サイエンスカンパニー 3Mにおける、テクノロジー人材の「創造性」と、組織の「効率性」の両立(後編)
渋谷 和久さん(スリーエム ジャパン株式会社 人事本部 人事統轄部長)
46のコア技術を組み合わせ、さらにさまざまな業界へと展開させることで、約5万5000種もの製品を生み出してきた3M。同社では今も、次々と製品開発がすすめられています。
前編では『日本の人事部 HRアカデミー 2016夏期講座』でのスリーエム ジャパン渋谷和久さんのお話をもとに、その歴史と製品づくりの仕組みをお伝えしました。後編ではさらに、技術者のイノベーションを生み出す同社の企業文化と、「創造性」を「効率性」と両立させるための取り組みをお伝えします。
- 渋谷 和久さん(シブヤ カズヒサ)
- スリーエム ジャパン株式会社 人事本部 人事統轄部長
1963年神奈川県生まれ。武蔵工業大学機械工学科卒業、1986年住友スリーエム株式会社(現スリーエム ジャパン株式会社)入社。工務部門、労働組合副委員長を経て、人事部門に異動。ビジネスパートナー人事、労政、賃金および福利厚生を担当し、2012年12月より現職。日本人材マネジメント協会で人材マネジメント基礎講座の講師を2008年から務める。
イノベーションを支える「失敗の許容」と「耐えるマネジメント」
渋谷さんは、現在の風土を醸成することになった大きなポイントとして、「失敗の許容」と「耐えるマネジメント」を挙げます。
「3Mの企業文化を語るうえで、1949年から1966年までCEOを務めたWilliam McKnightの存在は欠かせません。『3M中興の祖』と呼ばれる彼は、事業が成長していく中で『管理職は権限を委譲していかなければならない』と考え、当時の経営幹部たちに手紙を書いたといいます。
その手紙の中には、忍耐を持って部下に権限と責任を委譲することの重要性と、それによって社員の創造性を引き出すことができるはずだ、と記されていました。McKnightは、たとえ誤りがあったとしても、それを犯したものが基本的に正しいのであれば、その誤りは重大ではない、と言いました。
どんなに正しいプロセスを踏んでも、結果が出ないことはあります。それは大きな問題ではありません。彼はむしろ上司のマネジメントが独裁的になり、部下に対して細かく指示したり、誤りを批判したりするほうが問題だ、と考えていました。上司が口を出したい気持ちに耐えることで、社員は自主性を持って働くことができるようになります」
渋谷さんは、この考え方にこそ3Mの企業文化の礎がある、といいます。自主性を持った社員が多く働いていることが、イノベーションを起こし続ける3Mの大きな強みとなっているのです。
就業時間を自分が興味のあることにあてる
「15パーセントカルチャー」
もし就業時間のうち一定の時間を、自分が興味のあることにあてていい、と言われれば、皆さんは一体何をするでしょうか。3Mには、それを認める「15パーセントカルチャー」という文化があります。その際、社員は会社の設備を使用することもできる、と渋谷さんは言います。
「所属する部署を超えて協力し合うことも認められています。技術者はそれぞれに得意とする技術分野があります。3Mでは事業部制をとっているため、普段は別々に仕事をしている社員でも、一つの研究のために声を掛け合って集まることができ、技術者同士の人脈作りにも役立っています。
15パーセントカルチャーは制度や規定ではなく、研究の成果は評価の対象外とされています。そのため社員は自分のやりたい研究に自由に挑戦でき、結果としてイノベーションと多様なテクノロジーの融合が促進されているのです。
他にも、技術者の横断的な活動を推進するために『テクニカルフォーラム』というイベントを開催しています。社員の自主運営によるもので、技術テーマごとの30以上の勉強会と、最新技術の情報を共有するポスター展示会を実施。専門外であっても常に最新の技術知識に触れることができるため、技術を組み合わせることでイノベーションを起こす3Mの進化を支えています」