弊社では、人材教育や組織活性化、採用コンサルティング事業を行っています。私は弊社を求人広告で知り中途で入社しましたが、その時の広告フレーズが印象的でした。「やる気のない人を採用する企業はないが、やる気を削ぐ企業は多い」「企業経営で一番大切なことが後回しにされている」。まさに、その通りだと思いました。誰でも入社時のモチベーションは高いものですが、その後は下がっていくのが現実です。いかに社員のモチベーションを保つかは、人事の重要な問題です。そこで本日は、職場単位で取り組むことのできる、身近なモチベーションアップ施策をご紹介していきます。
まず、弊社が行った従業員満足度調査(EMS)の結果をもとに、業績拡大中の企業に共通する特徴をご紹介していきます。EMSとは社員のモチベーション状態を明らかにする無記名のアンケート調査で、今回のデータは2004年1月~2010年12月実施分、データ数は1401社、回答者36万5399名。データは重要度×満足度の「4eyes Windows」で分析します。重要度・高×満足度・高であれば「社員が求めるものと会社が与えるものが一致している(強み)」。重要度・高×満足度・低であれば「社員が求めるものと会社が与えるものが乖離している(弱み)」であり、速やかに解決すべき問題だと考えられます。
では、EMS結果をもとに、高結果の企業と低結果の企業の4eyesを比較し、特徴をピックアップしてみましょう。高結果の企業では、「人的資源(構成員の魅力)」「理念戦略(目標の魅力)」が重要度・高×満足度・高の強み項目に表れています。仲間に恵まれ満足していて、会社の目指す姿にも共感できているのです。こういう社員が多いと、総じてモチベーション状態も高い。逆に低結果の企業では、「人的資源(構成員の魅力)」「制度待遇(特権の魅力)」が重要度・高×満足度・低の弱み項目に表れています。人に対する不信があり、給与・時間への不満もあるということです。
モチベーションの高い企業の社員は“カネ”ではなく、“ヒト”や“コト”に興味や関心があります。皆さんの会社では、経営者や仲間の魅力が社員に伝わっているでしょうか。理念やビジョンに魅力はありますか。また、それが社員に伝わっていますか。これらが社員のモチベーションを高めるためのヒントです。
より詳しく調査結果を見ていきましょう。高結果の企業の中から、特に業績が伸びている(ここ数年110%以上の伸びが続く)企業10社を選びました。調査には64項目ありますが、10社に共通して満足度が高かった項目を挙げていくと、以下のようになります。
では、それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
「非公式組織」を意識すると、人の魅力を上げる可能性が生まれてきます。反対語は「公式組織」で、組織図に表れるもの全て、そして公式な会議なども含まれます。公式な組織ではなく、社内に個人的なつながりを作って相互理解を促進すれば、人材の魅力は増します。
例えば、離職率の低い会社の若手社員に話を聞くと、「転職を考えたことはありますが、違う部署の先輩に相談したらいいアドバイスをもらえ、思いとどまりました」と言うのです。いわゆる「斜め上」の存在である他部署の先輩や上司が、よい相談相手になっているケースは多いようです。
結局、社員を知っているかどうかがポイントです。会社が大きくなると、他部署について知らないことも多い。そこで非公式を強化し、社内の知り合いを増やすようにすると、何かの機会に相談することができる。ここが大事なのです。
ここで、さまざまな企業での取り組み事例をご紹介します。なお、必ずしも弊社が関与した事例とは限りません。
オフィスの中に、自由に話せる和風の茶屋を用意しています。事務局がトップ営業マンに頼み、仕事について話すイベントを仕掛けたりしますが、非公式なので強制ではありません。研修のような堅苦しさはないので、緩やかな人間関係も生まれます。
非公式ですが、部活動に金銭補助を行い、部署を超えた人間関係づくりを促進しています。また、「2駅ルール」という家賃補助の制度があり、会社から2駅以内の場所に家を借りた社員には家賃を補助しています。社員同士が近くに住むと、休日も一緒に遊ぶなど、つながりも生まれます。
ラインマネジャーではない先輩との1対1の飲み会を行っています。直属の上司に言えないような相談もしやすくなり、部署を超えたロールモデル人材の発見にも役立っています。
意見を聞くべき時は、積極的に聞くこと。この反対に近い言葉は「既決感」で、既に決定したと感じてしまう状態です。この場合、何を言っても仕方ないので問題です。しかし、意見を積極的に聞くといっても「言うは易し、行うは難し」で難しい。パワーバランスもあるので、上司はよほど意識しないと聞けません。
折に触れて、上司から部下に「何か不満はないか」といった問いかけを行っています。若手が意見しやすい風土が生まれています。
3ヵ月に1度、マネジャーが社長に直接質問・悩み相談を行う場をつくっています。お互いに膝を突き合わせる場を持つことで、トップとの心理的距離も縮められます。
半年に1度、平場の論文コンテストを開催し、制度化・事業化を図っています。全社員に強制的に提出させ、上に意見できる場をつくっています。
個人目標の明確化に加えて、その進捗状況を「見える化」することは非常に大事です。弊社では営業は3ヵ月単位で目標を決め、毎日届く「夕刊」というメディアで達成状況を読めるようになっています。営業部門以外でも数字化・具体化を進めると効果的です。
すき家やなか卯を展開するゼンショーでは、お客様が来店して料理を出すまでの秒数を規定しています。全ての行動が秒数で管理され、マニュアル化されています。例えば、すき家で店内にお客様が入ると、すぐに店員が行うのは男性か女性かを確認し、丼にご飯を盛ること。時間がかかる場合は、何秒以内なら釜に戻していいというルールもあるそうです。
残業の削減が目的です。部署ごとに個人単位の残業棒グラフを作り、残業が平準化されているかを確認。部署単位で競わせています。平準化できている部署はグラフも横一線ですが、偏りのある部署は斜めになります。日々管理して平準化が進めば、全体の残業も削減されます。
営業部署以外の数字の「見える化」です。以前は広報部の目標設定は難しかったのですが、メディアごとにポイント化し、3ヵ月の目標を設定しました。良い記事ならポイントが倍になったり、マイナス記事だとマイナスになったりします。前年との比較もでき、行動の見える化につながっています。
実際の仕事をリアルにとらえるか、会社が目指す理念やビジョンに近い使命ととらえるかで、モチベーションは変わります。例えば、キリンビールでは使命感を中心に社内でコミュニケーションを図っています。単に飲んで酔うものを提供していると考えるか、酒は人と人の間をつなぐものと考えるか。前者と後者では使命感が違います。これが社会的な影響力につながるのです。
関西を中心に、リーズナブルな料金でホテルを運営する会社です。「地球も人も元気にする」を掲げ、低料金ながら睡眠にこだわっています。あたかも「LOHAS」、リゾートにいるような空間を提供しようと社員が団結しています。
ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する会社です。「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」を合言葉に、ただ服を売るのではなく、使命感をもって社員が仕事に当たっています。
単純に研修を売るのではなくて、研修を受けた方たちに、就労観という考え方を変えていただく、きっかけを届けている、ということをモチベーションにしたいと考えています。
「何も発信してないよ」という企業はほとんどないですね。キーワードは接触頻度。1回伝えただけでは、人間は忘れてしまうのでどれだけ接触頻度を高められるかは大事です。さまざまなメディアや機会を通し、目標に触れる仕組みを作ることで社員の頭に刷り込ませます。
楽天のオフィスに行くと、三木谷社長の言う「成功のコンセプト」のポスターが至る所に貼ってあります。
社内のトイレに入ると、鏡越しにミッションが読めるよう、逆文字で貼り紙がされています。トイレは必ず社員が時間を過ごす場所なので、すごく印象に残りますね。
タイミングとメディアを分けて、メッセージを常に発信しています。まず毎日は個人業績が掲載される「夕刊」があり、週刊では社長からのメッセージが届きます。月次では社員がリアルの場に集まって納会を行い、そして3ヵ月に1度は全社員が集まります。日・週・月・3ヵ月という頻度でコミュニケーションを設定しています。
以上、本日は伸びている会社の特徴をご説明いたしました。皆さまも、できる施策から試してみてください。本日はありがとうございました。