ウェアラブルデバイスが“働く”を変える
― 集中を可視化するメガネから見える未来 ―(前編)
井上 一鷹さん(株式会社ジェイアイエヌ JINS MEMEグループ 事業開発担当)
2016/10/18実践、ジェイアイエヌ、JINS MEME、井上一鷹、ウェアラブルデバイス
実験を通して見えてきた、集中や眠気のパターン
「眼の動き」「まばたき」「姿勢」を測定の要素として選んだ理由を教えてください。
人間の生活の中で、メガネはパンツの次に着用時間が長いといわれています。加えて頭に近い部分に装着されるため、脳のはたらきの測定にも役立つデバイスになりうると考えていました。
その可能性を探っていく大きなヒントとなったのは、東北大学加齢医学研究所 川島隆太先生との出会いでした。川島先生は脳の状態を測る研究の中で、認知症患者には眼の動きや体の重心に特徴があることに気がついていたそうです。
その傾向は医療関係者であれば暗黙的に目視で感じていたものなのですが、これまで数値として測定できていませんでした。そこで私たちは、これらをメガネで測定することにしました。脳の状態を知れば、ゆくゆくは認知症を予防できるようになるのではないかと考えたのです。
また、実験からデータを集める中で、「目の動き」「まばたき」「姿勢」がどのように眠気や集中などと結びついているのかが見えてきました。長時間着用可能なデバイスからこれらの情報を得ることができれば、認知症予防以外の分野にも役立ちます。
集中力を見える化し、鍛える
JINS MEMEはどのようなシーンで利用できるのでしょうか。
現在、利用方法は大きく三つあります。一つ目は運転時の眠気の測定。ドライバーの眠気を測定することで、事故を未然に防ぐことができるでしょう。また、危険の伴う作業中に測定を行うことで、安全管理に利用することもできます。
二つ目がフィットネス。体幹などを測ることで、ランニングフォームや歩行時の姿勢、体幹トレーニングなどに役立てることができます。そして三つ目がオフィスでの利用です。「集中力」を測り、鍛えることが主な目的です。
集中力を鍛えるには、どうすればよいのでしょうか。
何かを「鍛える」上では、自分の状態をファクトや数字で表し、改善していくことが非常に重要です。例えば短距離走の選手は、ストップウォッチでタイムを確認します。タイムが伸び悩んだ際には改善点を考え、また計測します。そうすることで、常にPDCAサイクルを回しているのです。
これまでオフィスワーカーにとって、自身の集中の度合いを数値で表すことは困難でした。しかしデバイスを使って自分の状態を可視化できれば、それをもとに改善していくことが可能になります。
場面に応じて測定を行い、比較することで、自分自身がどんなとき、どのような行動をとれば集中力が高まるのか知ることができます。その傾向を前提としたうえでサイクルを回せば、集中力の強化に役立てられるでしょう。
今、ライフログ情報をHR領域にも応用しようという動きが出てきている、と井上さんは言います。後編ではその内容をもとに、収集した情報をHR領域でどう活かせるか、可能性を探ります。