「HRアワード2017」事例発表会
日本の人事部「HRアワード」は、人事・人材開発・労務管理などの各分野におけるイノベーターを表彰する制度。積極的な活動・挑戦を続けている企業人事部やHRビジネス企業、また人事担当者にとって有益だと評価されている書籍やサービスを表彰し、人事や人材開発に関わる全ての企業や個人のレベルアップと、人フィールドの活性化を実現することを目的としている。今回は初の試みとして、受賞者の中から7名の方に、イベント「HRカンファレンス」で、それぞれの取り組み内容を発表していただいた。
- (1)企業人事部門 最優秀賞
- サイボウズ株式会社 事業支援本部 人事部 武部美紀氏
- (2)企業人事部門 優秀賞
- 森下仁丹株式会社 専務取締役 事業統括担当 兼 ヘルスケア事業本部長 森下雄司氏
- (3)プロフェッショナル人材採用・雇用部門 優秀賞
- エン・ジャパン株式会社 代表取締役社長 鈴木孝二氏
- (4)プロフェッショナル人材採用・雇用部門 最優秀賞
- Sansan株式会社 Eight事業部 Eight Talent Solutions 事業責任者 西村 晃氏
- (5)プロフェッショナル人材開発・育成部門 最優秀賞
- 株式会社ワークハピネス 起業支援チーム スーパーバイザー 鬼海 翔氏
- (6)プロフェッショナル組織変革・開発部門 最優秀賞
- 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 山口大介氏
- (7)プロフェッショナル人事労務管理部門 最優秀賞
- 株式会社日立ソリューションズ スマートライフソリューション事業部
スマートライフソリューション本部 HRテクノロジーセンタ センタ長 盛井恒男氏
サイボウズでの仕事を複(副)業とする人材を募集する「複業採用」 サイボウズ株式会社 事業支援本部 人事部 武部美紀氏
企業向けグループウエアの開発・販売・運用で知られるサイボウズは、2012年から社員の複(副)業を認め、個人の自立と多様な働き方の実現に取り組んでいる。近年、政府による働き方改革が急速に進み、複(副)業に対する関心も高まっているが、2017年1月から、同社での仕事を複(副)業とする人材を募集する「複業採用」をスタートさせた。
●「複業採用」は、働き方の多様化へのチャレンジの一環
人事部・武部美紀氏は「複業採用」について、「これまで当社で行ってきたさまざまな人事に関する取り組みの延長線上にあります」と言う(*下表参照)。同社の人事制度の方針は、「100人いれば、100通りの人事制度」。一人ひとりの個性を重視した結果の多様性、それぞれが望む働き方や報酬を実現、公平性よりも個性、などを目指すものである。
- 働き方の選択(残業あり/なし、在宅/オフィス)
- ウルトラワーク(時間や場所の選択を一時的に変更可)
- 最大6年の育児休暇
- 退社しても再入社できる育自分休暇
- 副業(複業)の自由化
「10年ほど前は離職率が30%近くあるなど、人事制度上の問題が表面化していました。これでは企業理念である『チームワークあふれる会社を創る』ことを実現するのは難しいと考え、人事制度改革を進めることになりました。そのときに何が必要かというと、多様性の実現。働くことに対して一人ひとり求めるものが異なる中、一律的な処遇ではなく、働き方の多様化へのチャレンジを進めました」
「副業」と「複業」の違いは、位置づけが「副業」は主に対して副であるのに対して、「複業」は並列であること。目的も、副収入を得るというより、「複業」は自分らしい個性的な経験やキャリアを積むためにあり、その対象は地域活動やボランティア活動など、全ての価値創造活動が含まれる。副業(複業)の自由化は、2012年からスタートした。
「特に事前申請は必要ありませんが、他社に雇用される場合や会社ブランドを利用する際は申請することになっています。農業やNPO法人など、他社で複業を行う社員が増えています。このような下地があって、『複業採用』をスタートさせました」
「複業採用」導入のきっかけとなったのは、人事メンバーによる「複業する社員がいるなら、サイボウズを複業として働く人がいてもいいのではないか」という発案だった。同社の目指す組織のあり方は「オープン&コラボレーティブ」。企業理念を共有できる人であれば、自社との「距離感(雇用形態)」はさまざまで、結果的にサイボウズに協力してくれる人が増えていけばいい、と考えたのだ。
「実際に制度をスタートしてみると、雇用形態や業務内容をどうするかなど、試行錯誤の連続。一人ひとりに合わせて、仕事や役割を設定していくしかありませんでした。また、社会保険や雇用条件、他の勤務状況などを一人ひとり確認していく必要もありました。さらには情報管理や安全衛生上のリスクなども含めて、包括的に対応しなければなりません。そのため、採用担当のみならず、受け入れの現場や総務・労務・法務など全社的な協力体制があって初めて実現できた、取り組みでした。結果的に制度導入後、二人が入社へと至りました」
「複業採用」で入社した人に活躍してもらうために大事なことが三つあるという。一つ目は、スキルの保有、選択する覚悟など、個人が自立していること。二つ目は、受け入れるチーム(同僚)が個性や多様な働き方を理解し、尊重する意識や風土があること。三つ目は、働き方の異なる人の貢献度に対する正当な評価をはじめ、人・モノ・カネなど長期的な資産保全、完全配慮などマネジメントの問題への対処である。
ここまでの成果としては、「地方で仲間を増やす切り口となる」「シニアなど、多様な経験を持つ人を活用できる道となる」「新しい働き方、チームワークのあり方に変革を与える」「社会的な反響、変化の兆しが見える」など、相応の手応えと可能性を感じていると武部氏は言う。
「今後、多くの会社で『副業』が認められていくようになれば、働く人の選択肢も増え、「複業採用」が当たり前の社会になっていくと思います」
ヘルスケア事業を主力とする森下仁丹は、社会人としての経験を十分積んだ後も仕事に対する情熱を失わず、次のキャリアにチャレンジしようとする人材を、性別・年齢を問わず採用する「第四新卒採用」を開始した。「オッサンも変わる。ニッポンも変わる。」と題したインパクトのある求人広告を、一般新卒採用の解禁日となる3月1日に合わせて開始。幹部候補の即戦力確保を狙った採用手法は、中高年の新しい働き方の提案として注目を集めている。
●経験・キャリアではなく、その人のポテンシャルと情熱で判断する中高年の中途採用
「採用と言えば、『新卒採用』のほか、中途採用として20代前半層を狙う『第二新卒採用』、ポスドクを対象とした『第三新卒採用』などがありますが、『第四新卒採用』という言葉はありませんでした。当社が考えた、独自のネーミングです。実は、現社長が52歳で森下仁丹に入社したという経緯もあり、50代半ばでリーダーとなる中高年の人たちを、意図的に集めようと考えたことが『第四新卒採用』を始めたきっかけです」と、森下氏は語る。
特徴的なのは、森下仁丹の考える「第四新卒採用」とは、経験やキャリアではなく、その人のポテンシャルと情熱で判断すること。定年延長に伴う高齢者活用とは、趣旨が大きく異なるのだ。
同社では20代~30代の若手社員を教育できる人材が手薄だったため、新卒採用よりも前に、まずは中高年のリーダーとなる人材を採用する必要があった。問題は、この年代の人たちは相応の経験を積んでいるため、自分のやり方を押し通す傾向があること。
「そこで、専門的な経験・キャリアよりも、実際に面談を行って若手社員の育成に対する思い・情熱を持っている人を採用しようと考えました」
実際に求人を始めると、想像以上の反響があった。
「新聞の求人広告のインパクト、さらにYahoo!のトップに掲載された影響などにより、エントリー数は実に2200名に及びました。年齢は21歳から74歳までと幅広く、タクシードライバーや学校教諭など、実に多様なキャリアを持つ人材から応募がありました。応募理由も、さまざまでした。育児、介護、病気などにより、離職を余儀なくされた方たちが再チャレンジのために応募してきたり、大手企業に長年勤めてきた方がこれまでのキャリアを振り返って、『自分の人生このままでいいのか?』と考え、応募してきたりするケースもありました」
多様なエントリー人材の中から、人事を含めた各事業部門トップ10人による選考の下、1次選考ではまず200人に絞り込んだ。東日本と西日本で会社説明会を実施し、「第四新卒採用」を行う趣旨を改めて説明した後、7月にはグループ面談を実施。課題を与え、そこからどのような結論を導き出すかを議論してもらい、その人の持つポテンシャルやリーダーシップなどを観察した。1回では測りきれない部分もあるため、最も多いケースでは5回もの面談を行ったという。9月下旬には採否を決め、各部門へ配属となった。
当初考えていた以上に、予想以上の成果が実現できた。と森下氏は言う。
「もともとは研究開発部門のマネジメント層をターゲットとしていたのですが、大変ユニークな人材が数多く応募してくれました。また募集人数も、若干名の予定でスタートしましたが、将来的な成長ステージを考え、結果的に10名を採用しました。本業のバイオ・製薬・健康素材だけでなく、ITやホテル、食品、インテリア、家電など、異分野の人たちを多く採用したのは、当社にはない問題意識を持って組織を変えてほしい、という思いがあったからです。
経験・キャリア採用とは違う『第四新卒採用』への取り組みは、高齢化が進み労働力人口が不足する中、ベテラン社員の活用とマネジメント人材不足に悩んでいる多くの日本企業にとって、一つの有効な解決策を提示したように思います」
日本初の完全無料・クラウド型採用支援システム「engage(エンゲージ)」 エン・ジャパン株式会社 代表取締役社長 鈴木孝二氏
日本最大級の転職サイト「エン転職」を展開しているエン・ジャパン。同社では、完全無料でスマホ最適化された採用HPの作成、応募者管理ツール、転職意向者へのスカウト機能を搭載した日本初の採用支援ツール「engage(エンゲージ)」を新たに発売した。リリースから1年間で、導入企業数は既に5万社を超えている。
●「入社後活躍」できる人材を採用する、クラウド型の採用HP作成・応募管理システム
代表取締役社長である鈴木孝二氏は、エン・ジャパンが事業スタンスとして重要視しているのは「入社後活躍」だと語った。
「人材サービス業界では、企業の採用活動をサポートする際、求人広告・人材紹介を使い、選考などを経て、『いかに求める人材を入社させるか』にゴールを置いています。確かに人材サービス業のあり方として、入社前までのサポートは大切なことですが、当社はそこをゴールには置いていません。転職者の入社後の活躍、つまり働き手の会社人生が充実し、企業の業績が向上することを最終的なゴールに置いて、そのためのミスマッチの少ない採用・入社後のサポートに注力しているのです」
現在、就職・転職を考えている人たちが情報収集をする際は、企業のコーポレートサイトや採用HP、口コミサイト、口コミ検索を活用する。求人サイトに掲載されているスペック的な情報よりも「働く社員や環境の情報」など、その会社で働いている人たちの「生の声」を求めているからだ。
「しかし、このように求職者からニーズがあっても、企業側のHPでは情報公開が非常に遅れています。情報に間違いがあるケースも少なくありません。そのため、ミスマッチが起きています。特に中小企業は、HPの内容が十分ではありません。HPを作成しても、その後のメンテナンスができておらず、最新の情報が更新されないケースもよくある。また、スマホ対応ができていない企業がほとんどです。多くの求職者はスマホで情報を得ていることを考えると、求める人材に対して有用な情報を伝えられていないことがわかります」
このような課題を解決するため、エン・ジャパンは求職者の目線に立ち、入社後のミスマッチが起きず、入社後に活躍できる人材を採用するための採用HP作成・応募管理システム「engage(エンゲージ)」を制作。「利用は完全無料」「企業ごとオリジナルの採用サイトを作成」「応募者管理ツールを搭載」「転職意向者へのスカウト送信」「求人情報専門の検索エンジンに自動掲載」といった機能を持つ同システムは、導入企業数が既に5万社を超えているという。
「新機能として、ビデオインタビューとタレントアナリティクスを加えました。ビデオインタビューでは、企業が面接に向けたメッセージやアドバイスを動画で作成。求職者はスマホやパソコンから面接前にそれらの情報をチェックすることができます。こうした機能が付加されることで、求職者の志望意欲が高まると同時に、面接来社率のアップも期待できます。求職者の企業理解の促進と面接辞退を防止する、コミュニケーションサポートツールです」
また、「タレントアナリティクス」は、入社後に活躍する人材を発見する、オンライン適性分析だ。面接や書類ではなかなか見抜けない求職者の「知的能力」「性格特性」を可視化。これらを事前に確認することで、自社にマッチした人材の取りこぼしを防止することができる。さらに入社後、活躍が期待できる人材の早期退職を低減し、採用基準の定義付けにも活用が可能だ。
「企業はコストや人員を割かずに採用HPの充実と、入社後の活躍を期待できる人材を採用することが期待できます」
新しいプラットフォーム「Eight Talent Solutions」 Sansan株式会社 Eight事業部 Eight Talent Solutions 事業責任者 西村 晃氏
Sansanは、名刺管理ソリューションに特化した会社として知られる。同社が提供する個人向け名刺アプリ「Eight」は2012年にリリースされ、名刺を起点とした国内最大のビジネスSNSに成長した。日々、150万人を超えるユーザーに利用され、年間1億枚以上の名刺が取り込まれているという。今回受賞対象となった「Eight Talent Solutions」は、Eightユーザーが自分のキャリアの可能性と出会うことができるプラットフォームである。
●ユーザーのトータルキャリアを支えるサービスへ
「『Eight Talent Solutions』は、単なるダイレクトリクルーティングのプラットフォームではありません。EightユーザーのUX(ユーザー体験)向上に資することを、サービスの基本理念に置いているからです」と、西村氏は「Eight Talent Solutions」の特徴を説明する。
西村氏によると、「転職市場を考えた場合、転職顕在層が2割に対して、Eight Talent Solutionsが対象としている転職潜在層は8割」。LinkedInが実施した「プロフェッショナルの転職・仕事・キャリアに関する意識調査」によると、転職潜在層に「現在の仕事のポジションにどの程度満足しているのか」と聞いたところ、73%が「満足」と答えており、転職潜在層にハイパフォーマーが多いことがうかがえる。
「注目されるのは、転職潜在層に現在仕事を探しているかどうかを聞いたところ、『採用担当者との話に前向き』と回答している人は52%と、過半数を占めている点。この層に対して適切な情報を提供し、効率的にアプローチしていけば、求人・求職者双方にとってより良い採用・転職が実現できます。まさに、その点に狙いを定めたのが『Eight Talent Solutions』なのです」
人材サービスを展開する際、転職活動を行っていない潜在層に対するアプローチは、実に息の長い話である。このことを前提に、「Eight Talent Solutions」は「Job Change Network」と「Business Network Galaxy」という二つの代表的なデータ分析を駆使して、精度の高いサービスが展開できるよう設計されている。
「具体的には、「Job Change Network」は、Eight上での人の動きをトラックしたもので、ここから採用のトレンド(人の流れ)や転職の可能性を推測します。実際、その方がどのような業界に親和性があり、転職する傾向にあるのかを一定の確率で推測することができるのです」
また、先ほどの「採用担当者との話に前向き」な層に関して言うと、「前向きにさせる良い話」は、人によって異なる。その「良い話」を浮き彫りにするのが「Business Network Galaxy」。人と企業の親和性を、名刺交換の履歴から捉えたものである。「Eight Talent Solutions」では、「Jpb Change Network」をベースに、「Business Network Galaxy」の情報を掛け合わせることによって、企業は「転職の可能性の高い」人に対して高いマッチ率でアプローチすることができる。また、Eightユーザーに対して「スカウトメッセージ」が届いた際の開封率は非常に高い。2017年6月末から、一部の企業で限定的にスタートしたサービスだが、既に内定者が10数名出ているという。採用ツールとしても効果の高いサービスと言える。
今までの人材サービスは企業側からの一方通行の傾向が強かったが、「Eight Talent Solutions」が描くサービスは、「共創(Co-Creation)」の世界である。そのためユーザーは、「Eight」に登録しているだけで良いキャリアが築けるのではない。名刺交換して築いた人脈を自分できちんと管理していくことが必要なのだ。その結果、ユーザーのキャリアをサポートするための材料(ビッグデータ)を得ることができ、ビジネスキャリアを共に創っていくことができるのだ。
「将来的には、ユーザーのトータルキャリアを支えるHRプラットフォームとして、さまざまな形で人材サービス各社とも協業することができるようになると思います」
イノベーター人財を育む「ニッポンイノベーター塾」 株式会社ワークハピネス ニッポンイノベーター塾 ファウンダー 鬼海 翔氏
人材育成コンサルティングを展開するワークハピネスが始めた「ニッポンイノベーター塾」は、多くのリソースを持つ大企業の次世代リーダーと、一般公募の高い志を持つ社会起業家の卵でチームを作り、社会課題の解決につながる事業アイデアやビジネスモデルを構築するチャレンジャブルなプロジェクトである。
●「大企業の意識改革」と「若者の挑戦機会」が日本のレバレッジポイント
ニッポンイノベーター塾のファウンダーである鬼海氏は、多くの日本企業が新規事業創出を経営課題としている一方で、大企業には優秀な人材が数多くいるのに、ゼロイチ(起業)を実践できるイノベーター人財の育成が進んでいないことに対して、強い危機感を持っているという。
「日米間におけるベンチャー企業の開業率、ベンチャー投資額のGDP比率格差は非常に大きく、日本では事業化せず死蔵しているアイデアや技術が63%にも及んでいるという調査結果が出ています。さらには、20代の日本の若者が挑戦(クリエーティブ・冒険志向)を嫌っていること、安定思考が強まって大学生の就職が大手企業に集中していること、日本の人口に占める起業家の比率が各国にかなり遅れていることなど、問題・課題が山積しています」と、鬼海氏は起業家人財の立ち遅れに警鐘を鳴らす。
特に近年は、AIやロボット、Iotによる第四次産業革命が押し寄せていることもあり、閉塞感漂う状況を打開していくには、「大企業の意識改革」と「若者の挑戦機会」が日本のレバレッジポイントだ。まさに「どうする、ニッポン?」という問題意識から立ち上げたのが、2017年に本格始動したオープンイノベーションプロジェクト「ニッポンイノベーター塾」なのだ。
グローバル化が急進展している現在、ライバルが国内競合他社ではないことは明確である。そこで「ニッポンイノベーター塾」が掲げたミッションは「日本のチカラを結集し、未来の世界に希望をもたらす」。スポンサードを募った大企業から派遣された大企業の次世代リーダー、これから社会起業家になりたいと夢を抱いている若者、学生、フリーランスなどの個人が2~4人から成る異業種連合チームを組み、“修羅場環境”の下、新規事業の創出に注力している。
「インキュベーションプログラムとして6ヵ月間、現業と並行しながら、平日の夜や休日などに、日本や世界の社会課題の解決を目指す事業アイデアの構想と検証を繰り返します。Final Demo Dayで優秀な成果を挙げたチームは、最大500万円の出資金を得て、起業することになります。このゼロイチを体感することが非常に重要です。ここでの体験によって真のイノベーター人財に成長すると共に、出身母体である大企業に戻った後も、事業の変革人材として活躍してもらう循環システムを考えています。これは起業することだけに執着するのではなく、大企業の意識変革を目的の根本に置いているからに他なりません」
異業種連合チームとしたのは、大企業の次世代リーダーだけでは事業運営には長けていても、なかなかイノベーションが起きないからだ。異質の人材が加わることで、お互いに刺激を与え合い、思いがけないイノベーションが起こる。だからこそテーマは、「日本や世界の社会課題を解決するスタートアップ企業をゼロから創る」とした。大企業から参加した人たちには、自社の看板・ブランドを忘れてもらうことからスタートする。具体的な取り組みとしては、「スマートシティ」「アクティブシニア」「ココロを豊かにする新ビジネス」「観光立国」「健康立国」などが挙げられる。
鬼海氏は、イノベーションを成功させるカギは、「不退転で取り組むべきテーマの発見」と言う。そのためにも、一人ひとりが強い使命感を持つことが大切だ。チームビルディングにおいても、「あなたは何を成し遂げたいのか」を深掘りすることから始める。
「このような異業種連合で実際に起業するプログラムは、世界でも例がありません。本格的に開始してまだ1年ですが、現在までに四つのアイデアが採用され、新会社として誕生しています」
個と組織の成長を診るメガネ「HR Glass」 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ ビジネス・テクノロジーデザイン部 事業開発グループ シニアスタッフ 山口大介氏
リクルートマネジメントソリューションズとマクロミルは、中小企業向けにインターネットによる組織診断サーベイ「HR Glass」を開発した。「HR Glass」は、個人と組織の成長度・課題を可視化させることによって、さらなる成長に向けた組織開発など、「攻めの施策」につなぐことのできる新サービスである。
●結果の読み解きは「HR Glass Loupe」を活用し、自社の状況を客観的に分析することが可能
リクルートマネジメントソリューションズは、リクルートグループの中で大手企業を中心とした人材育成・研修領域を担っているが、事業開発グループの山口大介氏は50万社以上あると言われる中小企業に対して、自社の持つ個と組織に関する知見やデータを活用したサービスを利用してもらえるのではないかと考えた。
「特に、成長している中小企業における、人・組織に関する問題解決には組織開発のための攻めの調査が必要です。これにより、成長企業の人・組織の問題を明らかにすることができるからです。また、組織調査を効果的に活用するために、結果の読み解きが分かりやすいサービスが求められると考え、開発したのがインターネットによる組織診断サーベイ『HR Glass』です」
サービスの特長は、「企業や事業部の組織とその組織に所属する従業員の状況(=成長度)を測る調査フレーム」「42問10分で回答負荷が低いアンケート」「結果の読み解きが簡単にできるツールの充実」の三つ。調査フレームは、「組織の成長度」「個人の成長度」「個人の特性」で構成されている。この構成により、個人と組織のどの部分に課題があるのかがひと目で分かり、またその組織に存在する人材のタイプ(マネジャー型、イノベーター型など)も即座に把握できる。
「組織診断としては珍しく、個の人材タイプの診断が可能です。成長の捉え方や感じ方は人それぞれ。個人と組織、維持と変革。これら2軸の指向で、どういったタイプの人材であるかを診断します。これだけの調査であれば、通常は200問近くの項目設計になりますが、個と組織の成長度を測るために必要な最小の項目に絞り込みました。一般的に、20分程度で回答する調査が多い中、10分あれば回答できるボリュームで、負荷がかからないよう、設問を設計しました」
結果の読み解きは、帳票形式のアウトプットとWebサイトでデータを分析する「HR Glass Loupe」を活用する。「HR Glass Loupe 」を使えば、蓄積されている比較データから対象の軸を選ぶことができる。業績基調や組織の発展段階など、自社の状況に合わせて対象を入れ替えることで、自社の状況を客観的に分析することも可能だ。
「比較軸の変更後は、自社の実施結果と世の中の平均とを比較することによって、自社の特徴(概要)を分析することができます。次に詳細項目へと移り、具体的にどの部分に課題があるのかを、深堀りすることも可能です」
また、自社従業員の年代や性別、職種などの比較軸で、実施結果を分析することができるのも大きな特長だ。年代や職種を掛け合わせ、比較軸を入れ替えながら自社の組織運営上の課題を把握することにより、改善課題の優先順位付けができる。各調査項目は、読み取りのポイントや解釈をヒントとして確認することが可能になっている。マネジメントの得点の低さだけでなく、他に注力するべき項目を確認し、例えば職場の風土に問題がないかなど、自社の状況を読み進めていくことができる。
課題の特定後はリクルートマネジメントスクール(公開型研修)やマネスタ(管理職のためのモバイルラーニング)コンサルティングサービスをはじめとしたさまざまな手法で課題の解決に向けた支援が可能。
提供価格は50万円から。インターネット調査と報告書集計・出力に加え、分析サイトが利用可能だ。従来の調査だと、数倍かかるケースがほとんどだが、共同開発をしたマクロミル社をはじめとしたマーケティングベンダーとの連携により、低価格で運用・納品面も安心して利用できるサービスになっている。
「今後、提供顧客の拡大に合わせ、組織診断の結果だけでなく、企業情報や打ち手の実行状況、個人評価などのHRデータと連携、蓄積を進めていくことにより、さらなる知見の提供が可能だと考えています。単なる組織調査の枠を超えて、個人と組織の成長状態を診るためのサービスに進化させていく予定です」
健康経営の実現を支援する「リテシア/AI分析」 株式会社日立ソリューションズ スマートライフソリューション事業部 ライフスタイルイノベーション本部 HRテクノロジーセンタ センタ長 盛井恒男氏
日立ソリューションズの「リテシア/AI分析」は、人事総合ソリューション「リテシア」のAIを活用した新しいサービスだ。「リテシア/AI分析」の組織ストレス予測サービスは、AIを活用して社内に蓄積する大量かつ多様な人財データを分析。ストレス状態の可視化により、健康不調による休職者の発生抑止を支援するものである。
●AIで得られたデータを蓄積・分析していくことで、個人の幸せと企業の成長を実現する
「リシテア」は1994年に「就業管理システム」としてリリースして以降、20年以上にわたってカバーする領域を拡大し、人事総合ソリューションとして導入実績1190社164万人を誇っている。このラインアップの中にある「AI分析」が、「リシテア/AI分析」だ。同社は「人事データ×AIの実証実験」として、「リシテア」の保持する人事関連データとAIで、人事労務管理のさらなる改善に向けた試行を実施。そこで得られた結果・知見を基に、ソリューションとして提供したのである。
実証実験として、まず従業員の「働き方」「労働環境」のデータを分析し、過去にメンタル休職した従業員に近い「働き方」「労働環境」の人を検出した(メンタルヘルスの可視化)。次に、メンタル休職した従業員の特徴(メンタルに影響の深い要素・条件)を基に、どこに手を打てばよいかを示した(AIを活用して予測モデルを構築)。そして、検出対象者への早期ケアを促し、休職者発生抑止の取り組みを支援した(予兆を検出し、早期ケアを支援)。分析対象となったデータ項目は、メンタル休職(休職の有無と開始日)、働き方(残業時間、年休取得日数、休出日数、遅刻日数等)、人財データ(年齢・性別、配偶者の有無等)、MBO(自己評価と上長評価の差異の有無など)、労働環境(単身赴任の有無、上長の変更の有無、勤務地変更の有無など)である。
「このシステムを定期的に運用することによって、要ストレスケア対象者を早期に特定、ケアすることができ、将来の休職者発生を抑止する効果が見込めることが分かりました」
そして2017年10月からは、「リシテア/AI分析 組織ストレス予測サービス」を稼働することになった。具体的には、下記のような内容である。
- 勤務実績データ(残業時間、年休取得、出社状況など)からストレス度合い(生活リズムの乱れ)を可視化
- 分析結果を産業医が対象者との面談時(長時間残業者面談、ストレスチェック面談等)に活用
- 管理職向けに、部下の残業実績、年休取得状況等の一覧を表示し、部下のラインケアへ活用(11月に導入済)
「自社内での運用として、管理職向けには個々の指標ごとに部門内のランキングを表示し、『対象者への作業量/負荷の調整』『休暇や遅刻の多いメンバーとの会話、多い理由の把握』『各指標の上位者への頻繁な声掛け、日頃からの気配り』などの実施を促しました。産業医に対しては、法定ストレスチェックの結果として実施している面談において、ストレス予測の結果を補助資料として参照してもらいました」
現在、同社では人財の管理と分析として、「組織ストレス予測」「組織パフォーマンス診断」を提供しているが、今後は「従業員エンゲージメントサーベイ」「IoTセンサーでの労務管理」などを予定している。
「これらのデータを蓄積していくことで、多角的にデータを集約・分析し、働き方改革を見える化していきます。合わせて、個人のパフォーマンス向上をあらゆる角度で支援する『パーソナルライフ支援』を行う予定です。これにより、個人の幸せ(健康・働きがい)が企業の成長(生産性向上)へとつながっていくことでしょう。これらの知見とソリューションによって、企業の人事管理全般に対する支援を強化していきたいと考えています」
[A]社員の力を引き出し強みを活かす、言葉の「かけ方」と「聴き方」
[B]時代を切り開く「経営人材」を育成する
[SS-1]売り手市場採用の若手人材をどう育成するか ~AI時代の採用と育成戦略~
[C]人事プロフェッショナルの条件 ~経営に資する人事について考える~
[D-5]【法改正目前】障がい者雇用を変えた福利厚生の仕組みとは? ~SMBC日興証券の取組みから紐解く~
[D]組織風土改革をどのように推進すればいいのか?~クレディセゾンと日本郵便の取り組み~
[LM-1]日本の人事を科学する ~なぜ人事データの活用が必要なのか~
[E-5]理論先行から行動先攻に変える!次世代リーダー育成事例と3つのしかけ
[E]従業員が幸せになれば、生産性が向上する
[F-2]人事課題の解決を支援する「360度フィードバック」~事例を通じた具体的な工夫~
[SS-2]人材不足を乗り切る「これからの中小企業経営」
[F]グローバルリーダーの働き方 ~こういうリーダーでは通用しない~
[G]働き方改革プラットフォームの挑戦~人生三毛作時代の働き方と新たな人事部の地平~
[H]全員戦力化の時代:働き方改革の本当の目的
[AW-2]「HRアワード2017」事例発表会
[I]優れた経営者の条件
[J]フィードバック入門:耳の痛いことを通知し、部下や職場を立て直す技術
[K-5]「経験学習」と「サーバントリーダーシップ」で持続的に成長する組織をつくる
[K]“エンゲージメント”が社員と企業を共に成長させる
[L-5]一流プロサッカー選手から学ぶ「プロフェッショナルな個人と組織の創り方」
[SS-3]「健康経営」が従業員のやる気・働きがいを高め、組織を活性化する
[L]「産官学」それぞれの視点から考える“ワークスタイル変革”
[OA]人材に関する多様な課題を解決するため、企業の人材育成はどうあるべきなのか
[OB]「働き方改革」成功の条件 -生産性を高めるには-
[OC]人事が知るべき「生産性向上」と「イノベーション」
[OD]人と組織を成長させる「ポジティブ心理学」 ~明・暗の両面を知るからこそ、人は真価を発揮できる~
[TH-1]戦略人事・タレントマネジメントをどのように推進すればいいのか ~グローバル企業のテクノロジー活用事例~
[TH-3]AI・VR・アナリティクス…… テクノロジーが採用活動を変革する!
[TH-5]「HR Technology先進国アメリカ」から学ぶ組織人事の未来 ~HR Technology Conference & Expo@LasVegasレポート~
[TA-6]その「HR Technology」は何のため?人事が真に目指すべきゴールとは。
[TB-6]現場の生産性向上に寄与する人材育成とは?グローバル最新事例とその考え方