HR Technologyカンファレンス2017

HR Tech(HRテック) ~人と組織の新しい可能性を創る~

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人工知能やビッグデータは、働き方改革にどのように貢献できるか
~日立製作所が解明した、センサーを使った幸福感の測定と生産性向上の方法とは~(後編)

矢野 和男さん(株式会社日立製作所 研究開発グループ技師長)

株式会社日立製作所 ピープル・アナリティクスの活用

前編では、日立製作所の研究開発グループ技師長である矢野和男さんに、人工知能に関する誤解や米国と日本の活用状況の違い、企業とテクノロジーをめぐる環境変化についてお話をうかがいました。後編では、同社が提供する幸福感(ハピネス)の測定とは何か、それによって何が明らかになるのか。生産性の向上をどのように図り、それが働き方改革にどのように影響するのかについて語っていただきました。

株式会社日立製作所 研究開発グループ技師長 矢野 和男さん

株式会社日立製作所 研究開発グループ技師長

矢野 和男さん(ヤノ カズオ)

1984年日立製作所入社。2003年頃からビッグデータの収集・活用技術で世界を牽引してきた。論文被引用2,500件、特許出願350件。人工知能からナノテクまで専門性の広さと深さで知られる。現在、研究開発グループ技師長。著書『データの見えざる手』は2014年のビジネス書ベスト10(Bookvinegar)に選ばれる。工学博士。IEEE フェロー。

人や職場が「ハピネス(幸福感)」の状態にないと、生産性は大きく低下

人事にとって、いま重要かつ緊急度の高い課題が「働き方改革」です。現状をどのようにご覧になっていますか。

働き方改革の根本にある目的は、生産性を上げることです。よりもうける、稼ぐ、新たな価値を生み出す――。生産性を数字で示すと「分母に労働時間、分子に生み出した価値」という姿になります。長時間労働の規制とは分母を小さくすることですが、そのままでは分子も小さくなり、生産性が低くなってしまいます。そのため、分子をどう大きくするかが課題ですが、簡単なことではありません。なぜかというと、分子である新たな価値は簡単に測れないからです。

例えば、私が所属する研究開発という業務はもっともその物差しがない部署といえます。一方、営業のように金額という数字が出る部署なら簡単に測れると思われるかもしれませんが、実はそれも難しい。例えばA部門が既存の大きな顧客を相手にしていて、B部門が新規開拓をしている場合は一律に測れません。まして営業以外の部署で生産性を測ることは、相当難しい。日本企業では、どの部門も生産性を計測できない状況にあります。

では、テクノロジーを利用して生産性を測定することは可能なのでしょうか。

何らかの基準で生産性を測り、フィードバックができないと、生産性向上という課題は解決できません。そこで私たちが提唱しているのが、働く人の幸福感=「ハピネス」という概念です。これは人間が生産的であることを普遍的、客観的に示せる指標です。

「生産的でない」とは、どういう状態なのでしょうか。例えば「嵐が来たから部屋の中でじっとしていよう」という状態は、まったく生産的ではありません。とにかく避難しよう、避けようとしている状態です。こういうときに生まれるように人類進化の中で生まれたものが「アンハッピー=不幸」という感情です。「ほかのことは考えず、とにかく災難を避けることに集中しろ」ということを促すためです。

ハピネス、幸福感とは、それとまったく逆の状態。例えば、「ちょっと自分には難しい課題に思えるが、なんとか糸口をつかんで解決することにチャレンジしよう、よりよい結果が出るように頑張ろう」という前向きな状態です。ハピネスとは「お金が得られた」「健康になった」「人間関係が良くなった」という結果を指すのではありません。私がこの20年、ハピネスを研究してきた結論は、「前向きに行動しようとする、その行動そのものがハピネス」ということです。そして、ハピネスの状態にある人は、生産性が高い人といえます。

ハピネスを測定できれば、自身を高めるため、より合理的に活動することができます。私たちは研究を重ね、集団の幸福感を身体運動の特徴パターンから「ハピネス度」として定量化する技術を開発しました。さらに最近はデータ取得に関わるコストも現実的なものになってきました。

株式会社日立製作所 研究開発グループ技師長 矢野 和男さん:職場での行動データを取得できる、加速度センサー

職場での行動データを取得できる、
加速度センサー

私たちは人に加速度センサーや赤外線センサーを装着してもらうことで、その人がどんな行動をしたか、誰と対面したのかなどを把握しています。この中でも加速度センサーで取得できる、体の動きのデータが深い情報を持っているのです。オフィスワーカーの体の動きを取ってどうするのか、と思うかもしれません。ところが研究の結果、人間は無意識のうちに幸せかそうでないかということを、微妙な体の動きとして常に表現しているということがわかってきました。さらに、これに影響を与える要因として、作業やデスクワーク、会議、立ち話にどれくらい時間を使ったのか。コミュニケーションに関しても、誰と会ったのか、会話では話し手と聞き手のどちらだったのかなど、いろんな情報を取っています。さらに、社内のITシステムを分析すれば、誰がどのタイミングで受注し、いつデリバリーしたか、といったデータも取得できます。このように多くのデータを人工知能で分析すると、職場がどれくらいハピネスが高く、どうすればハピネスを向上できるのかのヒントが得られます。さまざまな職場でハピネスが生産性と相関することが実証されました。

ハピネスは新しい概念だけに、それをすぐに理解することは難しいように感じます。

この研究を始めて10年ほど経ちますが、最初のころはハピネスなどと言うと、宗教の話ではないかと思われることもありました。ハピネスという言葉自体は漠とした印象がありますし、また科学的に計測できるとは思いもつかないですよね。しかし、試行錯誤の末にハピネスを客観的に測定できるようになり、さらに、どのような条件になればハピネスが高まるのかをデータから自動で見出せる人工知能をつくることに成功しました。それを「Hitachi AI Technology/H」と呼んでいます。AIという言葉が世の中に流通するかなり前から開発に投資してきたことが生きました。

日立製作所ではさまざまな分野で、年間にトータル10兆円ほどの売り上げがあります。それだけ毎日、さまざまな顧客と接点を持っているということです。2年前からハピネス測定をいろいろな企業にご提案していますが、既に20社以上に導入していただきました。業種は製造業から金融、サービス業とさまざま。現在も多くのご依頼をいただいていて、お待ちいただくほどの状況です。

私は経営者の方とお話しする機会が多いのですが、「変化の激しい時代は、従業員が自ら活発に動かないと乗り越えられない」など、ハピネスという考え方に共感する声を多くいただいています。

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