[ 寄稿 : デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ]
データを武器に、人事が進化する
~ピープル・アナリティクスのトレンドと導入の第一歩~(前編)
新たなデータ活用が可能にする未来予測と、行動や感情の「見える化」
2016/10/31基礎、ピープル・アナリティクス、デロイト トーマツ コンサルティング
02
~トレンド1~
人事データで現在をモデル化し、未来を予測する
ピープル・アナリティクスのトレンドは、未来予測と、行動や感情の「見える化」、この二つに要約できる。先進企業はすでに様々な成果を挙げ始めており、この先、アナリティクスが人事ひいては企業の競争力を左右する可能性がある。まずは未来予測の例からご紹介しよう。
【事例1】Google:最適な面接回数を導き出すとともに、履歴書を自動的かつ高い精度で見極める
アナリティクスで成果を挙げる企業の代表例がGoogleである。例えば、同社では一人の求職者の見極めにかつては25回もの面接を行っていたが、面接回数と入社後のパフォーマンスの予測精度を分析した結果、4回の面接で精度が86%に達した後は、面接を繰り返しても精度は僅かしか上がらないことを発見した。いわゆる「4回の法則」により、面接の精度を落とさず所要時間を数十万時間も圧縮したのである。また、過去の応募者の履歴書をデータ化・分析して履歴書評価のアルゴリズムを作成し、スクリーニングの効率化や、不採用者の再評価などに活用している。
【事例2】JetBlue:ハイパフォーマーの資質を特定し、活躍しそうな応募者をより的確に見極める
アメリカの格安航空会社JetBlueでは、顧客対応を行うクルーの採用における適切な対人スキルを持った応募者の見極めや採用後の早期離職が課題であった。そこで同社は600名以上のクルーの職務を対象に各々の難易度と求められる知識やスキル・能力を定量的に分析し、貢献度の高いクルーが有する知識やスキル・能力を特定した。見極めのための模擬演習を開発して面接プロセスに組み込んだ結果、トレーニング期間中の退職率を25%低下させ、優秀社員の見極め精度も高めることになった。
【事例3】国内大手サービス業:退職リスクを算出し、未然に手を打つ
筆者が関与した例もご紹介したい。専門家を企業に派遣するサービス業の国内大手A社では、退職率が競合を上回る年間10%程度に達しており改善が急務であった。そこで我々は様々な仮説をもとに、退職の要因となりうるデータを社員の基本情報・評価・上司情報などから収集して退職率との関連性を分析し、関連性の高い要因を抽出したうえで退職予測モデルを作成した。分析結果の中には、報酬・長時間労働よりも上司のパフォーマンスのほうが退職への影響が大きいなど、経営層の予想を覆す示唆も見られた。これらの結果をもとに課題の解決策を講じるとともに、2年後の退職率を2%下げると試算することで、経営層の判断を促し、人事施策の変革をもたらすことができたのである。
上記の例に共通するのは、現在までの成功事例をモデル化することで、より確実な未来の予測を試みていることである。人事担当者の経験則による予測は従来から存在するが、ピープル・アナリティクスではデータをもとにモデルを作り予測を行う。モデルの客観性が人事に関する意思決定の精度を高め、課題の効果的な解決を後押しするのだ。モデルは、多少のずれがあっても検証・修正を重ねて精度を改善できる。
さらに、モデルの活用により施策に期待する効果を数値化できるのも特長である。今はまだ採用数・退職率といった人事的な指標が中心だが、将来的には財務的な指標を用いて経営へのインパクトをより直接的に検証することが見込まれる。精度の高い未来予測と期待効果の数値化、この二つは、人事施策のPDCAサイクルを大きく進化させる可能性を秘めている。