AIによるエントリーシート選考が“攻めの採用”を加速させる
500時間の工数を削減した“ソフトバンク流”未来の新卒採用(前編)
源田 泰之さん(ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長)
中村 彰太さん(ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 人材採用部 採用企画課 課長)
一人の採用担当が、たった3ヵ月で完成させることができた理由は?
なぜ、安藤さんは一人で、しかも3ヵ月で完成させることができたのでしょうか?
中村:もともと理系の人間で数学に関するリテラシーがあり、一定の技術的な素養を持っていたことは確かですが、人工知能を専門に学んできたわけではありません。しかし、本人の「まず、やってみる」という意志が強かったことで、スムーズに運んで行ったのだと思います。「ESの選考で、同僚が大変そうにしている姿を見るのはつらい。私にやらせてください」と本人から進言されました。目の前にリアルな課題感を持っていたから、社内のAIエンジニアまで巻きこむことができたのだと思います。
源田:当社では組織をより良くしていくために、やりたいことがあれば、提案できる風土が醸成されています。HR Techのプロジェクトを進める際にも、いくつかの技術を検討しましたが、今回のケースは完全に彼女の意志でスタートしました。
中村:具体的には、AI関連部署のスタッフと試行錯誤を重ねました。一定数のESのテキストデータを、合格・不合格にかかわらずWatsonに読み込ませて、ジャッジの基準を学んでもらうのですが、データの選別には大変苦労しましたね。単にすべてのデータを読み込めばいい、というわけではありませんから。安藤がこれまでに見てきた、何千通ものESの中から厳選したESを読み込ませる。そして、精度が上がったかどうかを検証する。この繊細な作業の積み上げがあったからこそ、実用に足るツールが完成したのです。
AIを活用するためには、逆に、採用担当のアナログな肌感覚が大切なのでしょうか。
源田:そうですね。やはり、自分自身の目でESのジャッジをしてきた、という経験が非常に大きかったんだと思います。Watsonにデータを読み込ませても精度が上がらないときには、リアルな日々の感覚やカンが生きてきます。ESをジャッジした社員のことを思い浮かべて、「あの人の評価は多少甘い傾向があるので、補正しよう」といった調整ができると、精度が上がってくるんですよ。
AIのエンジニアだけでプロジェクトを進めてしまうと、このような発想は出てきません。精度を高めるためには、データ量を増やせばいいというわけではなく、HRの現場でのリアルな判断基準を持たなければ、数万件のデータを読み込ませることになりかねません。そういう意味でも、今後HR Techを導入するに当たっては、HRスタッフの関与度を高めることが、大変重要だと思います。
中村:個人の意志に対して、決して「ノー」とは言わない社風も大きかったと思います。AIによるES選考を対外的に発表する機会があったので、事前に源田と私が経営ボードに報告したのですが、「いいね!」という言葉で終わり(笑)。ネガティブな意見は全くありませんでした。実は、詳細なデータの入った分厚い資料も懐に忍ばせていたのですが、見せる必要はありませんでしたね。
組織の文化が、AIによるES選考の実現に寄与した部分は大きかったようですね。
源田:当社には個人の確固たる意志やチャレンジを応援したいという、非常に寛容な社風があります。会社の歴史を振り返っても、他社の技術とソフトバンクの強みを掛け合わせることで、事業として成長させてきた経験も多いので、社内外に対する新しいものへの寛容さは、文化として染みついているのだと思います。