弊社はアジアで22年間、組織開発と人材育成に携わり、これまでに15万人を越える人材に対して研修を実施し、グローバル企業の現地化支援に貢献して参りました。私は現在、中国に赴任し、コンサルティングと多文化チームのマネジメントに注力しています。本日は個人的な経験も含めて、「アジアグローバルで戦える若手人材育成法」についてお話していきたいと思います。
早速ですが、グローバリゼーションが進む現代、私たちが抱えている問題は、「今後、国外でどのようにビジネスを展開していくのか」、そして「その役割を担う若手人材をどのように育成していくのか」ということです。しかし、私たち自身に豊富な前例や経験がない中で、グローバルに活躍できる人材を育成していくことに関して、多くの企業が頭を悩ませています。
ここで、なぜ海外赴任した若手人材がうまく機能しないのか、その原因について考えていきましょう。企業の規模にもよるので一概には言えませんが、例えば、海外拠点において若手人材に求められるのは、部長・課長クラスといったポジションでの、帰属部門の業務遂行やチームマネジメント、チームメンバーの採用・育成・評価部門間の調整などです。現地スタッフにとっては直属の上司・同僚であり、身近なコミュニケーションを取る相手。より実務に近い業務がメインといえます。しかし、実際の若手社員でマネジメント経験が豊富にある人はほとんどいないため、いきなり対人マネジメントに関する仕事を任されても、途方に暮れてしまいます。それも、単なる経験値不足だけではなく、日本の常識が海外の現地との常識と大きく異なるという要因も加わるため、現場はより一層、複雑困難な状況になります。
「常識」といったキーワードが出ましたので、ここで「日本式」と「欧米式」のビジネスの違いを、戦略・プロセス・管理・権限委譲の側面から比較していきたいと思います。「日本式」では、戦略は積み上げ型で、プロセスには完全性が求められます。管理は性善説に立っており、安心から信頼に移行した上での権限委譲を行う傾向にあります。一方「欧米式」では、戦略はビジョン型で、プロセスは不完全でもOK。管理は契約型で、契約で買った信頼が先に立った上での権限委譲、後に安心が生まれる傾向にあります。なお、私が赴任している中国では、より「欧米式」になじんでいるようです。
さて、グローバル化を考える上で、もう一つ忘れてはいけないのが、「コンテクスト」の問題です。「コンテクスト」とは、言葉そのものだけではなく、共通の知識や体験、価値観、考え方や嗜好性といった「背景」を踏まえて、相手の意図を感じ取り合う力のことです。
「ハイコンテクスト文化」とは、多くを語らずとも意図を察し合うことで通じる環境のことで、「一を聞いて、十を知る」、まさに日本の文化です。一方、「ローコンテクスト文化」とは、相手の言葉からのみ意図を理解していく環境のことで、「十を伝えたければ、十を言え」という、アメリカなどが代表的な国でしょう。
ところが、先ほども例に挙げた中国ではハイコンテクスト文化ながらも、「十を伝えたければ、三十を言え」という、少し複雑な様相を呈しています。例えば、最後まで説明を聞かずに「分かった」と言うにもかかわらず、全く異なった理解(勘違い・思い違い)をしていることが多いのです。
ここから、中国事情にフォーカスしてお話しいたします。まず、よく耳にする中国人の特性をいくつか挙げていきます。「協力よりも最初から最後まで個人に任せられたい」「同僚との共同作業では、自分の能力への正当な評価・処遇が気になる」「実力主義、成果主義であり、即時的な報酬を求める」「会社への忠誠心よりも自己の能力の発揮が重要」「同僚との連帯感は薄く、会社以外の友人や知人とのつながりが濃い」などです。
また、これらとは別に、「人脈構築と公私混同」「個人利益と組織利益」「役割と給与」「事由説明と言い訳」の境目が微妙であることも、よく指摘されています。例えば、「不正」はダメだと言いながら、社員旅行のときには知り合いの旅行会社に頼む。それは「公私混同」ではないかと言えば、「人脈構築」だと言う、といった具合です。
一方、中国人から日本企業への不満としては、「トップの交代によって簡単に方向性が180度転換する」「日本人駐在員は仕事ができない」「本社トップの決断が遅い」「管理職が質問から逃げる」「実情が分からないにもかかわらず、プロセスに口を挟みすぎる」「無駄と思われる本社への報告を命じてくる」「仕事を任せてくれない」といった意見がよく聞かれます。
こうした不満を引き起こす背景の一つには、現地への権限委譲が進んでいないことに加え、若手が長期育成の一環としての「ジョブローテーション」で海外に送られ、現地のベテラン従業員の上司になる事が多いという現実があります。また、中国には中国のルールがあるにもかかわらず、中国人従業員の心情を理解せずに日本式を押し通そうとすることで軋轢が生まれることもあります。
ところが最近では、反対に彼らの文化や心情をおもんぱかるが故に新たな弊害が生まれているケースが見られます。それを引き起こしているのは、「僕のやり方が中国の方法に合うかは分からないのだけれど…」「中国語が話せないので、お客さんのところには君が…」「まずはあなた自身で考えてみて…」といった発言です。これらは、中国人に「日本人はリーダーシップがない」「決断力、指示力などがない」などと、また新たな不満を抱かせてしまうのです。
では、本当に活躍できる若手グローバル人材を育成するにはどうしたらよいのでしょうか。基本的に、グローバル人材に必要な能力とは、「業務上の専門知識と経験」「現地言語能力」「目標設定能力」「環境適応能力」「論理的思考」「異文化への関心と理解」「コミュニケーション能力」「ネゴシエーション能力」「リスクを見極める力」といえます。しかし、最も重要なのは「覚悟」―― その「覚悟」と相関関係があるのが、<1>当事者意識、<2>自分軸と他人軸のバランス、<3>折れない強さ、です。
とはいえ、これらは全て教えるのが難しい領域の内容であるため、海外赴任のための、より練られた、実践的な「赴任前研修」が重要になってくるのです。
研修を実施するに当たっては、自社(帰属部門)事業の将来について自らシナリオを描かせることによって、「当事者意識と使命感」を醸成させます。そして、自分軸を強め、他人軸を尊重するバランスを取る訓練によって「他人との価値観や見解の違いを受容」するスキルを習得。達成するまで諦めない体験を積ませることで、「信じて、めげずにやり遂げる、折れない強さ」を身に付けられるカリキュラムを組むことが有効でしょう。
また、研修の効果測定には、「成し遂げるミッションが明確に腹オチしているか」「退路を断つほどの意気込みがあるか」「現地で起こる困難を予測覚悟しているか」「管理ではなく、ビジネスを作る心づもりがあるか」「現地人材とのチームメンバー(リーダー)になる用意ができているか」といった項目を点検することが求められます。
現在日本では、「この国はもうダメだから海外へ出よう」という考えで海外進出を図る企業も多いようですが、海外に進出するのは「出稼ぎ」のためではありません。日本の市場が縮小している中で、日本の市場を暖めるために、日本として世界で何ができるのかを探しに行くためです。私は、「利他」の精神が刷り込まれている日本人は、グローバル人材としてのアドバンテージを持っていると考えています。一人でも多くの方が、「日本」というアイデンティティーを持って、グローバルで活躍できることを願って止みません。
弊社ではグローバル人材育成のために、さまざまなプログラムをご用意しておりますので、こうした研修も、ぜひ、ご活用いただければと思っています。本日は、ありがとうございました。