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リーダーシップ開発を科学する:次世代リーダー育成の最前線

  • 中原 淳氏(東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)
2016.01.15 掲載
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リーダーシップ研究には、大きく2種類がある。どのようにリーダーシップ現象が生まれたのかを明らかにする「リーダーシップ現象研究」と、どうやってリーダーシップを生み出す人や環境をつくり出すことができるかを考える「リーダーシップ開発研究」だ。実はリーダーシップ研究の9割は前者であり、後者の研究は非常に少ない。その数少ない研究内容も含めて、中原氏がリーダー育成をいかに体系的かつ戦略的に行っていけばいいのかを解説した。

プロフィール
中原 淳氏( 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)
中原 淳 プロフィール写真

(なかはら じゅん)1975年、北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等をへて、2006年より現職。大阪大学博士(人間科学)。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究している。専門は経営学習論(Management Learning)。単著に『職場学習論』(東京大学出版会)、『経営学習論』(東京大学出版会)、『研修開発入門 会社で「教える」、競争優位を「つくる」』(ダイヤモンド社)、『駆け出しマネジャーの成長論:7つの挑戦課題を科学する』(中央公論新社)など。共編著に『企業内人材育成入門』(ダイヤモンド社)、『プレイフル・ラーニング』(三省堂)など多数。働く大人の学びに関する公開研究会 Learning barを含め、各種のワークショップをプロデュースしている。


リーダーになることは、「生まれ変わるほど」の変化

中原氏は、リーダーになることでつまづく人が少なくないと語る。「リーダーになると、他人を動かし、職場の成果を出させる立場になります。実務担当者とリーダーの段差はかなり大きく、リーダーになることは『生まれ変わり』にも等しいと言えます」

ここで中原氏は、リーダーに生まれ変わった際に生じる、つまづきについて解説した。まず、「目標軸でコケる」。会社に言われた目標を部下にそのまま伝えるだけで、目標をにぎりあうことができない。次は「影響軸でコケる」。メンバーを動かすロジックが立てられず、メンバーから「なぜ、やるんですか」「なぜ、僕なんですか」などと言われてしまう。すると「いいからやれ」などと、リーダーは自分の勝ちパターンを強制しようとするが、メンバーを思うようにはできない。部下に勝ちパターンを回すスキルや能力がないからだ。すると今度は、恐怖政治に走るか、仕事を巻き取りにかかる(自分でやる)ようになる。しかし、この状態は長くはもたない。恐怖政治ではメンバーからの反発が起き、巻き取った場合はメンバーのメンタルダウンが起きるからだ。これらのつまづきによって、リーダーは生まれ変わりに失敗することになる。

「いったい、どれくらいの人がリーダーへの生まれ変わりに失敗しているのでしょうか。過去に日本生産性本部と一緒に行った調査によれば、過剰なプレイング状態になってしまった人は26%。おおよそ3割の人が失敗しています。このように現場には、なかなかリーダーになれない状況があるのです」

ここで、リーダーシップ現象研究の歴史が紹介された。最初は19世紀に研究された「特性論」。これは生まれたときからリーダー特性が決まっているという考え方だ。リーダーになれるかどうかは個人的資質であり、個人の特性・キャラが成果や業績を決める。続いて1950年~1960年代に起こるのは「行動論」だ。リーダーシップは、みんながのれる課題設定スキル(Performance行動)と人間関係の調整を行うスキル(Maintenance行動)の二つで決まるという考え方だ。当時は企業規模の拡大・経済成長、戦争などで大量のリーダーが必要だった。中原氏は「これは特性論からのパラダイムシフトだった」と語る。リーダーシップが後天的に学べると初めて宣言したものだったからだ。

1980年代には、「変革論」が起こる。既存のタスクに振り回されるのではなく、組織・事業の変革こそがリーダーの役割という考え方だ。そして2000年代は複数の論が立ち並ぶ、中原氏いわく「ちょめちょめ論」の時代に入る。ここでは社会に照らした新たなリーダー像が必要と言われ始める。例えば、倫理をベースにしたリーダーシップではオーセンティックリーダーシップ、サーバントリーダーシップ。技術をベースにしたリーダーシップとして、e - leadership (インターネット上のリーダーシップ)などだ。

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「リーダーシップ現象研究は、いろんなリーダーシップのあり方を明らかにしてきました。確かに貴重な研究ですが、皆さんのような実務家は、『それで、どうしたらいいの』という疑問を感じるのではないでしょうか。いま問題なのは、リーダーはどう育成すればいいのかという問いです。これに答えるのがリーダーシップ開発研究です」

中原氏が推奨する「スパイシーな経験学習」

リーダーシップ開発研究について語る前に、中原氏は二つの前提を述べた。一つ目は「リーダーシップは一生かけて発達する」こと。二つ目は「リーダーシップ開発は座学だけでは教えることができない」こと。リーダーシップは、知ることとやることにギャップがある。暗記だけでは、リーダー行動をとれないのだ。それでは、どうすれば学べるのか。ここで中原氏は、「スパイシーな経験学習」というキーワードを上げる。

「一般的な能力開発、ノーマルな経験学習は、能力よりもすこし高めの仕事を経験し、その振り返りを行い、ノウハウやコツをまとめて持論化するという流れです。しかし、スパイシーな経験学習は、より刺激を得る内容になります」

その工程には、中原氏いわく「こってりした」言葉が並ぶ。一つ目は「悶絶リーダー経験」、二つ目は「スパイシー フィードバック」、三つ目が「ディープリフレクション」で、四つ目は「追っかけコーチング」だ。

「悶絶リーダー経験」とは、未解性の仕事を、人を率いてリードする経験のこと。まさに目線を上げる経験だ。「しかし実際には、『リーダーは求めるが、リードさせない組織』が多いのではないでしょうか。リーダーシップを開発したければ、早期にリードさせることが重要です」

次のリーダーシップ開発は「スパイシーフィードバック」。耳の痛い弱点をストレートに伝えることで、リフレクションとコーチングにつなげるものだ。「経験する中で課題が顕在化してきます。それを本人にきちんと伝え、改善を支援する。ある意味、相手の鏡になってあげるわけです」

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中原氏はここで、本人が気付いていない点を指摘する、フィードバックの三つのコツを語った。一つ目は、「見えたものを『鏡』のように具体的に伝える」。評価はしなくてもよく、見たままを伝えるのだ。二つ目は、「スパイシー&ダイレクトに成長や学習を手助けする」。耳の痛いことはどんな言い方をしても同じ。ネガティブだ、ポジティブだと伝える内容の順序を考えても意味はないということだ。三つ目は、「期待をこめて、刺すように伝える」。人は結果をいうだけでは伸びない。どうやって立て直すかを考え、期待を持ちながら共に考える姿勢を示す。大人の学びは、痛みを伴うのだ。

では、痛みを伴う指摘をどう行うか。中原氏は、リーダーシップ開発の定量的手法として、最近よく名前が上がる360度フィードバックにありがちな失敗について語った。「一つ目は、『やりっぱなし症候群』。360度フィードバックをやっても、結果を本人に伝えない。あるいは、人事が怖がり、さらりと返して終わりにしてしまう。二つ目は『なかったことにしよう症候群』。本人が360度フィードバックの結果に向き合うのが嫌で、机の奥にしまってしまう。三つ目は『俺に1をつけたのは誰だ症候群』。悪い評定をつけた部下の悪者探しをしてしまうのです」

あわせて中原氏は、最近多いアクションラーニング型研修で、フィードバックを行う効果についても語った。「研修では個人の地が出ます。それを見たメンバー同士で、研修の最後に短冊などにコメントを書いて渡しあうといいでしょう。信頼関係も必要ですが、実際にやってみると貴重な指摘になります」

三つ目のリーダーシップ開発は「ディープリフレクション」だ。これは経験の意味づけであり、その場で生じた感情に至るまでをディープに分析する。ある意味、立て直しに近い。まず管理職就任後半年~1年くらいで、リーダーとしての影響力を行使したあとのフォローアップを行う。過去を振り返り、意味付けし、未来を構想する。その際、自分の感情と他者の感情まで深く踏み込んで考える。「リーダーシップ研修の鉄則は『鉄は熱いうちに打て』です。新任マネジャーとして就任半年から1年くらいがもっとも効果が高い。そこで起こった現象をきっちりリフレクションし、立て直しを行います」

最後のリーダーシップ開発は「追っかけコーチング」だ。成長課題を自己設定させ確実に変化させ、軌道に乗るまでをしっかり見届ける。リーダーシップ開発後に一定期間、現実と目標のギャップ、やるべきことを意識させ、そこに問いを提供し、本人に気付きを与える。「やりっぱなしのリーダーシップ研修は、忘れ去られる運命にあります。しかし、本当は事後こそ重要。『研修に投資するなら事後フォローに投資せよ』と言われるほどです。特に職場に帰った後に、それを意識してもらうと効果が大きい。コーチングは反復で、回数が多いほど効果が大きいというデータもあります」

最後に中原氏は、参加者に対してリーダーシップ研修に関するアドバイスを送り、講演を締めくくった。「リーダーシップ研修は効果がありますが、新人研修やスキル研修に比べると分散が大きいと言われています。まさにピンキリということです。その効果を確実にするには、研修を設計するときに、今日お話したような工程が入っているかどうか、必ず確認するようにしてください。本日はありがとうございました」

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