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対談:一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会

境界を越えて活躍する人材の要件を探り、育成を支援していきたい
~IIBCが開催する「地球人財創出会議」の意義を語る~

一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会 専務理事 斎藤 真さん
IMD 北東アジア代表 高津 尚志さん

「人と企業の国際化の推進」をミッションとする一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会(以下、IIBC)では、TOEIC® Programの実施・運営事業を展開する一方、世界を舞台に活躍するグローバル人材の多面的育成支援事業にも積極的に取り組んでいます。その一環として2012年から開催しているのが「地球人財創出会議」です。「グローバルビジネスに必要な異文化理解力と多様性活用力」「リーダーに必要な決断する勇気とは」など、毎回グローバル人材の育成に関するさまざまな課題をテーマに掲げ、参加者に新たな気づきや学び、刺激を提供しています。今回は「地球人財創出会議」でファシリテーターを務めるIMD 北東アジア代表 高津尚志さんをお迎えし、IIBC専務理事 斎藤真さんが聞き手となって、これからの時代に求められるグローバルリーダーの資質やリーダー育成に関するお考えをお話いただきました。 グローバル人材育成特集はこちら

プロフィール
一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会 専務理事 斎藤真さん プロフィールPhoto
一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会 専務理事
斎藤 真さん
さいとう まこと● 慶應義塾大学経済学部卒、Columbia University MBA。三菱商事㈱にて、主に北米におけるM&Aを含む投資事業に従事。エネルギー、発電事業会社のDiamond Generating Corp.を創設、初代CEO。後、三菱商事(株)理事 兼 メキシコ三菱社長。米国22年、メキシコ6年、イギリスに1年在住。大リーグ(MLB)や全米フットボールリーグ(NFL)などのスポーツイベントのマーケティングも手掛ける。2011年より現職。
IMD 北東アジア代表 高津尚志さん プロフィールPhoto
IMD 北東アジア代表
高津 尚志さん
たかつ なおし●日本興業銀行、ボストンコンサルティング、リクルートを経て現職。金融、戦略、人材活用等の面から、一貫して日本企業の国際展開に関与してきた。スイスのビジネススクールIMD参画後は、日本企業のグローバル幹部育成の計画構築や遂行に貢献。また、グローバルリーダーシップ、企業内学習、女性活躍推進、デジタルビジネス変革、ガバナンスなどに関するIMDの優れた知見を書籍・講演ほかさまざまな形で紹介し、日本のリーダー層との議論を重ねてきた。台湾、韓国も担当。早大学士、フランスの経営大学院修士。

混迷する世界。ローカルなものへの感性・共感・理解が不可欠に

斎藤:今日は、これからの時代に求められるグローバルリーダー像についてうかがっていきたいと思います。まずは「グローバル化」という言葉の意味をどのようにお考えなのか、お聞かせいただけますか。

高津:「グローバル化」は多様性(diversity)の相互依存(interdependence)を通じた複雑性(complexity)の増大と捉えられています。2000年代に入ってからは特に、このグローバル化が加速し、影響が強まっています。

斎藤:私が社会人になった頃は、「グローバル人材」という言葉が存在していませんでした。入社時の面接でも、将来は国際人になって活躍したいと話した記憶があります。また、国外で仕事をする社員は海外要員と呼ばれていました。時代がどう変わってきたのでしょうか。

高津:1980年代は、「国際化の時代」と呼ばれていました。「グローバル化の時代」は、2000年以降です。どう枠組みが違うのかは、以下の図表をご覧いただくと明白です。

「国際化の時代」 「グローバル化の時代」
  • G7
  • 輸出:日本でR&D~生産
  • ものづくり
  • カイゼン
  • アナログ
  • G20
  • 世界各地で企画・開発・生産
  • 生態系づくり
  • イノベーション
  • デジタル

斎藤:現在は、単純には説明がつかない、一段と混とんとした時代に突入しているのではありませんか。

高津:その通りです。VUCAワールド、つまりVolatile(移ろいやすく)、Uncertain(不確かで)、Complex(複雑で)、Ambiguous(曖昧な)という時代に入りました。さらに、デジタル化はAI(人工知能)の飛躍的進化を得てビジネスや社会の枠組みに根本的変化を迫っています。また、英国のEU離脱やトランプ政権の発足など、昨年来さらに不確実性が増しています。

斎藤:グローバリズムが退潮し、政治や経済の領域では、ボーダーレス社会から国境がより意識される時代に移りつつある感があります。

高津:グローバルなサークルにいる人たちが自ら境界を作ってしまい、ローカル経済、ローカル人材との間にギャップが生じてしまっているのです。ですから、これからのグローバル人材、グローバルリーダーには、コスモポリタン的にさまざまな国や組織を越えていくだけではなく、国や地域のなかにある、自分とは違うローカルなものに対する感性や共感、理解が必要になってきます。そうでなければ、社会の分断がますます増していくと思います。

境界を越える応用力を高めるためにも、対話力を訓練すべき

斎藤:そうした時代背景の下、グローバルリーダーやグローバル人材の要件として何が必要だと思われますか。

高津:IMDでは「現在と未来の複雑で不確かな環境において、組織の変革の旅路を形作り、導く」のがグローバルリーダーである、と定義しています。「地球人財創出会議」ではその定義を受け、地球人財として標準装備すべきスキルやリテラシーを「個としての軸」「決断力」「戦略・ビジネスモデル構築力」「異文化理解力」「多様性活用力」「コミュニケーション力」の六つの項目に落とし込んでいます。その中で、どうすれば境界を乗り越えて何かを実現できるのか、境界を乗り越えて人をどう動かせるかが大きなテーマです。

斎藤:人を動かすことが仕事のリーダーにとって語学力は必須ですが、会話ができれば通用する時代ではない、と思います。グローバルアリーナで渡り合うには、対話力を身に付けていかなければいけません。ネイティブスピーカーのように話さずとも、自分の意思をきちんと表現できる人が認められます。また、多様性への理解や決断力も重要です。

IMD 北東アジア代表 高津尚志さん 対談の様子

高津:会話ではなく対話だという指摘は、とても大切なポイントだと思います。単なる要件や指示のやりとりではなく、背景や文脈、意味、論理、概念、心理などの統合的なやりとりが、斎藤さんのおっしゃる対話だと思います。多様性の理解にも、深い対話が必要です。また、他者や自己との対話を通じて自分を深く理解し、アイデンティティーを育み、自らが目指すものを明確にすることは、リーダーにとって不可欠です。それだけに、自分との対話、他者との対話ができるような言語能力、コミュニケーション力は極めて重要です。

斎藤:私は1960年代は米国に住んでおり、中学のときにアメリカのボーイスカウトに加入していました。毎回星条旗に忠誠を誓う場面があったのですが、ある日指導者から「君は米国に誓っているのか、日本なのか」と聞かれました。迷いましたが、「日本です」と答えたところ、「それで正しい。自分に誇りを持ちなさい」と言われたんです。アイデンティティーとはそういうものなのだと初めて意識したことを覚えています。

高津:アイデンティティーがかつてより複雑に、そして重層的なものになってきているのは否めません。複雑なストーリーの中から自分自身がつくられていることを自覚することが大切だと言えます。そして、もう一点。英語の重要性についてもお話ししますと、グローバル経営を考える上で一番重要なフレームワークがあります。それは、縦軸がグローバルな統合、横軸がローカルな敏感性。こうした軸のどこに位置すると効果的・効率的なのかを見出すことがグローバル経営の基本です。その際、グローバルな統合に必要な共通言語としての英語の重要性は非常に増していて、しかも求められる英語のレベルも極めて高いものになっています。それができるようになるのは、グローバルリーダーを目指す人にとって大切なことだと思います。

斎藤:それは必要条件といえます。できれば、英語のほかにも言語ができれば理想的ですね。私はメキシコにもいましたが、アメリカと国境を接している国なのに、首都のメキシコ・シティーでさえ英語は全く通じない。ある国で仕事をするなら、その国の言葉を学ぶ必要があると痛感しましたし、英語は万能ではないことも学びました。

高津:私もフランス語を学び、同時にフランスの文化やフランス人のものの考え方を理解したことが、大きな財産になっています。グローバルリーダーの条件として境界を越えることを提示しましたが、境界を越えるには別の考え方をする人たちへの共感や理解が必要です。別の言語を知っていることは、単にその国の文化や価値観が分かるだけでなく、境界を越える応用力を増す意味で効果的です。

日本企業におけるグローバルリーダー育成の課題は何か

斎藤:では、日本企業における「グローバルリーダー育成」について考えていきたいと思います。

高津:まずは、グローバル化への道筋には事業面、HRM(人材管理)面それぞれに段階があることを理解する必要があります。事業面としては国内にフォーカスしていた段階から輸出に取り組み、特定の国・地域に焦点をあてる。徐々に海外への直接投資を強化し、最終的には投資と貿易を組み合わせながら国境なきグローバル事業へと向かっていく、という流れです。一方、HRM面ではまず、本国から現地にマネジャーを派遣する。その後、現地人材の現地トップマネジメントへの登用などを含めてローカル化を加速し、最終的にはグローバル化、すなわち国籍を問わない適材適所の人材活用を進めていく、という流れです。いずれにしても自社が今どの段階にあって、どのステージを目指しているのかを明確に把握することが重要と言えます。

一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会 専務理事
斎藤真さん 対談の様子

斎藤:グローバル化に向けて、日本企業にはさまざまな課題がありますね。以前の日本人ビジネスパーソンは海外に行っても得るものだけを得る、学ぶものだけを学ぶという気構えばかりで、その国のために貢献しようという気持ちが薄かったように感じます。ただ、これからは境界を越えてその国に適合・貢献し、その国の一員になるというメンタリティーが必要になってきます。その国で仕事をさせてもらっているという感謝の念を抱き、ギブアンドテイク、信頼関係を築くことが大切です。

高津:今の話をうかがって、対話の重要性を改めて認識しました。ギブアンドテイク、つまり互恵関係を基盤としつつ、さらに創造的な対話を通じて新たな価値が生まれて来ることを楽しみ、喜ぶことが大切だと思います。それがそれぞれの国や地域に貢献しつつ、自らも利することにつながります。イノベーションがさまざまな要素の組み合わせであるとするなら、その組み合わせも対話の中から、昇華の結果として生まれてくるものだと言えるでしょう。

斎藤:IMDのようなビジネススクールも、参加するエグゼクティブに対してクラスへの貢献を重視しているのではないですか。

高津:参加者からの一方的な貢献というより、対話への積極的参加を求めています。自分の意見を表明する必要がありますし、相手の意見を聞く必要もあります。相手の意見を聞いた上で、場合によっては自分の意見を変える必要も出てくるでしょう。このプロセスを楽しんでできる人が増えていくことが、これからの日本のグローバルな文脈における姿なのだと思います。

斎藤:IMDの先生は、日本人参加者をどう評価しているのでしょうか。

高津:何人かの教授のコメントを紹介しましょう。
「思慮深く、謙虚で、助言を感謝とともに受け入れる。上下関係とプロセス、地位と経験への敬意の強い文化の中で、ゆっくりとした意思決定を学んでいる」
「しばしば積極性に欠ける。自らを率いたり、境界を突破しようとしたりする代わりに、ただ指示に従う傾向がある」
「国際的な場で、日本のエグゼクティブは発言したり、意見を表明したりすることが遅い。特に、そういう自発的な行動が少ない」
「若い日本人と若いヨーロッパ人との違いは、かつてよりも小さくなった」

総括するとポイントは二つあります。一つは、日本人の発言力、発信力が足りないこと。もう一つは、世代によって違ってきていて、若い世代がかなり英語力、対話力の面でも上手になってきていることです。もちろん、各自の国際経験の有無にも左右されますが。

斎藤:グローバル人材の資質として人間力、人間的な魅力を身に付けてほしいですね。仕事をする上での専門知識の他に、リベラルアーツ系の教養を併せて身に付けている日本人マネジャーは少ない印象があります。やはり、最終的には教養の幅と、人をひきつける魅力が重要。リベラルアーツはこの先、より大切になっていく気がしています。

高津:どのような教養を身に付けるのが大事だとお考えですか。

斎藤:欧米人は自分自身が関わっているいろいろな産業分野に加えて、政治、経済、歴史、物理、心理、文化など幅広い領域に精通している人が多い。特にトップ層は、どんな話を振っても大抵付いてきます。その点、日本人のトップはまだまだですね。また、海外に行く中堅以上の方であれば、ビジネスに関する数字が分からないと実務としては通用しない。マーケティング戦略を含む経営のゴールを設定し、それを達成するための組織づくりを考案したり、ディシジョンメイキングしたりすることはもちろんですが、最終的にはファイナンスとアカウンティングの知識がないと機能しません。すべての仕事は数字に関わってきますからね。教養と共に身に付けてもらいたいと思います。

高津:いろいろなことから学び続ける力が重要なのではないでしょうか。境界を越える経験をしていると、数多くの分からないことに出会います。その時、背景には何があるのかに興味を持って学ぶことが重要です。自分自身が境界を越えて出会った疑問を深く掘り下げていくことで、結果的に教養が育まれ、それが本人の幅の広さや魅力につながっていくように思います。

境界を越えるための学び合う場を提供するのが、「地球人財創出会議」の役割

斎藤:グローバルリーダー育成に関して、企業の人事部はどう取り組んでいけば良いのでしょうか。

高津:グローバルリーダーを育てたいのであれば、人事担当者自身がグローバルリーダー、境界を越える人材にならなければいけません。その覚悟があるかどうかが、とても重要です。また、自社のグローバル幹部や幹部候補の育成施策を日本人だけで企画するのには限界があります。世界各地の人事リーダーが一緒になって考えていく方向を目指すべきです。

斎藤:最近は多くの企業が社員、特に若手を海外に送り出し、さまざまな経験をさせていますが、そうした動きをどう思われますか。

高津:素晴らしいことだと思います。課題は、戻ってきた後にどうするかです。新しい情報や人々に触れて、ある種「覚醒」した状態で戻ってきます。その「覚醒」した状態の中で、「会社はもっとこうあるべきでは」とか「こんな風にしていったら良いのでは」というアイデアが浮かぶはずです。それを組織側でどう受け止め、生かしていくのか。後工程をいかに作っていくかが大切だと思います。

斎藤:今年は「地球人財創出会議」を、さらに拡大させていきたいと思っています。ご存じのように会議の目的は、インタラクティブセッションを通じて、グローバル人材育成に関する諸問題・課題について考え、学び合う場を提供することですが、ここでも対話が重要なパートを占めていますね。

高津:「地球人財創出会議」は長い時間をかけて進化してきましたし、これからもさらに進化させていきます。ファシリテーターとしての私の役割は、ここでの真の対話の促進です。ゲストスピーカーは何らかの形でリーダーシップをもって会社を経営されている方や、グローバルに関する知の最前線を歩まれている方ばかり。さらに、他の参加者との出会いもあります。さまざまな人たちと意見を交わすことで、お互いの活動内容について情報交換する縁も生まれてきます。ここに来ることで、縁と知を育み、自らのグローバルリーダーとしての歩み、グローバルリーダーの創出のための取り組みに役立てていただきたいと願っています。

斎藤:私もこれからの日本人は、もっと深い対話力を持つように訓練すべきだと思っています。

高津:境界を越えた瞬間に、共通の文脈はなくなります。思いがけないことが起こることもあります。相手がなぜそんな反応をしたのか、その背景に興味を持つ。それが対話の入り口です。

斎藤:昨年も年初には予想もされなかった事象が次々と起きました。グローバリズムの後退が騒がれていますが、基本的にはグローバル人材の要件は大きく変わらないのではないでしょうか。ただし、ローカル型への共感や、変化に対するフレキシビリティーを追加する必要がありそうです。また、不確実性が高まる世界の中で、さまざまな事象が自社のビジネスや組織にどのような影響を及ぼすのか、先を見通す力を持つことも重要です。そのための情報収集力および分析力が新しい要件となるのではないでしょうか。それらを踏まえて、この会議を発展させていきたいと思います。

高津:リーダーとしての感度を高め、境界を越えて行動するための場として、ご活用いただきたいですね。

斎藤:「地球人財創出会議」は「気づき、学び、つながり」がキーワードです。場の提供という意味では、IIBCは他にもFMラジオ放送局J-WAVEとコラボして、英語のSpeak-Upの場として六本木でTOEIC® ENGLISH CAFÉ 等を開催しています。TOEIC® Programを実施・運営するだけでなく、さまざまな場の提供を通じてグローバル人材の育成を支援していきたいと考えています。

一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会 専務理事
斎藤真さん IMD 北東アジア代表高津尚志さん photo
協賛企業
「人と企業の国際化の推進」を基本理念とし、1986年に設立。
以来、「グローバルビジネスにおける円滑なコミュニケーションの促進」をミッションとし、国内外の関係機関と連携しながらTOEIC事業およびグローバル人材開発事業を展開している。