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トレンド企業の取り組み2026/06/02

戦略人事部長GPT、社長AI……クレディセゾンの「全社員AIワーカー化」が示す、従業員体験向上と人の介在価値

株式会社クレディセゾン 戦略人事部長 開沼 大輔さん
株式会社クレディセゾン 戦略人事部 企画課長 鈴木 奈生さん

生成AIHRテクノロジー

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戦略人事部長GPT、社長AI……クレディセゾンの「全社員AIワーカー化」が示す、従業員体験向上と人の介在価値

ペイメント事業、ファイナンス事業、グローバル事業、新規事業のポートフォリオを最適化しながら、現在は多角化を進めるクレディセゾンでは、全社員に企業向け生成AIを導入し、「全社員AIワーカー化」という目標を掲げています。中でも人事部門は、全社トップの活用実績を誇り、「戦略人事部長GPT」などのカスタム機能を構築して従業員体験の向上に取り組んでいます。なぜ、クレディセゾンの人事部門は、生成AIの活用に注力しているのでしょうか。どのような思いや、乗り越えるべき課題があるのでしょうか。同社人事部門のトップである開沼大輔さんと人事部門におけるAI活用を推進する鈴木奈生さんに、具体的な実践例や、人とAIが共存する未来の組織設計についてお話をうかがいました。

プロフィール
開沼 大輔さん
開沼 大輔さん
株式会社クレディセゾン 戦略人事部長

かいぬま・だいすけ/2000年にクレディセゾン入社。ペイメント事業において営業、商品企画、事業企画などに従事。加えて、経営企画など全社領域の業務も経験。ソリューション営業部長、プロセシング企画部長を経て、2024年より現職。経営戦略の実行基盤として人事を捉え、事業・経営視点に立った人事戦略の設計・運用を推進。

鈴木 奈生さん
鈴木 奈生さん
株式会社クレディセゾン 戦略人事部 企画課長

すずき・なお/2011年にクレディセゾン入社。ペイメント事業において営業や商品企画に従事し、その後、ブランド戦略部門での業務も経験。2026年より現職。経営戦略の実現に向けた人事企画・設計などを担当。

人事部門が率先垂範する意義と「運用・定着」を重視するAI活用戦略

まずは、全社的な取り組みとして生成AIを導入された経緯について、お聞かせください。

開沼:経営陣の決断が起点となっています。当社では、2019年頃からCTO(最高技術責任者)の小野を中心に、デジタルトランスフォーメーション(DX)を継続的に推進してきました。一連の取り組みは、業務の大幅な削減やデジタル人材の育成など、着実な成果を生み出してきました。

さらに生成AIが本格的に台頭してきたことを受け、2025年9月に経営陣は従来のDX戦略をさらに一歩進め、「CSAX戦略(Credit Saison AI Transformation)」へと進化させる決断を下しました。新戦略の中で、業務時間をトータルで19年度比300万時間削減するという高い目標を掲げています。この目標を達成するための切り札として、企業向けにセキュリティーが担保された生成AIツール(ChatGPT Enterprise)を全社員に付与するという判断に至りました。現在、ChatGPT Enterpriseは全社員の90%が実際に業務で利用しています。

また、現在はChatGPT Enterpriseだけではなく、エンジニアにはClaude CodeやCodex、資料作成の多い人にはNotebookLM、Microsoft365アプリをよく利用する人にはMicrosoft365 Copilotなど、用途別にAIを導入して効率化を進めています。

社長の水野が「経営政策のど真ん中にデジタルを据えなければ生き残れない」と発言するほど、役員も含め、全社一丸となって「全事業部、全社員の業務を、AIを前提に再設計する」ことに本気で取り組んでいます。

図説:CSAXの全体像

CSAXの全体像。クレディセゾンホームページより

全社的な推進体制の中で、人事部門におけるAI活用も進んでいるようですが、人事領域で積極的にAIを活用しようと考えたのはなぜでしょうか。

開沼:人事部門だけが特別に活用しているわけではありません。各事業部を含めた全社員が生成AIの存在を前提として、これまでの業務プロセスを根本から再設計しています。

その前提の上で、人事部門がAI活用に注力している背景には、私の強い思いがあります。「人事部門が生成AIを使い倒し、全社の模範となるべきだ」という使命感に近いものです。組織の文化や風土を醸成する役割を担う人事部門が、どこよりも率先して業務変革を実践する姿勢を見せることが、全社員の行動変容を促す上で効果的だと考えています。私だけでなく、人事部門のメンバー一人ひとりがその意図に深く共感し、各々の担当領域で自発的に改革を起こしてくれました。

実際の人事部門での生成AI活用の状況はいかがでしょうか。

鈴木:当社では、生成AIを活用して成果を上げた事例を全社で集約する「活用リスト」を作成しています。2025年度の集計結果において、人事部門からの登録件数が293件で全社1位、年間削減時間2193時間という実績が出ています。

活用は多岐にわたります。資料の作成、制度説明のドキュメント化、社員からの問い合わせ対応、一般的な文書作成など、日常業務のあらゆる場面で活用されています。中でも最も頻繁に、かつ効果的に使われているのは、思考の整理や課題の構造化といった用途です。生成AIを壁打ち相手として活用することで、企画の方向性を固めたり、論点を整理したりするプロセスが劇的に効率化されています。

また、定量的な効果だけでなく、「ナレッジ共有の活性化」「課を超えたコミュニケーションの増加」「AI活用を起点とした組織の一体感醸成」といった定性的な変化も大きな成果です。これらは、「全員がまずAIを触る」「活用事例を共有する場をつくる」「称賛する仕組みを設ける」といった取り組みによって生まれたものです。

写真:鈴木 奈生さん(株式会社クレディセゾン)

人事部門の具体的な活用方針や、戦略全体の中で重視されているポイントについてお聞かせください。

開沼:人事部門における生成AI活用の最も重要な方針は、従業員体験(EX)の起点となる業務変革を推進することです。人事の世界では古くから「制度は設計が2割、運用が8割」と言われています。どれほど精緻で優れた制度を設計しても、それが現場の社員に理解され、適切に活用されなければ意味を成しません。生成AIを活用する最大の価値は、制度運用において、誰もが直感的に、かつシンプルに制度を使いこなせる状態を創出できる点にあります。

例えば、これまで社員が特定の人事関連の情報を探す際、社内ポータルサイトを何度も検索したり、複雑なマニュアルを読み解いたり、人事部門に電話をかけたりする手間がかかっていました。そこで、社員が知りたい情報へ最短距離でアクセスできる環境へと変えるため、人事領域に特化した「問い合わせ対応カスタムGPT」を構築しました。

現在では、社員が自らの疑問をカスタムGPTに入力するだけで、即座に的確な回答が得られ、自己解決できる世界が実現しつつあります。

写真:開沼 大輔さん(株式会社クレディセゾン)

思考の整理と壁打ちを担う「戦略人事部長GPT」誕生

個別具体的なツールについてうかがっていきます。貴社では、ChatGPT Enterpriseを活用し、何種類もの「カスタムGPT」(特定の目的や役割に合わせてカスタマイズした機能)を作成しているそうですね。

開沼:まず社長の水野の考えを学習したツール「ず~み~AI」が先行して作られました。水野自身が「全社員AIワーカー化」に向けて誰よりも熱意を持っていて、積極的にAIを活用しています。そうした中、水野の経営哲学や過去の発言を学習させ、社員がいつでも社長の思考と壁打ちできる環境を作ろう、という動きから誕生したものです。社員が気軽に社長の視点に触れることができ、「この件についてAIはこう回答していました」などと、実際のミーティングで話題に上るほど定着しています。

こうした流れを受け、人事部門におけるAI活用リストを作成する過程で、部門のメンバーから「開沼さんの分身となるGPTを作ってもよいか」と提案を受けました。当初は「AIではなく直接私に聞けば済むのではないか」と感じたのですが、メンバーから「開沼さんは会議などで席にいないことが多い。常に相談したいというニーズは確実にある」と説得され、開発を承認しました。

開発にあたっては、メンバーにさまざまなデータを提供しました。まず基盤となる情報として、戦略人事部として大切にしている価値観、人事戦略の全体像、部門の長期的な方針に関するドキュメントをすべて読み込ませました。

加えて、私の個人的な思考の癖や発言のニュアンスを反映させるため、過去に全社に向けて発信したメッセージ、社内チャットツールでの発言履歴、講演で使用した資料など、合わせて数十ファイルに及ぶテキストデータを学習させています。

さらに、メンバーから「開沼さんの口癖を教えてほしい」と要望を受けました。自分自身の口癖は意外と自覚がないもので、家族に尋ねました。すると「やればいいじゃん」「いいね」といった言葉をよく使っていると言われ、そうした要素もAIに組み込んでいます。客観的に自分の話し言葉を分析されるのは不思議な感覚でしたが、より私らしい受け答えを実現するための工夫だったと理解しています。

画像:戦略人事部長GPT

戦略人事部長GPTの実際の画面

実際に完成した「戦略人事部長GPT」を使ってみて、どのような感想をお持ちになりましたか。

開沼:私が最初に使ってみたときの率直な感想としては、自分の過去の思考に沿った回答が返ってくることに対して、多少の違和感や気恥ずかしさを覚えました。しかし、客観的に見れば、会社の方向性や人事戦略から大きく外れた回答をすることなく、非常に精度の高い返答を生成している点に驚きました。

現在、このツールは人事部門内に限定して公開しています。人事部門は複数の拠点に分かれていて、例えば障害者雇用の専門チームなどは別のオフィスで勤務しています。日常的に直接顔を合わせる機会が少ないメンバーから、「日々の思考の整理や、施策を立案する際の壁打ち相手として活用している」という報告を受けています。

また、キャリアに関する相談を入力すると、当社が大切にしているキャリア形成の考え方や、社内公募制度などの具体的な選択肢を交えながら、事実に基づいた的確なアドバイスが返ってきます。多忙を極める中で、メンバーがいつでもどこでも一定の水準で思考を深められる環境を提供できているため、このツールの存在意義は大きいと感じています。ただ、利用するメンバーには「AIの回答をうのみにせず、最終的な意思決定は必ず自分自身で行うこと」を徹底するよう伝えています。

AIの「正解」に依存しない。評価と採用で守るべき人間の本質的な価値とは

目標設定や評価に関連するAIツールも開発されているとのことですが、こうした領域でのAI活用において、留意されている点はありますか。

開沼:「賞与業績考課表での目標達成に向けた行動計画を提案するGPT」を開発し、こちらは全社に公開して運用しています。当社には3500人以上の社員が在籍しており、社員一人ひとりが自ら目標設定シートを記入しています。個人の文章作成能力や言語化のスキルにばらつきが生じてしまうのが実情です。

評価の土台となる目標設定において、記述スキルの差が評価の不公平感につながることは避けなければなりません。そこで、このツールを活用することで、社員が設定したい目標の方向性を入力すれば、具体的な行動計画やマイルストーンが一定の水準で提示される仕組みを構築しました。これにより、目標設定シート全体の質を底上げし、その後の上司との面談をより建設的なものにすることを狙っています。

ツールの運用に際しては、留意すべき点もあります。人事評価は、最終的には人と人との関わり合いが最も重要となる領域です。経験が豊富な社員であれば、提示された行動計画をあくまで「思考の補助線」として捉え、自らの意思を反映させることができます。そうではない社員がAIの回答を「絶対的な正解」と錯覚し、提示されたテキストをそのまま書き写してしまうといった事態は避けなければなりません。

最も根本的な部分として、評価のプロセスにおける「上司と部下の対話」は、AIに代替させてはならないと考えています。目標を決定し、そこに向かってどのように成長していくのかを共に考え、合意形成を図るプロセスそのものに、組織としての価値が宿ります。AIは対話を深めるための「良質なたたき台」を生成することはできますが、最終的に目標を共に握り合い、納得感を醸成するのは人間の役割です。

また、採用活動についても同様の考えを持っています。効率を追求すれば、書類選考や一次面接などを完全にAIに委ねることも技術的には可能かもしれません。しかし、当社が採用において大切にしているのは、応募者と相互理解を深め、お互いの価値観をすり合わせる、「ウェットな関係性」の構築です。どれほどテクノロジーが進化しようとも、人と人が向き合い、熱量を持って語り合う採用の本質的な部分は、企業文化を守る上でも手放してはならない領域です。

人事部門からのメッセージとして、「AIを活用して業務を効率化することと、人間が果たすべき責任を放棄することとは全く異なる」ことを社内に繰り返し発信していく必要があります。

写真:開沼 大輔さん(株式会社クレディセゾン)・鈴木 奈生さん(株式会社クレディセゾン)

人とAIが対等に位置づけられる未来へ。新たな組織設計と人材戦略

最後に、今後の人事部門としての展望や、AIを前提としたこれからの組織のあり方についてお聞かせください。

開沼:全社で生成AIの導入を開始してから、まだ一年もたっていませんが、この短期間で業務のあり方は根本から覆りつつあります。遠くない未来、組織の中で「人間とAIが対等に位置づけられる世界」が到来するでしょう。

これからの人事部門に求められる役割は、単なる業務の効率化にとどまりません。AIが当たり前に存在する環境を前提とした、全く新しい組織設計と人材戦略を描き出すことです。これまでは、要員計画を立てる際、「特定の業務を処理するために人間の従業員が何人必要か」という物理的な人数のみを基準として算出してきました。しかし今後は、「この部門には人間の従業員が何人、AIエージェントが何人必要か」という観点で組織をデザインする時代へと移行していくはずです。

全社員がAIを駆使して業務を再設計することで、膨大な時間とリソースが新たに生み出されます。人事部門の使命は、創出されたリソースを、企業価値の向上に直結する新たな領域へと再配分していくための道筋を示すことです。

経営層が掲げるCSAX戦略という全社的なトランスフォーメーションの波と、人事戦略を密接に連動させる組織的な動きが、今後ますます重要になります。人事部門は経営に最も近い立場から、生成AIを通じた変革をリードし続け、テクノロジーと人間の可能性が最大限に融合する新しい企業の形を築き上げていきたいと考えています。

写真:開沼 大輔さん(株式会社クレディセゾン)・鈴木 奈生さん(株式会社クレディセゾン)

(取材:2026年4月17日)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。


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