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脳波を測定し、“感じていること”を可視化する
感性把握技術から探る今後のHRの可能性とは(後編)

森下 さおりさん(株式会社電通サイエンスジャム プロデューサー)

2016/09/30実践電通サイエンスジャム感性アナライザ森下さおり脳波

株式会社電通サイエンスジャム

個人の脳波を測定することによって、その人が今どのように感じているかを測る感性把握技術は、マーケティングや商品開発の領域で応用が進んでいます。前編では、その感性把握技術のしくみと活用例をご紹介しました。株式会社電通サイエンスジャムでプロデューサーを務める森下さおりさんは、本人ですら自覚していなかった感性までもが可視化されるこの技術は、HR領域のさまざまな分野でも応用が可能であると言います。後編では、森下さんへのインタビューをもとに、編集部がHR領域での感性把握技術応用の可能性を探ります。

株式会社電通サイエンスジャム プロデューサー 森下 さおりさん
森下 さおりさん(モリシタ サオリ)
株式会社電通サイエンスジャム プロデューサー

1990年 株式会社リコー入社。電子デバイス開発事業部勤務を経て、2004年より2005年国際万博「愛・地球博」運営ならびにアテンダントリーダー、大手広告代理店メディア・営業に従事。2008年 株式会社サイバー・コミュニケーションズに勤務。メディアプランニングや運用型広告を扱いながら新規事業関連部門に携わり、2013年 株式会社電通CDC次世代コミュニケーション開発部(現CDC)を経て、同8月株式会社電通サイエンスジャムの立ち上げに参画。共同・委託研究コンサルティングを中心に、研究技術と企業課題の融合を推進するプロジェクトや「感性アナライザ」などのサービス立ち上げと推進を行っている。

電気学会 / 電子情報通信学会 / 日本感性工学会 / 情報処理学会 会員 医療福祉情報連携コーディネーター / 半導体製品製造技能士

HR領域への「感性把握技術」応用の可能性

株式会社電通サイエンスジャム

(1)理想のオフィス環境

まず考えられるのは、感性を測定することでさらに快適なオフィス環境を生む、という活用法です。例えば感性把握技術の活用事例の中には、改装された店舗の空間を利用者がどのように感じているのか、その変化を測定するというものがあります。この応用として、オフィスの中にいる社員の状態を知ることで、より社員が働きやすいオフィスを設計することが可能になるかもしれません。

あるいは、ストレスなく仕事のできるオフィス家具の選択や、リラックスできる休憩スペースの設計などにおいても、感性把握技術は応用が可能でしょう。人事考課や業績推移データと結びつけて解析を行い、「従業員の成績が上がるオフィス」を定義・設計することがでれば、導入した企業の大きな強みとなるはずです。

(2)最適な休憩のとり方とリモートワーク

「休憩のとり方によって、どのように社員の感性値が上下するのかを検討するケースもあります」と、森下さんは言います。どの時間帯にどのくらいの長さで休憩をとれば、どれほど集中力が上がり、ストレスは下がるのか。現在はなんとなくとっている休憩を、感性値の分析によって可視化し、より効果的に休息をとることができれば、業務効率の向上にも繋がるでしょう。

また、近年多くの企業で導入が進むリモートワークの実現に向けても、感性把握技術の活用が期待できます。従業員のパフォーマンスを可視化することで、その効果を予測することができるかもしれないからです。単純な測定だけではなく、より効果的にリモートワークを導入できる環境を分析することで、導入した従業員の勤務時における行動指針を作ることもできるでしょう。また、より自社にフィットしたかたちに、制度をカスタマイズすることで、導入時の負担を減らすこともできるかもしれません。

(3)人事関連システムのUI / UX改善

感性把握は被験者の定性的なデータを取得できるため、システムのUI(User Interface)/UX(User Experience)の改善とも非常に親和性が高い技術です。これは、人事関連システムにおいても例外ではありません。例えば社内アンケートツールなどのシステムを社員に使ってもらいながら感性値を計測することで、入力の際にどのフェーズがストレスになっているのかを計測することができます。このデータを活用すれば、より社員の使いやすいツールを設計することが可能になります。

また、社内向けのシステムに限らず、採用やインターンシップエントリーフォームの設計などでも応用が期待できます。UI / UXの改善を行うことで、WEBエントリーの入力時に離脱していた候補者に新しいアプローチが可能になれば、今まで出会えなかった、より素晴らしい人材の採用に活かせるはずです。

(4)採用力向上

人材採用時の面接官のコミュニケーションスキルの向上や、採用セミナーの設計・運用は、企業の人材獲得において非常に重要な課題です。候補者と企業との最も大きな接点となるため、候補者の企業に対するイメージを大きく左右するからです。採用時に候補者が抱く印象を、感性把握技術により可視化し、改善のトレーニングを行えば、より求めている人材を獲得できる可能性が高まります。

(5)ハイパフォーマー分析

ハイパフォーマーのコンピテンシー抽出も、人事にとっては関心の高いテーマの一つです。社員同士を比較した例として、ハイパフォーマー(熟練者)と新人社員の同じ業務中の取得データの状態を比較した例があります。測定結果は1秒ごとにタブレット端末へ送られますが、計測時の体動によりグラフ上にわずかな遮断が生まれることがあります。この実験では、作業中の熟練者の体動の割合と新人社員の体動の割合を数回分比較することで、両者の作業習熟の違いと傾向が明らかになりました。

新入社員の体動は常に全体の約20パーセントに及んでいましたが、熟練者の体動の割合は、わずか数パーセントだったそうです。このようなハイパフォーマーとの比較から見えるデータに、感性値以外の情報も併せれば、更に検討を深めることもできるでしょう。

森下さんは、「『感性アナライザ』のような装置開発のハード面においても、あるいはデータ収集のソフト面においても、ここ数年の技術力の進歩によって応用の可能性が広がってきました」と話します。今後、より多くの事例やデータを集積して組み合わせることで、その企業ごとのハイパフォーマーを感性値によって可視化し、人材のさらなる活用や、人事戦略に結びつけることも可能になるはずです。本人も気付いていない強みを、感性把握によって示すことのできる未来も、そう遠くはないかもしれません。

HR領域への「感性把握技術」応用の可能性
(1)オフィス環境 業務時の感性値分析による、従業員の働きやすいオフィスの実現
(2)社員の働き方 休憩前後での感性値変化の測定による、業務効率を上げる休憩の長さ / 時間帯の分析
リモートワーク実施社員の感性値分析による、業務効率可視化と改善方法の分析
(3)人事関連システム 社内の人事系システム導入時の、感性値分析によるUX/UIの向上
採用エントリーフォーム使用時の、感性値分析によるUX/UIの向上
(4)採用 候補者の「感じ方」測定に基づいた面接官トレーニング / 採用セミナー分析
(5)評価 ハイパフォーマーの感性の可視化による、ハイパフォーマー分析とコンピテンシーの抽出

2016/09/30実践電通サイエンスジャム感性アナライザ森下さおり脳波

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