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[ 連載 : AIが切り拓くHRの未来 / 第5回 ] 第1回 / 第2回 / 第3回 / 第4回 / 第6回

AIでより良い社会をつくる人事哲学
AIとIoTで雇用機会が拡大するためには?

株式会社リクルートホールディングス 石山 洸さん
石山 洸さん(イシヤマ コウ)
株式会社リクルートホールディングス Recruit Institute of Technology 推進室 室長

リクルートのAI研究所 Recruit Institute of Technology 推進室 室長。大学院在学中に修士2年間で18本の論文を書き、アラン・ケイの前でプレゼン。博士課程を飛び越して大学から助教のポジションをオファーされるも、リクルートに入社。雑誌・フリーペーパーから、デジタルメディアへのパラダイムシフトを牽引。リクルートとエンジェル投資家から支援を受け、資本金500万円で会社設立。同社を成長させ、3年間でバイアウト。その後、メディアテクノロジーラボの責任者を経て現職。

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本連載の 第3回「実験結果: AI導入で「働き方」は、より人間らしくなる」では、企業の現場でAIを導入した結果、従来よりも働き方がより人間らしくなった事例を紹介した。今回は、それに加えて、AIとIoTによって雇用機会が拡大しうる仮説を紹介したい。

[仮説1]
Just in Time Educationで
AI導入後の雇用機会が拡大

ここでは、任意の職種の職務要件の全体を「ジョブ」と呼ぶとしよう。各ジョブにはそれぞれ複数個のタスクが存在し、すべてのタスクをこなすことができるようになると、該当のジョブに就くことができると考える。例えば、下記の事例では、あるジョブが10個のタスクを必要としており、当然、10個のタスクをこなすことができないと該当のジョブに就くことはできない。

Just in Time Education

しかし、AI導入によってタスクうちの8個をAIがカバーしてくれることができれば、該当のジョブに就くために必要なタスクは2個で済む。そして、この残りの2個のタスクをこなすための職業訓練をJust in Timeで提供することができれば、AI導入によって雇用機会は拡大すると言えるだろう。

第3回で紹介したDataRobotも、データサイエンティストがこなす必要があるタスクのうち8割方をAIがカバーしてくれている。するとDataRobotのツールの使い方など、残り2割のタスクさえこなせれば誰でもデータサイエンティストのジョブをこなせるというわけだ。

以上により、人事の仕事としても、Just in Time Educationを実現するための研修などをどのように整備するかが、AI導入後の世界ではますます重要になってくるだろう。

[仮説2]
IoT導入でマーケターが地方創生の請負人に転職?

筆者が10年前に新卒ではじめて就職した部署の名前は「インターネットマーケティング局」だった。同部署での仕事は、オンライン広告の原価計算であり、くる日もくる日もクリック単価をデータドリブンで最適化する業務だった。比較的新しい仕事であったため、この仕事の先にいったいどんなキャリアが待っているのか全く予想がつかず、とても心配になったこともあった。

しかし、10年経過した今、そんな心配は杞憂のものであったことがわかった。従来、インターネット上でしか獲得できていなかったデータが、現在、IoTによってどんどんリアルな世界で獲得できるようになり始めている。これにより、インターネットのマーケティングの世界で活用していたノウハウをさまざまな現場で活用できるようになったのだ。

イメージしやすい事例を紹介しよう。筆者が参加した「地方創生RESASフォーラム2015」のパネルディスカッション「ビッグデータで未来を変えられるのか」では、モデレーターを当時内閣府大臣政務官だった小泉進次郎氏が務めており、すばり「AIは地方創生にどんな貢献ができるのか」について問われた。

筆者の回答は「Facebook社はデータドリブンによるマーケティングで、10年で10億人以上のユーザーを獲得した。IoTによってこれまでデータが取得できなかった地方創生の現場に同じようなデータを生むことができれば、Facebookと同じようなデータドリブンのマーケティングで人口成長と経済成長に貢献できる」という答えだった。例えば、インターネットの世界では、1ヵ月間サイトを訪問してくれなかったユーザーを解約ユーザーとみなして、どのようなマーケティング施策を実施すれば復活してくれるのかを日々大量のビッグデータで検証している。これにより「離脱ユーザー < 新規ユーザー」という構造ができあがればユーザー数が増え続け、同様の手法を利用すれば地方創生の人口成長に応用できるというわけだ。

以上により、これまでインターネットの世界でデータを分析してPDCAサイクルを回していた人たちが、リアルな現場に解き放たれ、農業のAgri Tech、医療のMedi Tech、教育のEdu Tech、人材のHR Techと、xx Techとつくような現場で活躍できるチャンスが到来している。これまでIT、ソフトウェア、インターネットの世界に留まっていた職種の雇用機会が、第四次産業革命によって急速に拡大し始めている。

今こそ人事に読んで欲しい
「人間と機械にまつわる」5大名著

上記の二つの仮説は、AIでより良い社会をつくるために人事が考えうる仮説のほんの一例にすぎない。以下に、ぜひ、仮説を広げ、深めていくために、人事に読んで欲しい「人間と機械にまつわる」名著を5冊紹介したい。

1. マーシャル・マクルーハン『グーテンベルクの銀河系―活字人間の形成』
https://www.amazon.co.jp/dp/4622018969/

2. マーヴィン・ミンスキー『心の社会』
https://www.amazon.co.jp/dp/4782800541/

3. エリック・ドレクスラー『創造する機械―ナノテクノロジー』
https://www.amazon.co.jp/dp/4893620894

4. ハンナ・アレント『人間の条件』
https://www.amazon.co.jp/dp/4480081569/

5. トーマス・ペイン『コモン・センス』
https://www.amazon.co.jp/dp/4003410610/

ここでは余分な解説は省くが、いずれも古典的名著であり、ぜひ、じっくりと読んでほしい。

 


2017/02/24基礎石山洸リクルートホールディングス

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