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認知症になっても大丈夫な社会というコンセプトから始まった
シルバーウッドが取り組むVR ×ダイバーシティ研修

株式会社シルバーウッド 代表取締役

下河原忠道さん

シルバーウッド育成・研修実践

株式会社シルバーウッド 代表取締役 下河原忠道さん

「多様性は重要である」と言葉では理解していても、実際に自分と異なる立場の人を自分事のように理解することは簡単ではありません。男女の違いに年齢の差、障がい者や外国人。会社の中では、価値観の違いから摩擦が起こることもあるでしょう。人々の中にある「違い」を意識することで自身のユニークさを認識し、主体的な人生を歩むことができる。そんな信念を持ち、VRを用いた認知症体験などのダイバーシティ研修に取り組むのが株式会社シルバーウッドです。同社が今年から本格始動させた「イノベーションのためのVR×ダイバーシティ研修」を開発するに至った経緯を、代表取締役の下河原忠道さんにうかがいました。

従来の目標達成型の人事では立ち行かない時代に

貴社はもともと鉄鋼会社で、サービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」を運営されていますね。

シルバーウッドを立ち上げたのが2000年。約200人の従業員と一緒に事業を展開しているわけですが、この20年足らずで社会のあり方は随分変わったように感じます。日本社会はすでに成熟している。そのため、新規事業をなかなか創出できず、「勝ちパターン」というものがなくなりつつあります。客観的な幸せから、より主観的な幸せに評価軸が変遷するなかで、従来の管理型・目的達成型の人事では立ち行かない時代になってきました。

株式会社シルバーウッド 代表取締役 下河原忠道さん

会社から与えられた目標をひたすらに追いかける、という働き方をしている人もまだまだ多いと思います。しかし、本当の自分とは違う表情を持ったもう一人の自分が頑張っている感覚に陥り、メンタルヘルス不調になってしまうことも珍しくありません。正解がない分、自分自身の価値観を持つこと、それぞれの人間性にあふれる未来を創ることが、現代の「豊かな」生き方になっていると感じています。

ビジネスの中でも、日々の生活の中からヒントを見つける「デザイン思考」が注目されていますね。

少し意外かもしれませんが、介護の現場でもデザイン思考は求められます。ひとくくりに「認知症」といっても、一人ひとりに違った症状があって、ルール通りに収まるものではありません。杓子定規な介助ではなく、クリエイティブな対応が必要なのです。その人自身が生きていく上でのモチベーションを高められるような対応は、ある意味レベルの高いコンサルティングをしているようなもの。介護の仕事には、イメージされがちな肉体労働とはまた違った側面があるのです。

高齢者住宅を運営するうちに、多様性の重要性を感じるようになったのでしょうか。

人の死や病気と向き合ううちに、今のままの社会ではダメだと考えるようになりました。例えば、「認知症予防」に関する情報は書店にもインターネットにも溢れていますが、認知症に対する社会的な心理環境は良いものではありません。認知症になったら、本人も家族も真っ暗だと言わんばかり。確かに大変な面もありますが、多くの当事者は幸せそうに生活しています。ここに大きなギャップを感じました。変わらなければいけないのは、認知症の当事者ではなく、社会のほう。「認知症でも大丈夫」な社会を創っていくために、このギャップを埋めていくのが私のミッションだと思いました。

シルバーウッドが提供する
「VR×ダイバーシティ研修」とは

それが「VR認知症プロジェクト」につながるのですね。自分とは違う境遇の人を、自分事のように感じてもらう。

そのためにはVRを使った仮想現実空間を疑似体験してもらうことが最適だと思いました。認知症の代表的な症状である「徘徊」「帰宅願望」「入浴拒否」「暴力・暴言」といった言動は、認知症で直接引き起こされるものではありません。認知症によって見える・感じる世界が変わることで、当事者は混乱しています。それが理由で引き起こされる、間接的な症状なのです。認知症の方が見ている世界がわかれば、周囲も接し方
を変えることができる。そのためにいくつかのVRプログラムを用意しています。

例えば「私をどうするのですか?」というタイトルのコンテンツ。認知症の症状の一つに「視空間認知障害」というものがあります。視覚から得られる情報の位置関係が歪んでしまうため、ただ車から降りる行動がビルから飛び降りるかのような恐怖心を伴うこともあるのです。

法人向け研修「イノベーションのためのVR×ダイバーシティ研修」には、認知症理解に加えてどのようなコンテンツが追加されているのでしょうか。

新たに追加するテーマの一つに、LGBTがあります。「いつ彼氏と結婚するの?」と迫られるレズビアンの方や、両親にカミングアウトをするかどうかで悩むゲイの方、トランスジェンダーの方が思春期に抱える葛藤などを収録しています。そのほかにも、新人社員や外国籍社員、ワーキングマザー、ワーキングファザーに関するものを制作しています。

世の中には、自分が知らないところで困難を抱えている人がたくさんいます。画一的な価値観を溶かしていくことで、仮に自分の考えが常識から外れていたとしても、社会につぶされることはなくなる。また、会社という場においては、違うものに寛容な環境がイノベーションを生みやすくなります。人事の領域にこそ、VRを使った多様性教育が広まってほしいと思います。

VRを使った研修の様子

VRを使った研修の様子

多様性を学ぶことが、主体性を育むことになると。

がんじがらめ状態を強制リセットできるのが、ダイバーシティ。「多様性」という言葉を、抽象的な概念でもなく、仰々しいイデオロギーでもなく、それぞれの生活の中に浸透させていくためには、実際のコミュニケーションの中で腹落ちする瞬間を作ることが大切です。その経験を積み重ねることで、心の中に自由な空間を広げていくことができます。私たちに必要なものは「アングルシフト」。見えなかった世界を見えるようにするために、VRというテクノロジーが一役買ってくれます。

今後の展望について、お聞かせいただけますか。

まずはコンテンツを充実させ、導入社数を増やすことに注力したいと思います。実は、神奈川県の公立高校で「VR認知症プロジェクト」を導入してくれることが決まりました。大学での実施実績は数多くありましたが、地方自治体が、多様性教育に予算を割いてくれたことに時代の変化を感じましたね。法人研修はもちろん、教育の場にも最適なコンテンツを増やしていきたいと思います。

企業概要
株式会社シルバーウッド

本社所在地:東京都港区南青山3-2-2 MRビル7階
問合せ先:tel.03-3401-4001

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シルバーウッド育成・研修実践

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