世界で戦う日本企業に必要な
“グローバル人材マネジメント”について考える
- 落合 亨氏(ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 バイスプレジデント 人事・総務担当)
- 島田 由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役人事総務本部長)
- 有沢 正人氏(カゴメ株式会社 執行役員経営企画本部人事部長)
- 小杉 俊哉氏(慶應義塾大学SFC 研究所 上席所員/立命館大学大学院テクノロジーマネジメント研究科 客員教授)
グローバル化が急速に進む昨今、世界に通用するグローバル人材の育成とマネジメントは企業にとって切実な問題である。いま日本の企業は、何をすべきなのか。アメリカ系企業のウォルト・ディズニー・ジャパンの落合亨氏、ヨーロッパ系企業のユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの島田由香氏、海外展開を進めているカゴメの有沢正人氏を迎え、慶應義塾大学・立命館大学大学院の小杉俊哉氏が、各社のグローバル人材に対する考え方や取り組みについて聞いた。
(おちあい とおる)1979年 明治大学商学部卒業。同年ヤクルト本社入社、営業・マーケティングを経て、83年人事部へ。90年に日本ペプシコーラ社に人事企画本部次長として入社。92年には日本ペプシコーラボトリング社に出向し、リストラクチャリング、人事制度全般の改革をリードした。95年から日本ペプシコーラ社人事総務本部長。98年HRディレクターとしてディズニーストアに入社。2002年からウォルト・ディズニー・ジャパンの人事総務担当責任者。2014年1月からは日本/韓国の人事総務担当責任者を務める。また、現在はウォルト・ディズニー・アジアの成長戦略に伴い、人事面からサポートも行っている。キャリアカウンセラー、認定コーチ。
(しまだ ゆか)1996年慶応義塾大学卒業後、日系人材ベンチャーに入社。2000年コロンビア大学大学院留学。2002年組織心理学修士取得、米系大手複合企業入社。2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。その後2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。小学6年生の息子を持つ一児の母親。NLPマスタープラクティショナー。
(ありさわ まさと)1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行。 銀行派遣により米国でMBAを取得後、主に人事、経営企画に携わる。2004年にHOYA株式会社に入社。人事担当ディレクターとして全世界のHOYAグ ループの人事を統括。全世界共通の職務等級制度や評価制度の導入を行う。また委員会設置会社として指名委員会、報酬委員会の事務局長も兼任 グローバルサクセッションプランの導入等を通じて事業部の枠を超えたグローバルな人事制度を構築する。2009年にAIU保険会社に人事担当執行役員とし て入社。ニューヨークの本社とともに日本独自のジョブグレーディング制度や評価体系を構築する。2012年1月にカゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメ株式会社の人事面でのグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。2012年10月より現職となり国内だけでなく全世界のカゴメの人事最高責任者となる。
(こすぎ としや)早稲田大学法学部卒業。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。日本電気株式会社、マッキンゼー・アンド・カンパ ニー インク、ユニデン株式会社人事総務部長、アップルコンピュータ株式会社人事総務本部長を経て独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授を経て現 職。2015年4月より、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科客員教授を兼任。専門は、人事・組織、キャリア・リーダーシップ開発。組織が 活性化し、個人が元気によりよく生きるために、組織と個人の両面から支援している。著書に 『起業家のように企業で働く』(クロスメディア・パブリッシング)、『リーダーシップ3.0―カリスマから支援者へ』(祥伝社新書)など。
グローバル人材育成に向けた出発点
小杉:日本企業はどのようにして海外に進出し、グローバルな人材を育成していけばいいのでしょうか。まずは、それぞれのご意見をお聞かせください。
落合:ウォルト・ディズニー・ジャパンで私が現在担当しているのは、日本、韓国、中国、東南アジアといった国々です。グローバル人材の開発に関して思うのは、「国内だろうと海外だろうと、優秀な人材は優秀な人材だ」ということです。国内で優秀な人材は、間違いなく海外に出ても活躍できると思います。ただ、グローバルにビジネスを行うリーダー層となると別です。もう少し違ったコンピテンシーをベースにして、タレントデベロップメントを考えていく必要があります。
島田:グローバルというのは耳障りのいい言葉ですが、意味を腹落ちさせずに聞き流していることが多いのではないでしょうか。グローバル人材という言葉も同様です。まずは、これらが何を意味するのか、トップはもちろん、人事の方ご自身が認識することが大切だと思います。私自身はグローバル人材を「どこでも、どんなときでも、自分の最高のパフォーマンスを出せる人」と捉えています。そんな人材にユニリーバとして、また、人事としてどんなサポートができるのか。これがグローバル人材開発やマネジメントの際、一番大事に考えているところです。
有沢:私は、りそな銀行、HOYA、AIU保険を経て、4年前にカゴメに入社しました。当時のカゴメは海外売上比率が6.8%で、グローバル人材と言われる人はほとんどいませんでした。私はグローバル化には4段階あると考えていますが、ローカル主導で事業運営がバラバラに行われている、第1段階の状態でした。ちなみにその当時のHOYAは、本社管理機能が事業の枠組みを超えていて、全社的なグローバル戦略の元でローカルが動くという第3段階でした。グローバル人材の育成は、会社のグローバルの進展度よりも先になくてはいけないと考えています。そこでカゴメでは、グローバル化のレベルを共有することから始めました。
小杉:日本企業のグローバルマネジメントやグローバル人材育成について、どのようにお感じになっていますか。
落合:私は以前日本の食品メーカーで、人事企画に所属していました。どんどん海外に事業を展開していく時期には、社外から海外に通用する人材を採用しました。とにかく現地での事業展開にフォーカスしていましたから、人事的な思想は特になかったと記憶しています。それでも、結果的に海外事業展開のモデル企業として評価されています。ですから、理論や理屈も大事ですが、まずは現地・現場主義でいいのではないでしょうか。その中の失敗や成功を、テンプレートにしていけばいいと思います。今グローバルカンパニーに勤務していて、実はそれと大して変わりないことをやっていると実感しています。
島田:私が気になっているのは「グローバルとはどういうことか」について議論が十分になされないまま、世の中でよく聞く「グローバル人材が必要だ」「グローバル化だ」という言葉に乗って、「じゃあ、グローバル化しましょう」という形になっているように見える状況です。ここで一つ、私の考えとして申し上げたいのは、グローバル人材は「自分の強みを活かす」ところにカギがあるということです。ユニリーバは190ヵ国でビジネス展開しているので、時間や休日、家族、仕事に対する考え方が異なる多くの人種の方と働いていますが、根本には一人ひとりの強みを活かす風土があります。
小杉:有沢さんは先ほど、カゴメは1段階で、HOYAは3段階だったというお話をされましたが、どのような違いがあるのでしょうか。
有沢:グローバルの定義に対する、認識の違いです。HOYAでは、グローバルのレベルを社長以下全員がしっかり持っていました。何をもってグローバルかという基準は、トップや人事、企画の間で、自社のグローバルについて共有できているかどうかにあると思います。
インターナショナルからトランスナショナルへ
小杉:グローバルという言葉が使われるようになってから、まだ20年も経ってないように思います。有名なバートレットとボシャールの組織モデルの定義では、最初の「インターナショナル」は海外に出先を設けている、次の「グローバル」は本国の権限を持って同質化を世界に図っていく、そして「マルチナショナル」は製品やサービスを共通させながらいろんな国に権限委譲していく、最後の「トランスナショナル」は真の国際的に各国でビジネス展開していて権限バランスをとりながら企業特有の文化が世界中で保持されている、となっています。この定義でいくと、ウォルト・ディズニー・ジャパンは「トランスナショナル」でしょうか。
落合:弊社の商品やサービスはエモーショナルタッチという、クリエイティブをベースにローカルの顧客に対してリーチする特徴があります。ですから、我々の顧客はどこにいるのか、サービスはどこに対して提供するのか、ということが重要です。グローバル展開で成功している企業は、グローバルとリージョンの特性を生かしていると感じます。そうすると、緩やかな統合である「トランスナショナル」の方が将来的には志向されるのではないでしょうか。ただし、ダイバーシティがベースにない日本の企業の場合、一気にトランスナショナルに持っていくのは、ハードルが高すぎる気がします。
島田:8年前にGEからユニリーバに入社した時、アメリカとヨーロッパの文化の違いに驚きました。最たる例は意思決定のスピードで、GEは非常に速かったのです。しかし、この違いは文化によるものだけではなくて、落合さんもお話しされたように、商品や規模による部分も大きいと思います。また、ヨーロッパの中にはたくさんの国、言語、人種、文化、宗教があります。そのために「Aをやって下さい」と言っても「Aとは何?」という議論から始まり、意思決定に時間を要してしまうのです。いろんな考え方があり、どう物事を進めるのかが複雑になる中で物事を進めていくプロセス自体がグローバルということなのではないでしょうか。
有沢:今年、二人の技術者がオーストラリアに赴任しました。一人はTOEICが280点ですが、現地の社員にリスペクトされながら力を発揮しています。なぜなら、生産技術など自分の強みを持っているからです。ここがグローバルに通用するかしないかという、大きなポイントだと思います。英語は必要条件ですが、絶対条件ではありません。英語をスクリーニングにするのは少し違うのではないでしょうか。要するに、海外でも十分通用する技術や知見や伝えるべき経験を持っているのがグローバル人材だと、考え方を切り替えることが大事だと思っています。
グローバル人材を見極めるために何か大切か
小杉:グローバル人材をどう見つけてどう育成していくのか、現実的な問題に悩まれている人事の方も多いと思いますが、皆さんはどうお考えですか。
有沢:グローバル人材を外部から採用した時期もありましたが、今はあまり考えていません。なぜかと言うと、プロパーの方がはるかに、会社が持っているDNAをグローバルの拠点に伝えることができるからです。ただその際、先ほども申し上げたように知識や経験など、海外でもリスペクトされるものを持っている人材を選び出すことが大事です。
島田:人材の見極めにデータは使います。ただ、データは過去のことですから、一つの資料としてチェックするという形です。その人がどんな力が出せるかというのはデータからは判断できません。それよりも今のその人を見ることが重要だと思います。
小杉:落合さんは、リーダー人材については、別のコンピテンシーが必要だと最初に話されましたが、具体的に教えていただけますか。
落合:弊社ではグローバルリーダーの発掘が人事の中心的課題で、インターナショナルのエグゼクティブサミットでも重要なテーマの一つになっています。どう発掘するかというのは企業戦略そのものの問題でして、経営的視点から海外市場をどう攻略して勝ち抜くかをまずは考えるべきです。その戦略を遂行するための組織を作った後に、タレント発掘に入っていくわけです。データについてはどう読み込むか、経営層と人事でディスカッションしながら、タレントの特性を一人ずつ棚卸していきます。強みをどう伸ばすか、強みを活かせる場所はどこか、強みが活かされる職種は何か、それをインターナショナルな目線で見て配置転換を計画します。
島田:「この人は真のリーダーだな」と思う人に共通しているのは、自分を分かっているということです。自分の中のリーダーシップに気づくことが大切です。これは内省にもつながりますし、多くの人と接する中で自分の立ち位置に気づいているからこそ、他人のことにも気づけるわけです。人が二人いたらダイバーシティだし、すでにグローバルだと思います。誰一人として同じ人はいないので、そういう意味でも自分が分かっていて自分を大事にできる、人事としても、最初にそう思うところが大切だと考えています。
有沢:私が必要だと思っていることを三つまとめますと、一つ目は現在の自社のグローバルレベルを認識すること。二つ目は、近い将来にどういうグローバルレベルにありたいかを共有すること。三つめは、グローバル人材の育成は一朝一夕ではできないことをトップに理解してもらうこと。会社の状況によって異なるでしょうが、参考になればと思います。
小杉:日本人にはリーダーシップ・アイデンティティがないとよく言われます。自律、すなわち自分に対するリーダーシップをもっと発揮すべきという、意識付けの問題が大きいのではないでしょうか。そうできるような環境を会社が作ること、一人ひとりがそういう自助努力をすることが、グローバル人材の醸成には大切だと感じます。皆さん、本日はありがとうございました。
ワークデイが提供する「Workdayヒューマンキャピタルマネジメント(HCM)」は、従来型の人事システムをゼロから見直し開発されたクラウド型人事ソリューションです。「WorkdayHCM」は、世界中で多くの有力企業がすでに導入しており、国内でも日産や日立、ファーストリテイリング、東京エレクトロンといった日本を代表するグローバル企業への導入が進んでいます。
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