人材の価値を最大限に引き出し、企業の持続的な成長を実現する

日本の人事部 人的資本経営

イベントレポート2022/09/09

人的資本経営コンソーシアム設立総会 開催レポート

人的資本情報開示産官学

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人的資本経営コンソーシアム設立総会 開催レポート

人的資本経営について対話を行う「人的資本経営コンソーシアム」が設立された。このコンソーシアムは人的資本経営の実践に関する先進事例の共有、企業間協力に向けた議論、効果的な情報開示の検討を官民一体で行う場となる。すでに全国で320法人の参加が決定。人的資本経営コンソーシアムに参加することで「人への投資」に積極的な日本企業に対し、世界中から資金が集まり、次なる成長へとつながることが期待されている。2022年8月25日に開かれた設立総会では発起人挨拶、コンソーシアムの活動内容の説明などが行われた。

プログラム

  • 開会挨拶
    発起人代表 一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤 邦雄氏
  • 挨拶
    経済産業大臣 西村 康稔氏
  • 発起人挨拶
    • キリンホールディングス株式会社 代表取締役社長 磯崎 功典氏
    • 株式会社リクルート 代表取締役社長 北村 吉弘氏
    • SOMPOホールディングス株式会社 グループCEO 取締役代表執行役会長 櫻田 謙悟氏
    • 株式会社日立製作所 取締役会長 代表執行役 東原 敏昭氏
    • ソニーグループ株式会社 代表執行役 会長 兼 社長 CEO 吉田 憲一郎氏
  • 基調講演
    アセットマネジメントOne株式会社 取締役社長 菅野 暁氏
  • 人的コンソーシアムの活動について
    経済産業省 大臣官房審議官(経済産業政策局担当) 蓮井 智哉氏
  • 閉会挨拶
    内閣府 金融担当副大臣 藤丸 敏氏

開会挨拶
発起人代表 一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤 邦雄氏

はじめに、発起人代表である伊藤氏が開会の挨拶を行った。伊藤氏は近年における人材の価値の高まりについて解説した。

「我が国では持続的企業価値を創造するために、2010年代からコーポレートガバナンス改革を進めています。そこで重要なファクトといえるのは、企業価値の決定因子が有形資産から無形資産に移行している点です。その無形資産の中で、まさにど真ん中といえるのが人材、人的資本です。人的資本の価値を高めることで無形資産の価値を高め、それをテコとして企業価値を持続的に創造していくことが大変重要な時代になってきました」

発起人代表 一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤 邦雄氏

企業評価における人的資本の重要性が高まる中で、情報開示のあり方についても議論が進んでいる。金融庁では有価証券報告書に人的資本、さらに多様性について開示してほしいとしており、さらに内閣官房では人的資本の可視化が目標とされている。まさに企業に今、変革が求められている。

「日本企業の社員を大事にして長期雇用するスタイルが、かつて世界から評価された時代がありました。しかし、経営環境が変化し、人々の価値観も変化する中でそのアップデートが求められています。人的資本経営を本当の意味で日本に根付かせるために、本日お集まりの皆さん、またオンラインで聞かれている皆さんがぜひ推進役となっていただきたい。さらに、投資家の皆さんとの対話の中で、あるいは報告書の中で、企業価値創造のストーリーの中で、人的資本投資の取り組みをぜひ語っていただきたい。人的資本経営を進化させるとともに、人への投資に積極的な企業が国内さらには世界から評価されるよう、皆さんと一緒に人的資本経営コンソーシアムの活動を推進していきたいと思います」

挨拶
経済産業大臣 西村 康稔氏

経済産業大臣 西村 康稔氏

次に、西村経済産業大臣から挨拶の言葉が贈られた。

「コロナ禍という時代の大きな転換点において、これからの日本の未来を切り開くカギはやはり人材です。『人材版伊藤レポート』には、さまざまなアイデアや事例が掲載されています。企業と人材が選び選ばれる関係に変えるといったキーワードや、人的支援、人的資源の価値創造といった大きな方向性についても書かれています。ぜひこうした内容を基礎にしながら、新しいコンソーシアムで日本社会全体、そして世界を睨んだ大きな視野を持つ人材を育てていく。そんな場になることを期待しています」

発起人挨拶

続いて、コンソーシアム設立の発起人から挨拶が行われた。

キリンホールディングス株式会社 代表取締役社長
磯崎 功典氏

磯崎 功典氏

磯崎氏は、人材戦略などの非財務情報は、企業の将来にわたる経営の力を表す指標として、重要性が増していると語る。キリングループにおいても、人的支援への投資は最優先課題として位置づけられ、従業員のエンゲージメント、女性経営職とキャリア採用の比率、労働安全衛生を非財務指標に掲げている。2024年時点の目標値を公表し、取り組みを進めているという。すでに達成した項目もあり、女性のキャリア採用比率は2022年に30%という目標に対して40%となっている。こうしたキャリア採用を通じて組織の多様性が加速され、事業ポートフォリオの変革や事業拡大の推進力が増していることを感じているという。

「我々には、人的資本を企業価値向上にどう結び付けられるかが問われています。そこには定量化、構造化、あるいは企業独自の指標の設定など数多くの課題があります。このコンソーシアムに産官学の有識者が集まって知恵を絞ることで、日本全体の人的資本経営が一層進むことを期待しています」

株式会社リクルート 代表取締役社長
北村 吉弘氏

北村 吉弘氏

「私どもリクルートは創業以来、一貫して個の尊重、そして『価値の源泉は人である』をテーマに事業展開を進めてきました。そういった意味で、今回は発起人の一社としてここに立っていることは大変光栄に思っています」

北村氏は、人材サービスを提供する事業者といった観点でも、人材を量的な意味を持つ資源ではなく、資本と捉えることが一番の肝になると話す。経営の進化とともに、人材の進化をセットで考え、掛け算的に組み合わせることにより、指数関数的な成長、持続的な成長が期待できると話す。

「今回参加された皆さまと共に大いに学び、そして情報を共有して、新しい日本企業のあり方を模索したいと考えています」

SOMPOホールディングス株式会社 グループCEO 取締役代表執行役会長
櫻田 謙悟氏

櫻田 謙悟氏

櫻田氏は、挨拶で日本と諸外国の経済成長について触れ、「日本経済は成長していますが、残念ながら相対的には貧しくなっているといえます」と語った。1990年から2020年までの30年間、日本は名目GDPが1.5倍に成長。一方で、米国は3.5倍、ドイツは2.3倍、中国は37倍という成長を見せている。こうした閉塞感を打破するには、日本の中で日本らしいイノベーションや挑戦の機運を高める必要があり、挑戦の総量を増やすには人への投資、とりわけ、人々の意識が挑戦や変革に向かうような教育への投資、制度づくりが重要だという。

「このコンソーシアムではWhat・何をやるかではなく、How・どうやって実現するかというところに力を注ぎたい。人的資本のみならず、社会課題に立ち向かう企業がどのような具体的なHowをもって、それらを実現していくのか。こういった点についても貢献していきたいと考えています」

株式会社日立製作所 取締役会長 代表執行役
東原 敏昭氏

東原 敏昭氏

日立グループは、37万人の多国籍の従業員とともに、いかに社会課題を解決しながら、世界中の人々のウェルビーイングを実現するかということに注力している。特に社会イノベーション事業では、鉄道やパワーグリットといったインフラにデジタル技術を加え、より高度なインフラを提供。人々のクオリティーオブライフを向上させるといった活動を行っている。

「個人の一日の仕事がどれだけ社会に貢献したのか。社会とのつながりを意識しながら主体的に社会課題を自分事と捉え、世の中を変えていくような人材育成を行っていきたい。政府には2050年までにAIロボティックスを実現するという目標があります。そういった中で人の働き方はどうなるかという点も意識しながら、コンソーシアムの参画メンバーと共に、2050年を見据えた新しい日本の社会のあり方を議論したいと思います」

ソニーグループ株式会社 代表執行役 会長 兼 社長 CEO
吉田 憲一郎氏

吉田 憲一郎氏

吉田氏はまず、「このコンソーシアムが日本における人的資本を軸とした、経営の背中を押すムーブメントになることを期待しています」と語った。

ソニーには、人的資本経営の基盤として「クリエイティビティーとテクノロジーの力で世界を感動で満たす」というパーパスがある。社員と向き合う中で生まれ、2018年度に策定されたものだ。吉田氏は、このパーパスを、事業を推進する社員との約束事と捉えているという。「私はM&Aも人への投資と考えています」として、2018年度以降、1兆円を超えるM&Aを実施してきたことに触れた。

「人的資本経営はROEと別の話ではなく、企業へのリターンに直結するものと考えています。コンソーシアムでの学びを活かして、人的資本経営について学び、投資家との対話に臨んでいきたいと思います」

基調講演
アセットマネジメントOne株式会社 取締役社長 菅野 暁氏

次にアセットマネジメントOneの菅野社長による基調講演が行われた。近年、人的資本経営が急速に注目されているのは、海外における情報開示の影響が大きいと菅野氏はいう。

具体的には、2020年に米国SECが人的資本の開示を義務付けたころから、急速に人的資本が注目されるようになった。また、日本国内でいえば、有価証券報告書へ開示義務化のインパクトが大きかったと振り返る。今後はメディアによって企業のデータが比較され、それが企業の人材獲得競争力やブランドイメージに影響することも起こり得る環境になり、企業の関心が高まるのは必然だと話す。

ここで菅野氏は「世界的になぜ開示強化が行われてきたのか、その背景を考えることがより重要」と強調した。

「開示強化の背景には、人種や性別に基づく職場差別と、人的資本投資の不足に対する問題意識があると思います。人的資本に関する議論は、イノベーションの源泉という視点と、人権という視点の二つの視点から取り組んでいく必要があります」

次に菅野氏は人材投資に関するグラフを提示した。日本の人的資本投資を海外と比較したものだ。日本は一人当たりGDP、平均賃金において数字が低いだけではなく、人的資本投資も縮小トレンドが続いている。このようになった背景には、企業経営者や投資家が「人件費がコストである」とみなしてきたことが関係すると語る。

この流れを逆転させるには、人件費の一部はコストではなく、将来に向けた投資であると認識する必要がある。人的資本経営によって生産性向上と賃金上昇の好循環が生まれ、かつ株価上昇などにより投資のリターンを獲得できるという姿が理想だ。

では、そうした状況を生み出すために資産運用会社は何ができるのか。菅野氏は「企業が社会に対してネガティブな影響を極小化し、ポジティブな側面を極大化させることを通じて、投資家に中長期的に持続可能なリターンを提供し続けることを目指していきたい」と語る。そうした中で、投資家ができることは、対話を通じて経営戦略や施策実行の状況を確認し、情報開示を促し、さらなる取り組みを求めること。すなわち、PDCAのチェックだ。

菅野 暁氏

「ここで申し上げておきたいのは『企業評価を高める取り組み』と『企業存続の前提として必須の取り組み』では性質が大きく異なる、ということです。例えば、人権差別への対応は企業活動の大前提となります。また、ダイバーシティについても、社会の構成員として公平性を担保する方向に導かなければならないという視点と、これらがフィナンシャルにインパクトをもたらすという視点、この両方をしっかり踏まえて企業と投資家が対話を行っていく必要があります」

一方、人的資本経営には、企業ごとの個別性に起因する難しさがある。

「業種、規模、歴史、業界順位など、各社の置かれた状況は大きく異なります。課題もさまざまであり、『こう対処すればいい』といった一般的な打ち手もありません。投資家の視点でいえば、情報が少ないことも悩ましいところです。競合上の問題やセンシティブな要素があることから、人的資本の強みや課題を示す情報データの開示はあまり進んでいないのが現状です」

こうした制約がある中でポイントとなるのは、CEOよる戦略説明だという。企業が置かれた状況をもっともよく知るCEOには、投資家が知りたい情報を語ることが期待されている。また菅野氏は、人事部門長であるCHROにもっと投資家の前に出て語ってほしいと感じているという。

「対話の機会は増えていますが、質的にはまだまだ向上させなければなりません。そこで我々が企業に期待するのは、KPIを設定して経過をしっかり開示することです。なぜその数字を設定したか、数字を達成することで何が可能になるかということを丁寧に説明してほしいと思います」

最後に、企業のCFOには人的資本の価値、人的資本投資の費用対効果など定量化にチャレンジしてほしいと語った。

「人的資本投資の効果について、企業は数字で示し、CFOがそのプロジェクトや前提を語ることによって、人的資本投資の拡大に対する投資家の理解がより得られやすくなるのではないでしょうか。CEOが戦略を語り、CHROが取り組みを説明し、CFOが数字面でのロジックを解説する。人的資本経営を投資家に浸透させるには、そうしたフォーメーションが有効であり、期待しています」

人的資本経営コンソーシアムの活動について
経済産業省 大臣官房審議官(経済産業政策局担当) 蓮井 智哉氏

蓮井 智哉氏

次に人的資本経営コンソーシアムの今後の活動について、蓮井氏から説明が行われた。

「人的資本経営コンソーシアムは、人的資本経営の実践と開示について会員企業が智恵を持ち合い、先進事例や悩みを共有することで、全体として人的資本経営を進展させる場としていきたいと考えています」

コンソーシアムは、総会の他に企画委員会、実践委員会、開示委員会、会員と投資家との対話の場という形で構成される。総会では各委員会およびダイアログの活動状況を報告し、活動計画を発表。企画委員会では各委員会およびダイアログの活動計画の提案と議論。実践委員会では実践に関する先進事例を共有し、企業間協力などに向けて議論する。開示委員会では開示に関する先進事例を共有し、効果的な情報開示の在り方について議論を行う。会員と投資家との対話の場では、CEOと投資家が人的資本について対話する。

会員間さらには日本経済全体や投資家を含め、議論の内容を国内外に発信していく重要性にも触れた。専用のウェブサイトを解説し、議論の成果については対外的にも積極的に発信していく方針だという。

閉会挨拶
内閣府 金融担当副大臣 藤丸 敏氏

藤丸 敏

最後に藤丸氏による閉会挨拶で、総会は締めくくられた。

「近年、ESG投資の拡大に伴って、サステナビリティ情報の重要性が高まっています。サステナビリティ開示が充実し、人的資本を含むESG投資が拡大することが期待されています。とりわけ新しい資本主義の実現に向けては、人的資本が企業の持続的な価値創造の基盤となることについて、企業の投資家で共通の認識を持つことが重要です。今後、人的資本経営コンソーシアムが人的資本への投資の促進に貢献すると共に、企業と投資家間の建設的な対話に資する、新しい資本主義に向けた持続的な価値創造、さらに成長と分配の好循環を実現する推進力になることを期待します」

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。


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