人材採用・育成、組織開発のナレッジコミュニティ『日本の人事部』が運営する、HRテクノロジー(HR Tech、HRテック)総合情報サイト

日本の人事部 HRテクノロジー ロゴ

トレンド企業の取り組み2023/09/19

「全員参加」「自分ごと化」を目指すコスモのDX戦略
社員の意識改革に向けた「Cosmo’s Vision House」とは

コスモエネルギーホールディングス株式会社 コーポレートDX戦略部長

夏目久義氏

DX戦略経営戦略組織風土改革

  • facebook
  • X
  • note
  • LINE
  • メール
  • 印刷
夏目久義氏(コスモエネルギーホールディングス株式会社 コーポレートDX戦略部長)

経済産業省の「DXレポート2.2」によれば、国内でDXに取り組む企業の数は増加傾向にあります。一方で、DX推進による成果をそれほど実感できていないという現状もあるようです。このような状況下、コスモエネルギーホールディングス株式会社では、2021年11月に外部からCDO(Chief Digital Officer)を招き、2022年3月にはDX戦略「Cosmo’s Vision House」を策定。「コスモのDXとはなにか」を示しながら、さまざまな施策に取り組んでいます。同社コーポレートDX戦略部長の夏目久義さんに、注力する「全員参加型」への思い、社員一人ひとりが主体的に関わるための「自分ごと化」のポイント、経営層や外部パートナーの連携などを伺いました。

プロフィール
夏目久義氏
夏目久義氏
コスモエネルギーホールディングス株式会社 コーポレートDX戦略部長

なつめ・ひさよし/1995年にコスモ石油株式会社(2015年コスモエネルギーグループは持株会社体制へ移行)へ入社。キャリアのほとんどを、経営企画や事業企画部門における戦略策定とそれの推進業務に従事。2019年からはコスモエネルギーホールディングス株式会社経営企画部で全社業革プロジェクト、2021年11月からはコーポレートDX戦略部にて、コスモエネルギーグループにおける全員参加型のDX活動を展開中。

経験と勘から脱却するためのDX

DX推進に取り組むことになったきっかけをお聞かせください。

桐山前社長(現会長)の「コスモの将来のために『本気のDX』をやっていこう」という思いから、コスモのDXは始まりました。2021年11月には、外部からCDO(Chief Digital Officer)として、ルゾンカ典子さんを招聘。コスモエネルギーグループ全体のDX戦略策定、DX活動の推進支援、データ基盤の整備やデータ分析の実践、DX人材の育成、外部企業とのパートナリングなどを行うコーポレートDX戦略部が新設されました。

私は部の立ち上げメンバーとしてアサインされ、ルゾンカさん+社員3名の4名でDXへの取り組みを開始しました。最初のメンバーは、ルゾンカさんがコスモで活動を開始する際に必要な経験を持った社員として、経営企画部門、システム部門、販売部門からそれぞれ1名ずつのメンバーが集められました。私はそれまで経営企画まわりの仕事に携わる機会が多くあり、社内に広くネットワークを持つことから、その一人としてアサインされました。

本格的なDXに乗り出した目的や背景を教えてください。

石油業界は歴史のある業界で、ビジネスの流れが確立されています。当社も社内にこれまでに培ってきたノウハウや知見が多くあります。そのため年間のサイクルで発生する事象がある程度は事前に想定でき、それに対して先手を打っていれば滞りなく業務を遂行することができます。若手社員は、先輩たちのそんな仕事ぶりを学び、受け継いでいくといった流れがあります。

石油業界に限らず、歴史ある企業であれば業務の高度化と分業化が進み、ビジネスモデルが確立していると思います。そのような環境下では、業務を遂行する上で「経験と勘」がものを言う場面も多いでしょう。実際、当社でも「経験と勘」に頼る場面は多々あります。このように伝承していくやり方は、世の中に変化がなければ、そのままでも問題ありません。しかし、少子化とともに石油需要は減少傾向にあり、電気自動車に象徴されるような脱炭素を目指す流れもあります。桐山前社長からも「このままではよくない」「変わらなければいけない」という言葉とともに、「ビジネスを変えていこう」という大きな方向性が示されました。

このような背景から、「経験と勘」のみに頼るのではなく、データを使って物事を考え、若い人たちが積極的に発信してアイデアを出せる文化を作ろうと動き始めました。

コーポレートDX戦略部が新設された当時のデータ活用の状況はいかがでしたか。

たとえば生産計画の策定、販売実績管理などといった、当たり前のデータ活用は行っていました。一部には、統計ツールを使っている部署もあります。しかし、「今必要とされている“データ活用”ができているか」と言うと、決してそうではありません。多くの社員は、日々の実績の整理、経験と勘の後ろ盾を整理するためにデータを使っています。

世の中では、取得したデータがさまざまな形で活用されているのにもかかわらず、私たちは使いこなせていない。この状況を改善し、データを積極的に活用していく環境を作ることを目指しています。

夏目久義氏(コスモエネルギーホールディングス株式会社 コーポレートDX戦略部長)

自分ごと化の根底にある「Cosmo’s Vision House」

DXを進めるにあたり策定した「Cosmo’s Vision House」について教えてください。

まず、「Cosmo’s Vision House」を作成した背景には、「コスモのDXがどのようなものなのかを、しっかりと伝えたい」という思いがあります。DXという言葉はとても流行していますが、一方で捉えどころがありません。しかし、グループ社員の全員が本気でDXに取り組むのであれば、コスモがDXとして何をしていきたいのかを、社員に正しく理解してもらう必要があります。理解が得られなければ、参加を促すことも難しいでしょう。

また、経営層に理解され、承認され、支援してもらうことも重要です。そこで、DX推進に対する準備が整っている企業を国が認定する「DX認定」の取得を目指しました。DX認定の取得に必要な役員会での意思決定プロセスで、経営層とはコミュニケーションが図れますし、取得後は社内外の関係者に対し、コスモが本気でDXに取り組んでいるということを伝えることができるからです。外部に向けて発信することも意識し、話し合いを重ね、2022年3月に公開したのが「Cosmo’s Vision House」です。

具体的には、どのような内容なのでしょうか。

「Cosmo’s Vision House」は三つのパートで構成されています。

一番上の屋根の部分に掲げているのが、DX活動の結果として成し遂げたい「Cosmological Evolution」。単なるデジタル化や業務の生産性向上にとどまらず、従来のビジネスモデルを変革し、社会のニーズに合わせて新たな価値提供をしていく「ありたい姿」を示しています。続いて、Vision Houseには、具体的に取り組むべきコスモのDX戦略を明示。CX向上と迅速なオペレーション高度化を実行するために必要な要素を、「デジタル・ケイパビリティ」と「チェンジ・マネジメント」の二つ、更にそれぞれを三つに分けた六つの戦略の柱として表現しています。

「デジタル・ケイパビリティ」とは、DXを推進するにあたって組織として備えておくべき能力のこと。この能力を高めるには、組織全体で「デジタルナレッジ・ノウハウの整備」「パートナリング」「データ活用基盤構築」の三つを行うことが欠かせません。「チェンジ・マネジメント」はDX実現に向けて、スキル装着やテクノロジー導入などの技術面だけではなく、「人」と「組織」にも変革が必要だという考え方。具体的には、「DX人材育成」「多様性のある組織構築」「革新と伝統の企業文化の両立」の3点を掲げています。

コスモの強みを活かしたDXで次世代のビジネスモデルへのCosmological Evolution

「Cosmo’s 5C」についても教えてください。

DX推進に必要な社員の姿勢や行動を言葉にしたものが「Cosmo’s 5C」です。五つのCは、「Chance(機会)」「Challenge(挑戦)」「Change(変化)」「Communicate(対話)」「Commit(こだわり)」を指します。日々仕事をするなかで機会を見つけたら、挑戦して、変化につなげよう、という一つのストーリーになっています。

変化のためには、社内外を問わず多様な人とのコミュニケーションを大切にしながら、一人ひとりが自分の仕事にこだわりをもって取り組むことが重要です。Vision Houseを策定してから、社内外にその思いを伝え、ときにはほかの企業の方と意見交換の場を持ちましたが、5Cで全社員の意識改革に目を向けている点を評価していただくことが多くあります。

「コスモのDXとは何か」を定義していくなかで、私たちがたどり着いた答えがあります。それは、「DXとは、特別なことではない」ということ。世の中の大きな変化に対応し続けなければならないとき、データ活用はビジネスパーソンとして身につけるべき普遍的なスキルです。もちろん、誰もがデータサイエンティストやデータエンジニアを目指す必要はありません。それぞれがベースとなるスキルを持ちつつ、組織の中で多様な形で活躍できる――そんなコスモらしいDXの実現を目指したいと考えました。

「Cosmo’s Vision House」「Cosmo’s 5C」を浸透させるために意識していることはありますか。

大事にしていることが二つあります。一つ目は、私たちのチームの役割は「イネーブラー(enabler)である」ということ。「イネーブラー」とは、目的を達成するために条件を整えたりプロセスを促進したりすることです。いろいろなグループ会社があり、いろいろな部署があるなかで、それぞれがさまざまな問題や課題を抱えています。それらをもっと効率よく、スピード感を持って、今どきのやり方で解決するために、私たちが支援に入ります。ただし、どの問題や課題も「解決するのは自社、自部門である」と語っています。「自分自身の課題として、主体的に取り組んでくれるか」を大事にしているからです。

二つ目に大事にしているのは、「全員参加型」を徹底すること。人は変化を嫌がるものです。社員は、何年もかけて自分や組織にとっての一番いいやり方を身につけていますし、そのやり方で回していけば基本的には事故が起きないようになっています。そこで何か違うことをやろうとすると、嫌がられるでしょう。

実際に社内で変化を起こそうとすると、「面白そうだから参加します」という人と、「なんだそれは」と抵抗してくる人に分かれます。また、無関心な人もいます。しかし全員参加としている以上は、抵抗してくる人にも、無関心な人にも、参加してもらわなければいけません。そういった人たちには「応援団になって」と伝えています。「無理やり”DX案件を見つけて取り組んでもらう、データ分析スキルを身に付けてもらう”ということはしないが、頑張ろうとしている人の足を引っ張ってはいけない」と。こうした動きの積み重ねで、全員参加型が実現すると考えています。

DXは、経営層やリーダー格の人、特定の部署、外部のパートナー企業がやればいいという風に、社員から捉えられてしまいがちではないでしょうか。しかし、DXはあくまで「自分たちの課題」。全員が「最後は自分たちがやる」と意識して行動してもらうことが重要です。一人ひとりがプロフェッショナルになることを意識してもらうために「全員参加型」という言い方をしています。いろいろとジレンマもありますが、組織全体で強くなるため、悩みながら取り組んでいます。

全員参加型を進めるためのコミュニケーションやトップからの発信

全員参加を進めるために、どのような施策を行っていますか。

まずは、現場とのコミュニケーションです。私はいろいろなグループ会社に行き、経営層や企画メンバーに「Cosmo’s Vision House」はどのようなもので、どんなことに取り組まなければならないのかを説明して回りました。社内全体へ発信するために、自分たちで作成したコスモのDXについてのコンテンツをeラーニング形式で配信しています。

また、2022年度からDXに関するアンケートを実施しています。DXについて関心があるか、自身はどんなスキルを持っているのか、どんなことを勉強したいのかなどを聞きました。2回目となる2023年度は、社員とのコミュニケーションを深めていくために少し趣向を変えて、「やりたいことがある」ということを答えてくれた方に、アンケート後にヒアリングしたり、DX活動への参加意欲があると回答した方に私たちがイベントを行うことを直接伝えたりしてきています。

アンケートでの質問項目を自分達で考え、Cosmo’s 5Cと関連させて回答をしてもらったものを分析してみると、特徴が見えてきます。組織別の違いもあります。それぞれの特徴の良し悪しではなく、データを使うとこういうことが見えてくるということをお伝えしてデータ活用の面白さを伝えています。

Cosmo’s 5C

さまざまな施策を展開していますが、コンテンツを充実させるための工夫を教えてください。

例えばe-ラーニングだと、フルパッケージで受講する必要があったものを、受講しやすいように半分や3部に分けています。また、「このテーマならすぐに取り組める」といったものを追加投入することもあります。「何を求めているのか分からないけれど、とりあえず作る」のではなく、社員のニーズに応えることで、満足度を高めていくことを意識しています。

社外の話をすれば、「パートナリング」も工夫の一つです。「パートナリング」はVision Houseに記載もしていますが、今までやっていなかったことに着手しようとするとき、自分たちだけではやはり限界がある。スピード感をもって行動していくためには、外部パートナーの力を借りることも必要だと認識しています。ただし、将来的には内製化を目指していきたいですね。

社員がDXに取り組む優先度を高めるようになるための仕掛けはありますか。

ありきたりかもしれませんが、トップダウンは重要です。我々が一方的に指示するのではなく、「トップはこう考えている」と発信することが重要なので、いろいろな会議の場で経営層からのメッセージを発信してもらっています。新しい施策を進めるときは、いろいろな反発があります。しかし新しい施策こそ優先順位を高くして取り組むのは当然のことだと、トップ自らに話して頂いています。

中期経営計画では、データ活用コア人材の900人創出を目指す

実際にDX推進の施策をすすめるなかで、社内の反応はいかがでしょうか。

石油業界は石油という危険物を扱うインフラ業界のため、物事を考える時の時間軸が長く、サイクルも同様に長い。動く金額も大きいため、一生懸命に考え、慎重に一歩を踏み出す傾向があります。そのため、CDOからは、課題はまず「スピード」と言われています。スピード感をもって行動するためには、テーマを小さく短く考えていろいろとチャレンジしてみることが必要です。活動を支援する過程で、そこを理解してもらえるよう意識しています。

また、先ほどの社内のアンケート、「データはこうやって使います」「データをつないで分析してみると、こんな景色が見えています」などと、社内に伝えています。DXへの関心が高い社員がどれくらいいるか、必要なスキルを持った社員がどれくらいいるかを定量的な数字を示すと、説得力が増しますね。経営層からも社員からも「なるほど」といった反応がある。そこで、「DXに関するイベントに参加しませんか?」と投げかけると、200人を超える社員がイベントへ参加してくれることもあります。「こんなことを学びたい」「こういうイベントがあれば参加したい」といった意思表示も増えてきます。こういったことを繰り返しながら、データ活用への理解を進めてきています。

夏目久義氏(コスモエネルギーホールディングス株式会社 コーポレートDX戦略部長)

最後に、現在の課題と今後の取り組みについて教えてください。

「Cosmo’s Vision House」には、3年や5年ではなく、もっと長い時間軸で、コスモとして取り組んでいくべきことを表現しました。中期経営計画の中では、「データの利活用をリードしていく・先導していく人たち」をデータ活用コア人材と位置づけ、グループ全体で900人規模の育成を行うと打ち出しています。データ活用コア人材を中心にデータ利活用を促進させ、その結果がビジネスにも活きてくるという関係を、きちんと作り上げていくことに注力していきます。

課題ですが、先ほど紹介した活動についての認知度を調べてみると、我々が考えている以上に活動内容を知らない社員が多いことが分かりました。これはその人たちが必要な情報にアクセスしていないのではなく、情報がちゃんと伝わる仕組みになっていない、忙し過ぎて確認できていないなど、さまざまな要因が絡み合っていることが理由です。よく言われるような抵抗勢力でもなく、変化を嫌っているわけでもありません。この状況を変えるべく、コーポレートDX戦略部のメンバーが現場に行き、直接話を聞く機会を増やしていっています。最近はそこでいろいろなイベントを行うことも始めており、効果を期待できるのではないかと思っています。

現場に行くと、「実はこんなことに取り組んでいる」「このイベントのおかげで、こんなことができた」と直接伝えてくれることもあり、励みになります。ゆくゆくは、オーケストレーションという言葉で表されるように、点がつながって線になり、更に面になっていくような動きを作りたいですね。そのためにも、まずは小さな点を増やしていく活動を行っていきたいと思います。

「施策を知ってほしい」「イベントに参加してほしい」というメッセージを社内ポータルに掲示したり、メールで送付したりするだけでは、社員の心にはほとんど響きません。私たちが何度もいろいろな機会を作り、直接対話することが重要です。そういった意味では、DXといっても「人力」によるところが大きいと感じています。

夏目久義氏(コスモエネルギーホールディングス株式会社 コーポレートDX戦略部長)

(取材:2023年7月31日)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。


DX戦略経営戦略組織風土改革

  • facebook
  • X
  • note
  • LINE
  • メール
  • 印刷

あわせて読みたい