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トレンドキーパーソンに聞く2019/12/12

テクノロジー活用には組織や仕事の棚卸しと
再デザインが不可欠
いま人事に求められる科学的な定義力とは

東京大学大学院 経済学研究科・経済学部 教授

柳川範之さん

AI柳川範之HRテクノロジー基礎実践

テクノロジー活用で人にしかできない仕事に集中を

東京大学大学院 経済学研究科・経済学部 教授 柳川範之さん

テクノロジーの導入によって、人事の仕事も位置づけが変わってくることが予想されます。

そうですね。企業全体で見たとき、テクノロジーの導入が進めば、従業員に求められる役割は変わってくるはずです。新しい仕組みによって、仕事の枠組みや方法が変わるわけですから。仕事のやり方が変われば、組織の方向性や評価の仕組みなどもブラッシュアップすることになる。それは経営改革そのものです。人事には経営の視点がますます必要となるでしょう。

働き方の多様化は、労働市場の流動化にもつながります。タレントマネジメントを適切に行う上でも、テクノロジーの力を借りる必要が出てくるのではないでしょうか。

これまでも人事は、さまざまな観点でタレントマネジメントを行ってきたと思います。しかし、中途入社の人材が多くなればなるほど、キャリアや経歴のパターンは多様化します。すると能力を評価するにあたり、従来の物差しでは適切に測れない事態も起こりうるでしょう。その点ではタレントマネジメントやパフォーマンス評価に、データ活用を取り入れることは必要だと感じます。だからといって、人の評価をオートマティックに行えるというような、単純な話ではないと私は見ています。タレントを構成する要素は実に多面的ですから、どんなに技術が進んだとしても「人の目」はなくならないはずです。その証拠に、あれだけ先進的なシリコンバレーの企業ですらリファラル採用が活発です。テクノロジーと人のコンビネーションが重要で、そのバランスを見極められるのは、やはり人なのです。

つまり、これまでどれだけ「その人自身」にフォーカスしてきたかに尽きます。その人のことを見ていたつもりでも、学歴や配属先、成績などの属性バイアスに影響されなかったといいきれるかどうか。確かにこの部分だけを切り取れば、テクノロジーに任せた方がより高次な分析ができるかもしれません。しかし配置や採用というのは、その人をよく観察し、能力や性格を熟知した上で行われるべきで、そこに人が介入する意味があります。つまり、テクノロジーを活用することで、人にしかできない人材の評価に集中できるようになるのではということです。

例えば、採用面接でのやり取りを解析してポテンシャルの高い人材の回答傾向を探る、リファラルの推薦状をデータ化して入社後活躍している社員に共通するキーワードを抽出する、といったことなどもテクノロジー活用の一例として考えられます。一方、採用では直感が作用する場面もあるはずで、その「直感」が正しかったのかをデータアナリシスにより検証する余地があるといえます。つまり、テクノロジーと人の融合を図るには、テクノロジーを扱う人間に科学的観点をもって定義する力、そしてデータを適切に評価する力が求められるのだと思います。

組織運営の枠組みの再デザインがテクノロジー活用の第一歩

データを適切に評価する力は理解できます。一方の、科学的観点をもって定義する力とはどのようなものでしょう。

例えばエンジニアを採用するにあたり、その企業の技術トレンドに合った人を採る場合と、汎用的な技術力を持つ人を採る場合とでは、同じエンジニアでも異なる人物像(ペルソナ)が浮かび上がるでしょう。また前者と後者は、企業の成長フェーズによって採用する比率を変えていいはずです。

しかしながら、こうしたことを綿密に整理して採用できている企業は、果たしてどれくらいあるでしょうか。「優秀なエンジニアなら、どの部署でも対応できるはず」とひとまとめにして、出身大学や専攻などで結局判断している企業もあるかもしれません。しかし、期待される優秀さの質や条件は配属先によって異なりますし、できるだけペルソナに近い人物であるほうが、現場で力を発揮できることは想像に難くありません。そして長期的、かつ広い範囲で見た場合に、組織の成長スピードにも影響してくると考えられます。

経営戦略や組織ビジョンからブレイクダウンして、より具体的な判断軸を設けることが大切なのですね。

科学的観点を用いた定義化は、データやテクノロジーの活用に不可欠な作業といえます。考えてもみてください。優秀なエンジニアという判断軸では、あまりに漠然としているでしょう。クリアな軸を持っていなければ、目の前に出された結果に対して適切な判断はできません。

ディープラーニング領域では、ブラックボックス(人間にはAIの出した判断の根拠がわからなくなること)の問題もあります。

だからこそ、人間サイドが軸を持つことが重要なのです。最先端のテクノロジーを取り入れたとしても、その活用法によっては思うような成果が得られない可能性もあります。いずれにしろ、組織や経営のあるべき姿から基準軸を落とし込むことと並行し、仕事や働き方、組織運営の枠組みをデザインし直すことが、テクノロジーとうまく付き合う第一歩だと思います。

東京大学大学院 経済学研究科・経済学部 教授 柳川範之さん

AI柳川範之HRテクノロジー基礎実践

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