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キャリアコンサルティング体制整備の動き
今の時代に必要とされるキャリア支援とは?

  • 浅川 正健氏(浅川キャリア研究所 所長)
  • 下村 英雄氏(独立行政法人 労働政策研究・研修機構 主任研究員)
  • 水野 みち氏(株式会社日本マンパワー 研修事業部 研究・開発課 専門部長)
2015.12.24 掲載
株式会社日本マンパワー講演写真

多様なキャリア形成が認められる時代において、企業内にキャリアコンサルティング機能を持たせることに注目が集まっている。来年からは、キャリアコンサルタントが国家資格化されることも決定した。今回はキャリアコンサルティングの現場に詳しい浅川キャリア研究所所長の浅川正健氏、独立行政法人労働政策研究・研修機構の下村英雄氏、日本マンパワーの水野みち氏の3名が、今の時代に求められるキャリア支援について語り合った。

プロフィール
浅川 正健氏( 浅川キャリア研究所 所長)
浅川 正健 プロフィール写真

(あさかわ まさたけ)伊藤忠商事に入社後、1990年人事部に異動。1997年からディビジョン・カンパニー制のもと、カンパニーの人事・総務チーム長を4年経験。2000年12月キャリアカウンセラー資格(CDA)取得。2001年7月キャリアカウンセリング室創設。現在は、独立し企業内キャリアコンサルティングの普及啓発に従事。


下村 英雄氏( 独立行政法人 労働政策研究・研修機構 主任研究員)
下村 英雄 プロフィール写真

(しもむら ひでお)筑波大学大学院博士課程心理学研究科修了 博士(心理学)。1997年より現職。専門分野はキャリア心理学、キャリアガイダンス論。最新の労働政策研究報告書 では、「企業内キャリア・コンサルティングとその日本的特質」「欧州におけるキャリアガイダンス政策とその実践」等の調査・とりまとめに従事。


水野 みち氏( 株式会社日本マンパワー 研修事業部 研究・開発課 専門部長)
水野 みち プロフィール写真

(みずの みち)国際基督教大学卒業。1998年より、日本マンパワーのキャリアカウンセリング事業に携わる。2005年、米ペンシルバニア州立大学にて教育学修士を取得。帰国後、プログラム開発、及びキャリア相談機能設置コンサルテーションを担当。現在は、組織開発・企業内のキャリア支援に関する研究開発活動に従事。


キャリアコンサルティングは、多様化する個に対する新手段

日本マンパワーは1999年にキャリアコンサルタントの養成講座を立ち上げ、キャリアコンサルティングを活用した事業を推進する人材開発会社として知られる。まず同社の水野氏が、企業のキャリアコンサルティング体制の整備について、これまでの経緯や背景を解説した。

水野氏は、同社がキャリアコンサルタントの養成講座を立ち上げた当時、リストラや雇用調整が叫ばれる時代背景もあって、キャリアコンサルティングは職業相談というイメージで世の中広がったと語る。

「リストラや雇用調整が一段落すると、その後は企業内でのキャリア自律を図っていくという方向に、トレンドがシフトしていきました。少子高齢化による労働力不足も影響して、企業は多様な人材をいかに活かしていくかということを、考えなければならなくなっています」

2010年に同社は、東京大学 大学総合教育研究センター准教授の中原淳氏とタイアップイベントを開催し、キャリアコンサルティングが、対話(他者からのフィードバック)や内省(経験の意味に気付くこと)による経験学習を促進させ、キャリア自律につながる、という講演を行っている。そのイベントでは、キャリアコンサルティングによって、多様な人材が組織と目的価値を共有し、自律的にその目標を実現しようとする。そんな企業の取組みが紹介された。

「現在は、トレンドとして『組織開発』が注目されています。個人の健全な成長だけでなく、組織の健全な成長も実現するにはどうすればいいのか。制度や仕組みといったハード面だけでなく、ソフト面である人と人の関係性を見ていこうという流れが生まれています」

その中で2016年からは、キャリアコンサルタントの登録制が創設され、国家資格化となることが決定した。さらに、セルフ・キャリアドック(仮称)創設の案も出ており、企業内で定期的なキャリアコンサルティングを今後推進していこうという動きがある。このように、国もキャリアコンサルティングのこれからに注目している。

「今、企業が直面している人事課題を上げてみると、メンタルヘルス不調、若手社員の早期離職、シニア社員のやりがいの模索、女性の活躍推進、ダイバーシティへの対応など、さまざまです。多様な組織の課題に対しキャリアコンサルティングが、それらの答えを見つける新たな手段となると注目を集めています」

水野氏は、調査によると大企業の半数以上がすでに、社内で何らかの形でキャリアコンサルティングを行っていると語る。実際に企業がキャリアコンサルティングを導入する目的として、もっとも多いのは社員の自律支援。しかし導入後に、メンタルヘルス支援、ワーク・ライフ・バランス支援、ダイバーシティ推進などへ目的が拡がっていく。企業内キャリアコンサルティングは、さまざまな効果を秘めているのだ。

「企業内キャリアコンサルタントの活動領域は、個別支援にとどまりません。マネジャーの側面支援や関係調整、組織の実態把握、経営への報告、ダイバーシティの推進など、その役目は多岐にわたります。個人と組織、その両方の成長を考えることが、企業内キャリアコンサルタントに求められる役割なのです」

講演写真

現場から見るキャリアコンサルティングの姿

続いて浅川氏が、キャリアコンサルティングへの想いを語った。浅川氏は伊藤忠商事で人事を担当し、2001年には社内でキャリアカウンセリング室をスタート。2015年4月に独立し、企業内キャリアコンサルティングの普及啓発を支援している。

「いま職場のコミュニケーションは、本当にうまくいっているのでしょうか。そして、人事が社員から感謝されているのかどうかを、考えて欲しいのです。私が前職でキャリアカウンセリング室をつくったときは、1対1で丁寧に話を聴くことによって、『教える』のではなく『気付き』を与えることを第一に考えました。その頃は早期退職優遇制度があり、当時の社長は、『総合商社の財産は人である』との考えから、キャリアカウンセリング室が必要と判断したわけです。結果として、相談に来る社員だけでなく、現場の上司も巻き込みながら、この部署はアンテナ機能、相談機能、社内外への連携へとその役割は広がっていきました」

浅川氏は、誰もが気軽に来られる場づくりを心がけ、相談に来る社員にはいかに本音を語ってもらうかを大切にしたと語った。

「経営層は職場が明るくなるのであれば、このような試みに賛成するはずです。しかし、効果・成果指標として数字の説明なしに賛成してもらえるかというと、それは難しい。企業内キャリアコンサルタントとしては、数字も押さえていかなければなりません」

次に、下村氏が語った。下村氏は政府系研究機関にキャリア支援部門の研究員として勤務。大学院では心理学を専攻し、心理学の分野から分析を行っている。話の中では、最近は企業におけるキャリアコンサルティングが重要なトレンドとなってきたこと、キャリアコンサルティングを1990年代から研究しているが、当時はこれほど社会的に大きな存在になると思わなかったことが語られた。

「以前のキャリアコンサルティングの研究は米国のもので、密室での1対1における研究が行われていました。しかし、最近私が注目しているものは欧州の研究で、キャリアコンサルティングを取り巻く全体のシステムや体制のあり方です」

下村氏はこれをサッカーに例える。サッカーでは、問題が無ければゴールキーパーまでボールはこない。前の守備や、攻撃のシステムに問題がある時に、ゴールキーパーまでボールがくる。システムの異常に気が付きやすいのがゴールキーパーであり、これは1対1の個別支援を通して全体を見ているキャリアコンサルタントと同様だという。常に全体のシステムや体制とのかかわりで考えていく必要があると強調した。

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ディスカッション:
急に窓口を作っても相談しない。早期の取り組みが必要

水野:現在行われているキャリアコンサルティングの体制整備にはどのような背景があるのか、またその目的について、お二人にお聞きしたいと思います。

下村:目的として、社会の水準、組織の水準、個人の水準という三つの水準があると思っています。社会の水準では、国全体の生産性向上が目的としてあります。この先、労働力は減少していきますから、社会全体で労働力やスキルの適正な配分が行われることが重要です。組織の水準では、これまで組織内で解決できていた問題が、現在では組織内で解決できずシステムから漏れ出てきているという問題があると思います。最後の個人の水準では、働く人が画一的ではなくなり、いろんな思いや宗教・価値観で働く人に合わせる必要が出てきたことがあります。組織側も今は社員に「これに合わせる」といったシンプルな基準を示すことができなくなっていて、方向性を見失う社員も増えています。これらの水準が互いに関係し合っていることが背景にあると考えています。

浅川:私は現場の視点でお話したいと思います。社員は誰もが、イキイキと働きたいと思って入社します。しかし、実際の仕事はうまくいかないこともある。うまくいかないながらも企業組織の中で頑張っている人がいるからこそ、相談の情報がもれずに、いつでも話ができる仕組みがつくられることが重要です。そんな体制を国は今、セルフ・キャリアドック(仮称)という形で推進しようとしています。経営や人事に携わる方には、今そのような動きがあることに早く気付いてほしい。取り組みが遅れれば、法律ができたからと急に窓口を作っても、なかなか社員が相談に来てくれないでしょう。早くから経営陣や人事が社員を大切にすることを本気で考え、専門家を用意し、相談の体制を作っておくことが大事だと思います。

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水野:イキイキと社員が働ける環境をつくることが企業の活性化につながるということを改めて考えさせられます。では次の話題ですが、企業内のキャリアコンサルティングに期待される効果についてお伺いしたいと思います。

下村:企業内のキャリアコンサルティングには、三つの機能があると思っています。一つは人材を維持・保持、引き止めるリテンション機能があると思います。二つ目は、その過程で果たしている、関係調整や組織内の対話促進といった機能です。中には関係部署に掛けあって、関係調整に直接関与し、組織開発的な役割を行なっているのも最近の特徴です。この姿はキャリアコンサルタントの将来像のモデルといえるかもしれません。三つ目は、意味付与・価値提供機能です。例えば、「仕事の意味がわからない」という相談者には、新たな考え方や意味付けを促す。今企業内で方向を見失う社員が増えているので、方向を示す役割がキャリアコンサルタントに期待されていると思います。

浅川:私の経験から言えることは、相談に来て安心して話すことで、社員が元気になっていくことです。そして、結果として、社内のコミュニケーションがよくなり、そこからよい雰囲気が広がることは一つの目に見える効果だといえます。また、相談の場が起点となって、現場や経営との望ましい連携が生まれたことも重要な発見でした。相談の場がアンテナ機能になり、キャリアコンサルタントが相談者やその上司の心身の不調に気付くこともあります。さらに、提案機能も生まれます。私の場合は人事の組織の長と定例会を持つようになり、さらに、社内研修の講師という形で発信の場を得ることで、管理職の方々にその効果に気付いてもらうことができたように思います。活動することで組織に好ましい影響を与えることができるのです。

水野:最後に「キャリアコンサルティング体制整備」を推進される皆さまへ、メッセージをお願いします。

下村:先進的な企業では、キャリアコンサルティングが、さまざまな従業員支援の仕組みや、人事労務施策を円滑に運用するために不可欠なものとなっています。導入の際は、その他の仕組みや施策との連携を意識して、進めていくことから始めてください。

浅川:キャリアコンサルティングは、現場の社員から、その家族から、そして経営から感謝される仕組みです。企業内でキャリアコンサルティングを推進する方々で連携していきましょう。

水野:今日の話が、皆さまの企業の従業員の方々へのキャリア支援の一歩となることを願っています。本日はどうもありがとうございました。

講演写真
本講演企業

「人とキャリア」をキーワードに、キャリア開発のパイオニアとして50年以上事業を展開して参りました。日本マンパワーは、キャリア形成支援を通じて、個々が社会の中で自分らしく役割を果たし、お互いを尊重し合う、成熟した活力ある社会づくりに貢献します。

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