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その「HR Technology」は何のため?人事が真に目指すべきゴールとは。

  • 荒金 泰史氏(株式会社リクルートキャリア HRアセスメントソリューション統括部 マネジャー/主任研究員)
Technology特別講演 [TA-6]2017.12.26 掲載
株式会社リクルートキャリア講演写真

AIを人事領域に活用する動きが、昨今トレンドになっている。HRテクノロジーの導入に対する関心は高いが、どこから手をつけてよいのかわからない、という担当者も多いのではないだろうか。「SPI3」などのアセスメントツールを研究・開発する株式会社リクルートキャリアの荒金泰史氏が、HRテクノロジーの導入の際に考えるべきことや、活用方法の事例について解説した。

プロフィール
荒金 泰史氏( 株式会社リクルートキャリア HRアセスメントソリューション統括部 マネジャー/主任研究員)
荒金 泰史 プロフィール写真

(あらがね やすし)リクルートに入社以来、一貫して人材アセスメント事業に従事。顧客の人事課題に対し、データ/ソフトの両面からソリューションを提供。新たな人事アセスメントの考案・開発と、実証研究の開発業務にも関わる。入社者の早期離職、メンタルヘルス予防、組織活性のマネジメント、HR Technologyの領域に詳しい。


AIを使って「何かしたい」ではなく、「何がやりたいのか」を明確にする

株式会社リクルートキャリアが提供するアセスメントツール「SPI3」は、もはや適性検査の代名詞になっている。約40年の歴史を持ち、年間受検者は約190万人。業界きっての受検数を誇るデータベースを保有しているため、クライアントから「AIを使って何かできないだろうか」と相談されるケースが、この数年で急増しているという。

荒金氏はまず、AIに向き合う姿勢についてこう提言した。

「『AIを使って何かやりたい』という考え方であれば、改めたほうがいいと思います。『どのようなシーンでAIを活用したいのか』を考えるべきです。ご存じの方も多いでしょうが、AIには大きく分けて二つの種類があります。一つは、汎用型AI。青色のネコ型ロボットのように、人間と同じように自由に考え、判断し、行動できるというものですが、現在のところ実用化はまだ難しいようです。一方の特化型AIは、特定のルール・条件の中で最適解を考え、判断・行動できるというもの。囲碁のマシーンが象徴的です。これが現在、HR領域に活用できる技術です。活用のためには『何がやりたいのか』が一番大切。条件・ルール・ゴールといったものを与えなければ、AIは有益に機能しないことを、まずは知っておく必要があります」

荒金氏はこのように前置きした上で、「大して考えずにできる作業」と「じっくり考えたい作業」とで業務を分け、手始めに前者を機械によって自動化することを推奨する。例えば、エントリーシートの読み込みや、書類の手続きなどの業務だ。一方、採否の判定、人事異動といった「判断」が伴う業務は、機械には任せられないし、いきなり全てを任せたくはない人事が大多数を占める。その際は、データを解析し、客観的なアドバイスや評価を提供してくれるサポート役としてAIを活用すべきだという。

「HRテクノロジーを活用する目的を設定したら、その次に必要なのは、機械に任せるために十分なデータを蓄積することです。情報量が少ない、質が低い情報を持つ相手に、意思決定を左右する大事な相談はできません」

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HRテクノロジーの目的になりうるものを、人事業界のトレンドから読み解く

では、どのようなテーマが目的になりうるのか。荒金氏は、昨今のHR業界のトレンドについて言及した。日本では、2016年ごろから働き方改革がブームになっているが、その少し前から、女性役員や女性管理職の比率といった、社内の受け皿に目標値を据えることが多かった。その文脈の中で、企業が考える「組織と個人の関係性」に変化がみられるようになったという。

「“企業に個人が合わせる”構図から、“企業と個人が対等である”という構図へと、徐々に変化しています。この構図は、この数年で女性活躍推進の文脈から一気に浸透しました。一人ひとりの力を引き出し、企業のパフォーマンスにつなげていくことが人事に求められています」

HRテクノロジーの必要性が言われ始めたころは、活用できるポイントとして「離職予測」が挙げられることが多かった。離職につながる傾向が数ヵ月前から予測できる、というものだ。従業員の離職の有無は人事が取得・管理しやすく、「○」「×」を最もつけやすい情報であったからだが、現在は落ち着いてきているようだ。

HRテクノロジーが日本より一歩進んでいるアメリカでは、代わって「従業員の生産性」や「エンゲージメント」に活用する事案が増加している。さらに、従業員の心の状態を高めることや、働く上でのエンゲージメントに限らず、人生の充足度という意味の「ウェルビーイング」が注目されているという。

「90年代は、今の人事のスキームの礎である“個人が会社に合わせる”構図が当たり前とされていました。企業による個人の一律管理や、個人が同じ会社で働き続けるという前提の下、不満を拾い、解消していく方法がとられていた。しかし2000年以降は、その対象や条件が細分化され、多様さへの注目が高まりました。今では、一社で働き続けることがもはや当たり前ではない、というところまで前提が変化し、企業にとっては、一人ひとりの動機や自発性を企業のパフォーマンスにどうつなげるか、が焦点になっています」

人事データの取得には、現場の協力が欠かせない

機械に適切な判断をさせるため、どのようにデータを蓄積していくか。必要なのは、逆算だ。得たいインサイトを起点に逆算し、必要なデータは何なのかをはじき出す。すると、有り物のデータだけを使っても、なかなか良いインサイトは得られないことがわかるはずだ、と荒金氏は説明する。

「人事のデータ分析で使われるデータセットには、選考時の適性検査の結果や所属部署の変遷、教育研修の参加履歴、昇給のタイミングなどがあります。これらを並べたときに、どのようなインサイトに導かれるかというと、部署ごとに性格的な向き・不向きがあることや、ハイパフォーマーが参加した研修など。しかし実際には、そもそもあまり差がつかなかったり、それがわかっても……という結果になることが多いです。良いインサイトを得たいのであれば、相応のデータを蓄積する必要があります。例えば、『入社〇年目で、これくらいの難易度の業務を任されていた場合、その後の評価が上がる』といったインサイトを得たい場合、前述のデータに加え、仕事の質や難易度や、上司からの評価、本人の心境といった主観的なデータが必要です」

一口に「データ収集」と言っても、現場を巻き込まずして取得は不可能だ。いかに現場でストレスなく、自然とデータがたまっていく状態を作れるかが鍵だ、と荒金氏は話す。

「人事データの分析は長いスパンが必要。数年分の結果を並べて、ようやく傾向が見えてくるため、数年間はデータをとり続けなければなりません。データの取得そのものが目的になってしまうと、現場にメリットがないため続かない。現場の支援を目的とするのであれば、現場の納得感を得ながら、結果的にデータが蓄積している状態をつくり出すことができます。人事はこの『現場の納得感』を第一にしなくてはなりません」

メンバーのマネジメントに苦戦するマネジャーの事例

現場の納得感を得つつ、データをどう日常的に収集していくか。具体的な場面として、メンバーのマネジメントに関する事例が挙げられた。マネジャーの仕事は突き詰めれば、メンバーに頑張ってもらい、組織として成果を上げること。だが、それが難しい。メンバーの気持ちをなかなかつかむことができず、思うように組織マネジメントができず困っているマネジャーは多い。

例えば、上司の評価は高いが、当人は不満を内に抱えているメンバー。頑張っていると思っていたのに、ある日突然「やりたいことがこの会社ではできないから」と辞めてしまう。そうなって初めて、マネジャーはメンバーとのギャップに気付き後悔する。マネジャーがメンバーの気持ちを意外と把握できていない象徴的なパターンだ。また、メンバーのマネジメントに課題を持つチームは、二極化していることが多い。評価が高いメンバーは元気だが、低いメンバーはくすぶっているという状態だ。そのとき、マネジャーがやりがちなことは、ハイパフォーマーの取り組み事例のシェアだが、実はこれが逆効果。くすぶっている側としては、さらに肩身が狭くなり、より二極化が進んでいく。結果、チーム全体が何となく停滞した状態から抜けられないケースが非常に多い。

「一番の問題は、多くの職場でメンバーのマネジメントが、マネジャーの対人センス任せになっていることです。そこを救うシステムが導入されれば、マネジャーの業務自体がラクになる。だからこそ協力が得られ、良質なデータが蓄積されます」

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具体的には、従業員満足度調査などのサーベイを行い、マネジャーが職場の課題を分析・改善する場面を使うと良い、と荒金氏は提唱する。従来のように匿名で回答を集め、平均値で職場の問題を分析するのではなく、一人ひとりの心理状態を明らかにし、関わり方を見直すように変えていけば、マネジャーが抱えるメンバーマネジメントの悩みを解消できる機会となる。

「人事の視点から見ると、全体管理ではなく、一人ひとりの生産性に焦点を当てた、個を生かすアプローチと言えます。このアプローチは、働き方改革やダイバーシティといった時代のトレンドや要請にも合致しています。そのとき、マネジャーのミッションは、個々人に合った関わり方を選択することで、メンバーの意欲と能力を最大化して目標とする成果を上げることと定義することができます。そしてそれこそが、マネジャーが日頃うまくいかずに悩んでいる事柄そのものです」

マネジャーがメンバーの心理状態をつかむためのサーベイには、適した種類のものを選ぶべきだ、と荒金氏は言う。職場の状態を、回答者全体の平均点で示すタイプの従業員満足度サーベイやパルスサーベイ(小問で頻繁に問うサーベイ)は、人事が遠距離から状況や傾向を把握することをサポートする。他方で、マネジャーがメンバーの心理状態を把握するためのサーベイは、心理状態がリアルに描写されるものであることがポイントだ。

荒金氏が例として挙げたサーベイは、従業員が仕事に臨む心の状態(メンタリティー)を五つの段階で測定するものだ。

例えばネガティブなメンタリティーにある人は、より高い成果を出そうと思えないことはもちろんだが、周囲の指摘や指導も遠ざけようとする傾向がある。またネガティブといっても、明らかに不満や文句があって、それをため込んでいるケースと、とにかく余裕がなく、自分が何に困っているのか、何がつらいのかを言語化できないケースでは、明らかに深刻さが異なる。前者は早期離職、後者はメンタル不調に陥るリスクが高い。

「文句を言えているうちはまだ元気、ということです。本当に危険な状況のメンバーは、自分の状態に無自覚です。自分がつらいんだ、ということに気付かせてあげるところから始める必要があります」

ネガティブからフラット、フラットからポジティブに変遷していくためにはまず「心理的安全性」が重要だ、と荒金氏は言う。

「なかなか認めてもらえない、無視される、否定される、話を聞いてもらえない、わかってもらえないといった状況では、よほど強い人でない限りネガティブな精神状態から脱することはできません。この心理的安全性が確保されて初めて、やりがいが築かれる土台が整います。仕事や組織に対して何かしら共感し、自発的に取り組んだことに感謝を受けることで、本人の自信や誇りにつながっていく。このサイクルが回っていくことで、ポジティブな領域に引き上げられるのです。注意が必要なのは、何でも褒めればいいわけではないこと。褒められても、自分が一生懸命に頑張ったこととズレていると、本人の自信にはなりません」

こういったメンバーの心理状態を豊かに表現し、関わり方の指針となるようなサーベイこそ、マネジャーの役に立つ。メンバーの実際の心理状態が、手に取るようにリアルに浮かび上がるからだ。

「改めて申し上げますが、ネガティブな人とポジティブな人では、マネジャーが取るべきコミュニケーションが全く異なります。ネガティブな人にはちゃんと話を聞く、カウンセリングのようなアプローチが適切でしょうし、ポジティブな人にはコーチングのように問いかけ、フィードバックをしていくアプローチが有効です。メンバーの安心感を高めること、やりがいを引き出すこと、自信を育むこと、課題を指摘し改善させること。こういったアプローチを取ろうとする際に、相手の心理状態を見誤ると、ミスコミュニケーションにつながります。このミスコミュニケーションこそが冒頭に申し上げた、マネジャーがメンバーの気持ちを捉えてマネジメントができないこと、そのものなのです。そのすれ違いを可視化して、取るべきコミュニケーションを示してくれるサーベイであれば、現場マネジャーからはむしろ喜ばれることがほとんどです」

現場の役に立ってこそ、データの収集は継続できる

マネジャーにとって耳が痛い、思わず顔をしかめるような情報こそ、日頃のマネジメントを見直す材料として有意義と言えるだろう。また、この施策は役に立つ、思わず耳が痛いと感じているうちは、その裏でデータが収集されていることなど、マネジャーは忘れてしまう。この主従関係こそが重要だと荒金氏は説く。

荒金氏は、セッションの締めとして次のように話した。

「テクノロジーによって自分自身が気付いていないインサイトが得られ、適切なアクションまで導かれることが、半歩先のテクノロジーの活用方法なのではないかと思います。冒頭に戻りますが、テクノロジーを使って何を実現したいのかをまず考えること。そして、目的に沿って必要なデータをためていくことと、いかに現場が自然に協力してくれる環境をつくるかということ。これらが本日お伝えしたかったことです」

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