるのだ。

(2) 採用――テクノロジーを活用した採用活動が主流に

『日本の人事部』が毎年発行している『日本の人事部 人事白書』の調査結果を見ると、企業の採用担当者が苦労していることがうかがえる。2019年版の調査結果によると、新卒採用で「十分な成果を上げられていない」と回答した企業は35.2%、中途採用で「十分な成果を上げられていない」と回答した企業は36.7%。

採用活動に多くの労力を掛けている割には、思うような成果を上げることができていない。そのため、採用プロセスを再構築しようと選考フローの見直しや選考のスピードアップを検討する企業が多いが、画期的な解決策は見いだせないままでいる。

こうしたなか、期待が高まっているのが、採用活動におけるテクノロジー導入だ。すでに身近になっている採用関連サービスの中にもHRテクノロジーは存在している。採用において長く活用されている求人サイトもその一つだ。SNSの機能を活用した採用手法(ソーシャルリクルーティング)も一般的となった。

最近では、HRテクノロジーの活用によって、さらに多岐にわたる採用活動が可能となっている。明確なスキルの定義が難しい新卒採用においては、自社が重視するコンピテンシーと、客観的な評価により、それを持った学生をAIが特定し、マッチングするサービスが登場した。AIが推薦する学生の選考結果を随時フィードバックしていくことで、AIは「より適合率の高い人材」の傾向を学習していく。こうして年々、採用精度が高まっていく仕組みだ。

例えば、株式会社ZENKIGENは、動画を活用して採用活動の生産性を向上するプラットフォーム「HARUTAKA(ハルタカ)」を提供している。クラウド上に蓄積された動画を見て候補者を選考できる録画動画選考、企業と候補者が離れた場所でもHARUTAKA上で時間を調整して、リアルタイムで面接をすることができるライブ面接機能を有している。

動画の優れている点は、人柄や表情、雰囲気、情熱などの非言語情報を伝えられること。より多くの情報を得られるので「自社との相性」を判断しやすくなるという。今後は「採用活動の効率化」だけでなく、「面接の質向上」にも取り組んでいきたいと考えており、新プロダクトの開発も進めているという。

「HARUTAKA」の画面イメージ

録画動画選考とライブ面接に対応する

また、採用コストの削減や定着率向上、エンゲージメントにも好影響をもたらすと考えられる「リファラル採用」を支援するサービスもある。社内に共有する求人票を簡単に作成し、従業員がその情報をSNSで手軽に拡散できるといった仕組みだ。

応募や入社に至らなかった候補者のデータベースを管理する機能も持ち、人事から継続的にアプローチできる。さらには、ダイレクトリクルーティング、タレントプールをサポートするツール、総合的に採用活動を管理できる採用管理システム(ATS)も多数開発されている。

採用は現在のところ、HRテクノロジーの恩恵を最もダイレクトに、かつ大規模に受けられる分野と言えるのではないだろうか。企業規模によっては毎年数百、数千、数万にもおよぶようなエントリーシートを管理し、選別し続ける人事。ここが自動化されれば、大幅に工数を削減することができる。そうすれば、採用担当者はどういう能力に着目し、どのように育てていくかという、より重要な課題に取り組むことができるからだ。

また、テクノロジーを活用すれば、より公平かつ客観的な判断ができる、というメリットもある。さらに、データがたまってくれば、採用時のデータと入社後の活躍との相関性などが見えてくることもある。

採用活動の手法は多様化しているが、どんな手段においても「採用プロセスにおけるデータ管理」や「結果分析」の重要性は変わらない。今後はテクノロジーを活用した採用活動が主流となっていくだろう。

(3) 異動・配置・昇進――データに基づき、科学的な組織設計を

人事が向き合うべき大きな課題の一つに、「従来型の人事異動や配置転換からの脱却」が挙げられる。多様性が重視される時代にあって、働き方やキャリア形成への考え方も人それぞれだ。

プロセスが不透明な人事異動や配置転換は、従業員のモチベーションやエンゲージメントを低下させるだけでなく、メンタルヘルスに影響を及ぼす可能性もある。

HRテクノロジーのサービスの中には、この課題を解決するための機能を持たせたものも登場している。国内企業が提供するサービスでは、従業員の顔写真をシステム上に配置して人材配置バランスを把握したり、会議の場で新たな組織をシミュレーションしたりといった、ユニークな機能もある。

職務経歴やスキル、評価、給与水準など、人材配置に必要な情報を一元的に管理し、これらの情報の中から自由に軸を選んで写真を並べられるのだ。各従業員の人事評価情報やキャリア志向などのデータも一元管理できるため、科学的に人事異動や配置転換を検討できる。

データに基づき、公平性を担保した形で人事異動や配置転換を決定することで、従業員の納得度も高められるはずだ。組織設計のあり方を大きく見直していくきっかけにもつながるだろう。

具体例として、株式会社カオナビが開発・提供するクラウド人材管理ツール「カオナビ」を取り上げる。カオナビは、社員の顔や名前、評価、個性、スキルなどの人材情報を可視化し、戦略的な攻めの人材管理を可能にするツールだ。

その特長は、第一に経営者や現場のマネジメント層がマニュアルを読まなくても操作が可能な、わかりやすさと使いやすさ。第二に会社の施策に合わせてカスタマイズできる柔軟さ。そして、第三にユーザー同士がノウハウを共有できるコミュニティー「カオナビのWA」を開催していることだ。それらが評価され、今や1,400社以上の企業で利用されている。同社では今後も導入社数を広げるとともに、機能の拡充を目指しているという。

「カオナビ」の画面イメージ

「カオナビ」の画面イメージ

(4) 育成・研修――人事や育成担当者の負荷を軽減し、個別対応型のプログラムを実施

人材育成で課題になるのは「教える側の質」。人によって教え方やレベルが異なれば、育つ人材の質にもばらつきが生じ、当の本人は不公平感を抱いたまま社内で過ごしてしまうこともある。

また、属人的な指導方法に頼っていては育成ノウハウの継承が進まず、社内の人材育成レベルが定まらない。貴重な人材リソースの配分に悩む人事としては、教える側の負荷を軽減することも重要なテーマだ。

さらには、従来からのトップダウンによる人材育成の手法だけでは、従業員を育成できなくなってきていることも課題といえる。人材育成に1on1ミーティングを導入する企業が増えているのもそのためだ。だが、上司側の技量によって成果にばらつきがあるほか、内容を客観的に検証できないといった課題もある。

こうした課題を解決するツールとして期待されているのが、株式会社村田製作所が開発した「NAONA×Meeting(ナオナ・ミーティング)」だ。IoTを活用した新たな事業企画の一つである「NAONA」を利用したサービスで、1on1ミーティングにおける上司と部下の発言回数や発言時間などの非言語情報を計測・分析してくれる。同社では、人事戦略コンサルティング事業を展開する株式会社スプリングボードとも連携し、検証結果に合わせて上司を研修し、1on1の質を改善するサービスも提供。人材育成と組織力の向上につなげている。

上司ごとのミーティングスタイルを可視化

上司ごとのミーティングスタイルを可視化

近年広まっているという点では、「eラーニング」を活用した人材育成も注目される。ITスキルや語学、資格取得などさまざまなプログラムが登場している。

スマートフォンで手軽に学習を続けられるようにしているサービスが多く、スキマ時間をうまく活用できるよう工夫されている。いわゆる「マイクロラーニング」である。短時間の動画やWebコンテンツによって学ぶことができる。「ビジネス戦略を学ぶためのシミュレーションゲーム」といったユニークなサービスもある。

株式会社SIGNATEが提供しているのが、AI技術者やデータサイエンティスト教育に特化したオンライン教育講座「SIGNATE Quest」だ。その対象は、ITエンジニアや情報システム、研究開発などの部門に携わる技術者だけではなく、プロジェクトの立案や遂行に携わるビジネスサイドの人材の利用も想定している。

プログラムは二段階に分かれており、第一段階の「Gym」でAIやプロジェクトに関する最低限必要な要素を学習。第二段階の「Quest」は、実際のプロジェクトや課題を題材に自ら考え、解決するプロセスを通じて理解を深めていく流れだ。ゲーム感覚で楽しく学べる点も特長だという。同社では、2020年末までに100社の導入を目指している。

「SIGNATE Quest」の特長

「SIGNATE Quest」の特長

HRテクノロジーを活用することで、従業員の志向の多様性を踏まえた「個別対応型」の育成プログラムを組むことも可能だ。従来型の画一的な集合研修ではなく、個々の適性やキャリア志向に応じた研修を個別に提供できることは、今後の組織作りにおいて大きなアドバンテージになるだろう。人事はもちろん、育成側に回ることの多いマネジメント層の負荷も大幅に軽減することができる。

例えば、株式会社ウーシアが提供しているのが、研修成果を最大化するだけでなく、テクノロジーによって従業員育成のあり方を変革するソリューション「Core」だ。具体的な機能としては、研修に関する質問の自動配信やリマインドによる学びの深化、受講生同士で気づきや実践を共有してディスカッションできるオンラインフォーラムなどが用意されている。

Coreを活用することによるメリットは、研修での学びと通常業務のシナジー効果を洗い出し、従業員一人ひとりの状況を「見える化」できることだ。また、蓄積したデータを基にAIが分析・検証することで、貢献度やポテンシャルなどの従業員の評価も「見える化」できるため、人事評価の新しい指標としての活用も可能になるという。

「Core」のコメントリアクション画面

「Core」のコメントリアクション画面

最近話題のVRコンテンツを活用した研修も出てきている。株式会社シルバーウッドが開発・提供する「VR Angle Shift(VRアングルシフト)」研修もその一つだ。同社は、ダイバーシティ&インクル―ジョンが、「自分ごと」として捉えられていない状況に着目。当事者の視点に立って、多様性と受容性を体感できるVRコンテンツ研修を通じたディスカッションやレクチャーの機会を用意している。

実際にLGBTをテーマにVR研修を実施したアクセンチュア株式会差の人事担当者は、「当事者の立場をよりリアルに体験できるので、『自分ごと』として理解しやすい。その後の行動にもきっとつながっていくはず」と語っている。

VR研修を通じて「自分ごと」化できる

VR研修を通じて「自分ごと」化できる

(5) 評価・組織サーベイ・従業員満足度・エンゲージメント向上――スピーディーに「点検」し、タイムリーな施策を打つ

従業員が自身の働く会社に愛着を持ち、やりがいを持って働ける状態を作る。そうした「エンゲージメント」向上への取り組みを進める人事部門も多いだろう。終身雇用や年功序列型人事制度の多くが機能しなくなっている中で、自社の人材を適切に評価し、満足度を高めていくための対策も急務だ。

また、ビジネス環境の変化が激しい時代に、これまでの「1年に1回」もしくは「半年に1回」の評価・フィードバックでは、頻度として少ない、という認識を持つ企業も増えている。そのため、評価制度や運用の仕方を変えている企業も多く、それをテクノロジーでサポートするサービスも増えている。

例えば、PCやスマートフォンなどから、いつでもどこでも評価・フィードバックを行うことができるアプリ。ビデオ通話機能などを使って遠隔地から評価・フィードバックを行う例もある。また、最近注目されている「OKR(Objective and Key Result<目標と主な成果>:目標と目標達成度を測る指標をリンクさせ、企業やチーム、個人が向かうべき方向とやるべきことを明確にする目標管理手法のこと)」をサポートするシステムもある。組織と従業員の目標を画面上で可視化し、その進捗や成果を常時把握できる。また、上司と部下の対話がしやすくなるような機能を備えているものもある。

エンゲージメント向上を図るために注目されている「パルスサーベイ」(簡易的な調査を短期間に繰り返し実施する調査手法のこと)をサポートするサービスも多い。システム画面上の設問への回答から「従業員と会社の関係性」を点検していく仕組みだ。人為的な調査やデータ収集・分析のスピードをはるかに超えて、タイムリーな施策へとつなげていくことができる。

ここで、いくつか具体例を挙げよう。まずは、株式会社シーベースが開発・提供する「スマレビシリーズ」だ。360度評価や従業員満足度調査、リテンションサーベイ、Webリサーチなど多種多彩なサーベイを実施できるのが特長だ。

例えば、個人へのフィードバックループとして有効な手法である360度評価を活用するには、認知的不協和がもたらす、さまざまなエラー行動を回避した上で課題を特定し、具体的な行動改善を図ることが重要になる。同社の「スマレビfor360°」を使えば、直観的に評価対象者の強みや改善点を把握することができるほか、認知的不協和を防ぎながら内省を進めていけるという。

「スマレビfor 360°」の画面イメージ

「スマレビfor 360°」の画面イメージ

株式会社JTBコミュニケーションデザインが提供しているのは、従業員に対する意識調査をベースに組織の現状を可視化し、自律的な組織変革につなげるクラウドサービス「WILL CANVAS」だ。

その特長は、第一に組織のありたい姿の明確化やKGI、KPIの設定をサポートできること。第二にKPIにひもづいた設問の設計であること。そして、第三にKPI達成に向けた施策選択・進捗管理やレポートをクラウドでリアルタイムに確認できることだ。同社では、JTBグループが長年にわたって培ってきたモチベーションを切り口としたコンサルティング実績を強みに、今後は組織開発の領域でNo.1を目指していきたい考えだ。

部門・属性ごとの結果をリアルタイムで確認できる(画像はイメージです)

部門・属性ごとの結果をリアルタイムで確認できる(画像はイメージです)

また、人材の採用や育成、配置にあたっては、本人が持つスキルを定量的に可視化していく必要がある。ITエンジニア領域でこうした点に着目したサービスを提供するのが、日本サード・パーティ株式会社だ。同社のITスキルアセスメントツール「GAIT(ゲイト)」の特長は、出題範囲が幅広いこと、世界の共通指標として英語や中国語に対応していること、ITトレンドに沿って試験問題を常にアップデートしていることの三点。

従来は、SIer系企業での導入が中心であったが、近年はそれ以外の業界の企業にも利用が広がっているという。同社では、こうしたニーズの広がりを受けて、DX時代に合った新たな「GAIT」を2020年春に提供する予定だ。

「GAIT」のスコアレポート

「GAIT」のスコアレポート

(6) リテンション・退職――個々人の退職可能性を予測

従業員のモチベーションを保ち、貴重な人材をつなぎとめるにはどうすればいいのか。人事部門はもちろん、マネジメント層の多くが頭を悩ませ続ける課題だ。個々人の状況を適切に把握することが求められている。

こうした中で登場しているのが、退職可能性が高い従業員を抽出するサービス。従業員のメールの文面・内容やSNSでの投稿内容、職場での行動、勤怠状況などのデータを収集し、それを解析することで、退職可能性が高い従業員を検出し、警告してくれる、などのサービスだ。

また、人事部門の中にデータ解析スキルを持った人材をそろえ、そうした人材が、従業員のデータを収集・解析し、退職予測を行うケースも出てきている。従業員の属性情報や仕事内容、配属先ごとの勤続年数、給与、役職、昇給変動率などのデータから、退職しやすい社員のモデルケースを作成し、そのモデルケースに適合している従業員が退職するかもしれない、と予測するのだ。

離職率に大きな影響を及ぼす、従業員満足度を図るサービスも開発されている。業界・職種別の傾向データをもとに、自社の従業員の満足度レベルを見える化する仕組みだ。これを応用して従業員ごとに離職の可能性を算出するという機能も登場している。自社の現状を客観的な指標で確認できれば、従業員のモチベーション向上やリテンションに対して危機意識の低い経営者やマネジメント層へも、強いメッセージを出していけるのではないだろうか。

(7) 健康管理・メンタルヘルス――健康への意識を高める個別サポート

「健康経営」という言葉が広まるに連れて、大企業のみならず、中小企業でも従業員の健康増進に向けた取り組みを進めるケースが増えている。労働人口の減少や人生100年時代の到来を前に、企業が従業員の健康に最大限配慮していくことが社会的な使命ともなっているのだ。

しかし、さまざまな年代の従業員が働く企業の中では、健康に対する意識は人それぞれだ。そのため、個々人にアプローチしていくための施策をHRテクノロジーによってサポートしようとするサービスが生まれている。

ウェアラブル端末を活用して従業員一人ひとりの健康データを把握するサービスや、そうして得たパーソナルな情報をもとに専門家がチャットで相談に応じるサービス、従業員に健康と食生活に関してコーチングを行うアプリなどがある。

例えば、帝人株式会社が提供している「Sleep Style睡眠力向上プログラム」では、従業員の睡眠状況を把握し、睡眠に関する生活習慣の改善を支援することができる。プログラムは、(1)従業員それぞれの「睡眠力」を把握、(2)睡眠の大切さをオンライン学習で受講、(3)課題に応じた「睡眠力向上メソッド」の実践、(4)スマートフォンアプリを活用して生活習慣を改善・定着化させる、という流れで進んでいく。

同社では、このプログラムを実施することで、従業員のフィジカルやメンタル、パフォーマンス部分を含めた生活習慣を改善させる取り組みを進めてもらいたいと企業に呼びかけている。

「Sleep Styles 睡眠力向上プログラム」の概要

「Sleep Styles 睡眠力向上プログラム」の概要

(8) 業務効率化――煩雑な行政関連の手続きを自動化

人事担当者の本来の役割とは、企業の経営戦略に則って、従業員の持つ力を最大限発揮できるようにすること。しかしながら実際は、「人事」という部署に付随する膨大な単純作業に忙殺され、本来のミッションに向き合えていない現場もあるだろう。HRテクノロジーは、そうした単純作業を人の手によらず、これまでの常識を超えたスピードで進めることを可能にした。しかもヒューマンエラーのない、高いクオリティーを担保した上で。

例えば行政の手続きに関わる書類作成などは、人事・労務に携わる担当者にとって長年の頭痛のタネだったと言えるだろう。旧来の「手書き」による対応しかできない書類も多く、限られたリソースで運営することの多い人事部門においては、無駄を感じざるを得ない業務だったのではないだろうか。

この課題に着目し、行政とも連携して手続きを自動化するサービスが登場している。例えば従業員の出産や、その後の育児休業取得といった煩雑な手続きが必要になる場面でも、人事担当者・従業員ともにほとんど手間を感じることなく申請が完了するシステムだ。当初は中小・中堅企業を主なターゲットとして開発されたそうだが、現在では大企業でも数多く取り入れられている。

代表的なサービスとしては、弁護士ドットコム株式会社が提供している、WEB完結型のクラウド契約サービス「クラウドサイン」と、対面申し込みに特化したクラウド電子契約(申込書)サービス「クラウドサインNOW」がある。

「クラウドサイン」は、クラウド上で契約締結から契約書管理までが可能で、紙とハンコは一切使わなくてもいい。一方、「クラウドサインNOW」はタブレット端末を利用したサービスで、画面上に表示した申込書や契約書に必要な情報を記入すれば、文字が即時にデータ化される。ハンコを持っていいない外国人労働者が増えるなか、スムーズな雇用契約から離職率の改善、人材配置などにつながるサービスとして期待されている。

「クラウドサインNOW」のダッシュボード画面

「クラウドサインNOW」のダッシュボード画面

また、RPAも業務効率化を可能にする、代表的な技術として注目したい。RPAそのものは人事業務に限らず、あらゆる部門で活用することができる。定型的な業務をデジタルレイバーに代行させることができ、人間は創造的な業務に集中できるようになる。

(9) リモートワーク・働き方――リモートワーカーと管理者、双方の課題に対応

かつては当たり前だった対面や電話によるコミュニケーションは、時代の変化とともに廃れつつあると言えるかもしれない。従業員のライフステージの変化にかかわらずキャリアを継続させるためには、リモートワークに代表される「時間と場所に縛られない働き方」の導入が不可欠だ。

チャットツールやビデオ通話などの機能を備えたサービスは非常に多く、日進月歩で進化を続けている。もちろん、従業員が普段からプライベートで使っているような身近なサービスをリモートワークに応用することも可能だ。ツールが身近になったことで、柔軟な働き方に舵を切れるようになった企業も多いだろう。

一方で、マネジメントや人事の目線で「管理の難しさ」が指摘されているのも事実。近年ではリモートワーカーの勤務状況を簡単にチェックしたり、オフィス内で働いていないことによる長時間労働発生のリスクを抑えたりするマネジメントツールも登場している。こうしたツールを用いてデータに基づいた勤怠管理を行うことは、制度の見直しやリモートワークの定着にも役立つだろう。

「働き方改革」がバズワードとなった背景には、長時間労働を問題視する社会的な声の高まりがあった。現実には、対象となる従業員数の数やシステム上の制約によって、長時間労働の実態をリアルに把握するのが難しいという問題もある。こうした状況を踏まえて、近年ではパソコンへのアクセスログをもとにして労務内容を可視化し、長時間労働を抑止する管理システムも登場している。

しかし、ただ単に労働時間を削減する、残業を禁止するでは本質的な課題解決につながらない。従業員の生産性向上やパフォーマンスの改善に目を向けていく必要があるからだ。こうした課題解決を目指して日本マイクロソフト株式会社が提供している組織横断の生産性分析ツールが「Workplace Analytics」だ。企業向けの「Microsoft365」「Office365」プランのアドオンとして提供されている。

すでにこのツールを導入している企業では、従業員が本来持っている性格特性を発揮して仕事に取り組めているほか、仕事に満足して働いているかなども検証できるので、人材の適材適所に向けた施策を進めていきやすいと語っているという。

「Workplace Analytics」で組織の生産性を可視化できる

「Workplace Analytics」で組織の生産性を可視化できる

従業員一人ひとりの働き方を可視化し、企業の働き方改革を推進するクラウドサービス「TeamSpirit(チームスピリット)」を提供しているのが、株式会社チームスピリットだ。

「TeamSpirit」の特長は三つある。第一に、従業員が日々接している複数の社内業務システムを一体化していること。第二に、クラウドサービスであること。そして第三に、「統合基幹業務システム」のフロントウェアとしての機能を有していることだ。同社では、さらなる組織の活性化・生産性向上を目的として、大企業での利用を想定した新サービス「TeamSpirit WSP」もリリースしている。

「TeamSpirit WSP」とは

「TeamSpirit WSP」とは

(10) 社内コミュニケーション――従業員同士でエンゲージメントを高め合う仕組み

働き方や価値観が多様化していく中で、リモートワークの普及が進んでいるのは前述の通り。一方では、これによって発生する「社内コミュニケーションの減退」を問題視する声も多い。同じオフィスで働いているときよりも積極的にコミュニケーションを図れなければ、リモートで働く従業員のエンゲージメントを低下させてしまう懸念もある。

「オフィスに出社して働く」という常識が覆されたことで、人事が向き合わなければならない課題の質も変容していると言えるだろう。昨今ではオフィスを持たず、リモートワーカーのみで構成される組織も現れた。

こうした状況を踏まえて、コミュニケーションツール自体も日々進化を続けている。最近では、チャットアプリなどを導入する企業が増えている。社内の連絡をスピーディーに頻繁に行いやすく、スケジュール調整もしやすい。

また、離れて働く個人の頑張りを互いに賞賛しあい、ボーナスを送りあえるような新たな機能を持つサービスも登場。単なる社内SNSとしての機能にとどまらず、従業員同士でエンゲージメントを高め合うための仕組みを実装している。

Unipos株式会社が提供するクラウド型サービス「Unipos」もその一例だ。これは、従業員同士がお互いを知り、認め合い、称え合うことで信頼関係を構築していくという仕掛け。期待できる効果は二つある。一つは、相互理解が進み、従業員同士の間に信頼が生まれ、組織に一体感が創出されること。もう一つは、ボトムアップにより行動指針を浸透できることだ。

同社では、「知る」「知られる」「認める」「認められる」を加速するために、「部署タイムライン」や「ピックアップタイムライン」などの新機能を実装。従業員の多い大企業での利用を主に想定しており、より良質なコミュニケーションサイクルの実現につなげたい考えだ。

「Unipos」の画面イメージ

「Unipos」の画面イメージ

HRテクノロジーを導入している企業事例

多岐にわたるHRテクノロジーのサービスが展開されている現在、自社の課題をどのようにとらえ、どんなサービスを選ぶべきなのか、頭を悩ませている人事担当者も少なくないはずだ。ここでは、実際にHRテクノロジーを導入して人事に変革をもたらしている企業の事例をお届けしたい。

社内のハイパフォーマーを分析。「創造性の高い人材」の採用比率を高める(株式会社日立製作所)

株式会社日立製作所では、データ分析の導入によって採用活動に大きな変革をもたらした。同社は「人財バリューチェーン」の考え方に基づき、「採用」→「配置・配属」→「育成」→「生産性向上」のサイクルを回し、そのデータを次の採用に生かす流れを作っている。事業がデジタル化へとシフトしていく中、これまでの基盤事業を支える人材に加えて、「創造性の高い人材」を可視化する必要があった。

そこで同社では現存の従業員や応募する学生、内定を出した学生などのデータを分析し、人材を4タイプに分類。2軸をとって分析した結果、同社の応募者はある一つのタイプが65パーセントと偏りがあり、内定学生もほぼ同じ比率になっていることがわかったという。それまでにも何となくイメージされていた「良く考え、問題を深掘りしていくタイプ」が最も多く、「行動的、創造的」なタイプは少ないという結果で、人事としてはこの偏りを是正すべく、目標を立てて取り組みを始める。

社内にはタイプごとにそれぞれハイパフォーマーがいる。システムを活用して、ハイパフォーマーのフラグが立っている人とそれ以外の人で、性格や適性がどう異なるのかを分析。従業員へのインタビューも実施し、選考プロセスや採否の判定基準などを新たに作り直した。その結果、2017年の内定者に関しては各タイプの偏りが大きく解消。創造性が高く、顧客と一緒に価値を生み出していくことが期待できるタイプの学生を多く採用することにつながった。

さらにテキストマイニングの技術を活用し、応募者の自己PRに含まれる単語を分析。高評価者とそうでない人では明確な差が出たという。このほか同社では、採用後の配置・配属と生産性の関係を調べるサーベイツールを独自に開発し、活用している。

「AIによるエントリーシート判定」でリソースを創出し、公正な評価軸を作る(ソフトバンク株式会社)

ソフトバンク株式会社がHRテクノロジーを導入するきっかけとなったのは、同社が取り組む「母集団形成から『攻めの採用』へのシフト」だった。

ソフトバンクが本当に採用したいトップ人材は、母集団形成のような待ちの採用では採りきれない。そこで自社に合う人材に自らアプローチするための「攻めの採用」を志向。従来の手法と比べてマンパワーをはじめとするリソースが新たに必要となるため、AIの活用を決断した。

まず取り組んだのはエントリーシートの分析。人がすべてを読みこむには時間もマンパワーもかかる。そこで、過去の評価済みエントリーシートを教師データとしてAIに読み込ませた。その上で新たに提出されたエントリーシートをジャッジさせる。その結果、従来のエントリーシートの評価に使っていた時間を75パーセント削減できたという。

効率化で生まれたリソースを攻めの採用に使った結果、「公正な評価軸が生まれる」というメリットにもつながった。複数の人間がジャッジする場合は評価に個人差が出ることは避けられない。日によって異なる体調や感情によってもばらつきが生じるだろう。

しかしAIなら、完全に統一された基準でのジャッジが可能だ。システムに頼り切るだけでなく、「AIが不合格と判定したエントリーシートを再度人の目で確認する」というプロセスも盛り込み、精度を担保した。

エントリーシート判定にAIを活用した試みはメディアからも注目された。同社では今後もHRテクノロジーを積極的に活用し、「内定者と部署」「内定者と従業員」の最適なマッチングをAIで実現させたいと考えている。

さまざまな人事データを整理、見える化し意思決定に活用(株式会社サイバーエージェント)

株式会社サイバーエージェントも、2013年からHRテクノロジーに取り組むなど動きが速かった。その中核を担っているのが、本社人事部においてデータ分析を専門とする部署である「人材科学センター」だ。

ここでは、関連会社を含め約1万人もの従業員のデータを取り扱っている。メインとなるデータは、「適材適所」実現のための全社員アンケート「GEPPO」。これを、時系列での比較、チーム状況の把握、主観データと客観データのかけあわせという三つのパターンで分析している。

同センターで進めているのは、大量のデータを分析して解を導くというアプローチではない。社員の属性情報や異動履歴、勤怠などあらゆるデータをきちんと整理、見える化し、利用しやすくすることだ。

言い換えれば、精度の高いデータをいかに高速で分析し、経営に生かせるデータとして提供していくことが使命となっている。今後、同センターではデータから有効な採用手法とは何なのかを明らかにし、それに基づいた採用のPDCAを回していくという。

まさに、適材適所の取り組みを入り口となる採用のところで実践していくことを目指しているわけだ。

従業員が元気に働くための施策が企業としての生産性向上につながる(株式会社フジクラ)

近年は、健康経営に取り組む企業が増えているが、株式会社フジクラでは2011年に専門組織となる「ヘルスケア・ソリューショングループ」を立ち上げるなど動きがかなり速かった。

一般的に、健康経営と聞くと企業が従業員の疾病予防や治療をサポートする施策ととらえられがちだが、同社の目的は違う。「社員の元気をサポートしよう」「従業員にいきいきと働いてもらおう」という視点からスタートしている。

実際の活動は、2013年から開始された「フジクラグループ健康増進プログラム」に基づいて、「モニタリング」と「モデリング」「介入」という三つのステップを繰り返している。このなかで集まったデータは1ヵ月で100万件以上。

それらをIBMのSPSSやWatson Analyticsなどを用いて事業所別に分析し、課題を抽出。その上で、個別に健康増進のためのコンテンツを企画していった。また、施策によって従業員の行動や健康状態、いきいき度、さらには生産性がどう変わったかもKPIを設けて段階的に評価を行い、確かな成果を導いているという。

HRテクノロジー導入の流れ

ここまで見てきたように、HRテクノロジーは人と組織の課題を解決し、企業の戦略を前進させることにつながる大きな可能性を秘めている。実際に技術を活用することで、課題を解決している企業も多い。では、実際にHRテクノロジーを導入していく上では、どのようなプロセスを経ていくべきなのだろうか。

どのように課題をとらえ、解決策を考えるか

グローバル化や人口減少社会の到来による産業構造の変化により、企業人事を取り巻く環境は厳しさを増している。現場では新たな成長戦略や、働き方改革への対応も必要。さまざまな変化が同時並行で進む中、人材もビジネスも多様化し、人事の仕事は以前にも増して高度化を求められている。

本稿で繰り返し述べている10の人事業務分野ごとに課題があり、その解決策が求められているという現状もある。まずは自社がどの分野で課題を抱えているのかを明確にし、優先順位をつける必要があるだろう。その上で、HRテクノロジー導入でどのような解決策が期待できるのかを明らかにしたい。

テクノロジーを活用すれば、膨大なデータを効率的に処理できる。これまではわかりづらかった社内の現象やそれらの関係を把握し、将来予測を立てることにもつながるだろう。先に「HRテクノロジー活用のメリット」でも述べたように、その効果は業務効率化やマッチング制度の向上、能力開発の個別化、組織診断など、さまざまな分野の課題解決につながる。

解決に向けて、どのようにデータを集めるか

HRテクノロジーに新たな可能性をもたらすAIによって、離職の危機にある人材の存在や、社内コミュニケーションの実態を把握することも可能になった。人材配置とエンゲージメントとの関係を分析することもできる。テクノロジーは、経営への貢献が見えにくかった人事の存在感を高め、これまで経験や勘に頼ってきた人事に関する議論を、科学的な根拠を伴うものにする効果もあるだろう。

こうした効果をもたらすための大前提として必要なのが「データを与える」ことだ。どのような教師データを与えるかといった「質」と、とにかくたくさんデータを与えるという「量」がともに担保されなければならない。

例えば採用においては、自社の「好む人材」のデータばかりを与えていると、AIが学習する方向性が偏っていく危険性もある。そのため、ときにはターゲティングと対極にあるデータを投入することも必要だ。

一方、社内にない情報や人事システム内に取り込まれていない情報を取りに行く前の段階で、既に一元管理されている情報を利用するケースもあるだろう。「HRテクノロジー活用の注意点」の項で触れたように、統計リテラシーの高い人材を交え、自社のデータ活用の現状を把握する必要がある。

社内で展開していくために必要なことは

HRテクノロジーの導入が、人事の自己満足で終わってはならない。基本的なことではあるが、テクノロジー導入は目的ではない。自社の戦略をサポートし、現場のマネジャーがビジネスを回す手助けとなるようにサポートしていくことが人事のあるべき姿だ。そのためには、人事以外の部門を巻き込み、社内にHRテクノロジーの活用を展開していく必要がある。

HRテクノロジーを使えば、人事は「経験と勘」ではなく、「データとエビデンス」に基づいた議論ができるようになる。このメリットを最大限に享受して人事の力を向上させ、マネジメント層や経営陣に「人事のおかげで良い意思決定ができた」と実感してもらえるようにしたい。

新たな取り組みを始める際には、抵抗する人もいるかもしれない。そうした人へどのようにHRテクノロジーの意義を伝え、賛同してもらうかといったシミュレーションも必要になるだろう。

サービスを選定する際に気をつけるべきこと

実際にHRテクノロジーの活用を決断し、使うサービスを選定する段階になると、「何を選ぶべきか」の議論が社内で紛糾するかもしれない。

2018年時点で、日本国内だけでもHRテクノロジーに関わるサービスを提供する企業は100を超えている。それぞれに違った特徴を持ちつつも、対応する人事分野が同じであれば、その差を理解することもなかなか難しいのが実情だ。

一方では注目度の高まりに応じて、HRテクノロジー関連のシンポジウムやカンファレンスも急増している。サービス提供企業も数多く出展するため、こうした場を活用することで生のテクノロジーに触れ、その効果を体感することもできるだろう。ただし、あくまでも「テクノロジーありき」でサービスを選ぶのではなく、「課題ありき」でサービスを選ぶようにしたい。実際に導入している企業の実例を精査していくことで、自社の課題に通ずる部分も見えてくるはずだ。

HRテクノロジーの海外トレンドと今後の展望

欧米諸国を中心に、海外では1990年代からHRテクノロジーの必要性が叫ばれ、研究・開発が進んでいた。関連するスタートアップの数も日本とは比べ物にならず、実際の導入事例もはるかに豊富に存在しているのが実態だ。

海外の先端トレンドを知ることは、今後の日本国内におけるHRテクノロジーの方向性を探る上でも重要だと考えられる。ここでは日本の人事部「HRカンファレンス」で株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員の麻野 耕司氏が語った内容をもとに、海外におけるHRテクノロジーの現状を紹介する。その上で、そこから見えるHRテクノロジーの今後の展望について考察したい。

HRテクノロジーは「perform」の時代へ

2017年10月、世界最大級のHRテクノロジーベント「HR Technology Conference & Exposition」がアメリカ・ラスベガスで開催された。同イベントには世界各国から約1万人の来場者、約400のHRテクノロジー関連企業ブースが集まり、70を越えるHRスペシャリストによるセッションが開催されている。2017年で開催20回目を迎えた。

ここでは、HRテクノロジーに詳しいデロイトコンサルタントのジョシュ・バーシン氏によるセッションが行われている。まずはHRテクノロジーのトレンドについての解説だ。

1990~2004年は「Automate」と呼ばれる業務の自動化が進んだ。2004~2012年は「Integrate」、さまざまなツールやデータの統合が盛んとなる。2012~2017年にかけては「Engage」をテーマに、企業への愛着や仕事への情熱を高めるためにHRテクノロジーの活用が推進された。

そして、2018年以降のキーワードとなるのは「Perform」。HRテクノロジーはデータを集めるだけでなく、より直接的にパフォーマンスを高める動きへと進んでいく。最終的には、企業の生産性を高めることにより密接に関わっていくと予想されているという。

「従業員が直接的に使えるツール」が増えていく

一方でバーシン氏は、「アメリカではこれほどHRテクノロジーが使われながら、生産性は向上していない。もっと生産性を高める形でテクノロジーを活用するべき」と強調している。HRテクノロジーは過去にタレントマネジメント、そしてピープル・マネジメントに対応してきたが、今後はその対象が「チーム&ワークマネジメント」に広がっていくと見られている。

生産性を高めるためには、職場のチーム全員で使えるシステムが求められる。これまでのHRテクノロジーでは、主に経営者や人事が扱うデータが集められていた。今後は従業員が直接HRテクノロジーを活用することが重視されるようになる。システムのユーザビリティーの改善や導入のスピードアップが、より一層求められるようになるだろう。

従来のHRテクノロジー市場は、給与・労務から、採用や教育に機能を広げて伸びてきた。2010年ごろからは、これらの機能を統合しクラウド化する市場が伸びた。今後は、従業員が組織や会社に対してフィードバックをしたり、コミュニケーションの機会を持つことで従業員のパフォーマンスを上げたり、従業員同士の「賞賛」に関するコミュニケーションを活発化させたりする社内システムが増えていくと予想されている。こうして、実際にチームをマネジメントするためのツールとしての活用が進んでいくという。

これらに共通するのは、HRテクノロジーが経営や人事が使うツールという点を前提としながらも、職場で、チームで、従業員が直接的に使えるツールとなることで効果が上がる点だ。

HRテクノロジーは、多様性の時代を象徴している

ほかにも、今後の成長領域として注目されている市場がある。その一つが「ウェルビーイング」だ。精神面も含めた広義の健康が、人材活用を考える上で欠かせない要素となっている。継続的なパフォーマンスを出す前提として、健康経営を軸とした人材管理が重視されていくと見られている。

また、「エンゲージメント」の向上に資するテクノロジーも存在感を増している。従来型の「年1回」のようなエンゲージメント・サーベイは、主に経営や人事のために存在した。しかし今後は、よりダイレクトに、従業員のためにそのデータが使われるようになるという。変化の激しい現代においては、サーベイの頻度を高めてエンゲージメントの向上を図っていくことが欠かせないのだ。

さらに「ラーニング」の領域も進化を遂げようとしている。全体へ一律に提供する集合研修のような「マクロラーニング」ではなく、個々の従業員に合わせられる「マイクロラーニング」へのニーズが高まっているためだ。具体的には短時間での動画学習などのサービスの広がりが予想されるという。個々のこまかなキャリアパスに沿って、コンテンツの幅も充実していくだろう。

いずれの領域においても共通しているのは、従来は経営や人事などの限られた人にだけ提供されていたHRテクノロジーのサービスが、「働くすべての人」に向けて開発されるようになってきたことだろう。この傾向は、今後も働き方やキャリアへの志向が多様化していくことを見越しているとも言える。HRテクノロジーのトレンドを追いかけることは、多様性の時代に歩調を合わせていくことにもつながるのかもしれない。

(記事監修:早稲田大学政治経済学術院教授 大湾秀雄氏)

※「HRTech」は株式会社groovesの登録商標です。


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