シンギュラリティのケーススタディ
AIが人間の能力を超える事例が各分野で続々
雇用喪失か労働からの解放か、人事にも影響大
コンピュータの能力が人間のそれを凌駕する「シンギュラリティ」(技術的特異点)の概念が一般に認知され始めたのは、先述のカーツワイルが2005年の著作の中で、「シンギュラリティの到来は近い」と宣言したことがきっかけでした。直後こそ、いわゆる似非科学扱いを受けたものの、徐々に同調者も増え、最近では「シンギュラリティ」が本当に2045年に来るかどうかはともかく、一定の信ぴょう性を伴って取り上げられるようになってきています。それはここへきて、コンピュータが人間の能力に追い付き、追い越すという事例が相次いで見られるようになったためでしょう。AIの飛躍的な進歩が人間の存在を脅かしかねないというSFめいた未来シナリオが、にわかに現実味を帯びてきたのです。
1997年にIBMの「Deep Blue」がチェスの世界チャンピオンに勝利したのを皮切りに、2011年には同じくIBMの「Watson」がアメリカのクイズ番組で人間の最強クイズ王を撃破。日本でも12年に富士通研究所が開発したコンピュータ将棋の「ボンクラーズ」がトップクラスの棋士に勝利し、大きな話題となりました。2010年代には、googleが自動運転の無人走行車を数千キロ無事故で走破させることに成功。Facebookも顔の認証システムを人間と同等の能力まで向上させるなど、とくにICT業界ではビジネスへの活用が大きく進んでいます。ビッグデータや機械学習、深層学習などの技術革新により、すでに一部の事業分野では、AIが競争力の源泉になりつつあるのです。
ロボットやIoT(Internet of things)と並んで、“第4次産業革命”の戦略の核と位置付けられるAI技術。その進展および普及の動向には、人材の確保、活用を担う人事部も無関心ではいられません。仮に「シンギュラリティ」が現実のものとなれば、人間のあらゆる生産活動はAIによって代替されるからです。それは“労働からの解放”を意味するのか、あるいは人から仕事を奪い“生きがいの喪失”を招くのか――。「新産業構造ビジョン」の策定に向けて中間整理を行っていた経済産業省は2016年4月に、AIやロボットなどの技術革新により、何も対応しなければ30年度には国内の雇用が労働力人口(15年平均)の1割強にあたる735万人減るとの試算を発表しています。