[ 寄稿 : デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ]
データを武器に、人事が進化する
~ピープル・アナリティクスのトレンドと導入の第一歩~(後編)
ピープル・アナリティクスの始め方
2016/10/31基礎、ピープル・アナリティクス、デロイト トーマツ コンサルティング
- 酒井 雄平さん(サカイ ユウヘイ)
- デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ヒューマンキャピタルユニット シニアコンサルタント
大手不動産デベロッパー、大手総合コンサルティングファームを経て現職。10年以上のコンサルティング経験を有し、人事戦略立案ならびに制度設計・導入、人事部門改革、人事データ分析、風土改革等を得意とする。近年ではピープル・アナリティクス領域に注力し、ハイパフォーマーの退職リスク分析と退職抑制策立案、社員の行動・感情の可視化を通じた生産性改善支援等の実績を有する。
01
取り組みの鍵は「指標」と「ロードマップ」
前編を読んでいただいた読者の中には、今後取り組みを開始したいと考えている方も多くおられると思う。そこで後編では、どのようにピープル・アナリティクスの取り組みを進めるか、という点に議論を移したい。
国内外の多くの識者が指摘している通り、まずは「小さく開始し、手の届くところから果実を取る」ことが鉄則であると言える。その一方で、小さく開始したチームが必ず成功しているとは言いがたい。単発のプロジェクトや人事のメンバーによる自主的な活動となるケースも見受けられる。
なぜピープル・アナリティクスの取り組みを開始し継続していくことが難しいのか。まず、開始にあたっては、「データの整備不足」と「社内アナリストの不足」が課題となる。人に関するデータは整理・統合されていないことも多く、開始にあたりデータの棚卸・収集・整備など労力のかかる作業が発生する。その一方、データの扱いに慣れたアナリストは社内で不足しており、新規の取り組みに開始時点から参加させることは難しい。
その結果、初期の取り組みは「人事の手元にある既存のデータを、アナリストでない人事が整備し分析する」かたちとなることが多い。これ自体はやむを得ない選択ではあるものの、今度は継続に向けて二つの落とし穴に嵌る可能性が高まってしまう。その二つとは、「ビジネス視点での指標化不足」と「将来に向けたストーリーを含んだロードマップの不足」である。
人事データを人事が分析する中で、ピープル・アナリティクスを継続することで将来ビジネスにどのようなインパクトを与えるのかという「将来に向けたビジネスインパクトの指標化」が抜けやすい。また、アナリストがいない中では次にどのような分析へとつなげていけるかの議論が難しく、ピープル・アナリティクス継続に向けた発展的なロードマップが具体的に描かれない。その結果、継続により得られるビジネスインパクトとその実現性が経営層やビジネスラインに伝わらず「面白い分析」で留まってしまう。(図1)
図1