もはやDX戦略にAIは必須
非技術者も含めた全社員のAIリテラシー向上を目指す
まったく新しいオンライン教育講座「SIGNATE Quest」
株式会社SIGNATE 代表取締役社長 CEO/CDO
齊藤秀さん
AIやビッグデータの活用が進む中、AI技術者やデータサイエンティストの不足が社会的な課題としてますますクローズアップされています。こうしたなか、日本最大級のAI人材コミュニティーを運営する株式会社SIGNATEは、2019年10月にAI技術者やデータサイエンティスト教育システム「SIGNATE Quest」をリリース。その特長は、AI人材の母集団を増やすために対象者の裾野を大きく広げていること。技術に長けた人材だけでなく、経営戦略や事業戦略の立案に携わっている人材も楽しく、かつ実践的にAIの基礎から実務を学べる教育プログラムです。代表取締役社長 CEO/CDOの齊藤秀さんに、「SIGNATE Quest」の開発背景や今後の展開などをうかがいました。
あまねく広いAI教育が不可欠。必要なノウハウをパッケージ化して提供
AI人材の裾野を広げる「SIGNATE Quest」を開発した背景をお聞かせください。
日本は経済大国の中で唯一、人口が減りつつあります。現在のビジネスモデルやインフラの持続と発展を目指すためには、テクノロジーの活用は欠かせません。ただ現状では、AIやテクノロジーを活用できる人材が圧倒的に足りない、と感じています。もはや、ハイエンドAI人材だけでは社会的な要請に応えられず、より幅広い層に対するAIリテラシー教育が必要になってきています。AIに関する正しい理解と、それを具体的に自分の業務で生かせる能力がAIリテラシー教育の土台になります。
しかしAIは抽象度が高く、具体的にどういった業務課題をAIで解決するのか、データはどう準備するのかを一つひとつ明確にしていく必要があります。企業や個人が自立的に学習できる機会が増えれば、今よりもAIの活用が広がるはずです。そこで技術者だけではなく、プロジェクト立案などに携わるメンバーにもAIの知識やノウハウを学べるeラーニングコンテンツを提供しようと開発したのが「SIGNATEQuest」です。パソコンと通信環境さえあれば、Webブラウザを起動するだけで、いつでもどこでもAIの知識やスキルを学ぶことができます。
教育効果の高いPBL手法により、AIの知識を段階的に学習できる
「SIGNATE Quest」の特長をお教えください。
「SIGNATE Quest」を通じて、育成したい人材像は二つあります。一つ目は、業務のどの部分をAIに切り替え、結果につなげていくかを設計し、立案できる「AI活用人材」。対象者はビジネスサイドの方々です。理数系のバックグラウンドやプログラミングの経験、AIの知識はなくても構いません。「SIGNATE Quest」によってAIとは何かを理解し、業務への適用の仕方を身に付けることができます。二つ目は、AIをビジネスに実装していく「AI実現人材」。ITエンジニアや情報システム、研究開発などの部門に携わる方々を想定しています。プログラミングはある程度できるので、次はAIに取り組むことを期待されている技術者です。
プログラムは二段階になっています。まずは第一段階の「Gym」で、AIがどういうものか、プロジェクトをどういう順番で立案すべきかといった最低限必要な要素を学習します。学習時間は15時間程度です。次に、第二段階の「Quest」を受講します。8分野に分かれていて、分野ごとの学習時間は20時間程度です。
実際のプロジェクトや課題を題材に、自ら考え、解決するプロセスを通して理解を深める「PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)」という教育手法を採用。具体的なAIプロジェクトを分析し、予測モデリングを行い、結果を出してビジネスに還元するまでのストーリーを疑似体験しながら、AIに関する理解を深めていきます。初期は10テーマを用意していますが、随時追加する予定です。
また、「Quest」はゲームのようになっており、一つひとつの課題を演習スタイルで解いていきます。クリアすると経験値が上がり、レベルがアップ。教材を粛々とこなしていくだけでは自由度が低いので、最後に当社のコンペティションシステムを利用したチャレンジ問題を社内コンペ形式で解けるようにしました。こうした仕組みを通じて、社内の学びのコミュニティーが自然に形成されていきます。
「SIGNATE Quest」は、数十人から数千人までと幅広い規模の企業で利用が可能。組織単位のダッシュボードも用意しているので、従業員のアクティビティーや進捗状況を簡単に把握できます。組織のなかでAI人材を総合的に育成していけるように開発しています。
反響はいかがですか。
国や自治体の事業で「SIGNATE Quest」が人材育成教材として導入されることが決まっています。具体的には経済産業省の「AI Quest」事業、宇宙衛星データプラットフォーム「tellus」、広島県のAI/IoT実証プラットフォーム「ひろしまサンドボックス」などです。国や自治体のプロジェクトで先行して動きながら、民間企業にもサービスを提供していきたいと考えています。今後の鍵となってくるのは、いかに事例を増やしていくか。「SIGNATE Quest」では、あらゆる産業分野におけるAI課題を学習テーマにすることにこだわって取り組んでいきたいですね。
今後の目標・展望をお教えください。
多くの企業から、AIに関する課題解決型の勉強の場に「SIGNATE Quest」が選ばれることを目指し、改良を続けていきます。目標社数は2020年末までに100社です。AIの知識やスキルを学ぶためには、教育だけに閉じた考え方ではだめで、社会全体で設計することが重要。また、育成されたAI人材が企業内でしっかりと評価される仕組みも必要です。
2020年内には、個人向けに「SIGNATE Quest」を提供することも検討しています。学習で得られたスキルを生かして、自分が活躍できる企業で働く。そうした循環型のエコシステムができればいいと考えています。当社がAI人材やデータサイエンティストに特化した求人サイトを運営しているのも、企業と求職者のマッチング支援を強化していきたい展望を持っているから。最終的には、ゼロから勉強して育ち、自分の力を発揮できる仕事に就き、自己研さんできる世界を実現したいですね。