「ハイパフォーマー」を定義するのは大変難しいことですが、私の18年間の人事労務コンサルタント経験も交えながら、お話して参ります。私はこれまでにいろいろな仕事に携わってきましたが、「人事」という仕事は経営の基盤となる、非常におもしろい仕事だと思います。私は2000年に50歳という節目を迎えて、何かしたいと思い立ち、2001年にリクルートのGCDFキャリア・カウンセラー資格、02年に日本マンパワーのJCDAキャリア・カウンセラー資格、03年には産業カウンセラー資格を取得しました。
アドバンテッジリスクマネジメント社は、もともと保険関連の事業からスタートし、現在の主力商品はメンタルヘルスケアです。メンタルヘルスには、1次、2次、3次の予防があります。1次は未然防止および健康増進、2次は早期発見と対処、3次はリハビリや復職支援です。
国は、「4大疾病」(がん、脳卒中、心臓病、糖尿病)対策に取り組んできましたが、昨年からは「精神疾患」が加わり、「5大疾病」となりました。また、メンタルヘルス対策に関して、国会で各企業への義務付けを審議する予定もあります。そういう状況からしましても、メンタルヘルス問題を現代病だと片付けず、人事の皆さまには、ぜひ前向きに対応していただきたいと思っています。
では、ここからは若者、特にゆとり世代の実態を見ていきましょう。最近、学校では徒競走の際に順位を付けず、皆がメダルをもらえるそうです。かつての争うことに免疫をつける方針から、落ちこぼれをできるだけ出さない方針へと転換されているのです。ゆとり世代は、1985年男女雇用機会均等法の年に生まれたといわれます。バブル崩壊からリストラ、同時多発テロ、山一證券の経営破たんなど、ある意味、混とんとした時代に思春期を過ごした世代ですね。なお、人格形成の決定要因には、先天性のほか、幼少期の体験、思春期の体験などが上げられます。
では、育った環境により、ゆとり世代に形成された特徴とは、どのようなものでしょうか。指向性の部分でいうと、二つあげられます。一つは「貢献指向」です。つまり、人のために何かがしたい、という気持ちです。実際、学生は企業の社会貢献に強い興味を持っていますね。もう一つは「安全志向」です。決して、競い合おうとはしません。昔の学校では、試験結果の順位が名前付きで貼り出されましたが、今では人を蹴落とすという状況がなくなっています。チャレンジしなくなったし、本人もリスクを負いたくないのです。
私たちは、入社1~2年目の若手社員にアンケートを実施しましたが、そこから、若者の長所が三つあることがわかりました。まず一つ目は、とてもまじめなこと。二つ目は、与えられたことを最後まで必死になってやり抜くこと。三つ目は、個人プレーに走らないこと。必ず「和」を大切にします。ただし、「和」を大事にするときに、若者に欠けていることが一つだけあります。それは、本音でやっていないということです。人の顔色を見ながら、合わせていくことを覚えてしまっている――。これは若者の本当の調和なのかと、私は疑問に思います。
また、人事の皆さんが若い世代に対して問題だと思われているポイントは、三つあるのではないでしょうか。一つは環境変化への脆弱性。特に私がまずいと思うのは、「なぜ」を問う力がないことです。上司に仕事を頼まれると、すぐに「わかりました」と言う。本当にそれでいいのでしょうか。私たちのときには、「なぜやるのですか」と確認したものです。
二つ目は対人関係能力が低いことです。学生の中には「アルバイトをしたことがない」「部活に参加していない」という人がいます。つまり「嫌いな人とは付き合わない」ということです。いろいろな価値観を持った人と接し、ときに失敗・挫折しながらも、そこから立ち上がっていくという経験が少ない。自己主張の低さも問題です。最近の学生は、元気がないと思われませんか。それに対して、女性は大変元気だったりしますね。それが「今」なのです。自己主張をせず、勉強もしてこなかったので、人に合わせる。面接では、気に入れられるような受け答えばかりしようとする。そんな人を採用しても、戦力にはなりません。
三つ目はストレス耐性が低いことです。通常のハイパフォーマーには、「創造力が豊か」「粘り強さがある」といったコンピテンシーがありますが、その根幹をなすのは「ストレス耐性」です。この耐性がない人は、社会的自己意識が低く、いろいろなチャレンジをしてこなかった。また、いろいろな人と接することもなかった。だから社会に出て急に怒られると、立ち上がれなくなる。自分の存在を否定されたと思ってしまうのです。
また、私たちは、さまざまなストレスに関するテストデータも持っています。それを見ると、若年層ほど強いストレス反応が出ていて、やる気やモチベーションが低いことがわかります。少子化傾向なのに、若年層ではストレス関連障害の患者が増加しているのです。これまでのご説明で、今の若手社員の姿というものが、見えてきたのではないでしょうか。
さて、ここからが本題です。企業に求められる人材像について、考えていきましょう。課題と関連付ければ、逆に人材条件が見えてきます。一つ目の課題は、環境変化への脆弱性でしたね。そこから考えると、求められる人材像の条件は「環境変化への耐性」「チャレンジできるマインド」「進んで学び、行動する」の三つとなります。二つ目の課題は、対人関係能力が低いことでした。すると、求められる人材像の条件は「さまざまな人間関係に対応できる人」「周囲を巻き込める人」となる。三つ目の課題は、ストレス耐性が低いこと。「業務の質・量や人間関係への対抗力」「キャリアを継続できる精神的安定力」が求められる条件となるでしょう。
ここからは、ハイパフォーマーの人材用要件について考えていきましょう。2:6:2の定義はご存知でしょうか。最初の2割は会社を引っ張る社員。ハイパフォーマーに近い人です。次の6割は会社を守る社員。この人たちがいないと会社は成り立ちません。下の2割は生産性の低い人たちです。なかには、1:8:1という会社もありますね。また、会社を守る6割の人も、優秀な半分とそうでない半分とに分かれます。
この中で問題になるのは、やはり下の2割の人たちですね。ここへの対処法は三段階あると思います。最初は、もう一度チャンスを与えて、すぐ上の段階に上がれるよう育成していくこと。次に、適材適所を見直します。他の仕事であれば実力を発揮できる人もいますから、グループ企業など外部も含めて異動を考えてください。それでもだめな場合は、本人との話し合いです。より良い形とは何なのか、他の会社で活躍してもらうことも含めて、話し合いの場を持ちます。
この2:6:2の形態が、5年後にはどのような形になっていることが理想だと思われますか。私は下の2割の人を、会社を守る6割の中に上げてしまうことが、人事の役割ではないかと思っています。そして、次の5年後にも、下2割の人を上げていく。その繰り返しです。
それでは、企業風土や文化に左右されないハイパフォーマーの人材要件とは何でしょうか。それは三つあります。一つ目は先を読む力であり、マーケティング力です。PDCAが関わってきます。二つ目は傾聴力と主張力であり、EQ能力です。人の気持ちを察する能力ですね。三つ目は最後までやり抜く力であり、ストレス耐性です。ここにはストレスを耐える力、緩和する力、対処する力が関わってきます。
そして、ハイパフォーマーの育成ポイントとはマーケティング力とEQ能力であり、採用ポイントはEQ能力とストレス耐性です。社内で育成するときのターゲットはどこになるかというと、会社を守る6割のうちの上位層になります。
最後に、私が成功したハイパフォーマー育成の実践法を紹介しましょう。まずは、できる人を異動させるということです。できる人はどこででも仕事ができますから、そこで弟子をつくらせてください。毎日の仕事の中で、やり方を盗めるような環境をつくらせるのです。そして、その次の段階では、できる人を中心とした部署に、次に育成したいターゲット層を放り込むのです。すると毎日のなかにPDCAが生まれ、ターゲットは鍛えられていきます。生産性の高い人をフル活用する手法は、とても有効です。ぜひ、皆さんも実践してみてください。本日はありがとうございました。