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パネルセッション[A]

「現在の採用環境をとらえ、これからの新卒採用について考える」

【パネリスト】
岡崎 仁美氏 photo
株式会社リクルート リクナビ編集長
岡崎 仁美氏(おかざき・ひとみ)
プロフィール:1971年香川県生まれ、1993年株式会社リクルート入社。関西HR営業部にて人材採用に関する企業へのコンサルティング営業に従事した後、2000年より首都圏にて転職情報メディアの編集企画に従事。「ビーイング」副編集長、「リクナビNEXT」編集長を歴任し2007年より現職。

栗田 卓也氏 photo
株式会社マイナビ 就職情報事業本部 HRリサーチセンター長
栗田 卓也氏(くりた・たくや)
プロフィール:1992年入社。以来一貫して採用コンサルタントとして、新卒採用の各種業務に携わっており、マイナビ編集長として、大学での就活講座やクライアント向け採用セミナー等の講演も精力的に行ってきた。現在は、「HRリサーチセンター」のセンター長として、新卒採用マーケットに関する調査や企業人気ランキング等、幅広い人材領域の調査を行っている。

渡辺 茂晃氏 photo
株式会社日経HR 日経就職ナビ編集長
渡辺 茂晃氏(わたなべ・しげあき)
プロフィール:株式会社日経HR編集部部長 日経就職ナビ編集長。1991年日経事業出版入社。高齢者向け雑誌編集、日本経済新聞社産業部記者を経て98年より就職情報誌、書籍の編集に携わる。2005年より日経就職ナビ編集長。著書は『これまでの面接VSコンピテンシー面接』『マンガで完全再現!面接対策』がある。

【司会】
海老原 嗣生氏 photo
株式会社ニッチモ 代表取締役、「HRmics」編集長、広島県雇用対策顧問、京都精華大学講師
海老原 嗣生氏(えびはら・つぐお)
プロフィール:1964年東京生まれ。上智大学卒業後、大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)に入社。新規事業企画等に携わった後、リクルートワークス研究所へ出向し、「WORKS」編集長に。2008年に株式会社ニッチモを立ち上げ、HRコンサルティングを行う他、リクルートエージェント社のフェローとして、同社発行の雑誌『HRmics』の編集長を務める。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論等。著書は『就職、絶望記 「若者はかわいそう」論の失敗』『日本人はどのように仕事をしてきたか』『仕事をしたつもり』など多数。

「2ヵ月の後ろ倒し」で混乱した採用活動

海老原:最近は、就職や雇用といったテーマがニュースとして取り上げられる機会も増えてきました。本日は、採用現場をよく知る就職サイトの皆さまにお集まりいただき、その生の声をお聞きしていきます。どうぞよろしくお願いいたします。

まず、最初の話題は採用活動のスケジュールについてです。企業の採用広報活動は、昨年から12月1日のオープンとなり、2ヵ月後ろ倒しになりましたが、なぜこのようなことになったのでしょうか。

栗田:まず一つは、学業の阻害にならないように、大学側が経団連にお願いしたということがあります。できるだけ、選考を後ろ倒しにするよう言い続けていたようです。もう一つは、グローバル人材を採用しやすくするためには時期を動かすべきという、企業側の意向も反映されています。

岡崎:実は我々の業界にとっては、「後ろ倒し」は決して新しい話題ではありませんでした。1997年1月に就職協定が廃止になり、就職市場が「自由化」されましたが、その頃の就職情報誌は3年生の11月を皮きりに学生の手元に届けられていたのです。ゆえにここ数年の就職サイトの10月オープンというのは、自由化によって1ヵ月早まっていたのが事実です。大学で就職支援をする方々から「元に戻してほしい」という声もあり、我々はそうした方々とよりよい就職/採用の在り方について対話を重ねていました。ところがリーマンショック後、より一層のグローバル経済の進展に危機感を抱いた産業界がこの議論に加わり始め、どこかのタイミングから後ろ倒しありきの議論に変容し、そもそもの意義や目的が見えなくなってきたように思います。

海老原:ここで一つ聞きたいのですが、私は学生の就職活動は、余暇でも十分にできるのではないかと思っています。自分の将来のことですし、学業に影響が出ないように行うことは可能ではないですか。

栗田氏/講演 photo 栗田:確かに後ろ倒しになったことを、学生が良いチャンスだと前向きにとらえれば、自ら動いてもらえるかもしれません。しかし、学生にアンケートを取ると、後ろ倒しになったことをプラスと考える人は45%で、マイナスに考える人は55%でした。ちなみに、マイナスと思ったのは文系の学生が多く、プラスに思ったのは理系の学生が多いなど、文・理でとらえ方が違っています。

海老原:説明会や面接など、体を拘束されるものは確かに学業阻害になります。これらの開始時期を決めるのはわかりますが、広報活動のオープンは、そもそも別の話ですよね。ネットの情報を見たり、応募書類を作成したりするのは、空いた時間を使えば十分ですから。

では、日程が後ろ倒しになったことで、実際の就職プロセスにはどのような影響があったのでしょうか。

栗田:学生のエントリー数を見ると、12月の開始10日間のエントリーが昨年10・11月のエントリー総数の約6割となるなど、エントリーの集中が見られました。ただ、全体のエントリー数は、期間短縮を受けて前年比8割ほどに減りました。

渡辺:採用スケジュールを見ると、大手100社のアンケートでは、セミナーや会社説明会の開始時期は12月上旬が71.7%ともっとも多くなっています。また、大手企業の内定者アンケートでは、個別説明会の開始時期は12月5.4%、1月30.6%、2月41.4%、3月19.8%。1月は明けて5日からスタートし、土日も含めて多数開催されたようです。また、企業に前年との変更点について聞くと、個別説明会の回数を増やした会社が47.2%と、回数で補おうとしたことがわかります。

岡崎氏/講演 photo 岡崎:求人倍率が16年ぶりに2倍を超えた2008年卒のとき、11・12月に会社説明会を開く会社が増えたように思います。スケジュールが変わった今年も、説明会時期を早めたところが中にはありましたが、それよりも説明会のやり方を変えた会社が増えた印象があります。説明会を大規模化したり、日程が重なることを予想して合同タイプの説明会に出展したり、ウェブ上の説明会を大々的に開いたりと、工夫されている企業は多かったですね。

栗田:説明会の1月開催は、実はそんなに増えていません。それよりも3月や4月といった後半が前年比170~190%と大きく増えています。その要因の一つは様子見です。今年は学生がどのように動くのかを予測できなかったことが影響しています。もう1点は1~2月のエントリーが思ったより少なかったことで、3~4月に追加開催した印象があります。

「最終学年に達した後」の選考を望む大学側

海老原:それでは、説明会以降の面接や内定の日程はどうだったのでしょうか。

岡崎:2012年は震災の影響で、企業の採用選考時期が分散し、ある種の混乱もありました。その点では今年は2011年のスケジュールに近くなっていると思います。内定出しの開始時期は従業員規模で大きく異なりますが、5,000人以上の大企業を見ると、4月が約58%で最も多い。1,000~4,999人の会社も4月が50%弱です。今年は、昨年5月や6月に選考を開始した企業も、元に戻して選考を開始したところがほとんどでした。一方、終了時期はあまり山がなく、各社ばらばらの状況。「夏に入ると就活は終わり」とよく言われますが、7月段階で内定出しが終了している5,000人以上の大企業は、50%もありません。これもまた事実です。

海老原:一つ提案なのですが、いま企業は4月1日まで個別接触ができないですよね。でも学生は、春休みに体が空いています。この頃から接触できたほうが効率的だと思うのですが、どう思われますか。

渡辺氏/講演 photo 渡辺:大学側の要望は、最終学年に達した後に選考してほしいということです。3年生の学業成績も、選考の対象にしてほしいと。それに4年生になれば、最終学年としてのリーダーシップも経験しますし、3~4年で専門知識も得られます。なぜ企業はそこを評価しないのかと、先生方は思っていますね。

海老原:中堅、中小企業の内定出しの山場は大手企業よりも後の時期になります。期間が短くなったことで、影響は出ませんか。

岡崎:大学側には、その分、頑張って支援するとおっしゃる人もいます。ただ、今のまま例えば4ヵ月後ろ倒しになると、約4万人が就職先を決められずに卒業を迎えるというシミュレーションもあります。また現状においても、3月の後半にどっと採用が決まっているのも事実で、いわゆる「締切効果」が就職率を押し上げている面もあります。もし後ろ倒す場合には、こうした現場の事実を丁寧に見た検討が望まれます。

海老原:これからは就職率が良い大学と悪い大学とで、その差が広がっていくと思います。中堅・中小企業に多く人材を輩出していた学校は、就職率が大きく下がるかもしれない。大学側はこれで大丈夫なのでしょうか。

栗田:学生のデータを見ていると、最近は早めに就職をあきらめて、来年度に再度大手を目指すといった学生もいます。ただ、これでは同じ失敗を来年も繰り返すことが考えられます。だからこそ、卒業までにはなんとか就職するというムード作りをすることは、とても大事だと思いますね。

新たな問題は「欧米型採用」と「採用の厳選化」

海老原:最近は外国人採用、留学生採用という言葉をよく聞きますが、企業ではどれくらい盛り上がっているのでしょうか。

栗田:弊社でも外国人留学生を対象とした就職イベントを開催していますが、参画企業は年々増えています。最近では日本企業の人事担当の方が、海外国籍の学生を直接現地に出向いて採用するという動きもあります。

パネルセッション photo渡辺:大企業へのアンケートでは、9割の企業が外国人を採用しており、その半数は採用数を増やしています。ただ、ある大学の方の話では最近中国人留学生の数が減っているといいます。震災や原発事故の影響もあるようです。

岡崎:企業へのアンケートで、海外の大学で学ぶ外国人を新卒採用するかという問いに対して、従業員数5,000人以上企業の4社に1社は「はい」と答えています。ただ、これがどこまで継続・拡大していくかは、少し様子を見る必要があるでしょう。日本での採用に比べると、圧倒的に難易度が高く、実効性やコストパフォーマンスの面で疑問視し始める企業も出てきています。

海老原:このような動きの中、職務別採用や既卒者採用も含めた「欧米型採用」をもっと取り入れるべきという声もあります。現実的にはどうなのでしょうか。

栗田:欧米型は主にスペシャリスト採用で、日本はゼネラリスト採用。やはり、採用方法は違ってくると思います。人事制度も変えないといけませんし、果たして日本の風土になじむのかという問題もあります。

岡崎氏/講演 photo 海老原:私は、欧米型雇用が日本では正しく理解されていないように思います。欧米では人材はエリートとノンエリートに分かれますが、エリートは超学歴主義で、下積み就業期間であるGAPイヤーやインターンもありません。ノンエリートは実務型雇用で未経験では採用されませんから、GAPイヤーが必要になる。このGAPイヤーも「既卒者も自由に採用」「働きながら社会を知ることができる」といった誤解を生んでいます。これに対し、これまでの日本の新卒一括採用や総合職制度は、適合する仕事に就きやすく、全員が切磋琢磨してボリュームゾーンを底上げできるなどメリットも多い。もっときちんと考えてみることが必要ですね。

では、次の話題に移ります。最近の企業の採用形態は、幾重にも人材を絞り込む厳選化採用が強まっていますが、実態はいかがですか。

岡崎:採用予定数に対して、未達成で終わる会社は少なくありません。求めるレベルを下げてまでも数を追うという方針の企業は少ないのです。この傾向は大手だけでなく、中小企業でも同様です。

海老原:ここに一つデータがあります。大手企業の大学新卒採用数ですが、70年代から5年単位で見ると、1996~00年が9万4400人、2001~05年が10万6000人、2006~10年で13万5200人と増加しています。実は人数が増えているのに「厳選化」といわれているのです。その理由として私は、就職サイトが活用され、企業と学生のやり取りが増えたことでダメの出し合いが増えたのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

岡崎:確かに、就職活動の場に企業と学生の双方のプレーヤーが増えたことは事実です。以前は高卒を採用していたのに、大卒を採るようになった企業も多い。またサービス業なども含めて多様な業態が大卒を採用するようになりました。一方の大学生が増えていることは皆さん周知の事実だと思います。企業と学生、お互いの選択肢が広がったために、情報ツールを活かせる企業・人と、活かせない企業・人の格差が開いているということは言えるでしょう。

渡辺:例えば、学業や就活に頑張ってこなかった学生が、突然就活の場に出て、他の学生と平等な扱いを受けたいと思っても、それは無理な相談です。そのことに学生自身も気付くべきです。これからは、人材も一言で「大卒」と括れないほどに、その内容が分かれていくかもしれません。

海老原:人気ランキング100社に採用される学生は、1年に1万8000人。旧帝大の学生数が1万9000人ですから、その難しさはわかっていただけると思います。しかし、このことを知らない学生は多いのではないでしょうか。

ここにお集まりいただいた企業の人事部の皆さまには、良い人材を採用するためにも、より創造的な採用活動を期待したいと思います。パネラーの皆さん、本日はどうもありがとうございました。

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