人工知能やビッグデータは、働き方改革にどのように貢献できるか
~日立製作所が解明した、センサーを使った幸福感の測定と生産性向上の方法とは~(前編)
矢野 和男さん(株式会社日立製作所 研究開発グループ技師長)
「環境変化をもたらすテクノロジー」と「それに対抗するテクノロジー」。その両面への理解が必要
日立製作所にとって、人事分野をどのようなマーケットととして捉えていますか。
私たちは14年前から、人工知能やビッグデータの研究を始めました。世の中でもいち早く取り組んだ分、たくさん失敗もしましたが、人に関するデータには特別な意味があると考え、重点的にデータを取って分析してきました。近年はセンサーツールも高度化しているので、人のデータを取って分析し提供することが容易になってきています。
一方、日本企業の人事部門はこれまで、人の採用や評価を行い、会社に必要な特定のファンクションを制度によってコントロールすることが仕事と思われてきました。しかし現在は、さまざまな環境変化が起きています。私も企業の経営者や人事の方に日々お会いするなかで、経営トップからの人事に対する期待が大きく変わってきているように感じています。今後、人事分野は人工知能の大きなマーケットになっていくと思います。
近年、企業ではどのような環境の変化が起きていますか。
これまでの業種や業態で分かれたビジネスの枠組みが、デジタルによる人工知能、IoT、ビッグデータなどの力によって、その垣根が壊されようとしています。そのような流れは遅かれ早かれ、あらゆる業種やビジネスにやってくるでしょう。どの経営者も人事に対して、「企業を変革させる」「トランスフォーメーションを起こす」といった使命を考えていると思います。企業の変化において、もっとも重要な要素となるのは人間ですから。
日立もプロダクトをつくって納める手法から、ソリューションやサービスを顧客起点で考える、また顧客が上げたいKPIからスタートし提供するものを考える、といった手法にシフトしています。そうすると、人のスキルセットや働き方、営業スタイル、顧客への対面方法、研究開発のやり方など、すべてを変えていかなければいけない。今後人事には、そういった設計をすべて考える役割が求められるかもしれません。これからの人事には、企業の変革を主導していくような、より大きな立場が期待されると思います。
これから人事とテクノロジーはより密接になっていく、ということですね。
これから起きる変革には、テクノロジーという大波が必ずやってきます。環境変化にもテクノロジーが関わってきますし、それに対して変わろうとする動きでも、やはりテクノロジーが使われます。その両面で、テクノロジーを理解していなければいけません。最近は企業が新たな方向性を考えるとき、経営者の方々から「その方向性が分かっている人と話がしたい」ということで、私に依頼が来ることが増えています。依頼を受け、取締役会で話をしたり、こうしてインタビューをお受けしたりする機会が増えました。企業において人事に期待される役割は、大きく変わろうとしています。だからこそ、私は人事の変革に期待していますし、その中で私たちの技術が大きな役割を果たせるのではないかと思っています。