RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のケーススタディ
ロボット技術がオフィスにもたらす生産性革命
コスト競争力を高め労働力減少を補う切り札に
人工知能(AI)の技術は飛躍的に進化し、囲碁やチェスで人間に圧勝するほどになりました。自動車の自動運転やドローンによる無人配達の実現も目前に迫っています。そうした中、企業などのオフィスワークの領域においても、従来人間が担ってきた知的業務を、機械やAIに代行・代替させる取り組みが急拡大し始めています。その中心技術が「ロボティック・プロセス・オートメーション」(RPA)です。
事業プロセスへのロボット技術の活用というと、従来は、工場などの生産工程で特定のタスクを請け負う工業用ロボットが一般的でした。工業用ロボットは製造現場において、より高い生産効率と品質の向上を実現しましたが、これに対しRPAが活用されるのは、おもにオフィスやコールセンターといった対人ビジネスの現場。ホワイトカラー業務の生産性に“変革”をもたらすことが期待されているのです。
RPA では、ヒトの動きを学習して、オフィスワークに必要な各種アプリケーションを操作するソフトウェア、つまり“ソフトウェアを動かすソフトウェア”が構築されます。この技術が、工業用ロボットが工場で組立やパッケージングを行うように、たとえば人事管理や財務経理、カスタマーサービスなどの業務領域において、これまで人間にしかできないと想定されていた作業をソフトウェアによって自動化・効率化するのです。人間の作業者に代わる、いわば“アプリの司令塔”と考えればいいでしょう。異なるERPやメール、Excelなど大量のITサポートシステムを作業者が逐一起動させて操作する手間と時間を削減し、手作業による入力やデータ連携の多くを代行・代替するほか、既存システムを変更しなくても導入できる点にも注目が集まっています。
RPAの登場は、企業社会における新たな労働者の概念――“仮想知的労働者(Digital Labor)”の出現を意味します。日本RPA協会によると、Digital Labor の台頭により、2025年までに全世界で1億人以上の知的労働者、もしくは3分の1の仕事がRPAに置き換わると予測されています。人件費の地域格差などを利用した従来のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)では、15~30%のコスト削減が限界なのに対し、RPAを活用した場合、40~75%の削減が見込めるためです。しかし、急速な少子高齢化で労働人口の減少が進む日本にとって、RPAを導入する意義はコスト競争力の強化のみにとどまりません。人手不足という構造的な課題を突破する切り札として、国家レベルで取り組むべきテーマであるとの声も高まっています。