テクノ失業のケーススタディ
約5割の仕事がテクノロジーに奪われる
単純作業だけでなく企業経営もAIで!?
今春、米グーグル傘下のIT企業が開発したAI「アルファ碁」が、世界最強クラスの韓国人プロ棋士に勝利したのは、記憶に新しいところでしょう。「囲碁で人工知能が人間を勝つには10年かかる」といわれていただけに、5番勝負で4勝1敗の圧勝劇には大きな衝撃が広がりました。昨今のテクノロジーの進化は、驚きを通り越して不安さえ感じるほど加速がつき、とどまるところを知りません。人工知能が人間の能力を超えることで、人間生活が大きく変容し後戻りできなくなってしまう「シンギュラリティ」(技術的特異点)も、予測よりはるかに早く到来する可能性があるといわれています。
そうした急激な変化を受け、未来の話ではなく、すでに海外のIT先進国で社会問題化しているのが、ロボットやAIに人間が職を奪われてしまう「テクノ失業」です。ボストン・コンサルティング・グループの予測では、2025年までに産業用ロボット導入の急拡大により、日本では現在の4分の1の人件費が削減されるとしていますが、米国では、すでにその前兆として、銀行の窓口業務やスーパーのレジ係、工場労働、ホテルの受付係などがロボットによって代替されています。特定の地域でのバスやトラックの運転業務も、自動運転技術の導入で無人化されることは免れません。また、世界最大の会計事務所デロイト&トウシュが今年1月に発表したレポートによると、英国では今後20年の間にすべての職業の35%がテクノ失業の危機に瀕すると予測。小売業の59%が、倉庫や運送業では実に74%の雇用が影響を受けると結論づけています。アジアでも先日、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が中国・江蘇省の工場で働く6万人の作業員を、「ロボットに置き換える」というニュースが報じられました。
もちろん先述の野村総研の推計をみれば、日本にとっても、決して対岸の火事でないのは明らかです。書籍販売ではすでにアマゾンに席巻され、身近な街の書店が次々と廃業に追い込まれています。14年に、みずほ銀行がIBMの質問応答システムWatsonをコールセンター業務に導入したのも象徴的な出来事でした。
もっとも、“機械に雇用を奪われる”とネガティブな発想にとらわれてばかりもいられません。経済産業省が発表した「新産業構造ビジョン」は、むしろAIやロボットによる代替を積極的に進めていかないと、日本は国際競争に負けて市場を失い、かえって多くの失業者が出る、というシナリオを示しています。人か、テクノロジーか――その選択はもちろん各企業の経営判断に委ねられますが、実はそこにも「テクノ失業」の影が。日立製作所は先日、企業の経営判断を支援する人工知能の基礎技術を開発したと発表しました。賛否が分かれる議題に対して約120万の日本語記事や白書を分析し、賛成と反対の双方の立場から複数の意見を提示するといいます。