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【ヨミ】エーアイ ジンコウチノウ AI(人工知能)

AI(人工知能)は現在多くの分野に普及しており、研究者によって、さまざまに定義されています。共通するのは「情報処理を実現するソフトウェアやプログラムを用い、人工的につくられた人のような知能」であること。工場での製造や店舗の分析、メンテナンスサポートなど、さまざまな分野で用いられています。製品やサービスを提供する場面で使われていると思われがちですが、近年は「人」に関わる人事部門においてもAIの活用が増えています。

1. AI(人工知能)とは

AI(人工知能)はすでに、職場や生活のなかに浸透しつつあります。例を挙げると、工場での製造や倉庫での配送品の仕分けといった場面で、人の代わりとなってAI(人工知能)が作業を行っています。また、店舗の在庫管理では、売れ筋などの分析にAI(人工知能)が活用されています。

人事部門では、社員の性格判断や離職率の判定、採用業務や配属部署の決定、人材育成などでAI(人工知能)が使われています。HRテクノロジーというキーワードが注目を集めている現在、人事領域においてもAI(人工知能)をはじめとした先進テクノロジーの導入が加速すると見込まれています。

2. AI(人工知能)の歴史と現状

AI(人工知能)は、近年になって普及した先端テクノロジーという印象がありますが、その歴史は意外に古く、社会情勢の変化とともに進化してきました。ブームと低迷を繰り返しながら発展を遂げてきたAI(人工知能)。歴史を振り返りながら、理解を深めていきましょう。

AI(人工知能)の歴史

①第一次AIブーム

第一次AIブームは、1956年~1960年代と比較的早い時期に起こりました。「コンピュータが行うのは計算が中心」という認識のなか、探索・推論の知的活動ができるAI(人工知能)が開発されたことで、注目を集めます。また、初の人工対話システムが開発されたのもこの時期です。自然言語処理ができる翻訳機能は、冷戦が続いていたアメリカで発展を遂げます。

しかしこの時点では、迷路のゴールまでたどり着いたり、パズルを解いたりするものにとどまったため、社会問題との関連性が薄く、ブームは長く続きませんでした。

②第二次AIブーム

第二次AIブームが起こるのは、1980年代です。コンピュータが進化し、情報処理能力が飛躍したことが背景にあります。この時期のAI(人工知能)は、専門分野の知識を有するエキスパートシステムという位置づけで、実用性の高さが評価されました。

企業や個人へのコンピュータの普及が進んだのもこの時期です。ただし当時は、コンピュータが自ら情報を集めることはできなかったため、必要な情報・知識を人の手を介してインプットする必要がありました。

ハードウェアの性能に限界があり、導入コストもかかることから、1990年代になると再び下火となっていきます。

③第三次AIブーム

2000年代から現在に至るまで続いているのが、第三次AIブームです。ビッグデータと呼ばれる大量データの活用により、AI(人工知能)が自ら知識を集める機械学習が進化します。さらに、自ら学習能力を深めるディープラーニングが登場したことで、一気に注目が集まりました。

ハードウェア・ソフトウェアともに性能が飛躍的に向上したことに加えて、コスト面におけるハードルが下がったことも、ブームの火付け役となっています。これまで実用性を検討されなかった分野にも、AI(人工知能)が普及しています。

人工知能が人間を超えるのではないかといった「シンギュラリティ(技術的特異点)」に対する懸念の声もありますが、多様化への対応スピードが求められる現在、一過性のブームでは終わらない、という見方が強くなっています。

AI(人工知能)の現状

AI(人工知能)は、機能によって四つのレベルに分けることができます。レベル1は単純なプログラムで、いわば出された指示を正確にこなす段階です。レベル2は、ルールを提示すると、それを理解して判断・行動する、というようにパターンへの対応ができる段階です。

レベル3は、自ら学習できる段階です。これに大きく関係する技術が機械学習です。機械学習とは、事前に学習した対応パターンを反復的に学習することで、新たなパターンを見つけだせる機能です。データとパターンから規則性を分析して将来を予測できるため、判断の精度を高める役割を果たしています。

レベル4は、人の力を借りずに自ら学習・判断できる段階を指します。これに関与しているのがディープラーニング(深層学習)の技術です。ディープラーニングは、AI(人工知能)が自ら判断基準となる特徴を見つけだし、最適解を導くものです。

第三次AIブームは機械学習から始まり、現在はディープラーニングに至っています。これにより、多くの業界・業種においてAI(人工知能)を活用できる可能性が広がりました。人事領域で導入が進むHRテクノロジーのほか、金融業界のフィンテックや教育業界のエドテックなどが登場したのも、AI(人工知能)がレベル4まで至ったことが大きく影響しています。

3. 人事がAI(人工知能)を導入するメリット・デメリット

ここまで見てきた通り、AI(人工知能)は、ここ数十年で目覚ましく発展し、社会構造にも大きな影響を与えています。では、人事部門がAI(人工知能)を導入することには、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

AI(人工知能)を導入するメリット

ここでは、AI(人工知能)の導入が企業全体にもたらすメリットと、人事部門にもたらすメリットの二つに分けて見ていきます。

企業全体にもたらすメリット

労働力不足の解消

少子高齢化によって、日本の労働力人口は大きく減少しています。そのため、外国人労働者を雇用するなど、さまざまな施策によって人員不足の解消に取り組んでいる企業が増えています。

AI(人工知能)の活用も、人手不足の課題を解決する方法の一つです。これまで人間が行っていた作業をAI(人工知能)に任せることで、労働力不足を解消できるメリットがあります。

生産効率の向上

AI(人工知能)を導入することで、生産効率の向上が期待できます。たとえば、工場の作業では24時間可動が可能になります。また、作業性の高い業務をAI(人工知能)に任せて、従業員のリソースをコア業務に集中させることは、生産効率の向上にもつながります。

人件費の削減

採用の売り手市場が続く現在、より高い報酬を提示しなければ人材を獲得できないため、人件費の割合が増えている企業が多くなっています。AI(人工知能)を導入すれば、雇用人数を減らし、人件費を削減することが可能です。

データ分析による収益性の改善

AI(人工知能)は、蓄積された過去のデータをもとに精度の高い将来予測ができます。たとえば、顧客ニーズを分析して保有在庫数を最適化するなど、収益性の改善に活用できるメリットがあります。

人事部門にもたらすメリット

人事業務の効率化

人事部門でAI(人工知能)を取り入れる大きなメリットとなるのが、業務の効率化です。人事の業務は多岐にわたるほか、採用時期などには業務が集中するため、労働力不足が課題となっています。AI(人工知能)を活用することで人事業務を効率化できれば、人事担当のリソースをコア業務に集中させることも可能です。

採用・配属の最適化

AI(人工知能)の先進技術は、自社の基準によって採用や評価を行えるところまできています。これまでの人材評価は人事担当の経験則に左右されるところもあり、採用・配属のミスマッチが起こるなど属人性が課題となっていました。AI(人工知能)を取り入れることで、より客観的で公正な判断が可能になるため、ミスマッチを軽減するとともに離職率の低下も期待できます。

社員のモチベーション向上

社員にとって、人事評価はモチベーションの拠り所となるものです。しかし実際には、評価の不透明さに不満を持っている社員は少なくありません。

AI(人工知能)は、業務における主体性や勤怠情報などを分析し、定量評価をすることが可能です。社員から見ると、自分の客観的評価がわかりやすくなるためモチベーションの向上が期待できます。また、社員一人ひとりの課題が明確になるため、育成につなげることも可能です。

社員が働きやすい環境を実現

社員の健康面や職場に対する不満をデータ化して分析することで、職場の改善点を見つけだしやすくなります。これにより、社員の働きやすい環境を実現することが可能になります。

AI(人工知能)を導入するデメリット

AI(人工知能)を導入するデメリットとして、次の二つが考えられます。

コストがかかる

AI(人工知能)には、パッケージ化して提供されているものと、自社に合うように開発やカスタマイズするものがあります。とくに、自社独自に開発やカスタマイズする場合は、数百万円から、場合によってはそれ以上の導入コストがかかります。パッケージ化されたものについても、パソコンや周辺機器などを揃える必要があります。

AI(人工知能)を取り扱う人材の教育が必要

AI(人工知能)は導入したからといって、すぐに使えるものではありません。AI(人工知能)の進歩により自動化は大きく進みましたが、AI(人工知能)を取り扱うための人材を教育する必要があります。導入時には、AI(人工知能)を取り扱うための研修を設けるなど、手間や労力が必要になります。

4. 人事にAI(人工知能)を導入するための流れ

導入するAI(人工知能)の種類や規模によって異なりますが、一般に次の流れで進めていきます。

①使用目的を明確にする

どのような方向性でAI(人工知能)を使っていくのか、方針を決めます。たとえば、人事考課の際に活用する、応募者からのエントリーシートをチェックする、といったように使用目的と期待する効果を明確にします。

②導入するAI(人工知能)を決定

目的を明確にしたのち、導入するAI(人工知能)を決定します。パッケージ化されたものを使うのか、新たに開発をするのかを決める必要があります。自社独自に開発する場合は、現場への実装まで長期間を要することもあるので、確認が必要です。

データを蓄積したのち、トライアルを行ったうえで決定できるサービスを提供している業者もあります。保守メンテナンスに関することも、この段階で決めておきます。

③AI(人工知能)の導入

実際に現場に導入します。導入時には、自社に合うようにカスタマイズを行ったり、本番環境への適応を確認したりする必要があります。

④運用

導入したAI(人工知能)を実際に運用していきます。想定した効果が出ているかどうか、定期的に効果検証を行うことも重要です。効果が得られていない場合は、カスタマイズなどの見直しを行う必要があります。

このようにAI(人工知能)の導入は、パッケージ化されたものを使う場合でも時間がかかります。そのため、事前に導入から運用までの綿密な計画をたてることが重要です。

5. AI(人工知能)の未来とは

労働力人口の減少、多様化する労働環境への対応、グローバル化……企業を取り巻く社会環境にはさまざまな課題が山積しています。これらの問題を解決するための糸口になるものとして期待されているのが、AI(人工知能)です。技術の進化により、特定の業界・業種だけのものではなくなり、職場や生活のなかに当たり前に浸透していくことが想定されています。

こうした流れのなかでも、とくにその技術が生かされる領域として期待されているのが人事部門です。「人」に関するさまざまな判断を要する人事部門はこれまで、さまざまな業務が属人的にならざるを得ない状況にありました。企業によっては、人事部門の力量が強みとなっていることもあるでしょう。しかし、多様化への対応が急がれるなど、人事担当者が担う業務範囲・責任はさらに増大するものと考えられます。

人事部門にAI(人工知能)を導入することは、企業の成長を加速することにつながります。ただし注意しなければならないのは、AIという名称を使っていても実際は既存サービスと変わらないものも多い、という現状です。導入時には、しっかりとその内容を確認しなければなりません。そのため人事担当者には、AI(人工知能)について学ぼうとする姿勢がを強く求められています。

企画・編集:『日本の人事部』編集部