AIによるエントリーシート選考が“攻めの採用”を加速させる
500時間の工数を削減した“ソフトバンク流”未来の新卒採用(前編)
源田 泰之さん(ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長)
中村 彰太さん(ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 人材採用部 採用企画課 課長)
2017/08/08実践、活用事例、採用、エントリーシート、ソフトバンク、IBM Watson、日本IBM、人工知能(AI)
ソフトバンク株式会社は、2017年5月末から新卒採用活動におけるエントリーシートの選考に、人工知能「IBM Watson」を活用しています。同社の採用責任者を務める、統括部長の源田泰之さんはこう語ります。「今回導入したAIに対する信頼性は高く、導入によって多くの工数が削減され、公平な選考を実現できています」。その導入の背景には何があり、どんなプロセスを経てきたのでしょうか。また、具体的にどのような成果が出ていて、今後の方向性をどのように考えているのでしょうか。同社採用・人材開発統括部のお二人に詳しいお話をうかがいました。
- 源田 泰之さん(ゲンダ ヤスユキ)
- ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長
1998年入社。営業を経験後、2008年より現職。新卒および中途採用全体の責任者。ソフトバンクグループ社員向けの研修期間であるソフトバンクユニバーシティ、後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア、新規事業提案制度(ソフトバンクイノベンチャー)の事務局責任者。ソフトバンクユニバーシティでは、経営理念の実現に向けて社員への研修を企画し、社内認定講師制度などのユニークな人材育成の制度を運用。また、大学でのキャリア講義や人材育成に関する講演実績など多数。
- 中村 彰太さん(ナカムラ ショウタ)
- ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 人材採用部 採用企画課 課長
2011年入社。新卒採用担当を2年経験後、社内人事制度(等級、評価、報酬、各種サーベイ)の企画・運用に携わる。その他に人事システムの開発・運用、人材戦略の企画・立案を経験し、2017年より現職。
AIによる書類選考を導入した背景には「攻めの採用」があった
貴社では2017年の5月末から、新卒採用のエントリーシート(以下、ES)選考においてAIを活用しているそうですね。
源田:はい。IBMが提供するWatsonの自然言語分類技術を用いて、応募者が記載した内容を分析し、合否を判断しています。さまざまな試行錯誤を経て、そのジャッジの精度は信頼できるレベルに達しています。導入後、ES選考に要する人的な工数は、約1/4にまで短縮されました。
その背景として、ソフトバンクではどのような新卒採用活動を行っているのか、お聞かせいただけますか。
源田:かなり多彩な採用活動を行っているのが特徴です。そのベースになっているのは、「ユニバーサル採用」という考え方。留学生、海外在住の大学生、第二新卒などのあらゆる対象を、入社時に30歳未満であれば、時期を問わずに新卒採用枠として募集しています。決められた時期に一括で採用するのではなく、必要なときに必要な人材を採用する方が、企業にとっても学生にとっても良いと考えているからです。
それに加えて、1年前に大きな変化がありました。従来のように大量の母集団を形成する「待ちの採用」から、ターゲットとなる学生に積極的にアプローチする「攻めの採用」へとシフトしたのです。たとえば、以前から継続して行っている施策に、「No.1採用」という手法があります。何らかの分野でトップを取った経験を、応募の条件としているものです。また、地方の課題解決に取り組む「地方創生インターン」や、ロボットのPepperを活用した「ハッカソン採用」なども行ってきました。優秀な理系学生を求めて、大学の研究室や高専に直接出向くようにもなりました。
中村:攻めの採用にシフトしていくためには、既存業務の効率化を図る必要もあり、AIによるES選考を導入したのです。もともと、いくつかのテクノロジーを用いた業務効率化を模索していたのですが、その中にはESも対象として入っていて、IBM Watsonを活用したアプローチを検討しました。
どうしてWatsonを選ばれたのですか。
源田:Watsonに軍配が上がった理由は、社内での活用事例があったことが大きいかもしれません。すでに法人営業部門において、人の話し言葉を聞き取り、その意味もつかむことができる「自然言語分類」技術を導入していたんです。今回はそのノウハウを持つAI関連部署と、人事が共同で検討を進めていきました。
共同検討といっても人事側で関与したのは、採用企画を担当している、安藤という女性だけ。彼女がほぼ一人で、通常の採用業務も同時に進めながら、たった3ヵ月間でシステムを完成させてしまいました。完成の報告を聞いて「もう、できたの?」と驚いたのを覚えています。