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今こそ考えたい真の女性活躍推進――女性リーダー育成のため、企業と女性社員に求められるもの

  • 坂東 眞理子氏(昭和女子大学 学長)
  • 篠田 真貴子氏(東京糸井重里事務所 取締役CFO)
  • 石原 直子氏(リクルートワークス研究所 Works編集長)
2016.01.18 掲載
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女性活躍推進に対する取り組みはさまざまな企業で行われているが、一部の先進的な企業を除いて、うまく進んでいない現状がある。しかし、日本の労働力環境の変化からも、女性活用や女性リーダー育成は避けて通れない最重要課題の一つ。この問題を解決するためには、どうすればいいのか。女性活躍のための活動に長年携わってきた昭和女子大学の坂東眞理子氏、国内外の企業に勤務して女性の労働事情の違いを経験した東京糸井重里事務所の篠田真貴子氏に、リクルートワークス研究所の石原直子氏が聞いた。

プロフィール
坂東 眞理子氏( 昭和女子大学 学長)
坂東 眞理子 プロフィール写真

(ばんどう まりこ)1946年富山県生まれ。東京大学卒業後、総理府(現内閣府)入省。内閣総理大臣官房広報室から青少年対策本部の「青少年白書」分担執筆を経て、婦人問題担当室(現男女共同参画局)で日本初の「婦人白書」を執筆。80年にハーバード大学に留学後、総理府老人対策室などを経て、49歳で埼玉県副知事に就任。3年後には女性初の総領事として在豪州ブリスベン総領事に就任し、2001年に男女共同参画局長。2003年 昭和女子大学理事、2004年 教授、2005年 副学長、2007年 学長、2014年 理事長。早くから論壇などで執筆活動を活発に行っており、行政官としてのキャリアと2児の母親としての役割を両立した経験を活かし、女性のライフスタイルに関わる一般向けの著作も多い。その著書は40冊以上に渡り、『女性の品格』(PHP新書)は300万部を超える超ベストセラーとなった。


篠田 真貴子氏( 東京糸井重里事務所 取締役CFO)
篠田 真貴子 プロフィール写真

(しのだ まきこ)慶應義塾大学経済学部卒、1991年日本長期信用銀行に入行。1999年、米ペンシルべニア大ウォートン校でMBAを、ジョンズ・ホプキンス大で国際関係論修士を取得した後、マッキンゼーにて戦略コンサルティングに従事。2002年、ノバルティス・ファーマに入社、人事部を経てメディカル・ニュートリション事業部、後にネスレ・ニュートリションにて経営企画統括部長をつとめる。2008年10月、ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する糸井事務所に入社、2009年1月より現職。2012年、糸井事務所がポーター賞(一橋大学)を受賞する原動力となった。『ALLIANCE アライアンス - 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』監訳。


石原 直子氏( リクルートワークス研究所 Works編集長)
石原 直子 プロフィール写真

(いしはら なおこ)都市銀行、コンサルティング会社を経て2001年7月にリクルートワークス研究所に参画。人材マネジメント領域の研究員として、これまでに女性リーダーの育成、ダイバーシティ&インクルージョン、リーダーシップ開発などの研究にとりくんだ。2015年から研究所の機関誌「Works」の編集長を務める。著書に『女性が活躍する会社』(共著、日経文庫)がある。


女性の活躍を阻害する要因とは何か

石原:2015年8月に女性活躍推進法が成立し、2016年4月までに女性採用比率、勤続年数における男女差、労働時間の状況、女性管理職比率について公表し、具体的目標と行動プランを立てることが義務化されました。今日お迎えしている坂東先生は、こういった法律も含め、内閣府の男女共同参画局でご尽力されてきました。篠田さんは、女性総合職の少ない日本の大手銀行からキャリアをスタートされた後、外資系の企業で女性が活躍できる環境を体験されてきました。

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坂東:私は総理府に入りまして、最後は内閣府で男女共同参画局長として、2020年までに指導的地位の30%を女性にすることを閣議決定に持ち込みました。2003年当時、取締役は2%前後という状態でしたから、30%は無理だと言われました。その後の政権ではずっと軽視されているような状況でしたが、2012年の第二次安倍内閣で経済再活性化のため、女性の活躍は不可欠だと発言され、国際的にも評判となりました。

経済団体のトップたちも積極的に言及してくださるようになって、法律も成立しましたし、やっと動き出したかなという感じです。ただ、もう2015年ですから、2020年まで残された時間はかなり少なくなっています。女性活躍推進法はできましたが、守らなくても罰則はありません。各企業の情報公開は進むと期待していますが、指示された四つの情報に限らず、フレキシブルな働き方、社内公募制、女性達が働きやすい制度などいろいろな分野で、各社がアピールしてくださるといいなと思っています。

篠田:私は労働問題の専門家ではありませんので、これまでいくつかの会社で働いてきた女性の一人として、経験や考えをお話します。私は1991年に大学を卒業して、当時の日本長期信用銀行に総合職として入りました。面接では「総合職を受けることをお父様は何と言っていますか」と質問された時代です。その頃から現在まで「なぜ私は働くのか」を問われ続けてきました。銀行を4年余りで退職した後、留学を経てコンサルティング会社のマッキンゼーに入り、次に製薬会社のノバルティスファーマ、そして、事業部売却によってネスレに移籍しました。業種や国籍が違う3社では、ロールモデルとなる女性の先輩に恵まれました。役員から一般社員まで何人ものワーキングマザーが仕事と育児、家庭の運営の折り合いの付け方もいろんなやり方をされていて、多くのアドバイスをいただきました。

私には今、小学6年生と2年生の子供がいます。二人を通して、私は本当に人間的に成長できたと感じています。現在、弊社は社員の6割が女性で、私の部署でも今月一人、来月一人が産休に入るんです。そのため、戦力ダウンという悩みもよく分かります。ただ、長い目で見れば、子育てには人間的な成長の機会も大きいので、そんな経験を持つ女性が力にならないはずはないと思っています。

石原:日本の会社組織の中には女性が働きづらい、活躍を阻害する要因があると思います。それは何でしょうか。

坂東:要因は複合的です。1989年に1.57ショックがあって、91年に育児休業法ができ、その後どんどん強化されています。パパ・クオーターもでき、休業中の所得保証も3分の2にまでなりました。それなのに、出産育児を理由とする退職はまだ多い。理由の一つは、非正社員で働いている女性が多いことです。もう一つは、社内での人材育成。女性は辞めてしまうと捉えられてしまっています。しかし本当は、将来の展望が持てないから辞めています。

石原:海外の会社で女性がキャリアを構築することは、日本企業に比べて進んでいます。この違いはどこにあると考えますか。

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篠田:海外は仕事の評価が業績のみと言えます。マッキンゼーの場合はコンサルティングができる、できないでジャッジされます。ノバルティスやネスレのようなグローバル企業の場合、例えばネスレでは経営層は会社の物の考え方を体現しているかが判断基準になりますが、190ヵ国で展開している一般社員にそれを求めたら運営できません。結果として業績主義なのだと思います。逆に、マイナスのところもはっきりフィードバックされます。このことは結果的に、自分が成長する機会にもなったと思っています。また、女性だから成長機会をもらえなかったということは一切ありませんでした。

石原:今の篠田さんのお話から、「パフォーマンスを上げていれば、あなたには普通にジョブのチャンスがあるよ」というコミュニケーションが欠けているのではないかと感じました。

女性リーダーを増やすためにするべきこととは

石原:女性リーダーやパフォーマンスの上がる女性を増やしていくには、日本企業はどんな仕組みを取り入れたらいいと考えますか。

坂東:あなたの職務はこれでパフォーマンスを客観的に評価しますと、評価をきちんと整えるのが理想形と言われることが多いですが、本当に難しいですね。例えば、事業の初期にある人が頑張って3年後に担当した人が収穫を得た時、種をまいた人は評価されないのか。また、立派なリーダーや部下がいる時とそうでない時では、本人が一生懸命やっても成果は異なってきます。そういう時にどう評価するのか。あえてお願いしておきたいのは、一律評価、一律処遇だけはやめてくださいということです。あるいは、マミー・トラックだっていいので、ジェネラルマネージャーコース、スペシャルコースなど、途中で変更できる選択肢を用意することです。その際、個人の事情を聞くことは大切です。

石原:横並びではなく一人ひとりというのは、日本企業にとって大きな挑戦ですよね。篠田さんは、日本企業はどう取り組めばいいと思いますか。

篠田:さまざまな企業の方と意見交換した際に感じるのは、人事の打ち手と経営戦略は一体のものなのに、会社が何を目指しているのかを抜きに、女性リーダーをどう増やすか考えるのは違うということです。他社が30%管理職だからウチも30%だと考えてはいけません。前半の議論なしでは上滑りしてしまう懸念があります。

石原:何のために行うのかを人事と経営陣が議論して、言語化しておく必要がありますね。2006年の女性活躍推進の際も目的が共有されていなかったため、リーマンショックも相まって縮小されてしまいました。

坂東:その時は、少子化対策として女性が働き続ける環境を作る目的がメインでした。経営戦略のため女性を活用するというのは二の次。だからそんな現象が起こってしまいました。今は、企業が存続・発展するため女性をどう活用するのかと考えなればいけません。

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石原:女性がリーダーシップロールに就きたがらないという話をよく聞きます。リーダーシップロールに就くことにどんな意味があると感じますか。

篠田:いろんな意味で自由を獲得することだと実感しています。仕事の仕方、働く時間、チームのムードも自分で作れます。やらされ仕事、ルーティンも減ります。そのぶん新しいものを生んでいかなくてはいけませんが、つまりそれも自由ということです。外資系の管理部門にいたときは数値目標がありましたが、それさえクリアすれば何をやってもいいので、ワークライフバランスも取りやすいです。「隣の課長がやっているからやらなきゃ」ではなく「自分はクリアできているからOK」と自分を肯定できる方に特にお薦めします。

坂東:「中間管理職は大変」「責任ばかり重いのに報われない」というネガティブキャンペーンに惑わされる面もあると思います。管理職は自由が利きますし、普通はお給料が増えます。仕事の裁量もできるので、不得意な仕事は部下に任せて自分は得意な仕事ができます。それから、仕事のカウンターパートも権限を持っているから話が早い。ポジティブな情報を振りまいていただいて「いいな」と思われる管理職が増えていけば雰囲気は変わるはずです。

石原:最後に、人事の方々にメッセージをお願いします。

篠田:女性ならではのライフイベントと仕事を考えるのは極めて個人的な話です。ですから、いきなり一般的な事象を前提にした仕組みを全社に広げてしまうと、誰にとっても嬉しい結果を生まないのではないでしょうか。それよりも、我が社に実際こういう人がいますよ、という事例集や電話番号リストの方が具体的なサポートに結びつくのではないかと思います。

坂東:人事部には変化に対応してもらいたいと思います。生き残るのはかしこい人事部ではなく、変化に対応できる人事部です。環境がどんどん変わって、女性たちも変わっています。キャリア志向、リーダー志向、個人差がありますし、一人の女性の中でも変わります。入社時はキャリア志向だったのに家庭を大事にしたいと言い出したり、人間は変わるものです。そんな時にどう対応するかということを、心がけてほしいと思います。

石原:今日は女性活躍に関する話でしたが、これは男性にも当てはまることではないでしょうか。これからは男性ももっとパーソナライズされていくでしょうから、男性のためにも、もっと人事は個別化と変化対応によって個々のキャリアゴールに向き合える存在になっていかなくてはなりません。女性活躍推進を機に、全ての社員に働きやすい組織、仕事の仕方の変革を起こして欲しいと思います。今日はどうもありがとうございました。

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