理論先行から行動先攻に変える!次世代リーダー育成事例と3つのしかけ
- 石橋 真氏(リ・カレント株式会社 代表取締役社長)
- 井口幸人氏(ライズマネジメント株式会社 代表取締役)
厳しい外部環境から生じる数々の要請や、組織内で進む多様化といった状況の中で、いかに次世代リーダーを選抜し、育成していけばいいのか。人材・組織開発の研修企画・運営、コンサルティングを行っているリ・カレントの代表取締役社長・石橋真氏が、その考え方とポイントを提言した。後半は、同社のビジネスパートナーとして講師を務める井口幸人氏が、GE時代の経験を交えながら次世代リーダー育成のしかけについて語った。
(いしばし まこと)株式会社リクルート時代、そして二度の起業経験の中で様々などん底経験とそこからの這い上がり経験を持つ。「人は一人では弱い。だからこそ組織としての共育と協働が必要」というポリシーのもと、「リーダーシップ×フォロワーシップ=チームワーク」をコーポレートメッセージとして発信し、日々人材開発プロデュースに挑む。
(いぐち ゆきひと)GEグループにて20年に渡り、営業、マーケティング、400名以上のリーダー育成と400件以上のプロジェクト統括等を経験。シックスシグマ・マスターブラックベルトを取得。2014年より日本GE株式会社GEキャピタルにて、営業支援の一環として、GEの人材育成やGE流問題解決手法を研修方式で顧客に紹介。年250件以上の顧客セミナー・セッションを統括、自らも講師として登壇。2015年 ライズマネジメント株式会社設立。外資系企業での実務経験をベースに、失敗例と成功例を交えて、受講者の目線に合わせた研修を実施している。
ミッションから計画に至る体系を学ぶ
リ・カレントは人材・組織開発の研修企画・運営、コンサルティングを行う企業だ。30代、40代の選抜人材の教育にトレーナーとして直接関わっている石橋氏は、最初に教育を実践する上での問題点を取り上げた。次世代リーダーの選抜型育成に関する239社の実態調査からわかったのは、「育成のゴールが明確になっていない」「企画・実施するための組織の体制が整っていない」という問題だ。
「育成においては、階層ごとにある『役割認識』、コミュニケーションやリーダーシップなどの『スキル習得』など、ゴールをしっかりと示すことが必要です。また選抜人材の教育の場合、本人自らが変わり、組織をいい方向に変えていくという、ある種のプライドを持つ『矜』育(キョウイク)による使命覚醒が重要です。弊社では、自分の職場での使命を具体策に落として実践を継続し、ぶれない器になっていくことをゴールとして掲げて、研修を行っています」
第一段階では、「経営理念・経営方針からつながっている部署の基本的ミッション」「部署のヒト・モノ・カネ・情報といった資源の強み」「内部環境変化」を捉えながら、課長や部長の視点で部署のミッション・ビジョン・バリューを掲げたらどうなるかを考える。ミッションを軸に、変革型リーダーになるためのビジネスキャリアを自己決定していくシミュレーションを中心に、最初からいきなり強い使命感とモチベーションを高めていく手法だ。
「チェンジマネジメントで必要とされるミッション・ビジョン・バリューは『目的』にあたります。その下に位置する『目標』は戦略・目標、『手段』は施策・計画。ミッションから計画までの一連の体系を学んでいきます」
ここで石橋氏は、ラグビーワールドカップで日本が強豪・南アフリカ代表に土壇場で勝利した映像を投影した。
「まず『日本ラグビーの歴史を変えよう』というチームのミッションがあり、そのための戦略として『日本人の強みである俊敏性と持続力を活かすラグビー』があり、施策として『ラインアウト、タックル、スクラムの徹底的な練習』があったことで、勝利に結実しました。この映像からは、ミッションから計画までの体系が明確に実行されたことが分かります」
成果を生むプロセスと「関わり効果」
石橋氏は選抜教育の成果を生み出すプロセスとして、「巻き込み現場実践」に取り組んでいるという。
「ミッションから施策までを書き出し、その期間にどれだけの上位者や同僚を巻き込めたか、毎回チャレンジを課します。また、このチャレンジに関する一人4分間のプレゼンテーションや、リーダーシップを行動化したものの360度サーベイとフィードバックによって、ほかの参加者や職場から多面的なコメントを受けられるようにしています」
そうして成果を「見える化」することには、行動力を強化させる狙いがある。中長期的課題と短期的課題をまとめて、組織と個人での取り組みを設定し、その成果に対して自分と上位者が毎回の研修でコメントする仕組みも、同じ意図による。チャレンジがどこまで実践できているのか、さまざまな角度からプロセスを把握することができる。
「もう一つ、成果の『見える化』では、第1、第2、第3クールへと進む過程において、当社によるアセスメントもレポートします。必要とされる能力要件に基づいて、どういう行動が研修中に取られたかを5段階で評価してフィードバック。データを総括するとともに、強化能力評価アセスメント結果として、さまざまなデータからの傾向も分析しています。成果を共有して経営からの関心を随時高めることも、組織の改正や整備には必要だと考えるからです。例えばポテンシャルが高い層、成長が高い層、成長に伸び悩んでいる層、ポテンシャルが停滞している各層と上司との関わり方、という関係性をまとめたシートを提供しています」
トップマネジメント、事業部長クラス、人事部門が入った選抜人材教育委員会を作る一方、ライン部門の上司と本人の間でも、上司の推薦動機と本人参加動機を明確にしながら、コメントも残していく。そんな現場の関わりを継続することも欠かせない。受講者の成長の伸びには、上司の関わりが重要であるとの相関も検証されていると、石橋氏は言う。
「選抜人材のタイプは、大きく四つあります。方針に基づき非常に高い業績を上げる『突出・突破タイプ』、方針に基づくが業績が高くならない『従順・順応タイプ』、方針をあまり信じず業績が高くない『反抗・反逆タイプ』は、方針をあまり信じずに高い業績を上げる『変革・創造タイプ』に化けやすい傾向が見られます。各タイプを意図的に選抜することで、グループダイナミクスを起こすことができます」
また、人間の社会活動動機は、自分で目標を定めて達成する「達成動機」、自分自身の影響を他人や組織に与えたいという「パワー動機」、みんなと親しくやりたいという「親和動機」の三つの掛け算になる。これらの動機をそれぞれ明確化して高め、目標設定の原点である「自己決定」が強まるよう、研修を通じて働きかけていると石橋氏は語る。
GE流のリーダー育成のしかけとは何か
次に、井口氏が登壇。長年GE社で学んできたことを一言で表すと「変化できる者だけが生き残れる」ことだという。
「振り返ると、GEの環境と特徴のポイントは五つ。まずは『ストレッチ』されて育てられたということ。マネジャーが無茶を言ってくるのですが、それに対応していくと結果として成長できるのです。次に『時代の先取り』。方針が次々と変わるので、昨日と今日で判断が変わることもありました。付いていくのは大変ですが、力がつきます。常にどこかで売却、合併、リストラが行われているという『修羅場が多い』ことにも鍛えられました。GEには、創設者・エジソンの失敗を恐れず、新しいもの好きという『エジソン魂』があります。失敗してもとにかくどんどんやらせてくれる、という文化です。そのため『チャレンジした人がヒーロー』であり、自分を追い込みながら成功するまで取り組むことができました。停滞は退化しているのと同じだと叩き込まれたように感じます。ですから、常に危機感を持って業務して『やるしかない』『どうせやるなら楽しくやろう』という気持ちで臨んでいました」
これらを踏まえて重要となるのはまず、マネジャーや人事など、キーとなる人が腰を据えて覚悟を決め、目の前のチャレンジに真剣に取り組むことだと井口氏はいう。やっているうちに皆で取り組むようになり、なんとかなる。だから、無茶と思われてもチャンスを次々与えることが学びを与え、結果的に自己成長や自己変容を生み出していくのだ。
「変革を推進するには、リーダーシップスキル、特定分野の専門知識、先を見る力、皆を巻き込む力が必要ですが、リーダーシップに関して、こんな捉え方があります。高い責任と目標に対して、本人にはそこまでの権限と能力がないとします。それでも、リーダーシップを発揮すれば、それ以上の結果や実績が出せる、と。要はポジションパワーではなく、影響力や巻き込む力が大切なのです」
そのため、GE的人材育成では、力を発揮する場を与えることを掲げている。具体的には、より難しい仕事やより高い目標に挑戦させる場、未経験や不慣れな仕事・分野に取り組む場、より大きなチームを動かす場、良質の修羅場を与えそれを乗り越える場、変化をドライブし続ける場、である。
昨今はビジネスの変化が速いため、常にチャレンジすること、自己変容を続けること、危機意識を前向きに捉えていくことも、これらの根底に据えておきたい。また、判断・思考に多いて悩むような時には、「上司の上司だったらどう考えるか」と、2レイヤー上の目線で行うことがヒントになるという。
「リーダー輩出のためのゴールデンサークルがあります。“Why”から始める、インサイドアウトのアプローチで思考することです。人は目前の仕事ばかりに目がいきがちですが、それではミッションやビジョンから外れてしまいかねません。そこにはリーダーとしての自己認識も必要です。一旦離れて、『なぜそうなのか』『だったらこうすればいいのではないか』を考える。すなわち、Whyを明確化してHowやWhatに落とし込んでいく道筋が重要です」
最後に井口氏は、リーダーを輩出するための提言を、従来の日本的な企業と比較しながら語った。
「企業理念や会社の方針が社内に伝わっていない企業が多くなっているように思います。難しい言葉では社是も伝わりにくくなるので、言葉もアップグレードすればいいと思います。また、全体合理主義で多数決ではなく、いいものがあれば磨こう、失敗を恐れずにやってみよう、とする姿勢を重視してほしい。全員合格で平均点を上げる思考ではなく、個性的な人など突出したものを持っている、とんがり人材も育成し活用すべきではないでしょうか」
井口氏も語ったように、人材育成ではまず、それを担う経営や人事から変わることが大切になる。講演の最後に石橋氏は「下位ではなく隗より始めよ」というエールを参加者に贈った。
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