2017/02/09基礎、健康管理・メンタルヘルス、人工知能(AI)、石山洸、リクルートホールディングス
- 石山 洸さん(イシヤマ コウ)
- 株式会社リクルートホールディングス Recruit Institute of Technology 推進室 室長
リクルートのAI研究所 Recruit Institute of Technology 推進室 室長。大学院在学中に修士2年間で18本の論文を書き、アラン・ケイの前でプレゼン。博士課程を飛び越して大学から助教のポジションをオファーされるも、リクルートに入社。雑誌・フリーペーパーから、デジタルメディアへのパラダイムシフトを牽引。リクルートとエンジェル投資家から支援を受け、資本金500万円で会社設立。同社を成長させ、3年間でバイアウト。その後、メディアテクノロジーラボの責任者を経て現職。
1. 人工知能はメンタルヘルスに貢献できるか?
2016年のダボス会議でアナウンスされた第四次産業革命についての内容をまとめている『第四次産業革命--ダボス会議が予測する未来』 (クラウス・シュワブ (著), 世界経済フォーラム (翻訳)、日本経済新聞社) を読むと、人工知能の導入が最も難しい分野のひとつとしてメンタルヘルスが挙げられている。
一方、2002年以降、アメリカ国立精神衛生研究所の所長を務めてきたトーマス・インセル氏をGoogleの親会社であるAlphabetがヘッドハンティングしたというニュースも伝えられている。果たして、現在、メンタルヘルスにAIはどの程度活用できるのであろうか? 以下に、第2回に登場したDataRobotを活用した具体的な事例を紹介したい。
2. 「うつレコ」 ― うつ病の人のための行動記録アプリ
「うつレコ」は、うつ病の人のための行動記録ツールである。宮崎あおい主演で映画にもなった『ツレがうつになりまして。』の原作の漫画を書いた細川貂々氏がアイコンのデザインを担当している。これまで記録の負荷が高かった行動記録表をスマートフォンで簡単に入力できるアプリだ。また、グラフなどで入力したデータを確認することができる。
うつレコ: うつ病の人のための行動記録アプリ
同アプリに入力されたデータをDataRobotで分析したところ、直近2週間のスマートフォンに入力された睡眠時間、気分、行動などのデータから、次の1週間の体調を80%程度の確率で予測することが可能となり始めている。
DataRobotによる体調予測
例えば、うつ休職からの復職の際、復職面談の時間は平均して30分程度である。産業医の先生が初めて会った人に対して、その日の体調に引きずられながら、復職可能か判断することは、実はとても難しい意思決定である。
このような問題に対し、うつレコを活用することで、産業医の先生が事前にデータを予習し、かつ、人工知能が予測した結果も参考にしながら面談に臨むことが可能となる。このため、現在、産業医科大学などが同アプリの活用の検討に乗り出し初めており、企業でもうつレコを活用した復職支援の取り組みが始まる予定だ。
3. 補論: アニメ x AIの力で社会課題を支援
「ポケモンGO」が、その前身のゲームであった「イングレス」に対して、圧倒的なダウンロード数を獲得できたのは、やはりポケモンというキャラクターの力によるところが大きいと考えられる。うつレコでも『ツレがうつになりまして。』の作者の細川貂々氏とのコラボレーションを2012年に開始してアプリを無料で提供することで、数年間で数万人分という大規模なデータセットを集めて研究を行うことが可能となった。
このデータは世界でもとても貴重なデータセットとなっており、コンピュータ科学や医学の世界から注目を集め始めている。日本が得意なソフトパワーを活用することで、まだ世界で誰もが発見していないような科学的な発見ができ、社会課題を解ける可能性が高い。
人事の世界は、まだ科学化されていない非常にチャンスの大きい領域であり、労働経済学、行動経済学、心理学、精神医学がコラボレーションできる新しい領域だ。人工知能やコンピュータ科学がハブとなり、今後、新しい価値の創造と社会への貢献が実現されることを期待している。