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【ヨミ】ギグエコノミー ギグ・エコノミー

「ギグ・エコノミー(Gig Economy)」とは、インターネットを通じた単発の仕事でお金を稼ぐといった働き方や、そうした仕事でお金が回っている経済のことをいいます。「ギグ(gig)」とは、ライブハウスなどでギタリストやサックスの演奏者が、ゲストとして一度限りのセッションを行なうこと意味しています。

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1. ギグ・エコノミーとは?

ギグ・エコノミーが注目されてきた背景と最近の動向

ギグ・エコノミーが注目される以前から単発の仕事をする働き方はありましたが、テクノロジーの発達とともに、インターネットを介して仕事を見つけることが容易になり、単発の仕事で経済が回るという状況がより強くなってきました。また、社会の仕事の状況も変化し、以前は正社員を雇って実施していた業務も、外部の企業やフリーランスなどに外注することが多くなってきました。

また、自由な働き方を求める人も増えています。一般の会社員のように、決められた時間に出社し、決められた仕事をするのではなく、自分のライフスタイルに合わせて仕事と時間を選ぶ新しい働き方が好まれるようになりました。

しかし、ギグ・エコノミーのような働き方は、働く人にとって不利になりやすいという課題もあります。例えば、社会保障が十分ではなく、労働者が「搾取」される構造ができやすくなっています。

そのため、米国カリフォルニア州ではいち早く「ギグ法」が成立し、不当にギグ労働者に分類されている人を、明確な雇用体系の中に位置づけるような政策が打ち出されています。従来と同じ仕事をしているのに、社会保障を受けられず、保険も適用されない労働者を、保護しようという動きが出てきているのです。

近年、日本でもフリーランスになったり副業をしたりする人が増えており、労働法を見直す方針が打ち出されています。2019年現在の法律では、フリーランスや個人事業主は、労働基準法など一般の労働者を守る法律が適用されず、法定労働時間や、時間外労働の割増賃金、年次有給休暇、労働保険の保障などを受けられずにいます。これらの法律は、フリーランスなどにも適用すべきという見方が強まっていることから、法律の側がギグ・エコノミーに適用するよう変更されていくかもしれません。

例えば、これまで個人事業主には最低報酬額というものがありませんでしたが、2020年の4月から「同一労働同一賃金」制度が始まる流れで、最低報酬額の設置が検討されはじめています。

参照
独立行政法人労働政策研究・研修機構/ギグ法を巡る議論―ギグ・エコノミー下の労働者の権利
フォーブス /ギグ・エコノミー、ついに法で規制 米カリフォルニア州で新法成立へ
日本経済新聞 / フリーランス支援へ法整備 厚労省、デジタル経済対応

2. ギグ・エコノミーと他の用語との違い

ギグ・エコノミーと副業の違い?シェアリング・エコノミーや、クラウドソーシングなどとの関係

ギグ・エコノミー的な働き方と副業が一緒のものだと、混同されることがよくあります。しかし、ギグ・エコノミーとは単発の仕事を「受ける」ことで成り立つ働き方を意味しており、副業で服を仕入れて販売をすることや、カフェの営業経営などは含まれません。つまり、「自分が経営者になる」場合は副業ということができても、ギグ・エコノミー的な働き方とは異なるのです。

「シェアリング・エコノミー」も、ギグ・エコノミーとは異なります。一般にシェアリング・エコノミーとは、使っていない時間に自宅の空き部屋を貸し出す、車を貸し出すなど、ちょっとした副業として自分の「モノ」を貸し出す(シェアリングする)という働き方や、経済のあり方のことを意味しています。ギグ・エコノミーは、「モノ」を貸し出すというよりも、単発の仕事を請け負い、自分の労働力や時間を提供するといった意味合いを含んでいるため、シェアリング・エコノミーとの違いは明白です。

また、企業がインターネットを通じて労働者に仕事を発注することを「クラウドソーシング」と言います。このようは働き方をする人は、まさにギグ・エコノミーだといえるでしょう。ただし、クラウドソーシングとは、主に仕事を依頼する企業側の目線に立った名称であるのに対し、ギグ・エコノミーはその労働者や経済形態に注目した名称だといえます。フリーランスの働き方をより広い見方で見たとき、それをギグ・エコノミーだと捉えることもできるでしょう。

3. ギグ・エコノミーのメリット・デメリット

それでは、ギグ・エコノミーにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

企業側のメリット・デメリット

メリット

企業側のメリットとして、正社員の雇用と比べてコストが抑えられる点が挙げられます。例えば、システムの開発や営業活動の一部などは、すでにクラウドサービスや、ギグ・エコノミーの担い手たちに委ねられているケースもあります。

また、人手不足で困っている企業にも、単発で仕事を依頼できる経済形態は有用なはずです。社会保障や年次有給休暇制度、福利厚生などのコストも削減できる企業側のメリットもありましたが、今後ギグ・エコノミー労働者に対する保護施策が具現化した際には、そのメリットに変化が生じるかもしれません。

デメリット

ギグ・エコノミーを活用した場合、結果として社内に十分な知識や技術が蓄積できないデメリットがあります。確かに、コストが削減され、人手不足を解消しやすいとはいえ、企業が競争優位を保つためには、競合他社にない強みが必要であり、それには技術や知識といった蓄積が欠かせません。

また、労働環境によってはコンプライアンス面での問題が発生することを理解しておくべきでしょう。確かにギグ・エコノミーでコスト削減をすることができるのですが、長時間の労働を強いたり、無理な注文を繰り返したりすると、それが明らかになった場合には企業のイメージが悪化する危険性があります。

労働者側のメリット・デメリット

メリット

労働者にとってギグ・エコノミーは、企業の縛りから逃れ、自分のライフスタイルに柔軟性をもたらすきっかけとなる可能性があります。特に高い技能や知識を持っている人にとっては、自由に労働環境を選ぶことができ、好きな仕事もできるなど、メリットが多いでしょう。ワーク・ライフ・バランスの充実も期待できます。

デメリット

しかし反対に、高いスキルがない状態でギグ・エコノミーに巻き込まれてしまうと、単に搾取されるだけといったことにもなりかねません。現状では、ギグ・エコノミーのような働き方への保護施策は不十分であり、仕事中に怪我をしたり、長時間労働をしたりしても、労働者の自己責任になってしまうことが多くあります。

また、安定した仕事を獲得するのにも苦労するかもしれません。ギグ・エコノミーでは、基本的に自分で仕事を獲得します。そのため、高いスキルや能力を持っていなければ、よりよい条件の仕事を得られず、安い仕事しか回ってこない危険性があります。もし、自分のスキルに自信がない場合は、しっかりとスキルを身につけてからこのような働き方にチャレンジする方が現実的といえるかもしれません。

ギグ・エコノミーが従業員に与える影響

単発仕事の受託を基本とするギグ・エコノミーは、自分の労働時間よりも、スキルの売買で成り立っています。高いスキルがなければ、参入は困難だといえるでしょう。

しかし、ギグ・エコノミーにあえて参入しない人にも、メリットがないとは言えません。特に日本の場合、ギグ・エコノミーの発展は少子高齢化による労働者不足に基づいている側面があるからです。

こうした背景から、人手不足に悩む企業は社員が自宅で作業するリモート勤務制度や、コアタイムも設けず自由に出勤してもいい制度(スーパーフレックスタイム制)などを採り入れ、ギグ・エコノミーと似たような働き方を、社内に取り入れるという動きも出てきています。

上述したように、正社員の雇用には社内に技術や知識を蓄積できるメリットがあります。そのため、社内の全業務をフリーランスなどに業務委託をすることは現実的ではありません。しかし、周囲に自由な働き方が多くなってくると、あえて不自由な企業で働く人は少なくなってしまいます。

このようなことから、ギグ・エコノミーなどの自由な働き方が発展していくとともに、一般企業でも働き方が改善されることが考えられます。日本社会において少子高齢化は避けられないため、徐々にギグ・エコノミー型の社会に変わっていく可能性もあります。また、企業で働く人にとっても、すきま時間に単発の仕事を受けることで、収入を増やすことができるかもしれません。

3. 今後も発展が予想されるギグ・エコノミー

人手不足が加速し、終身雇用から脱却していく流れが強まる中で、ギグ・エコノミーは、今後普及していくことが予測されます。労働者の中にも、さまざまな仕事をこなして経験を積みたいと考える人は増えているでしょう。働き手を保護する施策はまだ十分ではありませんが、一つの場所や仕事にとらわれずに、自分の選択した仕事をする働き方は今まで以上に広がりを見せるかもしれません。

参考資料

・「ギグ・エコノミー 人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方」
著者: ダイアン・マルケイ、 門脇弘典 日経BP
・「ギグ・エコノミー襲来: 新しい市場・人材・ビジネスモデル」
著者: マリオン・マクガバン Cccメディアハウス
・「デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか: 労働力余剰と人類の富」
著者: ライアン・エイヴェント 東洋経済
独立行政法人労働政策研究・研修機構/ギグ法を巡る議論―ギグ・エコノミー下の労働者の権利
日経ビジネス/「ギグ・エコノミー」で人生を変えよう
フォーブス /ギグ・エコノミー、ついに法で規制 米カリフォルニア州で新法成立へ
日本経済新聞 / フリーランス支援へ法整備 厚労省、デジタル経済対応

企画・編集:『日本の人事部』編集部