Mixed Realityの可能性
~日本航空の「仮想」訓練プロジェクト~(前編)
速水 孝治さん(日本航空株式会社 商品・サービス企画本部 業務部 業務グループ グループ長)
会議室でヘッドセットを装着すると、ゴーグル越しに3Dホログラムでできた「コックピット空間」や「ボーイング787機のエンジン」が現れる。そして、それらを自らの指で操作することで、臨場感の高い訓練体験を実現できる。このようなMixed Reality(MR/複合現実)の技術が近年高まってきています。
日本航空ではこのMixed Reality技術を活用したパイロットや整備士の「仮想」訓練の実用化に向けて、Microsoft社との共同プロジェクトに取り組んでいます。最新のテクノロジーは、トレーニング・研修の在り方をどのように変えていくのか。同社でプロジェクトリーダーを務める速水孝治さんに、仮想訓練のメリットやプロジェクトの背景などについてうかがいました。
- 速水 孝治さん(ハヤミズ コウジ)
- 日本航空株式会社 商品・サービス企画本部 業務部 業務グループ グループ長
1992年入社、2000年旅客制度部、2008年国際営業部等を経て、2014年より現職。今回のHoloLensコンセプトモデル開発プロジェクトの代表を務める。
HoloLensを活用した仮想訓練
Microsoft社との共同プロジェクトについて教えてください。
パイロットや整備士の訓練生トレーニングは、お客さまの安全・安心を守るうえで最も重要なテーマの一つであると私たちは考えています。一方、その訓練を行う上で常に課題となるのは「場所と時間の制約」でした。フライトシミュレーターは利用できる台数や設置場所が限られており、実際に航空機に付いているエンジン整備の訓練は地上駐機中の機体でないと実施できません。
そのため、Microsoft社が開発したヘッドマウントディスプレイ型のコンピューター「HoloLens(ホロレンズ)」を活用し、パイロットと整備士の訓練生がいつでも訓練できるコンセプトモデルを開発しました。まずは、こちらの動画をご覧ください。
動画をご覧いただくとわかるのですが、コックピットの計器・スイッチやエンジンのパーツの一つひとつまで精緻に3Dホログラム映像で再現されています。まるで目の前にコックピット空間やエンジンが実機のように映し出され、画面に表示されるインストラクションや音声ガイドによって、臨場感の高い訓練を行うことが可能です。
VR(バーチャルリアリティ)機器ではなく、MRを活用されている理由について教えてください。
MRと同様、VRもリアルな3D表現が可能ですが、VRの場合はゴーグルで完全に視界を遮ってVR空間に没入するため、訓練者自身の手を自然なかたちで画面内に表示させることには、まだ課題があります。一方、HoloLensはゴーグルが半透明で、訓練者の手や指といった現実世界のものを3Dホログラム映像とあわせて表示することができます。そのため、実際に自らの手を動かして操作するイメージを持ちやすいというメリットがあります。また、HoloLensは同じ3Dホログラム映像を複数人で見ることができますので、多人数での訓練にも対応することが可能です。
さらに、HoloLensは現在市場に出ているVR機器の多くと違ってスタンドアロンで稼働し、PCやケーブルを使わずにワイヤレスで稼働できるため、たとえばエンジンの周囲を自由に歩き回れることもメリットの一つです。実際に、この会議室であってもHoloLensのヘッドマウントディスプレイを装着すればコックピットやエンジンを出現させることができます。機器さえあれば、特定の場所に行かずとも訓練を行うことができることは、大きなメリットとなります。