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[ 連載 : AIが切り拓くHRの未来 / 第1回 ] 第2回 / 第3回 / 第4回 / 第5回 / 第6回

人事3.0 - 人事の進化なくして第四次産業革命なし -

株式会社リクルートホールディングス 石山 洸 さん

株式会社リクルートホールディングス Recruit Institute of Technology 推進室 室長

石山 洸さん(イシヤマ コウ)

リクルートのAI研究所 Recruit Institute of Technology 推進室 室長。大学院在学中に修士2年間で18本の論文を書き、アラン・ケイの前でプレゼン。博士課程を飛び越して大学から助教のポジションをオファーされるも、リクルートに入社。雑誌・フリーペーパーから、デジタルメディアへのパラダイムシフトを牽引。リクルートとエンジェル投資家から支援を受け、資本金500万円で会社設立。同社を成長させ、3年間でバイアウト。その後、メディアテクノロジーラボの責任者を経て現職。

人事2.0 - 人事業務にAIを導入する9つのプロセス

人事業務にAIを導入する9つのプロセス

筆者は、本メディアを運営する株式会社アイ・キュー主催「HRカンファレンス2016-春-」と「HRカンファレンス2016 -秋-」の2回に登壇し、AI活用について多くの人事の方と議論する機会を得た。春から秋への半年間の変化として最も強く感じた点は、春の段階では人事業務へのAI導入自体に多くの人が懐疑的であったのが、秋の段階では人事業務へのAI導入を前提にイベントに参加している人が大半であった点である。まさに、人事1.0から人事2.0へ向けた進化を始めていると言えるであろう。

人事2.0は「AIがもたらすマッチングの進化 ~「外部人事データ」と「内部人事データ」の自然言語解析とは~」にあるような外部人事や内部人事でのAI導入が進んでいる状態を指すが、具体的に1.0から2.0へはどのようなプロセスで進化を遂げれば良いのであろうか。以下で具体的に9つのプロセスにブレイクダウンしてみよう。

人事1.0: 人事が人事の業務にAIを導入していない状態

- 導入意思の進化 -
人事1.1: 人事内の特定のメンバーにAI導入の意思がある
人事1.2: 人事内の全メンバーがAI導入の意思を持っている

- 目標設定の進化 -
人事1.3: どの人事業務を改善するか具体的な目的が定まっている
人事1.4: 目的実現のためのQCDがミッション化されている

- データインフラの進化 -
人事1.5: 分析に必要なデータの要件が定まっている
人事1.6: 分析に必要なデータが取得できている

- データサイエンスの進化 -
人事1.7: 分析依頼先のデータサイエンティストが決まっている
人事1.8: 分析結果からAI導入のROIを計算できている

- ビジネスプロセスの進化 -
人事1.9: 実験的導入により効果創出を確認できている
人事2.0: 人事が人事の業務にAIを導入している状態

まず、最初に実現しなければいけないのが「意思の進化」である。意思の進化が起きる原因としては、採用人数の拡大に応じた人事組織内の人数の肥大化や、過去の人事システムへのインフラ投資によって得られたデータをAI導入のために活用することによって回収したいというトップダウン型の進化である。

トップダウン型の進化は「必要は発明の母」として経営からオーダーされるケースが多く、1.1のプロセスが人事担当役員や人事部長によってけん引され、次第に組織全体に浸透する中で1.2の状態が実現される。もうひとつの意思の進化が起きる原因はボトムアップ型の進化であり、ITリテラシーの高い若手人事からの提案などによってスタートするケースだ。

どちらのケースでも、1.1から1.2への進化は単純なプロセスのように思われがちだが、必ずといって良いほど「抵抗勢力」が存在する。AIによって自分の仕事が無くなるのではという不安や、プロジェクトを進めるにあたって人事システムの担当者との合意が取れないなど、さまざまな障壁があるからだ。そのため、効率化によって新たにリソースを割り当てられる本質的な業務が何であるかというビジョンをすり合わせておくことや、人事システムの担当者をマネジメントできるようにITリテラシーの高い人材を人事内にアサインするなどの工夫が必要になる。

次に必要なのが「目標設定の進化」である。AI導入で最もありがちな失敗のパターンは目標設定がないまま、とにかくありもののデータとありもののアルゴリズムを活用するケースである。目的によって山の登り方は大きく変わるため、データ整備やアルゴリズムの選定を始める前に、どの人事業務を改善するか具体的な目的を定め、目的実現のためのQCDをミッション化するところから始めることをおすすめする。この目的設定は 1.1のプレーヤーによって要件定義されるとスムーズに進むことが多い。

なお、文科省・経産省・総務省が三省合同で進めている政府の「人工知能技術戦略会議」で議長を務める安西祐一郎氏は『問題解決の心理学 ―人間の時代への発想 』の中で目標設定の大切さを述べており、ぜひ、 1.4のプロセスを始める前に読んでいただきたい一冊である。

次に重要なのが「データインフラの進化」である。AI導入なのでディープラーニングの勉強から始めよう、というような検討をついつい始めがちであるが、2.0へ向かう最初の半分のプロセスを経ても、まだアルゴリズムは話題にならない。データサイエンティストは統計や機械学習には詳しいが、データインフラの整備を手伝ってくれないケースが多いため、1.7のプロセスとは別に必ずデータインフラを整備し、必要なデータの要件定義とその取得を行う人員を、データサイエンティストとは別途アサインしておくことが必要となる。

その後、ようやく「データサイエンスの進化」が始まる。社内にデータサイエンティストがいない場合はアウトソースするところから始めても良いが、アルゴリズムが納品されるたびに課金されることも多く、大企業であれば内製化することでコスト効率が良くなるケースが多い。大企業における内製化のパターンも3段階に分かれる。

データサイエンス1.0:まずは1人採用したデータサイエンティストによる「属人化」
データサイエンス2.0:ビッグデータ部などによる「組織化」
データサイエンス3.0:誰でも簡単にデータサイエンスができるツール導入による「民主化」

多くの日本の大企業がデータサイエンス2.0のフェーズにあるが、一部の企業はデータサイエンス3.0の「民主化」された世界を実現し始めており、人事内の非データサイエンティストがツールを利用することによって、機械学習を自ら行っているケースも生まれ始めている。データサイエンス3.0化のメリットとしては、ドメインナレッジのある担当者が直接的にアルゴリズムをつくることができるため、データの詳細を説明するなどの非効率なコミュニケーションの低下や、人事ノウハウを活かした新しいアルゴリズムの発見に寄与するケースが多い点である。

以上により、分析結果からAI導入のROIが定まると、いよいよ「ビジネスプロセスの進化」が始まる。だが、分析によって見立てられたROIと現実は必ずしも一致しないのが常である。まずは一部のプロセスで実験的な導入を行い、既存プロセスに対して本当に有効かを見定めた上で、本格導入を進めるのが良いであろう。

データサイエンス3.0

人事3.0 - AIを採用するのは人事。RPAは人事が牽引せよ!

人間を採用するのが人事なら、AIを採用するのも当然人事の役割だ。例えば、ある職務要件があるとしよう。この職務要件は10個の具体的なタスクをこなすためのスキルが必要である。これまで人事が行ってきたプロセスは、この10個のタスクをこなすことができる適切な人材を採用することだった。しかし、もし、このうちの8個のタスクをAIがこなすことができる場合はどうなるであろうか。当然、人事の仕事は「8個のタスクをこなすAIの採用」と「2個のタスクをこなす人材の採用」の両者のコンビネーションが必要となる。

現在、RPA(Robotics Process Automation)などの人工知能を応用することでホワイトカラーの生産性を向上させるソフトウェアの導入が盛んになってきているが、人事がいち早く人事業務にRPAの導入することができれば、ここでの成功事例を他組織に横展開することができる。そう遠くない将来に、人事担当役員とCTOの垣根はなくなっていくであろう。

以上で述べたとおり、第四次産業革命を牽引するのは人事の役割だ。本連載「AIが切り拓くHRの未来」は、この第1回を含む合計6回の連載を予定しており、人事1.0から3.0へと向かう具体的な事例やツールの紹介などを行っていく予定だ。

 


2017/01/17基礎石山洸第四次産業革命リクルートホールディングス

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