AIが学生の「優先度」「人物像」「辞退可能性」を表示
人事が良いと思う人材像を「見える化」するサービスを構築
株式会社マイナビ 就職情報事業本部 事業推進統括部 企画推進部 部長 朴相賢さん
株式会社三菱総合研究所 コンサルティング部 社会ICTイノベーション本 先進サービス開発グループ 主任研究員 山野高将さん
新卒採用で応募総数が増加。企業は膨大なエントリーシートを読まなければなりませんが、その負荷は大きく、公正に判断することが難しくなっています。また、評価基準を確立できず、主観評価にならざるを得ない企業も相変わらず多いようです。こういった課題を克服するために、株式会社マイナビと株式会社三菱総合研究所は、2016年10月にAIを利用した企業の採用活動を支援する「エントリーシート優先度診断サービス」、2017年10月に同サービスの汎用性および機能・精度を向上させた「AI優先度診断サービス」を共同で開発しました。開発の経緯および内容、今後の方向性について、マイナビの朴相賢さん、三菱総合研究所の山野高将さんにお話をうかがいました。
AIで「いかに有効なマッチングが可能か」を検証
サービスを開発する前は、「人・組織」にどのような課題があると認識されていましたか。
朴:マイナビには、全国ほぼすべての就活生が登録していますが、企業の掲載社数は、約2万3000社。そのため、ベストなマッチングを行うことが非常に困難になっていました。そのような状況下、企業が行う「母集団形成からの絞り込み」「内定出し」「入社準備」などの一連の流れに、いかに有用なデータを提供できるかが課題だと考えていました。
山野:扱う学生のデータ量が膨大なため、企業には「適切に評価しきれていないのではないか」という強い課題意識があります。また、自社に適した人材、採用で求める人材の人物像を定義し共有するのも、簡単なようでなかなか難しいことです。結果、評価の多くを主観評価に依存することになり、ミスマッチが生じてしまっているのが現実です。そのような状況にありながら、どんな方法が有効なのかも把握できていませんでした。だからこそ、人事の皆さんが我々のサービスの中で興味を持たれているのは、これまでの主観的な評価に加え、客観的な評価基準を確立できる点なのだと思います。そういったことから、現在の選考基準は属人的で、ブレが生じているという課題意識が強まりました。
そんな中、エントリーシートを診断するサービスを開発されたわけですね。
山野:2015年にAIを用いて、データから要望に合った人をマッチングできるか、という技術検証を行いました。1年かけて検証し、めどが立った段階でマイナビ社に共同開発・製品化について相談しました。並行して、関心のある企業に協力してもらいながら、市場ニーズにどのようなソリューションが合うのか、どの点を強化すべきなのかなどについて調査し、2016年10月にサービスをリリースしました。
朴:当社には、2万3000社分の学生の応募データや、アクセスオンラインのデータベースといった、より精緻なデータがあります。これらを使って、次世代にどのようなサービスが可能かを考えていたところ三菱総合研究所さんから声がかかり、共同で開発することになりました。
AIが約600時間もかかっていた
書類選考を4割削減
サービスの特長についてお教えください。
朴:手順としては、まず企業に、前年分の新卒採用周辺のデータを提出していただきます。データはエントリーシート、データベースに溜まっているログイン情報、説明会への参加情報、適性テストの情報などで、これらを読み込ませてエントリーシートの合否データを基に基本となる学習データを作成します。次に今年の新卒採用に関するデータを、その学習データに通すことで、学生の「優先度」「人物像」「辞退可能性」の三点を表示するというのが基本サービスです。これにより、採用の客観性と高速性が実現されます。本サービスをご利用いただいているサッポロビール様では、約600時間もかかっていた書類選考が4割程度削減されました。また、他サービスとの違いでいえば、選考過程がブラックボックス化されない点も大きな特長です。企業ごとに与えられる情報の中から、選考やHRに関わる項目を独自のアルゴリズムで解析し、その企業オリジナルの選考モデルを確認しながらつくることができます。
大枠の条件から、徐々にシャープな選考が可能になっていくということでしょうか。
山野:人事の方がなんとなく考える「良い人材像」があっても、以前はそれを証明できず、振り返る手立てもありませんでした。しかし、本サービスでは、企業が重視する人材の要件を、対応するデータを示しながら影響度とともに確認することができます。企業によっては、個人のリーダーシップ要素がマイナスに影響し、リーダーシップ力が低い人ほど通りやすい傾向が出たこともあります。このように自社の選考プロセスを可視化できるとともに、求める人物像の見直しも容易に行えるようになります。過去のデータ上の「真」と、人事担当者が持つ経験・知見・ノウハウ、さらには年ごとに変わる採用方針も踏まえ、企業にとって最適なモデルを人の判断でカスタマイズしていけるのが最大の強みです。
朴:「5分で人物がわかる」という職人技を持つベテラン人事がいても、その能力を引き継ぐことはこれまで不可能でした。このサービスで、ベテラン人事の採用基準をきちんと見える化して引き継げる点は大きなメリットだと思います。
今後の目標および展望をお教えください。
朴:引き続き、学生と企業のベストマッチングな出会いを創出していきたいですね。当社にとっては学生も企業も大事なお客様ですので、学生にはより自分にあった就業先とのマッチングの機会提供を、そして企業に対しても、自社で活躍する人材との最適なマッチングを推進していく役割を担いたいと思います。
山野:現在のサービスの最適化・高度化はもちろんですが、人事には採用のみならず多様な領域でのデータ活用に関するニーズがあると考えています。入社後にパフォーマンスを出していく人をどう評価し、またその候補をいかに少ない情報から予測するか、あるいは配属のミスマッチなどの理由により早期に退職・休職してしまう人をいかに早期に発見し予防していくかなど、特徴的な人の特性について知りたいとの声があるので、その要望に応えたいと考えています。企業と求職者とのより良いマッチングが実現し、一人ひとりが高い満足度で就労する環境を得やすくなることで、働き方改革の本質的な課題である生産性向上も実現するのではないでしょうか。
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