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人事もPDCAを回す時代へ
「日本の人事を科学する」データ活用の視点とは(後編)

大湾 秀雄さん(東京大学社会科学研究所 教授)

問題意識をもって現場を見ていなければ
データは活用できない

そうした見えにくい差別や不平等の実態も、人事データを使って明らかにすることができるのですか。

自社にはどのような統計的差別の可能性が考えられるか――人事データの中には、その手かがりとなる情報ソースがたくさん含まれているので、それをよく調べましょうと、私は提案しています。お勧めしたいのは、「従業員満足度調査で男女の回答の違いを検討する」という方法です。このグラフを見てください。

従業員満足度調査設問ごとの男女差

これは、研究会に参加しているある企業の事例です。この会社の従業員満足度調査には20項目の設問があり、その設問ごとの回答に、同じ属性をもつ男女間で平均してどれだけの差があるかを回帰分析で求めて、男性を基準とした男女差をグラフ化しました。ほぼすべての項目で女性のほうが男性よりネガティブな評価をする傾向にある一方、グラフをよく見ると、社内から差別や不平等をなくすために、改善すべきポイントが二つほど浮かび上がってきます。

まず、業務の与えられ方に、男女で違いがあることがわかります。女性は、男性よりも仕事量が少なく、職務グレードと比較するとやや簡単な仕事を与えられていると、不満に感じているのです。もう一つのポイントとして、情報共有に関する問題も見て取れます。とりわけ大きな差となって現れているのが、「全社的ビジョンや戦略」に対する理解度が低く、男性ほど十分な説明を受けていない、という傾向です。こういうことは案外、普段の会話の中で上司や先輩から自然と伝わっていくものでしょう。トップの訓示を聞いて理解するというより、むしろ飲みに行ったり、ランチに行ったり、そういうインフォーマルな場や機会を通じて浸透し、いつの間にか肚落ちしていく部分が大きいですからね。女性は男性に比べて、上司とのコミュニケーションが希薄になる傾向があるため、職場での情報格差にさらされやすいということが、このデータからわかるわけです。

女性活躍推進に限らず、働き方改革や高齢者雇用、採用力の向上など、日本企業には喫緊の課題が目白押しです。その解決に向けて人事データを活用していくために、企業はまず何から始めるべきでしょうか。

東京大学社会科学研究所 教授 大湾 秀雄さん

企業内での意思決定にはさまざまな情報が用いられますが、まずはそれらをすべて、デジタルデータとして保存しておく仕組みとルールを作ることをお勧めします。データを活かそうと思っても、それが使いやすい形で残されていなければ何もできません。移動や昇進・昇格などの記録を含む発令情報や採用時の適性検査や面接の評点など、さまざまな分析で有用となるデータは可能なかぎり、人事システム上に保存し、一元管理するようにしてください。統計ソフトも必要になります。また、人事部内の体制としては、統計リテラシーの高い人材を、最低でも一人は配置すべきでしょう。統計学を勉強した理科系出身者、あるいは計量経済学を履修した経済学部出身者を確保できれば十分です。

ただし、強調しておきたいのは、そうした“ハード”面をそろえるだけでは、データの収集・管理や分析はできても、せっかくの分析結果を活用して課題解決につなげることはできない、ということです。

他には何が必要なのでしょうか。

大前提として欠かせないのが「問題意識」です。先ほど、課題解決の第一歩は自社の実態をきちんと把握することだと言いましたが、会社をよくするために何ができるのか、何をすべきなのかとたえず問いかけながら、現場に目を向け、社員の声に耳を傾けていなければ、組織や人事制度のどこに問題があるのかを自覚することはできません。

たとえば、女性活躍推進においても、日頃から女性が活躍できる会社を作ろうと考える経営者や人事担当者であれば、男女で業務の与えられ方に差が生じていないか、上司や同僚とのコミュニケーションの量に違いはないか、日々の業務の中で、何らかの不平等の可能性に気づくことができるはずです。気づいたらあとは仮説を立てて、それをデータの分析で検証し、然るべき改善策を打っていけばいい。たえず問題意識をもち、改善すべき点に気づけるかどうか。データ活用の成否の分かれ目はそこにあると思います。


2017/09/08基礎実践大湾秀雄データ活用データ分析人事データ人工知能(AI)

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