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トレンドキーパーソンに聞く2019/07/30

データドリブンの組織は15年後に2倍の規模に成長しうる――統計の素養がある人材を見つける意外な方法とは

統計家/株式会社データビークル 代表取締役 最高製品責任者

西内 啓さん

実践戦略立案ピープルアナリティクスデータ分析西内啓データビークル

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最近では、人事の分野においてもさまざまなデータの分析・活用が意思決定の精度を向上させると期待されています。今すぐにでもデータドリブンな組織を作りたい、と考えている企業も少なくないでしょう。しかし、実際に何から手をつければいいのかわからない、社内に統計学やデータ分析の知識・技術のある人材がいない、といった課題の前で立ち止まっているケースも多いはずです。今回は、統計学のスペシャリストであり、シリーズ累計50万部を突破した『統計学が最強の学問である』の著者である、株式会社データビークル代表取締役最高製品責任者の西内啓さんに、人事領域でのデータ分析・活用に取り組む際に欠かせないポイントを詳しくうかがいました。

プロフィール
西内 啓さん
西内 啓さん
統計家/株式会社データビークル 代表取締役 最高製品責任者 

にしうち・ひろむ/1981年生まれ。東京大学助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長等を経て現在多くの企業のデータ分析および分析人材の育成に携わる。 『統計学が最強の学問である』シリーズなど著書多数。2017年第10回日本統計学会出版賞を受賞。

人事データの分析・活用で生産性を向上させる

西内さんは統計学の専門家としての知見をビジネスに生かす取り組みを続けていらっしゃいます。学術とビジネスの両方を知る立場から見て、現在の日本企業のデータ活用はどの程度進んでいるとお考えでしょうか。

世界的なITリサーチ会社であるガートナーが、今後はデータ分析の面倒な部分の自動化が進み、専門家以外でもデータ活用ができる時代が来るだろうと予測しています。「市民データサイエンス」、あるいは「拡張アナリティクス」といわれる概念です。当社(株式会社データビークル)が開発・販売しているデータ分析の自動化ツールも、人事、マーケティング、物流などさまざまな領域で導入事例を増やしているところです。

データビークルのデータ分析自動化ツール「dataDiver」の画面イメージ

データビークルのデータ分析自動化ツール「dataDiver」の画面イメージ

しかし、日本企業で実際にどうデータが使われているのかを細かく見ていくと、その多くはまだ「現状把握」を目的としている段階のようです。本当はデータの分析結果をもとにビジネスをよりもうかる方向に変える、データの因果関係を洞察して新しい企画を立案する、といったことがより大切なのですが、そこまでできている企業はまだ少ないと感じています。

データ分析がビジネスに十分に生かされていない要因は何なのでしょうか。

一つは、データ活用を行う組織、とりわけその責任者のポジションにある人材に統計学の素養が十分にないこと。ほとんどの人がグラフを読むことができ、平均値の出し方を理解している点は、日本人の基礎的な統計リテラシーが徹底しているという点で評価してもよいでしょう。しかし、大企業のリーダーという立場でもそのレベルで止まっていて、悪い意味で格差がないのが実状です。そのため、せっかくデータを集めても、それをしっかりと分析してビジネスを変革していくチャンスとして生かせていません。統計学の知識があれば、やりがいを持って取り組むことのできる面白い部分ですから、非常にもったいないように思います。

日本企業のデータ活用には課題があるということでしょうか。今後は、人事領域でもデータ活用を進めたいと考える企業がますます増えてくると思います。データ活用が特に必要・有用なのは、人事の中でもどういった分野だとお考えでしょうか。

二つの可能性があると思います。一つ目は「優秀な人材を採用する」「優秀な人材に離職されないようにする」ためのデータ活用です。ITのような仕事では優秀な人材とダメな人材との生産性の差は、10倍もあるという研究もあります。そこまでではなくても、管理職や専門的な知識や技術を必要とする仕事では、平均的な人材と優秀な人材とで1.5倍も生産性が異なるそうです。こうした優秀な側の人材を高確率で採用し、辞めずに働いてもらっている企業があれば、その会社は間違いなく成長するでしょう。

二つ目は「今いる人材のパフォーマンス向上」です。企業は、現在働いている社員のさまざまなデータを持っているはずです。そのデータを分析して、上げていきたいパフォーマンスに最も関係している項目を割り出せれば、それを具体的な人事施策に落とし込み、パフォーマンスやモチベーションアップにつなげることができます。

ただ、先ほども申し上げたように、日本を代表するような大企業でもデータを見て終わり、というケースがまだまだ多いようです。せっかくグローバルの従業員のパフォーマンスやエンゲージメント、さらには関連する多くの項目のデータを集めているのに、きちんとデータ分析をしないため、どれが一番重要なデータかがわからない。そうなると、本当に効果的な施策を実行することは不可能です。

たとえば、データをきちんと分析すれば、「現時点で給与に対する満足度とパフォーマンスは関係がない」と読み取れるはずなのに、従来通りの経験と勘でわざわざ「給与制度を改定しなければ」と頑張っている。そういう事例も少なからず目にします。データ活用によって生産性を向上させるには、そこからもう一段階踏み込むことが必要なのです。

データ活用を重視する組織に必要なトップの役割

先ほどは生産性向上の話が出ましたが、さらに「意思決定の精度向上」にもデータ活用が効果的ではないかと期待されています。その際に注意すべきことはどんなことでしょうか。

まず、「偶然の誤差」という統計学上の概念が認識されていないことが問題だと思います。たとえば、テレビの視聴率などでは10.0%と9.9%では大きな差があると考えられていて、二けたを割り込んだから大変だと議論になることもあります。しかし、統計学的にはその差は「誤差」の範囲内にすぎないことも多々あります。人事分野で言えば、前年よりも離職率がコンマ数パーセント悪くなったことを議論しているようなものですね。

数字で出てくるとそれを絶対視しがちですが、統計学の知識があれば、比較的調査対象の数が少ないデータでも、「統計的仮説検定」という考え方を使って、その現象が無視しても構わない偶然の誤差なのか、あるいは問題視しなければならない必然の事象なのかを見きわめることができます。意思決定の際には、こうした境界線の判断が非常に重要です。ちなみに、基礎的な知識さえあれば、その検証はExcelを使ってパソコンで簡単に行うことができます。

意思決定は基本的に組織のトップが行うわけですが、トップ自身が統計の知識を持っていた方がいい、ということでしょうか。

その通りです。トップが数字好き、もしくは数に強い人であれば、部下に適当な数字ではなく、しっかりしたデータを上げることを求めますよね。そうなると、組織全体が数字やデータをきちんと扱っていこうという文化になっていきます。「データビークルのツールはどんな企業や業界で使われているのですか」とよく質問されますが、規模や業界は関係なく、「データをもとに意思決定しようという考え方のトップがいる会社」で多く使われています。

もともと数字に強くて統計の基礎くらいはわかるトップであればいいのでしょうが、そうでない人に今から学んでもらうのは難しいように思います。

西内 啓さん(統計家/株式会社データビークル 代表取締役 最高製品責任者)

これまでの研究によって、データドリブンで意思決定する組織は、そうでない組織に比べて5~6%くらい生産性が高いことが証明されています。単年で見ると大きな違いには見えないかもしれませんが、仮に毎年5%ずつ成長していくと、15年後にはその組織は「2倍」の規模になっている計算になります。競合が15年で2倍になる、あるいは採用で優秀な人材を獲得できる率が2倍になる、と考えたら脅威ですよね。

トップがデータの重要性をわかっている組織とそうでない組織とでは、それくらい差がつくのです。私もよく「データを活用できない企業はあと10~15年で消滅する」という話をします。それを切実な問題だと受け取ってくれない人もいますが、競合が15年後に自社の2倍に成長していることを想像すれば、真剣に考えざるを得ないでしょう。

ただ、トップにデータのわかる人材をもってくることは決して簡単ではありません。これも確かなことです。データ分析チームを作りたいという相談を受けたときには、「ボス(チームリーダー)」「業務のエキスパート」「データマネジャー」「分析担当者」という4ポジションを用意してほしいという話をするのですが、実は適任者を探す際に最も苦労するのは「ボス」のポジションなのです。

ボスとは分析結果を見て「こうしたら良くなりそう」「こうしたらもっともうかるはず」といったことを考えて施策を打つポジションですから、役割としては企業のトップもほぼ同じと考えていいでしょう。数字をベースに考えることができて、なおかつ新しいことに取り組むチャレンジ精神、いろんな関係者を巻き込んでいくリーダーシップや交渉力のある人でなければなりません。そういうトップがいないと、現場がいくら頑張ってよい分析結果を持ってきてもデータ活用は進みません。このサイクルは非常に重要です。

逆に言えば、分析結果を読み解くことができて、それに基づいて施策を実行していけるような人材を組織の中で意図的に昇進させていき、優秀なトップを育てていったほうが効率のいい場合もあると思います。会社によっては経営人材を外部から招へいすることもあるでしょうが、その際には、きちんとデータドリブンで意思決定できる人材かどうかを見きわめて採用すべきでしょうね。

自社内でデータ人材を見つける方法と大学とのタイアップ

データ活用人材についてはチームリーダーだけでなく、あらゆるポジションで外部からの採用が難しい、という声を多くの企業から聞きます。この問題にはどう対処すればいいのでしょうか。

データ活用人材は、今さまざまな企業で求められています。ほとんどの日本企業が採用に悩んでいますし、うまく採用できたとしてもなかなか定着してもらえない、という課題もあります。多いのが給与の問題ですね。日本企業の場合、仮に高い能力を持つ人を採れたとしても、年齢や役職などによって出せる給与額に限界がある。一方、外資系企業でも同様のニーズは高いので、日本企業で何年かデータ分析をやっていた人がいると、高額のオファーで引き抜かれてしまいます。以前なら、日本企業には長期雇用を保証してくれるというメリットがありましたが、今はだんだんそれも難しくなってきています。

さらに人事部門になると、状況はもっと厳しくなります。データ分析人材は、どうしてもマーケティングなどお金が動く部門に持っていかれやすい。本当は人事を強化することがその会社を強化する一番の近道なのですが、なかなかそうならない企業が多いのもまた現実でしょう。コンサルタント会社などにデータ分析を外注するのも一つの方法ですが、人事の課題を十分理解した上でデータ分析できるスペシャリストがまだ少ないことから、うまくいかないケースが多い。せっかく高い費用を払ったのにレポートには当たり前のことしか書かれてなかった、という話もよく耳にします。

そこで、私がアドバイスしている一つの解決方法は、社員が大学時代に書いた卒論のテーマに注目することです。これを把握している企業は意外なほど少ないのですが、ある程度の規模の企業であれば、学生時代にデータを扱うようなテーマで卒論を書いた若手人材がけっこういるはずなんです。具体的に言えば、応用心理学や経営学の組織行動論、リーダーシップの研究など。こういった分野でデータを使った研究をたくさん学ぶようなゼミに所属していたりすると、統計学の専門でなくても、データ分析をバリバリやっていた可能性があります。そういう人材が入社後はデータとまったく関係ない部門に配属されているとすれば、宝の持ち腐れです。実際、ある企業で統計に強い人材をなかなか採用できないと役員の方に相談された際に、卒論に注目して社内で人材を探してみたらどうかと話してみたら、すぐ横にいらっしゃった役員秘書の方も卒論でデータを使った心理学の研究をしていた、というケースもありました。

西内 啓さん(統計家/株式会社データビークル 代表取締役 最高製品責任者)

データサイエンスを専門的に学んだ人でなくても、データ分析は十分可能ということですか。

もちろん可能です。むしろ、ガートナーが提唱している「市民データサイエンス」の考え方によれば、今後は専門家以外が行うデータ分析のほうがボリュームとしては上まわっていくとされています。たとえデータの高度な知識があっても、実際の業務がわからないと本当の意味で役に立つデータ分析はできないからです。特に意思決定を左右するようなデータ分析は、ビジネスのさまざまな文脈や業務知識がなくては不可能といってもいい。そう考えると、学生時代に卒論でデータ分析をやったくらいの人、あるいはExcelを使いこなせるような人が、業務をきちんと理解した上で適切なツールの力を借りながらデータ分析を行うほうが、これからは可能性があるとも言えます。

人的リソースが限られる中堅・中小、あるいは地方の企業の場合はどうでしょうか。

そういう企業からのご相談も受けますね。雇用が難しいケースでは、「奨学金を出してみては」とお答えしています。優秀な地元の高校生に奨学金を出してデータ分析の勉強をしてもらう。そして夏休みなどにインターンとして働いてもらうという発想です。1年目から即戦力になるかどうかはわかりませんが、それほど複雑な問題でなければ大学生レベルの知識でもデータ分析は可能です。さらに、人事に関するデータ分析に限定すれば、年中張りついている必要はなく、長期休暇のときだけでも十分やれるはずです。

あるいは「大学に寄付講座をつくる」という手もあります。経営学部で定量的な研究をしている先生のところに寄付講座をつくって、優秀な大学院生を数年単位で雇ってもらいます。教員のポストを保障するかわりに、時々自社に来てデータ分析をやってもらうというスキームです。仮に近隣の大学に該当する学部がなくても、データ分析自体はテレワークでけっこうできてしまいます。

学生や大学教員に業務がわかるのか、というご心配もあるかもしれません。それは「数年単位で関わってもらう」ことで解決されると思います。常勤でなくても、何年もやっていれば社内のいろんなニュアンスがわかってくるものです。予算面で考えても、奨学金や寄付講座のほうが、単発で委託する外部コンサルよりずっとリーズナブルです。それでいて大学で教えるくらいの超優秀な人材にデータ分析を頼めるのです。現実的な解決策ではないでしょうか。

マーケティングなど人事部門以外のデータに着目してもいい

人事領域でデータ活用を進める上では、それが不用意な差別につながらない配慮も重要かと思います。どんな点に注意すればいいでしょうか。

これは特に、AIを利用する場合に問題になるポイントだと思います。AIに学習させるデータに、たとえば男女差別が含まれていたとしたら、AIは差別が残ったままの解を最適解として出してしまいます。AIは基本的にブラックボックスですから、後からそれを検証するのは現状では非常に難しい。今後は「説明可能なAI」が求められるようになる、と言われています。AIに学習させる前のデータをまず精査して、差別や余計なバイアスが含まれていないかどうかを洗い出さなければなりません。たとえば「女性が出世しにくい」と出てきたら、そこを補正してからAIに学習させていきます。この順番を間違えて、いきなりAIをつくってしまうと、後で「何かおかしいがよくわからない」ということになってしまいます。実は当社にも、そういったご相談をよくいただいています。

『日本の人事部』が会員向けに毎年行っている調査『人事白書』では、今年、「評価」「勤怠」「モチベーション」「エンゲージメント」などのデータを活用したい企業が多い、という結果が出ました。これらのデータを活用する場合、どのように進めると効果的でしょうか。

大前提として、先行事例をよく研究してほしいですね。アメリカでは、組織行動論などの分野で統計学を応用することがすでに一般的になっていますが、その面では日本はやや遅れていると言わざるを得ません。人事の方に必ず読んでほしいのは、スティーブン・P・ロビンスの『組織行動論のマネジメント』です。先行研究の事例が数多く紹介されています。

その上でまず意識してほしいのは、評価には必ず偏りが入っていることです。人間にはどうしても、自分と似たタイプ、あるいは気が合うタイプを高く評価する傾向があります。また、お気に入りの部下に成果が出やすい仕事をアサインする上司も珍しくありません。そうしたバイアスを排除して、客観的にパフォーマンスを測定することが重要です。そうでなければ、いわゆる上司受けのいいタイプばかりが高評価を得ることになってしまいます。定型業務を同じ条件下でやってもらって、そのスピードやクオリティーを測定する、あるいは仕事の割り振りを完全にランダムに行ってその成果で見る、そういった工夫が必要でしょう。

そのほかに、人事が注目すべきデータはありますか。

人事領域であまり利用されないデータとしては、販売や営業成績の数字がありますね。一人ひとりがどれだけ売り上げたかはマーケティングや経理上のデータとしては使われているのに、なぜか人事のデータベースからは切り離されているケースが多い。この数字と上司の評価は絶対に関連づけて分析したほうがいいと思います。これだけデジタルトランスフォーメーションと言われている時代なのに、非常にもったいないことです。

最後に、これからデータ分析を進めていきたいと考えている人事の皆さんにメッセージをお願いします。

繰り返しになりますが、データを活用する企業と活用しない企業とでは、15年間でパフォーマンスに倍ほどの差が生まれます。生産性の違いも2倍、3倍、あるいはそれ以上になります。それほど重要なことなのに、想像以上にデータ活用は進んでいません。データを「見える化」のために使うことも大切ですが、より重要なのは、何かを比較したときに「それが意味のある違いなのかどうか」を見きわめる視点です。統計学や定量的な経営学の基礎がわかれば、人事でもそういう数字の見きわめが十分可能です。

生産性の高い人と低い人では何が違うのか。離職率の高い部署とそうでない部署はどこが異なっているのか。それがわかれば、パフォーマンスを向上させるため、離職率を下げるためにどんな手を打てばいいのかが明確になります。そこから先は人事としての経験を大いに生かしてください。もちろん採用でも職場のエンゲージメントでも同じことが言えます。データを活用することで、企業の業績は確実に伸びていくはずです。

西内 啓さん(統計家/株式会社データビークル 代表取締役 最高製品責任者)

実践戦略立案ピープルアナリティクスデータ分析西内啓データビークル

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