採用ミスマッチを解消し、人材の適材適所の実現を目指す
動画面接プラットフォーム「HARUTAKA(ハルタカ)」
株式会社ZENKIGEN 代表取締役CEO
野澤 比日樹さん
「人材採用の難易度は上がり続ける」といわれるようになって久しい昨今、企業は競って採用活動に取り組んでいます。しかし、採用活動に時間を取られるあまり、人事の重要な役割の一つである社員の育成やサポートなどが不十分になることは悩ましい問題です。このような問題を解決すべく、動画面接プラットフォーム「HARUTAKA(ハルタカ)」を提供しているのが、株式会社ZENKIGEN。HRテクノロジーによって採用活動の生産性を向上し、自社で活躍できる人材を採用できる仕組みを目指しています。代表取締役CEOの野澤比日樹さんに、サービスの開発背景やその特長、今後の展望についてお話をうかがいました。
動画面接で企業と求職者双方の生産性を向上し、就職活動の不平等解消も目指す
近年の採用市場をどのように捉えていますか。
とにかく採用が難しい、ということに尽きます。多くの企業で、人事が採用活動に相当な力を入れていますが、私はここに二つの課題を感じています。一つは、人事は働き方改革の旗振り役であるにもかかわらず、採用に関連する業務に追われて自身の労働環境が悪化していること。もう一つは、採用後の新入社員の育成やフォローに手が回らないことです。そのため、せっかく採用できた人材が定着しないという問題が起きています。
人材採用が難しい根本的な理由は、日本の労働人口が減っていることにありますから、今後ますます採用難が深刻化することは明らかです。さらに、若者はITなどの新しい産業分野に関心を持つことが多く、成熟した産業では大企業であっても、簡単に人を採用できる時代ではなくなっています。
その課題を踏まえて「HARUTAKA」を開発するに至った背景をお教えください。
企業が採用活動を行う場合、非常にコストや時間がかかります。説明会の会場を確保し、ときには数百人の学生に連絡をする必要があります。また、昨今は都市部の企業が地方の学生を求めて遠方に出向くケースも増えていますから、企業や人事の負担はますます重くなっています。
学生から見ても、企業が設定した日時に説明会や面接の会場に行くことができなければ、チャンスが閉ざされてしまいます。時間、場所、距離の問題が、就職活動の不公平性を生んでいるのではないでしょうか。
また、多くの費用をかけて候補者を増やしているにもかかわらず、ミスマッチが起きていることも問題です。サイバーエージェントに勤めていたころ、12年間で約3,000人の学生を面接しました。複数回の面接を経た学生と面接をしていましたが、明らかに自社とカルチャーフィットしない学生が来ることもありました。しかし、こうしたケースでも互いに面接を放棄できるわけではありません。地方在住の学生がキャリーケースを引き、多くの費用をかけて面接に来たにもかかわらず、こうした理由で採用に至らないことも目にしました。こうしたアンマッチはお互いにとって不幸ですから、採用活動の生産性を向上したいと思い、ZENKIGENを創業して「HARUTAKA」を開発しました。
「HARUTAKA」の特長や、導入企業の反応をお教えください。
「HARUTAKA」は、動画を活用して採用活動の生産性を向上するプラットフォームです。例えば、「録画動画面接」の機能を使えば、応募者が都合の良い時間に撮影した動画をクラウド上に蓄積でき、企業はその動画を見て候補者を選考することができます。「ライブ面接」の機能もあり、どんなに企業と候補者が離れていても、プラットフォーム上で時間を調整して、遠隔面接を行うことが可能です。
動画の優れた点は、人柄や表情、雰囲気、情熱など、非言語情報も伝えられる点にあります。同じようなことが書かれたエントリーシートだけでは、候補者を多面的に知ることは難しいものですが、実際に話す様子を見ることで、雰囲気や人となりを知ることができ、より多くの情報から「自社と相性が良さそう」といった感覚を得ることができます。
現在、「HARUTAKA」は150社以上に有料導入されていますが、当社が想像もしなかったような使い方や成果が生まれています。例えば、ある企業ではエントリーを全て動画で受け付け、以降の面接もオンラインか対面かを学生自身が選択できる採用フローに変更しました。テクノロジーを活用し、接触回数を増やしたことで内定者の入社率が従来の40%から61%に上昇したと聞きました。もちろん、人事担当者の努力も相まっての成果ですが、これだけ人が採れないと言われる現在においては、驚異的な伸びですよね。
候補者体験の向上を目指し、AIを活用した面接官向けの新プロダクトも
新プロダクトの開発も進められているそうですね。
採用面接には企業、候補者の双方が膨大な時間をかけているにもかかわらず、多くの問題を抱えています。ある調査によると、採用面接を受けた人のうち85%の人が面接後にその企業への入社志望度を下げた経験があり、その理由の75%は「面接官の不快な態度・言動」だったそうです。
そこで当社は採用活動の「効率化」だけではなく、「面接の場」そのものの質を上げたいと考え、現在は「ZIGAN(ジガン)」という新プロダクトの開発を進めています。「ZIGAN」は、録画した採用面接の映像から、表情や仕草、発話スピードなど多様な項目を数値化、分析、フィードバックをします。つまり、候補者を選ぶためではなく、面接官に気づきを与え、トレーニングをサポートするAIです。
当社は、最終的に採用を判断するのは人間であるべきだと考えますが、人間が見る以上、どうしても無意識のバイアスが働くことがあります。その結果、面接官の言動や態度が、候補者にネガティブな印象を与えてしまうことも少なくないでしょう。
「メラビアンの法則」によると話し手が聞き手に与える影響の93%が非言語のコミュニケーションといわれています。非言語のコミュニケーションが「ZIGAN」によって可視化、改善されることで、相手に対する「不信」は「信頼」へと変化し、最高の候補者体験が実現できると考えます。
当社の社名の由来である「全機現」は、禅の世界の言葉で、「自己のもつ機能を全部発揮すること」を意味します。当社のビジョンは、「テクノロジーを通じて、人と企業が全機現できる社会の創出に貢献する」であり、そのための取り組みを、今後も進めていきたいと思います。