弊社は、経営コンサルを行う株式会社リンクアンドモチベーション100%出資の小会社として、周年式典、インセンティブツアー、全社総会といった「場」=「イベント」の手配・運営請負事業、プロモーション事業などを行っています。本日は「場」づくりのプロの立場から、「人と組織が変わる『場』づくり」についてお話していきます。
早速ですが、人事とは、何らかの形で組織・人を変えていこうというミッションや悩みを抱えています。皆さまは、どのような方法で組織を変えようとしていらっしゃるでしょうか。採用、研修、OJT、人事制度、インセンティブ、そのほか社内報など、さまざまな方法を用いられていることでしょう。
そこで、効果的に組織変革・企業変革を起こす方法としてご提案したいのが「場」を設けることです。具体的には、研修、マネジャー会合、表彰式、キックオフ、周年式典、懇親パーティー、社員総会、方針説明会、幹部合宿、社員旅行などですが、「場」の効果をご説明する前に、まずは「どうしたら人が変わるのか」について、考えていきたいと思います。
ここで、一つのゲームをご紹介します。「1000円山分けゲーム」というもので、手元にある1000円を見知らぬ誰かと分け合うゲームです。山分けの金額は自由なのですが、相手には拒否権があり、拒否された場合は両者ともに一銭ももらえません。さて、あなたは相手にいくらを提示するでしょうか。
このゲームでは「商談が成立」すればよいので、正解はありません。交渉する自分と相手が、お互いに完全合理的な人であれば、自分が999円を得て、相手に1円を渡すということも考えられるでしょう。ただ、1円を貰うくらいだったら、0円で良いと怒り出す人もいるかもしれません。また、単純に半額ずつという考えもあれば、自分には800円で相手には200円くらいがちょうど良いという考えもあるかもしれません。このように、人それぞれに回答がばらついたのではと思います。
お伝えしたかったことは、人間は常に合理的な存在ではなく、情報に個人の情理(価値観・感情)を加えている存在だと言えるということです。
もう一つ、少し俗っぽい例になりますが、男性が女性にアプローチする際、「僕と付き合うメリットは3点あります。第1に、給与が高い。第2に、安定した企業に勤務している。第3に、浮気はしない。」といった言葉がどれだけ相手の心を動かすでしょうか。
人間とは複雑な動物で、あるときには感情が、あるときには説明が必要――つまり、人に行動を起こさせるには、論理(説明)だけでも、情理(感情)だけでもダメで、「論理(説明)×情理(感情)」といった掛け算が大切なのです。
ここで、「どうしたら組織が変わるのか?」という課題に戻ります。そもそも組織とは人の集合体に過ぎないものですから、「一人ひとりが」「同じ方向に」「共に」動くことが変化につながる。これが原理原則です。言い換えれば、組織変革につながる一人ひとりの行動を束ねるためには、論理と情理で訴え、共感の和を広げることが重要です。そして、この「共感の和」をつくるためには、リアルな「場」が有効となってきます。
ただし、「場」づくりには注意が必要です。その理由として、もう一つゲームをご紹介しましょう。「Big Picture Game」というもので、さまざまな情報が埋め込まれた、一枚の大きな絵を見て、そこから個々人がどのような情報を得るのかを比較するというものです。
例えば、「赤いものを見つけて、提示してください」という問いに対して、信号機の赤色を提示する人もいれば、ピンク色の桜も赤色として提示する人もいます。また、「季節は?時間は?」と聞くと、皆さんは「桜の木があるし、この空の色は…」という思考過程を踏んで、推測上の回答を導きだすことでしょう。ところが、同じ質問を南半球の人に聞いたらどうでしょう。ほぼ間違いなく、異なる回答が戻ってくるでしょう。
つまり、発信者が同じ情報を出していても、人によって解釈がバラバラ=「視界の個別性」が発生するということなのです。企業でいえば、異なる部署間での職務内容の違いや、経営者・マネジメント層・メンバー層といった役割の違いが、当事者意識を失わせ、視界の個別性を生み、感情の温度差を作ってしまうのです。
「視界の個別性」のほかにも、組織変革を阻害するものとして、「現状維持バイアス」があります。人は基本的に、これまでのやり方をできれば変えたくないと考える傾向があるのです。そこから脱するには、ムーブメントを起こし、変革側がマジョリティーになる必要があります。
ではここで、「視覚の個別性」と「現状維持バイアス」を崩し、組織変革を成功させる、手段としての「場」づくりのコツを五つにまとめてみます。
一つ目は「明確なbeforeの把握」です。例えば、「場」を設ける際には、「グループ会社同士で一体感を持ちましょう」ではなく、「グループ会社同士で一体感を持つことでシナジーを生み出せば、具体的にこういったメリットがあります」というように目的を明示したほうが効果的です。そのため、場を終えた後(after)の状態を視覚化あるいは言語化するために、まずは参加者の今の状態(before)を明確にすることが重要になってきます。
二つ目は、「場」の「タイトル」に世界観を込めることです。「新入社員 徹底強化研修」「三年次 階層別研修」と言われても、何をやるのか全く伝わってきません。例えば、ロジカルシンキングを身に付けて、課題解決のための研修を実施するのであれば、「三年次課題解決研修」とすれば、研修内容をよりリアルにイメージすることができるでしょう。
ご参考までに、弊社の親会社であるリンクアンドモチベーションが東証一部上場した際の全社員総会のタイトルは『大航海』でした。上場して浮かれるのではなく、「これからが勝負だ」という経営からのメッセージが明確になっている一例でしょう。
三つ目ですが、抽象のハシゴを上手に使ってメッセージを伝えることです。有名な例え話として「石積み職人」の話があります。「石を積む」という仕事を考えた時、労働者の「行動」は「石を積むこと」です。ところが、「目的」になると「教会を作ること」で、「意味」は「地域の人々の心を豊かにする場所を作ること」になります。最近では英語を公用語にする企業も増えていますが、同様に考えると、「行動」=「社内の会議資料や文面を英語にする」、「目的」=「英語を会社の公用語にする」、「意味」=「市場のグローバル化に対応し、世界中に商品を展開する」となるでしょう。職務に当たる際に、「行動」「目的」「意味」全てを理解しているのといないのとでは、成果物に大きな差が出てくることは想像に難くないでしょう。そのため、この三つ全てのレベルにハシゴをかけ、メッセージの水準を昇り降りさせることで、全員に伝わるように伝えることが重要なのです。
四つ目は、主催者と参加者のネガティブな関係性を排除し、「安心・安全」な場を作ることです。例えば、合宿を行う際、議論者20名に対し、オブザーバーである事務局員が10名ということはないでしょうか。事務局(人事)も監督者ではなく、当事者として、議論の和に入っていく必要があります。組織全体を変えていこうとするときには、全員が参加し、当事者意識を持つことが必要不可欠です。また、「中立性」を保つためにも、社内講師ではなく、外部講師を使うことのメリットを考えるとよいかもしれません。
最後の五つ目は、空間で感情に訴えかけることです。ここでは簡単にご説明しますが、一つの例として岡本太郎氏の「祝葬」が挙げられるでしょう。これは、形骸化した葬儀のカタチではなく、葬儀をお祝いの場として、岡本太郎の作品などで空間を埋め尽くしたというもので、葬儀に参列した人たちは本当に感動したそうです。つまり、五感で感じる「空間」づくりで、参加者の気持ちを動かすことができるのです。
人と組織が変わる「場」づくりのコツを五つもう一度まとめると、
となります。
繰り返しになりますが、「場」づくりは組織変革に大変有効な手段です。視界の個別性を解消し、現状維持バイアスを乗り越える絶好の機会として、より効果的な「場」づくりの五つのコツを参考にしていただければ幸いです。ご清聴ありがとうございました。