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人事もPDCAを回す時代へ
「日本の人事を科学する」データ活用の視点とは(前編)

大湾 秀雄さん(東京大学社会科学研究所 教授)

面接は有用ではない!?
データ分析でわかる「採用力」の意外

とはいえ、実は人事データはとても面白く、精緻に分析してみると、当初予想していなかった動きや、一般に流布している印象論とは違う“常識のウソ”が明らかになったり、見過ごされてきた意外な事実にたどりついたりすることがあります。現に、私が主宰する「人事情報活用研究会」の活動においても、統計を学び始めたばかりの参加者に、課題として試みてもらった自社データの分析から、ときに驚くような結果が出てくることがありました。

たとえば、ある参加企業の担当者が、自社の採用時の情報と、その後どれだけ活躍しているかを示す入社数年後の評価との関係を、回帰分析という手法で調べてみました。採用時情報としては、適性検査と筆記試験、グループ討議、一次面接という四つのデータが保管されていたのですが、そのうち入社後のパフォーマンスと有意な相関が認められたものは、適性検査で測った創造的思考力とオーガナイズ能力の二つだけ。驚くべきことに、面接やグループ討議の評点を含む、他の選考結果については、入社後のパフォーマンスとの間にほとんど相関が見られなかったのです。分析にあたった当の人事担当者がショックを受けたのも無理はありません。その企業では、外部のコンサルタントを雇い、効果があると信じて何年間も採用アセスメントを実施していたのですから。

東京大学社会科学研究所 教授 大湾 秀雄さん

データの活用によって、初めて自社の真の「採用力」が見えてきたわけですね。

たしかに、採用時に集めたさまざまな応募者情報と、入社後の評価や昇進昇格スピードとの相関関係を明らかにすることで、選考の際の基準や採用手法が適切であったかを検証することはできます。ただし、統計的に「相関関係がない」からといって、必ずしも「有用ではない」というわけではありません。実際に入社した人だけに対象を絞った分析では、有意な相関が認められなくても、採用しなかった人や入社しなかった人まで含めた母集団全体で分析すると、有効になる可能性を排除できないという問題があるからです。

採用の分析において考慮しなければならないバイアスの一つで、統計学ではこれを「サンプルセレクション問題」と言います。こうしたバイアスは、採用に影響を与えたあらゆるデータが、採用者についても不採用者についてもすべて残されていれば、統計的な補正が可能です。我々の研究でもそうした補正も行いつつ、分析を試みていますが、それでもやはり、採用時の面接の評価と入社後のパフォーマンスとの間に、はっきりとした相関関係が認められるケースは確認できていません。

面接では自社に必要な人材を見極めることはできない、ということですか。

面接そのものが有効でないというよりも、面接のやり方がよくないということでしょうね。横浜国立大学の服部泰宏先生が著書『採用学』で述べているとおり、将来のパフォーマンスを予測する上でより有用な情報を引き出すためには、質問内容を面接官の裁量にまかせるのではなく、事前にある程度取り決めて、同じ内容の質問を応募者全員に投げかける「構造化面接」を実施すべきだと思います。面接官個々の恣意(しい)性を排し、採用担当者全員で情報を共有・比較できるという点で、集合知にもとづくより良い意思決定につながる可能性が高いからです。

こうした改善策をとるためにも、また、改善策の効果をより正確に検証するためにも、企業には、採用時の情報をできるだけ残しておくことが求められます。エビデンスとなるデータがなければ、PDCAを回すことはできません。

 


2017/09/01基礎実践大湾秀雄データ活用データ分析人事データ人工知能(AI)

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