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基礎講座2018/07/31

HRテクノロジー(HR Tech、HRテック)活用法

実践

人事業務の分野ごとに存在する課題を技術によって解決し、効率化と成果拡大をもたらす「HR テクノロジー(HR Tech、HRテック)」(Human Resource × Technology)。前項では、その定義やテクノロジーの種類、メリットや注意点など、基本的な点について考察してきた。では、HRテクノロジーを実際にどのように活用すればいいのだろうか。どのようなサービスが開発されているのだろうか。企業の人事部門ではどのような形で導入されているのだろうか。本稿では、実際の「活用法」について解説していく。

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人事の業務分野ごとに見るHRテクノロジーの活用法

ここでは、先に定義した10の人事業務分野ごとにHRテクノロジー活用の方向性を探っていきたい。すでに市場展開されているサービスの機能もあわせて紹介する。

(1) 戦略立案――データに基づいた戦略と、検証可能な振り返り

人事は、個人の感情や組織力学といった、目に見えない事柄とも向き合わなければならない。担当する施策の中には、実施後の検証において費用対効果を明らかにしきれず、PDCAサイクルを回しにくいものもある。これが人事の仕事において経験や勘といった属人的な要素を排しきれない大きな要因でもあった。客観的なデータに基いて戦略立案を進め、効果検証を実施していくことが求められている。

こうしたニーズに応え、海外では戦略人事の基盤を支えるためのデータベースを提供するサービスが発展してきた。採用シーンはもちろん、社内人材の評価や適性を総合的に把握できるようにAIが機能する。システム環境に依存しないクラウドサービスとして提供され、社内のさまざまなデータをリアルタイムで収集していけることが強みだ。人事考課にまつわる会議やサーベイと言った定期イベントに頼るのではなく、人事部門やマネジメント層、そして経営陣が「常時、最新データにアクセスできる」環境を作ることで、戦略立案やスピーディーな見直し、タレントマネジメントを可能としている。

このようなサービスは近年、多数開発されている。たとえば、ワークデイ株式会社が提供する「Workday ヒューマン キャピタル マネジメント(HCM)」。あらゆる機能が最初からクラウド上のテクノロジーとして開発されており、すべてが一体化したプラットフォームの上で動いていることが特徴。2018年現在、全世界で1,900社以上、日本でも300社以上の大企業やグループに導入されている。

「Workday HCM」の画面

このようなサービスを活用し、データを集計し、分析することで、人事やマネジャー、経営者は貴重な情報を得ることができる。「どんな人材が社内にいて、日々どのようにコミュニケーションを取っているのか」。それを把握することで、経営戦略を実現するための積極的な人事施策を打つことができるようになるのだ。

(2) 採用――テクノロジーを活用した採用活動が主流に

『日本の人事部』が毎年発行している『日本の人事部 人事白書』の調査結果を見ると、企業の採用担当者が苦労していることがうかがえる。2018年版の調査結果によると、新卒採用で「十分な成果を上げられていない」と回答した企業は36.3%、中途採用で「十分な成果を上げられていない」と回答した企業は39.3%。採用活動に多くの労力を掛けている割には、思うような成果を上げることができていない。そのため、採用プロセスを再構築しようと選考フローの見直しや選考のスピードアップを検討する企業が多いが、画期的な解決策は見いだせないままでいる。こうしたなか、期待が高まっているのが、採用活動におけるテクノロジー導入だ。すでに身近になっている採用関連サービスの中にもHRテクノロジーは存在している。採用において長く活用されている求人サイトもその一つだ。SNSの機能を活用した採用手法(ソーシャルリクルーティング)も一般的となった。

最近では、HRテクノロジーの活用によって、さらに多岐にわたる採用活動が可能となっている。明確なスキルの定義が難しい新卒採用においては、自社が重視するコンピテンシーと、客観的な評価により、それを持った学生をAIが特定し、マッチングするサービスが登場した。AIが推薦する学生の選考結果を随時フィードバックしていくことで、AIは「より適合率の高い人材」の傾向を学習していく。こうして年々、採用精度が高まっていく仕組みだ。

採用関連のサービスをいくつか紹介しよう。まずは、株式会社ヴォーカーズが2016年10月にリリースした新たな採用支援サービス「Vorkersリクルーティング」だ。母体となっているのは、国内最大級となる540万件以上もの社員口コミと評価スコアを擁する、就職・転職のための企業リサーチサイト「Vorkers」。その膨大な社員口コミデータを蓄積・分析した結果に基づいて、採用企業の特徴を抽出して説得力のある情報を発信したり、組織課題を発見できたりするようにしている。

「Vorkers」の画面

株式会社マイナビと株式会社三菱総合研究所では、2016年10月にAIを利用してエントリーシートの優先度を診断するサービスをリリースした。翌17年10月には、そのサービスのバージョンアップ版として「AI優先度診断サービス」を開発している。このサービスは、採用企業の人材要件を学習させたAIが、学生の「優先度」「人物像」「辞退可能性」を客観的かつスピーディーに診断・表示してくれるというものだ。大手ビール会社では、導入の前年まで約600時間かかっていた書類選考が4割ほど削減されたという。

AI優先度診断ツール画面

エン・ジャパン株式会社も、「誰でも簡単に、スマートフォンにも最適化された採用HPをつくれるようにする」をコンセプトとして、2016年8月に採用支援ツール「engage(エンゲージ)」をリリースしている。スタート当初は、採用告知機能や応募者管理など募集面に力を注いだが、その後「ビデオインタビュー」や「タレントアナリティクス」「離職リスク診断」などの機能を追加し、採用から定着・活躍の一連のプロセスを支援できるようにしている。同社は、「入社後活躍」の実現を企業テーマとして掲げており、今後はエンゲージを採用だけでなく、まだまだアナログに頼る部分が多い教育と評価の領域においても、応用していきたいと考えている。

エンゲージの画面イメージ

一方、社風や人間関係とのミスマッチが転職理由として多い点に着目したのが、株式会社ミライセルフだ。この課題を解消するために、社会心理学の理論をベースに厳選された72問からなる適性検査を企業と応募者に課し、面接前にマッチング度を数値として把握できるようにする「mitsucari適性検査」を提供している。マッチングを検証する作業をワンクリックで可能としているほか、スマホを使えば72問のテストを10分程度で終わらせることができ、初期登録費用は無料となっている。

「mitsucari適性検査」の分析結果の画面

いわゆる「採用関連のサービス」というわけではないが、データサイエンティストを採用しづらい、という課題に対する打ち手となるサービスがある。株式会社SIGNATEが提供するプラットフォーム「SIGNATE」だ。AIが脚光を浴びるものの、その領域に精通したデータサイエンティストを確保するのはかなり厳しく、多くの企業は課題を抱えたままという状態が続く。こうした状況を打破するために誕生したのがこのサービスだ。企業が抱える課題をオープンにし、登録済の8000人ものデータサイエンティストからコンペティション形式でソリューションを募るという仕組みになっている。

「SIGNATE」のサービスの仕組み

また、採用コストの削減や定着率向上、エンゲージメントにも好影響をもたらすと考えられる「リファラル採用」を支援するサービスもある。社内に共有する求人票を簡単に作成し、従業員がその情報をSNSで手軽に拡散できるといった仕組みだ。応募や入社に至らなかった候補者のデータベースを管理する機能も持ち、人事から継続的にアプローチできる。さらには、ダイレクトリクルーティング、タレントプールをサポートするツール、総合的に採用活動を管理できる採用管理システム(ATS)も多数開発されている。

採用は現在のところ、HRテクノロジーの恩恵を最もダイレクトに、かつ大規模に受けられる分野と言えるのではないだろうか。企業規模によっては毎年数百、数千、数万にもおよぶようなエントリーシートを管理し、選別し続ける人事。ここが自動化されれば、大幅に工数を削減することができる。そうすれば、採用担当者はどういう能力に着目し、どのように育てていくかという、より重要な課題に取り組むことができる。また、テクノロジーを活用すれば、より公平かつ客観的な判断ができる、というメリットもある。さらに、データがたまってくれば、採用時のデータと入社後の活躍との相関性などが見えてくることもある。

採用活動の手法は多様化しているが、どんな手段においても「採用プロセスにおけるデータ管理」や「結果分析」の重要性は変わらない。今後はテクノロジーを活用した採用活動が主流となっていくだろう。

(3) 異動・配置・昇進――データに基づき、科学的な組織設計を

人事が向き合うべき大きな課題の一つに、「従来型の人事異動や配置転換からの脱却」が挙げられる。多様性が重視される時代にあって、働き方やキャリア形成への考え方も人それぞれだ。プロセスが不透明な人事異動や配置転換は、従業員のモチベーションやエンゲージメントを低下させるだけでなく、メンタルヘルスに影響を及ぼす可能性もある。

HRテクノロジーのサービスの中には、この課題を解決するための機能を持たせたものも登場している。国内企業が提供するサービスでは、従業員の顔写真をシステム上に配置して人材配置バランスを把握したり、会議の場で新たな組織をシミュレーションしたりといった、ユニークな機能もある。職務経歴やスキル、評価、給与水準など、人材配置に必要な情報を一元的に管理し、これらの情報の中から自由に軸を選んで写真を並べられるのだ。各従業員の人事評価情報やキャリア志向などのデータも一元管理できるため、科学的に人事異動や配置転換を検討できる。

データに基づき、公平性を担保した形で人事異動や配置転換を決定することで、従業員の納得度も高められるはずだ。組織設計のあり方を大きく見直していくきっかけにもつながるだろう。

(4) 育成・研修――人事や育成担当者の負荷を軽減し、個別対応型のプログラムを実施

「Mobile Knowledge」の回答画面

人材育成で課題になるのは「教える側の質」。人によって教え方やレベルが異なれば、育つ人材の質にもばらつきが生じ、当の本人は不公平感を抱いたまま社内で過ごしてしまうこともある。また、属人的な指導方法に頼っていては育成ノウハウの継承が進まず、社内の人材育成レベルが定まらない。貴重な人材リソースの配分に悩む人事としては、教える側の負荷を軽減することも重要なテーマだ。

そうした中で近年広まっているのが「eラーニング」を活用した人材育成。ITスキルや語学、資格取得はもちろん、ビジネススクールが開発した「MBA取得アプリ」なども登場している。スマートフォンで手軽に学習を続けられるようにしているサービスが多く、スキマ時間をうまく活用できるよう工夫されている。いわゆる「マイクロラーニング」である。短時間の動画やWebコンテンツによって学ぶことができる。「ビジネス戦略を学ぶためのシミュレーションゲーム」といったユニークなサービスもある。

例えば、人材育成・人材戦略支援会社のトーマツ イノベーションが2016年3月にリリースしたのは、モバイル・ラーニングを活かした反転学習アプリ「Mobile Knowledge」だ。社会人としての必要な知識やスキル、ノウハウをいつでもどこでも学べるようになっている。しかも、一つのコンテンツを3分程度で学べるとあって、スキマ時間を有効に活用できる。問題はすべてクイズ形式。昇格試験に合格すると次のカテゴリーに進めるというゲーム性も備えている。

また、HRテクノロジーを活用することで、従業員の志向の多様性を踏まえた「個別対応型」の育成プログラムを組むことも可能だ。従来型の画一的な集合研修ではなく、個々の適性やキャリア志向に応じた研修を個別に提供できることは、今後の組織作りにおいて大きなアドバンテージになるだろう。人事はもちろん、育成側に回ることの多いマネジメント層の負荷も大幅に軽減することができる。

具体例をいくつか挙げたい。まず、株式会社FCEトレーニング・カンパニーが、中小・ベンチャー企業向けに提供しているのが、「Smart Boarding」だ。これは、「オンボーディング」とHRテクノロジーを組み合わせ、新規採用した人材の受け入れから定着、戦力化までの一連の流れを、よりスムーズにする仕組みといえる。教育機能は三つのステージに分かれている。価値観・理念・マインド、正しい仕事の仕方、そして知識・スキルという順だ。それぞれに、自社独自のコンテンツと全てのビジネスパーソン共通のコンテンツを用意し、教育生産性を高める工夫を施している。受講者は、それらを自分の好きな時間で学べる。

「Smart Boarding」

また、株式会社ギブリーは、エンジニア組織を強化するにはスキルの可視化が不可欠になると考え、同社が従来から提供してきた二つのサービスを統合し、新プラットフォーム「track」を開発した。「track」の特徴は、エンジニアのプログラミングスキルの可視化と採用・評価に関する工数の削減を実現できること。エンジニアのプログラミングスキルを評価するテスト問題の作成・配信・受験・自動採点・評価はクラウドサービスとして提供される。その結果、エンジニアのスキルが把握しやすくなるとともに、自社に必要なスキルレベルを明確化し、個々のスキルに合わせた育成・評価が可能になる。

trackサービスサイト(https://tracks.run/enable/about-track/)より

VRを使った研修の様子

人々の中にある「違い」に着目したのが、株式会社シルバーウッドが開発した「イノベーションのためのVR×ダイバーシティ研修」だ。同社はもともと鉄鋼会社だが、サービス付き高齢者向け住宅も運営していた。その事業を通じて直面したのが、「自分とは違う境遇の人の状態を自分事のように感じてもらうにはどうすれば良いか」という課題。VRを使った仮想空間を疑似体験してもらうのが最適ではと考え、認知症の方が見ている世界を理解することで接し方を変えられるプログラムをはじめ、いくつかのVRプログラムを用意したダイバーシティ研修を実施している。画一的な価値観をリセットしなければイノベーションは生まれない。そのためにも、VRが有効であると同社は提案している。

(5) 評価・組織サーベイ・従業員満足度・エンゲージメント向上――スピーディーに「点検」し、タイムリーな施策を打つ

従業員が自身の働く会社に愛着を持ち、やりがいを持って働ける状態を作る。そうした「エンゲージメント」向上への取り組みを進める人事部門も多いだろう。終身雇用や年功序列型人事制度の多くが機能しなくなっている中で、自社の人材を適切に評価し、満足度を高めていくための対策も急務だ。また、ビジネス環境の変化が激しい時代に、これまでの「1年に1回」もしくは「半年に1回」の評価・フィードバックでは、頻度として少ない、という認識を持つ企業も増えている。そのため、評価制度や運用の仕方を変えている企業も多く、それをテクノロジーでサポートするサービスも増えている。

たとえば、PCやスマートフォンなどから、いつでもどこでも評価・フィードバックを行うことができるアプリ。ビデオ通話機能などを使って遠隔地から評価・フィードバックを行う例もある。また、最近注目されているOKR(Objective and Key Result<目標と主な成果>:目標と目標達成度を測る指標をリンクさせ、企業やチーム、個人が向かうべき方向とやるべきことを明確にする目標管理手法のこと)をサポートするシステムもある。組織と従業員の目標を画面上で可視化し、その進捗や成果を常時把握できる。また、上司と部下の対話がしやすくなるような機能を備えているものもある。

また、エンゲージメント向上を図るために注目されている「パルスサーベイ」(簡易的な調査を短期間に繰り返し実施する調査手法のこと)をサポートするサービスも多い。システム画面上の設問への回答から「従業員と会社の関係性」を点検していく仕組みだ。人為的な調査やデータ収集・分析のスピードをはるかに超えて、タイムリーな施策へとつなげていくことができる。

(6) リテンション・退職――個々人の退職可能性を予測

従業員のモチベーションを保ち、貴重な人材をつなぎとめるにはどうすればいいのか。人事部門はもちろん、マネジメント層の多くが頭を悩ませ続ける課題だ。個々人の状況を適切に把握することが求められている。

こうした中で登場しているのが、退職可能性が高い従業員を抽出するサービス。従業員のメールの文面・内容やSNSでの投稿内容、職場での行動、勤怠状況などのデータを収集し、それを解析することで、退職可能性が高い従業員を検出し、警告してくれる、などのサービスだ。

また、人事部門の中にデータ解析スキルを持った人材をそろえ、そうした人材が、従業員のデータを収集・解析し、退職予測を行うケースも出てきている。従業員の属性情報や仕事内容、配属先ごとの勤続年数、給与、役職、昇給変動率などのデータから、退職しやすい社員のモデルケースを作成し、そのモデルケースに適合している従業員が退職するかもしれない、と予測するのだ。

また、離職率に大きな影響を及ぼす、従業員満足度を図るサービスも開発されている。業界・職種別の傾向データをもとに、自社の従業員の満足度レベルを見える化する仕組みだ。これを応用して従業員ごとに離職の可能性を算出するという機能も登場している。自社の現状を客観的な指標で確認できれば、従業員のモチベーション向上やリテンションに対して危機意識の低い経営者やマネジメント層へも、強いメッセージを出していけるのではないだろうか。

(7) 健康管理・メンタルヘルス――健康への意識を高める個別サポート

「健康経営」という言葉が広まるに連れて、大企業のみならず、中小企業でも従業員の健康増進に向けた取り組みを進めるケースが増えている。労働人口の減少や人生100年時代の到来を前に、企業が従業員の健康に最大限配慮していくことが社会的な使命ともなっているのだ。

しかし、さまざまな年代の従業員が働く企業の中では、健康に対する意識は人それぞれだ。そのため、個々人にアプローチしていくための施策をHRテクノロジーによってサポートしようとするサービスが生まれている。

ウェアラブル端末を活用して従業員一人ひとりの健康データを把握するサービスや、そうして得たパーソナルな情報をもとに専門家がチャットで相談に応じるサービス、従業員に健康と食生活に関してコーチングを行うアプリなどが代表例だ。

(8) 業務効率化――煩雑な行政関連の手続きを自動化

人事担当者の本来の役割とは、企業の経営戦略に則って、従業員の持つ力を最大限発揮できるようにすること。しかしながら実際は、「人事」という部署に付随する膨大な単純作業に忙殺され、本来のミッションに向き合えていない現場もあるだろう。HRテクノロジーは、そうした単純作業を人の手によらず、これまでの常識を超えたスピードで進めることを可能にした。しかもヒューマンエラーのない、高いクオリティーを担保した上で。

例えば行政の手続きに関わる書類作成などは、人事・労務に携わる担当者にとって長年の頭痛のタネだったと言えるだろう。旧来の「手書き」による対応しかできない書類も多く、限られたリソースで運営することの多い人事部門においては、無駄を感じざるを得ない業務だったのではないだろうか。

この課題に着目し、行政とも連携して手続きを自動化するサービスが登場している。例えば従業員の出産や、その後の育児休業取得といった煩雑な手続きが必要になる場面でも、人事担当者・従業員ともにほとんど手間を感じることなく申請が完了するシステムだ。当初は中小・中堅企業を主なターゲットとして開発されたそうだが、現在では大企業でも数多く取り入れられている。

株式会社SmartHRが開発・運営する「SmartHR」も、大量のペーパーワークに追われる人事にとってありがたいサービスだ。その特徴は、人事労務の書類作成や役所への電子申請、従業員データベースの作成、給与明細の発行などを容易にさせてくれることにある。それぞれに要していた時間が大幅に削減できるので、その分コア業務により専念できる。「働き方改革」にもつながるサービスといえる。クラウドなので、人事労務関連の法律や書式などの変更にもスピーディーに対応できる上に、人為的要因によるデータ流出を防ぐなどセキュリティー面も配慮されている。

「SmartHR」

また、RPAも業務効率化を可能にする、代表的な技術といえる。RPAそのものは人事業務に限らず、あらゆる部門で活用することができる。定型的な業務をデジタルレイバーに代行させることができ、人間は創造的な業務に集中できるようになる。

(9) リモートワーク・働き方――リモートワーカーと管理者、双方の課題に対応

かつては当たり前だった対面や電話によるコミュニケーションは、時代の変化とともに廃れつつあると言えるかもしれない。従業員のライフステージの変化にかかわらずキャリアを継続させるためには、リモートワークに代表される「時間と場所に縛られない働き方」の導入が不可欠だ。

チャットツールやビデオ通話などの機能を備えたサービスは非常に多く、日進月歩で進化を続けている。もちろん、従業員が普段からプライベートで使っているような身近なサービスをリモートワークに応用することも可能だ。ツールが身近になったことで、柔軟な働き方に舵を切れるようになった企業も多いだろう。

最近では、遠隔であってもスマートフォンなどで簡単にコミュニケーションを図れる「分身ロボット」も登場している。株式会社オリィ研究所が開発した「OriHime」がそれだ。「OriHime」の特長は、「そこにその人がいる」というリアルな感覚を表現していること。周囲を見回したり、会話もできるし、うなずいたり、拒否をしたり、感情を伝えるなどさまざまな動きを可能としている。在宅勤務の社員がこれをコミュニケーションツールとして使えば、会議などの場においてリアルタイムのやりとりが可能になるという。

「OriHime」

一方で、マネジメントや人事の目線で「管理の難しさ」が指摘されているのも事実。近年ではリモートワーカーの勤務状況を簡単にチェックしたり、オフィス内で働いていないことによる長時間労働発生のリスクを抑えたりするマネジメントツールも登場している。こうしたツールを用いてデータに基づいた勤怠管理を行うことは、制度の見直しやリモートワークの定着にも役立つだろう。

「働き方改革」がバズワードとなった背景には、長時間労働を問題視する社会的な声の高まりがあった。現実には、対象となる従業員数の数やシステム上の制約によって、長時間労働の実態をリアルに把握するのが難しいという問題もある。こうした状況を踏まえて、近年ではパソコンへのアクセスログをもとにして労務内容を可視化し、長時間労働を抑止する管理システムも登場している。

ここ数年で「働き方改革」をサポートするサービスも多数開発されるようになっているが、早い時期に開発され、長年人事部門に提供され続けている、一つのサービスがある。株式会社日立ソリューションズが1994年から提供している人事総合ソリューション「リシテア」だ。柔軟な働き方の導入や長時間労働の是正をITによって実現できるのではないかと考え、開発されたものだ。既に1200社164万人を超えるなど豊富な導入実績を誇っているが、同社は今後、さらにAIを活用して社内の人財関連データを分析し、個人や組織のストレスを可視化・予測するほか、RPAを用いて作業時間の短縮化を図ることによって、ソリューションのバージョンアップを実現していきたいと考えている。

リシテアAI分析「組織ストレス予測サービス」概要

(10) 社内コミュニケーション――従業員同士でエンゲージメントを高め合う仕組み

レコグの画面

働き方や価値観が多様化していく中で、リモートワークの普及が進んでいるのは前述の通り。一方では、これによって発生する「社内コミュニケーションの減退」を問題視する声も多い。同じオフィスで働いているときよりも積極的にコミュニケーションを図れなければ、リモートで働く従業員のエンゲージメントを低下させてしまう懸念もある。

「オフィスに出社して働く」という常識が覆されたことで、人事が向き合わなければならない課題の質も変容していると言えるだろう。昨今ではオフィスを持たず、リモートワーカーのみで構成される組織も現れた。

こうした状況を踏まえて、コミュニケーションツール自体も日々進化を続けている。最近では、チャットアプリなどを導入する企業が増えている。社内の連絡をスピーディーに頻繁に行いやすく、スケジュール調整もしやすい。また、離れて働く個人の頑張りを互いに賞賛しあい、ボーナスを送りあえるような新たな機能を持つサービスも登場。単なる社内SNSとしての機能にとどまらず、従業員同士でエンゲージメントを高め合うための仕組みを実装している。

株式会社シンクスマイルが2018年5月にリリースしたチームパフォーマンスアプリ「RECOG(レコグ)」もその一例だ。これは、同社が開発した、ポジティブなコミュニケーションを可視化する社内SNS「ホメログ」を進化させたものだ。利用法は簡単で、仕事を通じて助けられたと思った相手に感謝のメッセージとともに「称賛」を贈るだけでいい。その「称賛」が相手に届くとともに掲示板を通じて全社員に共有できる仕組みになっている。また、こうしたコミュニケーションをAIが分析し、社員一人ひとりが生産性アップに向けてどんな行動をとっているかも、リアルタイムで表示・把握することもできるとあって、人事評価での活用も想定されている。

HRテクノロジーを導入している企業事例

多岐にわたるHRテクノロジーのサービスが展開されている現在、自社の課題をどのようにとらえ、どんなサービスを選ぶべきなのか、頭を悩ませている人事担当者も少なくないはずだ。ここでは、実際にHRテクノロジーを導入して人事に変革をもたらしている企業の事例をお届けしたい。

社内のハイパフォーマーを分析。「創造性の高い人材」の採用比率を高める(株式会社日立製作所)

株式会社日立製作所では、データ分析の導入によって採用活動に大きな変革をもたらした。同社は「人財バリューチェーン」の考え方に基づき、「採用」→「配置・配属」→「育成」→「生産性向上」のサイクルを回し、そのデータを次の採用に生かす流れを作っている。事業がデジタル化へとシフトしていく中、これまでの基盤事業を支える人材に加えて、「創造性の高い人材」を可視化する必要があった。

そこで同社では現存の従業員や応募する学生、内定を出した学生などのデータを分析し、人材を4タイプに分類。2軸をとって分析した結果、同社の応募者はある一つのタイプが65パーセントと偏りがあり、内定学生もほぼ同じ比率になっていることがわかったという。それまでにも何となくイメージされていた「良く考え、問題を深掘りしていくタイプ」が最も多く、「行動的、創造的」なタイプは少ないという結果で、人事としてはこの偏りを是正すべく、目標を立てて取り組みを始める。

社内にはタイプごとにそれぞれハイパフォーマーがいる。システムを活用して、ハイパフォーマーのフラグが立っている人とそれ以外の人で、性格や適性がどう異なるのかを分析。従業員へのインタビューも実施し、選考プロセスや採否の判定基準などを新たに作り直した。その結果、2017年の内定者に関しては各タイプの偏りが大きく解消。創造性が高く、顧客と一緒に価値を生み出していくことが期待できるタイプの学生を多く採用することにつながった。

さらにテキストマイニングの技術を活用し、応募者の自己PRに含まれる単語を分析。高評価者とそうでない人では明確な差が出たという。このほか同社では、採用後の配置・配属と生産性の関係を調べるサーベイツールを独自に開発し、活用している。

「AIによるエントリーシート判定」でリソースを創出し、公正な評価軸を作る(ソフトバンク株式会社)

ソフトバンク株式会社がHRテクノロジーを導入するきっかけとなったのは、同社が取り組む「母集団形成から『攻めの採用』へのシフト」だった。

ソフトバンクが本当に採用したいトップ人材は、母集団形成のような待ちの採用では採りきれない。そこで自社に合う人材に自らアプローチするための「攻めの採用」を志向。従来の手法と比べてマンパワーをはじめとするリソースが新たに必要となるため、AIの活用を決断した。

まず取り組んだのはエントリーシートの分析。人がすべてを読みこむには時間もマンパワーもかかる。そこで、過去の評価済みエントリーシートを教師データとしてAIに読み込ませた。その上で新たに提出されたエントリーシートをジャッジさせる。その結果、従来のエントリーシートの評価に使っていた時間を75パーセント削減できたという。

効率化で生まれたリソースを攻めの採用に使った結果、「公正な評価軸が生まれる」というメリットにもつながった。複数の人間がジャッジする場合は評価に個人差が出ることは避けられない。日によって異なる体調や感情によってもばらつきが生じるだろう。しかしAIなら、完全に統一された基準でのジャッジが可能だ。システムに頼り切るだけでなく、「AIが不合格と判定したエントリーシートを再度人の目で確認する」というプロセスも盛り込み、精度を担保した。

エントリーシート判定にAIを活用した試みはメディアからも注目された。同社では今後もHRテクノロジーを積極的に活用し、「内定者と部署」「内定者と従業員」の最適なマッチングをAIで実現させたいと考えている。

ピープル・アナリティクスの活用により「未来を予測し、先手を打つ人事」を実現 (テンプホールディングス株式会社)

ピープル・アナリティクス」は、米国では専門部署を設立する企業もあるなどポピュラーだが、日本ではようやくスタートラインに立ったというレベル。そうしたなかで、先進的に取り組んでいるのがテンプホールディングス株式会社だ。

同社では、2015年に「人事情報室」という部署が新たに立ち上がった。その組織のミッションは、「人事情報を活用し、未来を予測し先手を打つ人事を実現する」こと。着目したのが、「ピープル・アナリティクス」であった。

フォーカスしたのは「退職」と「異動」。退職を抑制するとともに、環境を変えることで多くの人が活躍してくれれば、タレントマネジメントを確立することができると考えたからだ。

まずは、機械学習の「ランダム・フォレスト」といったアルゴリズムを用いて、退職の確率を予測する「退職予測モデル」を開発。次に、「異動後活躍予測モデル」を「異動成功予測モデル」と「ハイパフォーマーマイニング」という二つの分析手法を組み合わせて作り上げた。

精度に関しては、例えば「退職予測モデル」の「正解率」は現状約90%まで来ている。分析結果についても、グループ会社の人事部門から非常にポジティブな評価を得ているという。同社では、今後採用の分野にも挑戦していきたいと意気込んでいる。

デジタル・テクノロジーは、HRをどう変えていくか~VR面接を活用した新卒採用活動~(株式会社アクセンチュア)

株式会社アクセンチュアは、デジタルとビジネスを融合させて企業の変革をサポートする総合コンサルティング企業だ。採用広報においても、社内のマーケティング・コミュニケーションチームのメンバーがミーティングに参加し、ターゲットやメッセージの精度を高めている。

そんな議論の中から生まれたのが、「最新のVRデバイスを使って面接体験ができないか」というアイデア。デジタルソリューションの資質を持った学生、デジタルの未来に大きな期待を寄せる学生に訴求するには有効であると判断し、外部のクリエィティブ制作会社の協力のもと、VR面接体験コンテンツを作り上げ、実際に体感できる採用イベントを開催した。

学生をジャッジするのではなく、あくまでも「デジタル時代のアクセンチュア」への興味・魅力を高めるのが目的とはいえ、自己紹介の後にいくつかの質問に答えるなど、コンテンツの流れは本番とほぼ変わらない。その上、アクセンチュアでの適性職種やポイント数も表示されるようになっている。

アクセンチュアでは、今後もVRやAIなどのテクノロジーをHRの領域に積極的に活用していく考えだ。特に、AIでは「解析」と「オートメーション(自動化)」という側面で新たな展開を模索していきたいと思い描いている。

HRテクノロジー導入の流れ

ここまで見てきたように、HRテクノロジーは人と組織の課題を解決し、企業の戦略を前進させることにつながる大きな可能性を秘めている。実際に技術を活用することで、課題を解決している企業も多い。では、実際にHRテクノロジーを導入していく上では、どのようなプロセスを経ていくべきなのだろうか。

どのように課題をとらえ、解決策を考えるか

グローバル化や人口減少社会の到来による産業構造の変化により、企業人事を取り巻く環境は厳しさを増している。現場では新たな成長戦略や、働き方改革への対応も必要。さまざまな変化が同時並行で進む中、人材もビジネスも多様化し、人事の仕事は以前にも増して高度化を求められている。

本稿で繰り返し述べている10の人事業務分野ごとに課題があり、その解決策が求められているという現状もある。まずは自社がどの分野で課題を抱えているのかを明確にし、優先順位をつける必要があるだろう。その上で、HRテクノロジー導入でどのような解決策が期待できるのかを明らかにしたい。

テクノロジーを活用すれば、膨大なデータを効率的に処理できる。これまではわかりづらかった社内の現象やそれらの関係を把握し、将来予測を立てることにもつながるだろう。先に「HRテクノロジー活用のメリット」でも述べたように、その効果は業務効率化やマッチング制度の向上、能力開発の個別化、組織診断など、さまざまな分野の課題解決につながる。

解決に向けて、どのようにデータを集めるか

HRテクノロジーに新たな可能性をもたらすAIによって、離職の危機にある人材の存在や、社内コミュニケーションの実態を把握することも可能になった。人材配置とエンゲージメントとの関係を分析することもできる。テクノロジーは、経営への貢献が見えにくかった人事の存在感を高め、これまで経験や勘に頼ってきた人事に関する議論を、科学的な根拠を伴うものにする効果もあるだろう。

こうした効果をもたらすための大前提として必要なのが「データを与える」ことだ。どのような教師データを与えるかといった「質」と、とにかくたくさんデータを与えるという「量」がともに担保されなければならない。

例えば採用においては、自社の「好む人材」のデータばかりを与えていると、AIが学習する方向性が偏っていく危険性もある。そのため、ときにはターゲティングと対極にあるデータを投入することも必要だ。

一方、社内にない情報や人事システム内に取り込まれていない情報を取りに行く前の段階で、既に一元管理されている情報を利用するケースもあるだろう。「HRテクノロジー活用の注意点」の項で触れたように、統計リテラシーの高い人材を交え、自社のデータ活用の現状を把握する必要がある。

社内で展開していくために必要なことは

HRテクノロジーの導入が、人事の自己満足で終わってはならない。基本的なことではあるが、テクノロジー導入は目的ではない。自社の戦略をサポートし、現場のマネジャーがビジネスを回す手助けとなるようにサポートしていくことが人事のあるべき姿だ。そのためには、人事以外の部門を巻き込み、社内にHRテクノロジーの活用を展開していく必要がある。

HRテクノロジーを使えば、人事は「経験と勘」ではなく、「データとエビデンス」に基づいた議論ができるようになる。このメリットを最大限に享受して人事の力を向上させ、マネジメント層や経営陣に「人事のおかげで良い意思決定ができた」と実感してもらえるようにしたい。

新たな取り組みを始める際には、抵抗する人もいるかもしれない。そうした人へどのようにHRテクノロジーの意義を伝え、賛同してもらうかといったシミュレーションも必要になるだろう。

サービスを選定する際に気をつけるべきこと

実際にHRテクノロジーの活用を決断し、使うサービスを選定する段階になると、「何を選ぶべきか」の議論が社内で紛糾するかもしれない。

2018年時点で、日本国内だけでもHRテクノロジーに関わるサービスを提供する企業は100を超えている。それぞれに違った特徴を持ちつつも、対応する人事分野が同じであれば、その差を理解することもなかなか難しいのが実情だ。

一方では注目度の高まりに応じて、HRテクノロジー関連のシンポジウムやカンファレンスも急増している。サービス提供企業も数多く出展するため、こうした場を活用することで生のテクノロジーに触れ、その効果を体感することもできるだろう。ただし、あくまでも「テクノロジーありき」でサービスを選ぶのではなく、「課題ありき」でサービスを選ぶようにしたい。実際に導入している企業の実例を精査していくことで、自社の課題に通ずる部分も見えてくるはずだ。

HRテクノロジーの海外トレンドと今後の展望

欧米諸国を中心に、海外では1990年代からHRテクノロジーの必要性が叫ばれ、研究・開発が進んでいた。関連するスタートアップの数も日本とは比べ物にならず、実際の導入事例もはるかに豊富に存在しているのが実態だ。

海外の先端トレンドを知ることは、今後の日本国内におけるHRテクノロジーの方向性を探る上でも重要だと考えられる。ここでは日本の人事部「HRカンファレンス」で株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員の麻野 耕司氏が語った内容をもとに、海外におけるHRテクノロジーの現状を紹介する。その上で、そこから見えるHRテクノロジーの今後の展望について考察したい。

HRテクノロジーは「perform」の時代へ

2017年10月、世界最大級のHRテクノロジーベント「HR Technology Conference & Exposition」がアメリカ・ラスベガスで開催された。同イベントには世界各国から約1万人の来場者、約400のHRテクノロジー関連企業ブースが集まり、70を越えるHRスペシャリストによるセッションが開催されている。2017年で開催20回目を迎えた。

ここでは、HRテクノロジーに詳しいデロイトコンサルタントのジョシュ・バーシン氏によるセッションが行われている。まずはHRテクノロジーのトレンドについての解説だ。

1990~2004年は「Automate」と呼ばれる業務の自動化が進んだ。2004~2012年は「Integrate」、さまざまなツールやデータの統合が盛んとなる。2012~2017年にかけては「Engage」をテーマに、企業への愛着や仕事への情熱を高めるためにHRテクノロジーの活用が推進された。

そして、2018年以降のキーワードとなるのは「Perform」。HRテクノロジーはデータを集めるだけでなく、より直接的にパフォーマンスを高める動きへと進んでいく。最終的には、企業の生産性を高めることにより密接に関わっていくと予想されているという。

「従業員が直接的に使えるツール」が増えていく

一方でバーシン氏は、「アメリカではこれほどHRテクノロジーが使われながら、生産性は向上していない。もっと生産性を高める形でテクノロジーを活用するべき」と強調している。HRテクノロジーは過去にタレントマネジメント、そしてピープル・マネジメントに対応してきたが、今後はその対象が「チーム&ワークマネジメント」に広がっていくと見られている。

生産性を高めるためには、職場のチーム全員で使えるシステムが求められる。これまでのHRテクノロジーでは、主に経営者や人事が扱うデータが集められていた。今後は従業員が直接HRテクノロジーを活用することが重視されるようになる。システムのユーザビリティーの改善や導入のスピードアップが、より一層求められるようになるだろう。

従来のHRテクノロジー市場は、給与・労務から、採用や教育に機能を広げて伸びてきた。2010年ごろからは、これらの機能を統合しクラウド化する市場が伸びた。今後は、従業員が組織や会社に対してフィードバックをしたり、コミュニケーションの機会を持つことで従業員のパフォーマンスを上げたり、従業員同士の「賞賛」に関するコミュニケーションを活発化させたりする社内システムが増えていくと予想されている。こうして、実際にチームをマネジメントするためのツールとしての活用が進んでいくという。

これらに共通するのは、HRテクノロジーが経営や人事が使うツールという点を前提としながらも、職場で、チームで、従業員が直接的に使えるツールとなることで効果が上がる点だ。

HRテクノロジーは、多様性の時代を象徴している

ほかにも、今後の成長領域として注目されている市場がある。その一つが「ウェルビーイング」だ。精神面も含めた広義の健康が、人材活用を考える上で欠かせない要素となっている。継続的なパフォーマンスを出す前提として、健康経営を軸とした人材管理が重視されていくと見られている。

また、「エンゲージメント」の向上に資するテクノロジーも存在感を増している。従来型の「年1回」のようなエンゲージメント・サーベイは、主に経営や人事のために存在した。しかし今後は、よりダイレクトに、従業員のためにそのデータが使われるようになるという。変化の激しい現代においては、サーベイの頻度を高めてエンゲージメントの向上を図っていくことが欠かせないのだ。

さらに「ラーニング」の領域も進化を遂げようとしている。全体へ一律に提供する集合研修のような「マクロラーニング」ではなく、個々の従業員に合わせられる「マイクロラーニング」へのニーズが高まっているためだ。具体的には短時間での動画学習などのサービスの広がりが予想されるという。個々のこまかなキャリアパスに沿って、コンテンツの幅も充実していくだろう。

いずれの領域においても共通しているのは、従来は経営や人事などの限られた人にだけ提供されていたHRテクノロジーのサービスが、「働くすべての人」に向けて開発されるようになってきたことだろう。この傾向は、今後も働き方やキャリアへの志向が多様化していくことを見越しているとも言える。HRテクノロジーのトレンドを追いかけることは、多様性の時代に歩調を合わせていくことにもつながるのかもしれない。

(記事監修:早稲田大学政治経済学術院教授 大湾秀雄氏)

※「HRTech」は株式会社groovesの登録商標です。

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