AIがもたらすマッチングの進化 ~「外部人事データ」と「内部人事データ」の自然言語解析とは~
石山 洸さん(株式会社リクルートホールディングス Recruit Institute of Technology 推進室 室長)
2016/09/30基礎、採用、石山洸、リクルートホールディングス、人工知能(AI)
採用活動は「得られるデータ量が多い」ものの、「勘と経験、直感」による判断が行われやすい領域です。これら膨大なデジタルデータとアナログ情報を活用し、今よりも精度の高い人材マッチングを実現していくことが、これからの採用担当者には求められるのではないでしょうか。
今回はリクルートグループにおけるAI研究を牽引する若きリーダーに、「AIが変えていく採用マッチング」、「その時、人事担当者に求められる変化」についてうかがいました。
- 石山 洸さん(イシヤマ コウ)
- 株式会社リクルートホールディングス Recruit Institute of Technology 推進室 室長
リクルートのAI研究所 Recruit Institute of Technology 推進室 室長。大学院在学中に修士2年間で18本の論文を書き、アラン・ケイの前でプレゼン。博士課程を飛び越して大学から助教のポジションをオファーされるも、リクルートに入社。
雑誌・フリーペーパーから、デジタルメディアへのパラダイムシフトを牽引。リクルートとエンジェル投資家から支援を受け、資本金500万円で会社設立。同社を成長させ、3年間でバイアウト。その後、メディアテクノロジーラボの責任者を経て現職。
マッチングビジネス進化のため、AIの研究所を設立
リクルートグループにおけるAI分野研究について教えてください。
リクルートグループでは「2020年に総合人材サービス領域でグローバルNo.1、2030年に人材領域・販売促進支援領域でグローバルNo.1」というビジョンがあります。
その実現のために、2015年4月にAI分野の研究所として「RIT(Recruit Institute of Technology)」を立ち上げました。本拠地をシリコンバレーに構え、CEOであるアロン・ハレヴィ氏を筆頭に、 AI分野の世界的権威がアドバイザリーボードとして数多く就任しています。
現在は、数十年の歴史をもつ人材領域・販促領域を中心に、リクルートグループ各社と連携してグローバル規模のAI研究を進めています。これらの研究成果を活用することで、「No.1のマッチングサービス」を実現することを目標の一つとしています。
リクルートグループにおける人材マッチングの強化は特に重要なポイントですね。より良いマッチング創出のために、採用領域ではどのようなデータを使用するのでしょうか。
まずAIの研究者の目線からすると、採用というのは「2種類の非構造の自然言語でできたデータが多く存在する」という特徴があります。
自然言語というのは、私たちが日常的に使っている話し言葉、書き言葉のことです。正確な文法にのっとった文語体ではなく口語や音声データなども含まれます。
たとえば、企業が求人募集の際に用意する「職務要件定義書(Job Description)」、ほかリクルートの求人メディアに掲載される各社の「求人原稿」などは、すべて自然言語による記述です。これらは必ずしもExcelの所定のセルに所定の項目が記述されているとは限りません。採用媒体の求人原稿制作システムやWordにテキスト入力されたものも多くあります。
また、求職者や新卒学生が用意する「レジュメ(職務経歴書、履歴書)」や「志望動機、エントリー内容」なども自然言語によって記述されます。
これらに加え、採用選考の合否結果や合否理由、内定承諾結果や辞退理由、適性検査の結果といった多種多様な「選考データ」、オファーの提示内容(給与、勤務地など)といったデータも存在しますよね。
AIは「職務要件定義書」「レジュメ」といった2種類のデータから特徴を抽出・解析して、その意味合いを理解・学習していき、より精度の高いマッチングのパターンを発見していくことができます。
たしかにリクルートグループであれば、求人広告や人材紹介のDBなど、求人関連のデータは膨大にありそうです。
そうですね。過去における「求人画面閲覧データ」、「応募データ」、「書類選考合否データ」、「面接合否データ」、「内定・処遇データ」、「入社データ」や、さらに応募前の「DM文面データ」など、多くのデータがあります。それがAIを活用するうえでの、大きな強みだと思います。
しかし、サービス提供側の求人市場データだけでは十分な解析はできません。人と組織のマッチングとはあくまでも入社に至るかどうかではなく、入社後に活躍できるかどうか。
そのため、先に述べた転職市場における動きを中心とした「外部人事データ」だけでなく、各企業が独自で保有している「内部人事データ」を掛け合わせる必要があります。これにより、解析結果の精度は大幅に向上していきます。